銀河戦記/拍動編 第五章 Ⅳ 亜空間戦闘
2023.04.08

第五章


Ⅳ 亜空間戦闘


 トラピスト連合王国首都星トリスタニアに近づくゴーランド艦隊。
 決戦で敗れた連合王国には、もはや守備艦隊はいない。

 衛星軌道からゆっくりと地上へ降下してくる揚陸艦隊。
 住民たちは、次々と降下してくる艦隊に、恐れおののき逃げまどいパニック状態になっている。

 宮殿内、女王の間の脇のバルコニーに佇み、制空権を奪われた空を見つめるクリスティーナ女王。
 女王を囲み、不安そうな侍女たち。
「女王様、私たちは、これからどうなるのでしょうか?」
「分かりません……。ともかくいずれここへもやってきます。謁見の間で応対しましょう」
 侍女を引き連れて、謁見の間へと移動する女王。
「城内のものには、一切抵抗しないように伝えてください」

 城内を我が物顔で闊歩する兵士達。
 その中心にセルジオ弁務コミッショナーがゆったりと歩いていく。
 長年の念願であったトラピストを陥落させたことで、意気揚々と闊歩している。
 城内の人々は通路の脇に避けて、彼らの通行を邪魔しないようにしている。
 やがて近衛兵が荘厳な扉の前を警護している場所に出ると、そこは女王の鎮座する謁見の間である。
 セルジオ達が近寄ると、近衛兵は軽く会釈をして、扉を静かに開いた。
 扉から玉座に向かう足元には深紅のカーテンが敷かれている。
 その上を歩いて、女王の前に歩いていくセルジオ。
 玉座の前で、一旦立ち止まり傅いて、
「女王様。この国は我々ケンタウリ帝国の支配下に置きました。弁務コミッショナーとして、直接の治世は自分が治めますが、国民の象徴君主として女王様には今まで通りこの宮殿の主と致します。ご異存ありませぬか?」
 やんわりと支配権の移譲を促すセルジオだった。
「致たし方ありませんね。私はどう扱われようとも構いませんか、国民の安寧を約束して頂きたいのです」
「それは重々承知しております。但し、レジスタンス活動などしなければですが」
「分かります。国民には、重々抵抗しないように、最後の王室放送で布告いたしましょう」
「そうして頂けると助かります」
 立ち上がると、
「では、失礼させていただきます」
 踵を返して、兵士達を引き連れて元来た通路を戻っていく。
 姿が見えなくなって安堵し、女王のそばに集まる臣下達だった。
「陛下の御身を保障すると言っておられたが、本気でしょうかねえ」
「太陽系連合王国では、国王の地位は保障されておりますから、確かでしょう」
「グリーゼラン公国では抵抗運動が激しくて、見せしめに公王が公開処刑されたと聞きます」
*グリーゼ180bを首都とする惑星国家。地球からエリダヌス座の方向に39光年先にある。
 抵抗さえしなければ、王室は安泰なのだという雰囲気が臣下に流れていた。
「しかし、いくら占領した側とはいえ、女王の許可なく謁見の間に土足で入ってくるなんて……」
 興奮を抑えきれないような口調で語り掛ける臣下だった。
「ともかく、事態を国民に知らせる必要があります。王室放送の準備をしてください」
 女王だけが落ち着いて、何をなすべきかを理解していた。


 宇宙空間。
 輝く星々。
 アムレス号が、ワープして出現する。

 アムレス号艦橋。
「ワープ終了」
「艦内異常なし」
「しかし、百光年もの距離を一瞬にしてワープできるなんて、しかもたった一回で……」
『大シタコトアリマセン。アムレス号ハ、一万光年ヲ一回デワープシマス』
「一万光年だって? 銀河渦状腕間隙を越えて、隣の腕にまで飛べるじゃないか!」
『デスガ一回デ、全テノ燃料ト、エネルギーヲ消費シテシマイマス」
「なんだ……それじゃ役に立たないな。渦状腕間隙の向こう岸は未開の地、跳べても補給ができなきゃな」
「アレックス様はご存じですか? 確かアムレス号は、御父上のフレデリック様がご乗船なさっていたと聞きますが……。今、どうしていらっしゃるのでしょう」
「僕は何も知らない。アムレスの事ならというか伝説というかは知っていたけど……まさか父の船だったとはね。エダ、君は知っているだろう」
「その事に関しては、まだお答えできません」
「どういう意味だ?」
 エダは答えない。
「大変です!」
 通信士担当が驚きの声を上げた。
「どうした?」
「トリスタニアが……トラピスト連合王国が、地球に対して全面降伏しました」
「降伏!」
「トラピストが負けた?」
 一同が口々に驚きの声を上げた。
「まさか?」
「間違いじゃないだろうな」
「いえ、間違いありません。確かです」
「トリスタニアが降伏した……あのクリスティーナ女王が?」
「女王の王室放送が全宇宙に向けて流されています」
 通信士が報告する。
「スクリーンに出してくれ」
「了解。スクリーンに出します」
 正面スクリーンに、バストショットのクリスティーナ女王が映し出されている。
「……トラピストは降伏して、ケンタウリ帝国の支配下に入りました。これ以上無駄な血を流さないためにも武器を捨てて、それぞれの故郷に戻って安寧な生活を取り戻しましょう……」
 女王は、レジスタンス活動を止めて、平和な活動に戻るようにと繰り返し諭していた。
「もういい。消してくれ」
「了解」
 スクリーンが消えて、宇宙空間の映像に切り替わった。
 祖国の敗退にため息をつく一同だった。
「平静を装っているようですけど、陛下の心痛は計り知れないでしょうね」
「おいたわしや……」
「陛下は、無駄な血を流すなとおっしゃられていましたが?」
「今更、ソドム基地を叩いても意味がありません。抵抗の最期の砦だったトラピストが敗れた今、もはやどこも協力してくれる国はないでしょう。孤軍奮闘したところで先細りになります」
 口々に意見具申する一同だった。
「そうですね……。となると作戦の変更が必要ですね」
 エダが進言した。
 皆の視線が、アレックスに集中した。
 どうしますか?
 という表情だ。
「作戦の変更ですか?」
「このままでは、たった一隻で戦うことになります」
「とはいっても、我々はどこの国にも所属せずに戦ってきた。つまり海賊と変わりがないということだ。海賊は処刑されるのが常識だ」
「まさか……」
 その時、レーダー手が警報を鳴らした。
「艦の後方に艦あり! 先ほどの潜航艦かと思われます」
「戦闘配備! まずは追手を蹴散らしてからだ」
「了解! 全艦戦闘配備!」
 ビューロン少尉が復唱する。
「亜空間ソナーで敵艦の位置を探査! 亜空間震動爆雷準備!」
 アレックスが下令する。
「亜空間ソナーで敵艦の位置を探査します」
「亜空間震動爆雷準備!」
 オペレーターが復唱し、反撃態勢に入る。


 アムレス号の遠方後方に姿を現わすノーチラス号。
「アムレス号補足しました。距離二万」
「亜空間魚雷発射準備!」
「今度こそ仕留めてみせるぞ」
「魚雷発射準備完了」
 しかし次の瞬間、艦体が激しく震動した。
 計器の前から投げ出される乗員もいる。
「爆雷です!」
「進路変更! 取舵一杯!」
 爆雷を避けるために、艦を移動させる指揮官。
「進路変更! 取舵一杯!」
 操舵手が舵を勢いよく左に回して、艦を転回させる。
「こちらが攻撃を仕掛ける前に気付かれました。こちらより高性能の亜空間ソナーを装備しているのでしょうか?」
 未知の戦闘艦の能力に意外な表情を見せる副官だった。
 ノーチラス号の戦闘能力を過信し過ぎて、相手方を見くびっていた。
「そうとしか考えられないな。敵艦の現在位置は?」
「右舷側を並走しています」
「右舷ミサイル発射準備!」
「了解」
 右舷のミサイル発射口が開いてゆく。
 発射管に装填されるミサイル。
「発射準備完了!」
「よし、撃て!」
 発射管を射出され、亜空間を突き進むミサイル。
 だが、後少しというところで、突然消えるアムレス号。
 目標を失ったミサイルは、乱れ飛ぶ。
「敵艦消失しました」
「消えた?」
「直前にワープしたのか……」
「ミサイルに気付いたのか?」
「偶然かも知れません」
「とにかく追うのだ!」

 アムレスを探して急速発進するノーチラス号。
 その真後ろに、アムレス号が再び姿を現わした

 アムレス号船橋。
『敵艦ノ後方ニ着キマシタ』
 ロビーが報告する。
「うまくいった。亜空間魚雷発射準備!」
 事の成り行きに信じられないという表情をする他の乗員。
「この船は亜空間潜航できるのか?」
 ビューロン少尉が驚く。
「先ほどは、一万光年をワープできるとも言っていました。化け物じゃないですか」
『宇宙一位ト二位ヲ争ウトモ呼バレタ天才工学者ガ設計シマシタカラ』
「天才工学者というと?」
「トラピスト連合王国クリスティーナ女王の第三王子、アルフレッド殿下夫妻です」
 エダが答えた。
「王族が工学者?」
「王立科学アカデミー首席卒業、それも歴史上最高の成績でした」
「天才じゃないですか」
 そんな会話をしている間にも、アレックスは次なる指令を出していた。
「亜空間魚雷発射準備!」
『船首発射管ニ亜空間魚雷装填シマス』
 亜空間での戦闘など行ったことのない乗員たちは、ただ息を飲むしかなかった。
『発射準備完了! 目標設定完了!』
「撃て!」
『発射します!』
 船首から魚雷が発射されて、敵艦へと向かう。


 ノーチラス号艦橋。
「後方より急速接近する物体! 魚雷です!」
「なんだと?」
「う、後ろに奴らの船が!」
「主舵一杯! デコイ発射!」
 おとり魚雷を発射しつつ、旋回するノーチラス号。
「第二弾発射されました!」
「ちきしょう! この体勢では不利だ。通常空間に浮上する」
「浮上!」



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