銀河戦記/拍動編 第二章 Ⅳ 反乱
2023.01.07

第二章


Ⅳ 反乱


 宇宙空間を、セルジオ艦が進んで行く。
 後方には地球が浮かんでいる。
 セルジオ艦艦橋。
 スクリーン上に映る、離れ行く地球を見つめるセルジオ。
「地球重力圏離脱。これより惑星間航行に移ります」
「うむ……」
 副官が近寄ってくる。
「それにしても、どうしてまた辺鄙な流刑星などへ向かうのですか?」
 そこへクロード王が入ってきて同調する。
「その通りです、セルジオ閣下」
 一同振り返ってクロード王を見る。
 いやな奴が来たといった様な表情をするセルジオ。
「私の娘が、あの宇宙船に人質として連れ去られてしまったのですぞ。あの船を拿捕して、娘を救出したかったのです。それなのに……」
「分かっておるわ。いいかクロード。イレーヌが連れ去られるまでのことを思い出してみるがよい。まず日頃イレーヌと仲良くしていたのは誰か? そいつがインゲル星に行ってまもなく、あの船が出現してイレーヌを連れていったこと。そして行方不明になっている、イレーヌ付きの侍女のことだ」
「それでは侍女がイレーヌを誘い出して、宇宙船に乗せてアレックスを救いに行ったと?」
「それ以外にないだろうさ。奴らは、必ずインゲル星に現れる」
「ならば奴らは、直接インゲル星に向かわないのですか」
「それは、我々の目を他に向けさせて、真の目的を悟られないようにするためかもしれぬ。それとも時を稼ぐためなのか」
「それでは……」
「うむ。我々はインゲル星に先回りする」
「信じていいのでしょうか」
「儂の目に間違いはない」
「はい、分かりました」


 夜の流刑星収容所。
 管制塔からは、サーチライトが収容所内外を順次照らしている。
 収容所外回りの番所に銃を構えて立っている軍人がいる。
 そこへもう一人の軍人が歩いてくる。
「今夜はやけに冷えるな」
 と言いながら、一本の煙草を差し出す。
「おう。やっと交代の時間か」
 受け取って煙草を咥えると、火をつけて燻(くゆ)らす。
「俺達いつまでこの収容所に配属されているんだろうか。軍人である以上、前線に出て敵と戦ってみたいよ」
「それもそうだな。ここにいる限り、いつまで経ってもただの一兵卒でしかないし、武勲を上げて昇進するらもできないのだからな」
「それに相手になる女もいないしな」
「本音が出たな」
 そこへ将校がやってくる。
「おまえら何をしている。任務につかんか!」
 恐縮して敬礼して、立ち去っていく番兵。
 交代要員の方も番所に立った。
 彼らに一瞥して立ち去る将校。
「まったく最近の連中はなっとらん! 軍紀も乱れてきたようだな。やはり敵と戦うわけでもなく、脱獄不可能と言われる収容所を見張るだけという任務上、緊張していろという方が無理なのか。あの煩(うるさ)型の弁務コミッショナーも近々やってくるというのに……」
 管制塔を見上げる将校。

 背後で微かな音がした。
 腰の銃を抜いて叫ぶ。
「誰だ!」
 答えはないが、人の気配が先の方の暗がりからする。
 将校、注意深く暗がりの方へ向かってゆく。
「そこにいるのは分かっている。姿を現せ!」
 その直後、上の方から人が飛び降りてきて、将校の銃を叩き落とす。
 慌てて銃を拾おうとする将校だが、暗がりから現れた人物に押さえられてしまう。
「声を出すな! 一言でも口にしてみろ。命はないぜ。へへ、こいつのようにな」
 その足元には絶命したと思われる兵士が倒れている。
 将校に猿轡(さるぐつわ)を噛ませて、引き連れてゆく。
「よし、ひとまず引き揚げだ」
「他の連中はうまくやっているかな」
「おい、無駄口はたたくなよ」


 牢獄内。
 兵士達が壁に向かって立たされ、囚人たちに銃を突きつけられている。
 そこへ将校を連れた連中がやってくる。
 将校を見た兵士が話す。
「中尉殿!」
「一体、これはどうしたというのだ」
「はあ……それが、気が付いてみたらこうなっていたのです」
「気が付いたらだと? 何を寝言を言っておる」
 後ろから足音がした。
「私が、彼らの食事に眠り薬を入れたのよ」
 話しかけたのは、アレックスに差し入れをしたルシアという女性だった。
「おまえは給仕係の……。薬をどうやって手に入れた?」
「それはどうでもいいことだ。とにかく貴様は、我々の捕虜となった」
「我々を捕虜にして何を企んでいる? 仮に脱獄だったとしても、それは不可能なことだ。ここには脱出する船は一つもないのだからな」
 だが、ほくそ笑む囚人たちだった。
「それはどうかな」
「なに?」


 司令官室。
 ここにも椅子に縛り付けられた司令官ボイジャー大佐がいた。
 集まっている囚人達。
 ルシアとアレックスも、その中にいた。
 そこへ中尉も連れてこられる。
「ヘイグ中尉。囚人に対して厳しかった君も、こうなっては全く逆の立場になってしまったな。こうも簡単に捕虜になるとは、常に用心深い君らしくない。考え事でもしていたか」
「司令、申し訳ありません」
「うむ……」
 司令、アレックスの方を向く。
「君が反乱の首謀者か? まだ若いな……。その若さで、囚人たちの心を一つにまとめ上げるとは、只者ではないな」
「当り前よ。この方は、トラピスト王家のお一人なんだから」
 ルシアが疑問に答える。
「トラピスト王家だと?」
「そうよ。あなた達よりもずっと身分の高いお方なんだから」
「ルシア。口が軽すぎるぞ」
 囚人が窘(たしな)める。
「だってえ……」
「いいから黙っていなさい」
「はあい」
「それで……我々にどうしろというのだ?」
「まずはすべての囚人の即時解放。兵士たちの武器解除」
「言っておくが、君たちの天下もそう長くは続かないぞ。ここはバーナード星系連邦の絶対防衛圏内だ。ここを脱出しない限りは、君たちの運命は決まっている。がしかし、脱出は不可能だ」
「それはどうかな」
 その言葉を合図のように、一人の将校が入室してくる。
「おまえは、ビューロン少尉! どうしておまえが?」
「彼は、我々の同志だ」
「同志だと?」
「その通りです。私は司令の進める政策には同意できなかった。ここにいる囚人達は、確かに罪を犯した者で、罰として連れてこられたには違いありません。しかし人権を無視した扱いをされ、奴隷のように過酷な労働を負わされています。このように考えているのは、私だけではありません。このクーデターが囚人達だけで行われたと思いますか?」
「無理だろうな」
 ボソリと答える司令。
「そう……囚人達に手を貸した者は、私だけではないのです。収容所にいる軍人の約四分の一が手を貸し、こうしてクーデターを成し遂げたのです。お分かりですか、司令殿」
「お前らを軍法会議にかけて死刑にしてやる」
「我々は、ここを脱出します。軍法会議に掛けたければ好きなようにして下さい」
「してやるとも。脱出すると言ったが、お前たちを収容する船など一隻もないのだからな」
「それがあるんですよ」
「どこにある? 何を戯言(たわげたこと)を」
「今ここにはありませんが、じきに現れますよ」
 司令、頭を傾げていたが、気が付いたように。
「まさか! お前たち」
「気が付かれましたか。その通り、近々弁務コミッショナーがここへ来るらしいです。そのコミッショナーの船を乗っ取ります」
「馬鹿な! コミッショナーは用心深いお方だ。船は警戒厳重、とても乗っ取りなどできるはずがない」
「やってみなければ分かりませんよ。もっともあなた方にも多少お手伝い願うかも知れませんがね」
「誰が、脱走の手助けなどするものか!」
 ヘイグ中尉が大声で拒絶する。
「その通りだ。今からでも遅くない。武器を捨てて、クーデターなどという馬鹿なことはやめろ。君達士官の待遇を良くしようじゃないか。どうだ」
 司令と将校の説得が続いている。
「君はアレックスとか言ったな。君からも皆を説得してくれまいか」
 一同、アレックスを見る。
「賽は投げられたのです。もはやどうにもならない。運命に従ってください」



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