銀河戦記/鳴動編 第二部 第十二章 海賊討伐 Ⅵ
2021.05.29

第十二章 海賊討伐




 エルバート侯爵の屋敷に、再びマンソン・カーター男爵が訪れていた。
「先日の件、考慮して頂けましたかな?」
 来訪早々に話題を振る男爵。
「何のことかな?」
「我々の派閥に入ることですよ」
「断る!」
 きっぱりと言い切る男爵だった。
「断ってよろしいのですかね。身内に不幸が訪れても知りませんよ」
「身内?」
「例えば、お嬢さんがどうにかなるとか……誘拐されるとか、あるかも知れませんよ」
 意味深な発言をする男爵だったが、
「誘拐?」
 男爵のその一言で、候女誘拐の首班であることを証明できたと思う侯爵。
 そこへ入室してくるセシル候女。
「お父様、お客様ですか?」
 候女の入室に、驚きを隠せない男爵だった。
「それより、おまえの体調はどうだ? まだ寝ていた方がいいんじゃないのか」
「わたしは大丈夫です。すっかり良くなりました」
「そうか。あんまり無理するんじゃないよ」
「はい。わかりました」
 そういうと候女は退室した。
 その後ろ姿を見送って、男爵の方に向き直る侯爵。
「で、誘拐とか言っていたようだが……」
「い、いや。何でもありません」
 言葉を詰まらせながら、
「も、もう一度お尋ねいたします。我々の派閥を承認してはいけないでしょうか?」
「いや。前々からも言っているように、我が国はあくまで中立を保つ所存であります。公爵さまには、そのようにお伝えください」
 摂政派によって行われた陰謀を知らぬふりして応対する侯爵。
 逸早く摂政派の陰謀を見抜いて、娘の救出に駆けつけてくれたアレクサンダー皇太子には感謝の一言しかない。
 たとえ自分が摂政派に着いたとしても、皇太子にはさほどの影響を与えないだろう。
 ロベスピエール公爵が行ったことは、明白なるクーデターである。
 国民の支持を受けたわけではない。
 精神薄弱で洟垂れ小僧のロベール王子を皇帝に推す者は正直いないだろうし、王子が政治を行えるわけがなく、背後にいるロベスピエール公爵が摂政となるだけである。
 中立である事が一番との結論を出した侯爵だった。
「そうですか……、分かりました。公爵にはそのようにお伝えしておきます」
 ばつが悪そうに、退室する男爵。

 屋敷を出て自分の車に戻った男爵。
「どういうことだ! 娘は誘拐に成功したんじゃないのか?」
 誘拐犯である海賊が討伐されたことは、露ほども知らなかったのであろう。
 海賊からの連絡が途絶えたことも、報告が上がってはこなかったことを気に留めていたら、このような失態は起こさなかったのだ。
 公爵にどんな報告をすれば良いか、頭を悩ますしかなかった。

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2021.05.29 09:22 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第一章 中立地帯へ Ⅱ
2021.05.28

第一章 中立地帯へ




 アレックスは、タルシエン要塞においての篭城戦を想定していた。
 防御においては鉄壁のガードナー少将が篭城戦の布陣を敷いて総督軍との戦いを長期戦に誘導している間に、アレックスは銀河帝国との共同戦線の協定を結び、援軍を得て一気に反抗作戦に打って出る戦略であった。
 ところが周辺国家から相次いで救援要請が出され、タルシエン要塞から艦隊を派遣する必要が生じたのである。
「救援要請への援軍派遣をガードナー提督に意見具申したのはゴードン・オニール准将です。ガードナー提督はその強い要望に根負けして派遣を受諾したらしいです」
「ああ……。ゴードンはじっとしていられない性格だからな。そして後のことを任せたガードナー提督が、それを許可したのだから私が言うべきものでもないのだが……。最大の問題は補給だよ。遠征を行うには十分な補給が必要だ。そのためにシャイニング基地とカラカス基地の封印を解いて補給拠点とし、それぞれに一個艦隊の守備艦隊を配置しなければならなくなった。このことがどういう意味をなすか判るかね?」
「兵力の分散……」
「そうだ。総督軍に各個撃破の機会を与えるだけじゃないか」
「しかし、シャイニングには大型の戦艦を建造できる造船所もあります。フル稼働させて戦力を増強できます」
「おいおい。戦艦を建造するのに何年掛かると思うかね。一隻完成させるまでに、最低三年は掛かるのだぞ。解放軍を支えていくだけの戦力としては期待するだけ無駄だ。多くを持たない弱体な解放軍が勝利するには、短期決戦しかないのだ」
 深い思慮の元に発言するアレックスの意見に反対できるものはいなかった。
「とはいえ……。動き出してしまったものを止めることは、もはや不可能と言わざるを得ない。事ここに至っては不本意ではあるが、解放軍として要請がある限り救助に赴くのは致し方のないことだ。遠き空の下、解放軍の善戦を祈ろうじゃないか」
「はい!」
「さて、会議の続きをはじめようか。リンダからの報告もあったデュプロス星系についてだ」


 航海長のミルダ・サリエル少佐が、リンダの報告を受けての補足説明をはじめた。
「デュプロス星系は、二つの巨大惑星である【カリス】と【カナン】を従えた恒星系で、二惑星の強大な重力によって、三つ目以上の惑星が存在できないものとなっております」
「三つ目が存在できない? それはどうして?」
 ジェシカが尋ねたが、ミルダはアレックスの方を見やりながら、
「とっても難しい理論の説明をしなければいけませんが……」
 と、この場で解説するにはふさわしくないことを暗にほのめかしていた。
「あ、そうね。次の機会ということで、先を続けて……」
 それに気がついて、質問を撤回するジェシカだった。
 解説を続けるミルダ。
「デュプロス星系は、銀河帝国に至る最後の寄港地です。それゆえに最大級の補給基地となり、また銀河帝国の大使館なども誘致されております。本来はサーペント共和国の自治領内にあるのですが、軍事的外交的に重要な拠点惑星として、特別政令都市国家としての自治権が与えられております。
 銀河帝国との協定により共和国同盟軍の駐留が認められていなかったために、現時点においても連邦ないし総督軍の駐留艦隊はいないとの情報ですが、旧共和国同盟時代から引き続き辺境警備に当たっている国境警備艦隊がいます。まあ、実戦経験はまるでないので、いざ戦闘となっても脅威はまったくないのですが……」
 その言葉尻をついて、ジェシカ・フランドルが答える。
「かつての同輩との戦いになるということね」
「はい、できれば、何とか説得して戦闘回避できれば良いのですがね」
「ランドール艦隊のこれまでの実績を考えれば、戦闘を選ぶことがどれほどの愚の骨頂である判るはずですけどね」
「そうあって欲しいですね」
 ため息にも似たつぶやきを漏らすミルダであった。
 ちなみにこのミルダは、あの模擬戦闘にも参加し、ミッドウェイ宙域会戦からずっとアレックスの乗艦の航海長を務めてきた古参メンバーの一人でもある。階級は少佐ではあるが、艦長のリンダ同様に一般士官としてであり、戦術士官ではないので艦隊の指揮権は有していない。戦術士官が必ず受けることになる佐官へのクラス進級に掛かる査問試験を受けずして少佐になっている。共和国同盟のすべての星系マップ、航海ルートを知り尽くしており、作戦を実行し宇宙を航海する艦隊にとっては必要不可欠な人材である。
 艦長のリンダにとっては、こちらの方が上官になるので、何かとやりずらい悩みとなっている。
 アレックスは一同を前にして毅然と言った。
「何はともあれ、銀河帝国と交渉し協力関係を結ぶためには、そのデュプロスに滞在して帝国に対しての使節派遣などの折衝を執り行う必要がある。デュプロスはどうしても確保しなければならない。かつての同輩である辺境警備隊との交戦になることも仕方なしだ」
 その言葉によって、一同の考えは一致をみることとなった。

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2021.05.28 09:15 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第一章 中立地帯へ Ⅰ
2021.05.27

第一章 中立地帯へ




 漆黒の宇宙を、整然と隊列をなして進む艦隊があった。
 共和国同盟解放戦線最高司令官、アレックス・ランドール提督率いる旗艦艦隊、その数およそ二千隻である。
 先頭を行く艦隊旗艦、ハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式「サラマンダー」。艦体にはその名を象徴する、何もかもを焼き尽く伝説の「火の精霊」が図柄として配されている。バーナード星系連邦の司令官達はその名を聞いただけで恐れおののいて逃げ出したとさえ言われる名艦中の名艦である。
 同型艦として、水・木・風・土の精霊の名を与えられた「ウィンディーネ」「ドリアード」「シルフィーネ」「ノーム」の四艦があり、それぞれを象徴する図柄を艦体に配している。
 現在四艦は、タルシエン機動要塞以下、シャイニング基地・カラカス基地・クリーグ基地を包括するアル・サフリエニ方面軍の中核として、旧共和国同盟周辺地域に出没してゲリラ戦を展開、連邦艦隊を各地から追い出してその脅威から解放しながら、その勢力圏を次第に広げつつあった。
 追従するのは、旗艦艦隊の直接運用を任されているスザンナ・ベンソン少佐坐乗の旗艦「ノーム」である。

 サラマンダー艦橋。
 その指揮官席に陣取り、艦長のリンダ・スカイラーク大尉が艦隊の指揮を執っていた。リンダは艦隊運用士官{戦術士官}ではないが、旗艦艦長は通常航行においては司令官に代わって艦隊の指揮権を行使できるとする、ランドール艦隊の慣例に従ってのことである。
 旗艦艦隊司令官に昇進した前艦長のスザンナ・ベンソン少佐の後任として、第十七艦隊第十一攻撃空母部隊の旗艦「セイレーン」艦長の任から、部隊司令官のジェシカ・フランドル中佐の推薦でサラマンダーの艦長に抜擢された。スザンナ同様に将来を有望視されている一人である。
「まもなくデュプロス星系に入ります」
 一等航海士のアニス・キシリッシュ中尉が報告する。
「特殊哨戒艇からの連絡は?」
「今のところ、変わったことはありません。進行方向オールグリーンです」
 特殊哨戒艇「Pー300VX」2号機。
 基地に設置された高性能の索的レーダーの能力をはるかに超えた索的レンジを誇る最新鋭の索的用電子システムを搭載した哨戒艇であるが、戦艦百二十隻に相当する予算を必要とするために、ほとんどの司令官が配備に二の足を踏んでいた。
 そんな金食い虫を配備するより安かな駆逐艦を索的用に出すだけで十分だという意見が多かったのである。しかしアレックスだけは、サラマンダー以下の旗艦にそれぞれ配備するという積極的方針をとっていた。
 アレックスの戦術の基本が一撃離脱であり、敵をいち早く発見して敵に気づかれる前に奇襲攻撃を敢行して即座に離脱、という作戦を身上としているために必要不可欠だったからである。もっともランドール艦隊の攻撃力はすさまじく、最初の一撃をかわして無事でいられた艦隊は皆無に近かったが……。
「このまま予定コースを取ります。全艦、進路そのまま」
「全艦、進路そのまま!」
 副長のナターシャ・リード中尉が復唱する。
「全艦、恒星系内亜光速航行モードへ移行。機関出力三分の一」
 艦長としての任務をそつなくこなしているリンダであった。


 艦橋のすぐそばにある高級士官専用ラウンジ。
 アレックスや艦隊参謀達が休憩を取ったり、作戦立案のための会合を図る場所である。コーヒーやサンドウィッチなどの簡単な軽食をとりながら、全体的な作戦会議に諮るための身内的な会議を行っていた。
 同席しているのは、アレックス以下、パトリシア・ウィンザー、ジェシカ・フランドル、スザンナ・ベンソン、そして航海長のミルダ・サリエル少佐である。旗艦艦隊所属ではないジェシカは本来ここにいるはずのない人物なのであるが、第十一攻撃空母部隊の指揮をリーナ・ロングフェル少佐に任せて、強引について来てしまったのである。
 彼女達参謀はもちろんのこと、艦橋オペレーター達全員にしても、アレックス以外に男性が一人もいないところが、旗艦サラマンダーの特徴である。
 彼曰く、適材適所で人員配置をしたら、こうなってしまっただけと淡々と答えているのだが……。
 他の艦隊では、彼女達をタイトスカートの参謀と呼び、ハーレム艦隊などと揶揄している者も多いと聞く。
 アレックスといえば、自分自身が人選したものであり、パトリシアという婚約者もいるせいもあって、全然気にもしていない。
 通常ならゴードンやカインズなどの各男性司令官達もいるのであるが、旗艦艦隊のみの作戦任務のために彼らはいない。
 
 パネルスクリーンに、リンダ艦長が映し出されており、定時報告がなされていた。
「……報告は以上です。現在のところ全艦隊は正常に運用中、航行に支障なし」
 報告を終えたリンダ艦長にアレックスが返答する。
「ご苦労さま。そのまま引き続いて指揮を執りたまえ」
「了解! 引き続き指揮を執ります」
 スクリーンからリンダが消えて、タルシエン要塞にいるフランク・ガードナー少将に切り替わった。
「先輩、失礼しました。続きをお願いします」
「わかった」
 こちらも定時報告の最中だったのだが、リンダの報告の方が優先されて割り込みが掛けられたのだった。
 定時報告というものは、前線にいる艦隊などから基地や要塞へ連絡を入れるものだが、アル・サフリエニ方面軍の最高司令官はアレックスである。
 もちろん双方間の連絡・報告にあたっては特秘暗号コードによって厳重に守られ、内容が外部に漏れ出すことはなかった。そう断言できるのは、その特秘暗号コードを開発したのが、システム管理技術士のレイティー・コズミック中佐と科学技術主任のフリード・ケースン中佐の二名によるものだからである。その両名の名前を聞いただけで、その技術の信用性を疑うものはいないだろう。
「ゴードン率いるウィンディーネ艦隊は、コリントス星系において連邦軍駐留部隊を掃討して、コリントスを解放。コリントスのセルゲイ・ワッケイン議会議長は、ゴードンとの会見に応じ、我々解放軍に対して協力・援助を約束した。一方のカインズ率いるドリアード艦隊は、デュイーネ星系を解放の後、現在ハルバート星系へと進行中である」
 アレックスの留守を守るアル・サフリエニ方面軍こと共和国同盟解放戦線は、旗揚げ以来周辺地域に出没しては、駐留部隊を掃討しては周辺地域を連邦軍から解放して、
解放戦線に対しての協力を取り付けていた。
 その急先鋒はゴードンのウィンディーネ艦隊と、カインズのドリアード艦隊であり、地の利を知り尽くしたゲリラ戦を展開して、連邦艦隊を次々と撃破していた。こうして解放戦線とその協力関係を結ぶに至った勢力は次第に大きくなり、旧共和国同盟の十分の一にあたる宙域を制圧し、一つの国家と言えるほどにまでになっていた。ここに至っては、連邦軍もおいそれとは手を出せない状態に陥ることになった。
 元々アル・サフリエニ方面は、トランター本星からはるかに遠い辺境の地にあって、バーナード星系連邦との間に横たわる航行不可能な銀河渦状腕間隙に架けられた【タルシエンの橋】は、その一方を解放戦線によって奪取されているために、連邦側から侵攻することも不可能となっていた。
「まあ、今のところ順調だ。安心して自分の任務を遂行することだけを考えてくれ」
「ありがとうございます」
「それじゃあな。頑張れよ」
 ガードナー少将の映像が消えて、タルシエン要塞との定時連絡が終わった。
「困ったものだな……」
 と、映像の映し出されていたパネルスクリーンを見つめたまま、腕組みをした。
「何がですか?」
「周辺地域への救援出動だよ。当初の計画から逸脱しているじゃないか」
「ですが、救援要請を無視することはできないでしょう。我々は解放軍を名乗っているんですよ」
「時期早々だと言っているんだよ。銀河帝国との協定を結んでからでも遅くないだろう」
 トリスタニア共和国同盟はその名の通りに、銀河帝国に対抗するために数多くの共和国が寄り集まって構成されている連邦国家に近い組織であった。ただ連邦と違うのは、それぞれの国家には完全なる自治権が与えられているということである。 その勢力圏の中でも2/3という最大領有地を誇り、強大なる経済力を持つトリスタニア共和国が、同盟の事実上の政治的支配力を行使していたのである。各共和国には宇宙艦隊への軍資金の供出と派兵義務、そして政治参加と発言のための評議会評議員の選出権が与えられていた。
 そのトリスタニア共和国が降伏し、共和国同盟は事実上崩壊したが、自治権を所有するそれぞれの共和国には、トリスタニアに新たに設立された総督府と総督軍に参画するか、それとも独立するかの選択を強いられることになる。
 だがそう簡単に独立を維持できるわけがないだろう。総督軍は容赦なく攻め入って配下に治めていた。そこでアル・サフリエニ方面の解放軍に救援の要請を打診してきていたのである。

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2021.05.27 08:24 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)

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