性転換倶楽部/特務捜査官レディー 初めての経験(R15+指定)
2019.04.12



特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)


(四十九)初めての経験

「真樹、着方を教えてやってくれ」
「ええ? わたしが?」
「他に誰がいる。彼女は、ブラジャーなんかしたことないんだ。正しい付け方を教え
てやらないと、せっかくの形よい乳房が型崩れしてしまうじゃないか」
 そう……。ブラジャーは正しい付け方というものがある。
 それを知っているのは真樹だけだ。
「でも、先生だって正しい付け方があることを知ってるくらいだし、産婦人科医とし
て診察の際に、多くの女性の着衣を見てきたんでしょうから、付け方ぐらいは知って
いるんじゃないですか?」
「あのなあ……。ただ見ていただけじゃないか、実際に身に付けている女性でないと、
良く判らないことがあるだろう」
「そりゃそうだけど……」
 そんなわけで、ブラジャーの正しい身に着け方をレクチャーすることになった真樹
だった。
「あのね、ブラジャーの付け方は……こうやってね……」
 勧誘員のそばに寄って、手取り足取り教える真樹。
「はい! これでいいわ。しっかり覚えておいてね。あなたみたいに、これだけ大き
な乳房だと、しっかりカップに入れて正しく付けておかないと、先生のおっしゃった
ように型崩れしていわゆる垂れパイになっちゃうからね」
「はい。判りました」
 生まれてはじめてのブラジャーを身に着けた勧誘員は、すっかりしおらしくなって
いた。
 女性になると覚悟した以上、おとなしく言う事を聞くしかないと判断したのであろ
う。
 それ以上に女性のランジェリーを身に着けたと言う事が、何にもまして女性として
の気概を植えつけてしまったと言ってもよい。女性だけが身につけることを許された
ランジェリーの持つ魔性ともいうべきものである。
 それからその他の服をもすべて身に付けてすっかり女性的な外観に変わってしまっ
ていた。
 もはやどこから見ても立派な美しい女性にしか見えない。
「ところで先生、こんな大きなカップのブラジャーなんか、どうして用意できたんで
す?」
「なあに、簡単だよ。ここは産婦人科だ。はじめての出産を経験する初妊婦は、分娩
の後に授乳が始まるのは予備知識で知っていても、いざ乳が張ってきて予想外に大き
くなって、用意してきたブラが入らなくて困るということが良くあるんだ。だから購
買部でそんな人のために大きなサイズのブラジャーを置いてあるんだ。もちろん授乳
専用の前部が開くやつがほとんどなのだが、普通のやつもある。それを持ってきたの
さ」
「なるほどね……」
「あの……。真樹さんと言いましたね」
「え、ええ」
「教えてくれませんか。女性のこと……何も知らないから」
 話しかけられてとまどう真樹。
「え? 突然そんなこと言われても……。ねえ、敬」
「あのなあ……。こっちに話しを振るなよ。これはおまえとこの人の問題だろ」
「だって……」
「俺は、思うんだけどさあ……」
 と何か言いかけて口を噤む敬。
「なに、言って? 考えがあるんでしょう?」
 真樹は何事かと聞き出そうとする。
「この人は、女性に性転換されてしまったことで、もう罪に対する罰は十分に受けた
と思うんだ。先生も言ったように、これからは新しい人生をはじめることになる。生
まれ変わってね」
「それで?」
「しかし女性としての経験はまるでないだろう? 社会に出て女性として生きていく
には最低限の知識は必要だ。衣服の着こなしはもちろんのこと、化粧とかも必要だろ
う。それを教えられるのは真樹しかいないんじゃないか?」
「そうかも知れないけどさあ……」
「教えてやれよ。真樹なら、この人の気持ちは良く判ると思う。違うか?」
 真樹が元々は男性であり、性転換して女性になったことを示唆しているのだった。
 同じ境遇である真樹にしか、その気持ちは判らない。
 他に誰が、この性転換女性を正しい道に導けるものがいるだろうか?
「もう……。判ったわよ。教えてあげればいいんでしょう」
 致し方なく承諾する真樹だった。
「あ、ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」
 深々と頭を下げる勧誘員だった。
 その仕草も態度もすっかり女性的な雰囲気があった。
 郷に入れば郷に従えだ。
 女性として生きることを決心したことが、その態度をすっかりと変えてしまったの
である。
 あるいは性転換薬が、身体だけではなく精神構造をも、純朴な女性的な性格にした
に違いない。

「それじゃあ、性転換手術をする日は後で決めるとして、早速例の組織のことを教え
てくれないか」
 黒沢医師が本題に話題転換した。
 囮捜査のことも何もかも、すべては売春組織を探し出し壊滅することだった。
 その情報を知っているのは、この勧誘員である。
 そのためにこそ、黒沢医師は性転換を実施し、言葉巧みに仲間に組み入れたのであ
る。
「はい。何もかもすべて話します」
 すでに勧誘員はこちら側の人間である。
 それから売春組織のアジトはもちろんのこと、勧誘員の知りうる幹部達のことなど、
洗いざらいの情報を話し始めたのである。
 黒沢医師の目論見大成功である。


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