銀河戦記/脈動編 第十章・漁夫の利 Ⅲ
2022.07.07

第十章・漁夫の利




 司令   =ヴィルマー・ケルヒェンシュタイナー大佐
 副官   =ゲーアノート・ノメンゼン中尉
 艦長   =ランドルフ・ハーゲン上級大尉
 電探手  =ナターリエ・グレルマン少尉
 通信士  =アンナ・ケンプフェル少尉

 数時間前に遡る。
 アルビオン共和国軍旗艦、ヴァッペン・フォン・ハンブルク(戦列艦)の艦橋。
 レーダー手のグレルマン少尉がイオリス軍に動きがあったことを報告する。
「旗艦を含む主力艦三隻がクラスノダールから離れていきます」
「主力艦三隻だと? 通信士、相手方からの通信の傍受は?」
 司令官のヴィルマー・ケルヒェンシュタイナー大佐が尋ね返す。
「傍受はできていません。システムが違うのと、秘匿暗号通信回線とかを使用されると傍受できないのです」
 通信士のアンナ・ケンプフェル少尉が答える。
「そうか……」
「これは好機ではないでしょうか? 主力艦が三隻も抜けたので、戦力的にはこちらの方が上回っています。相手の火力が高くても、数で押し切れます」
「なるほど、やってみる価値はあるな。微速前進だ!」
 ゆっくりとクラスノダールに向かって動き出す共和国軍艦隊。
「こちらが動き出したのを相手方も気づきました。交信を求めています」
「無視だ! このまま接近する」
「奴らは友好的です。こちらが攻撃開始するまで、撃ってこないでしょう」
「そうあって欲しいがな」
 接近を続ける艦隊。
「まもなく射程距離に入ります」
「相手に気取られなく戦闘配備だ!」
 さらに近づいて、
「射程距離に入りました」
「戦闘配備完了しています」
「よし! 全艦砲撃開始だ!」
 艦首の三連主砲が火を噴き始めた。
 戦列艦であるがために、舷側に配置された砲門は使用できない。
 全速前進して、相手艦隊の中央に切り込めれば、全砲門が使用できるので有利な態勢に入れるはずだ。
 しかし相手艦隊は、射程内ギリギリの線を保ちつつ、防御に徹して後退を続けていた。
「まるで戦いを避けているように見えますが……。惑星を放棄するつもりでしょうか?」
「せっかく手に入れた惑星なのにか?」
「ミュー族を追い出しただけで、まだ惑星自体には手を入れていないから、放棄しても痛みは少ないと考えたのでしょう」

 相手艦隊はさらに後退を続け、惑星の重力圏から離脱しつつあった。
 共和国艦隊は、惑星軌道に入ったところで静止した。
「敵艦隊離れていきます」
「無理追いする必要はない。この惑星を確保することが先決だ」
 撤退してゆく艦隊には目もくれず、惑星の周囲に留まることを選んだケルヒェンシュタイナーだった。
 惑星の衛星軌道に集結し、地上の様子を探査する艦隊。
「ミュー族の基地は破壊されたようです」
「撤退した後のようだから、基地を敵に渡さないように自爆させたんだろうな」
「ブービートラップだったんでしょうかね。どうやら引っかからなかったようですが」
「敵が態勢を整えて戻ってくるかもしれない。しばらく様子を見るとしよう」
 相手艦隊が撤退した方角に対して、いつでも発砲できるように砲口を向けて待機する共和国艦隊だった。



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銀河戦記/脈動編 第十章・漁夫の利 Ⅱ
2022.07.02

第十章・漁夫の利





 司令官  =ウォーレス・トゥイガー少佐
 副官   =ジェレミー・ジョンソン准尉
 艦長   =マイケル・ヤンセンス大尉
 レーダー手=フェリシア・ヨハンソン

 副司令官 =ダグラス・ニックス大尉
 副官   =ジェイク・コーベット准尉


 前進基地クラスノダールに展開するサラマンダー艦隊。
 司令室でお茶を啜りながら、モニターに映されている惑星を見つめているトゥイガー少佐。
「本国より連絡がありました」
 副官のジェレミー・ジョンソン准尉が報告する。
「それで?」
『この惑星は、我々の前進基地として活用する。基地建設及び資源開発センターを建設する。艦隊は、当面の間基地の防衛に当たるべし』
「ということでした」
「まあ、そうなるだろうな」
「開拓移民船が一隻、こちらに回航されるそうです」
「護衛は付いているのだろうな?」
「付いてないみたいですね」
「馬鹿な! ここいらの制空権はまだ確保していないんだぞ。ミュー族とかが襲ってきたらどうする?」
 戦術において、補給路を断つことは常套手段である。惑星開拓に必要な設備と艦隊の補給物資を積んだ開拓移民船を襲撃することは十分ありうる。
「仕方がない、私が迎えに行くとしよう。サラマンダー発進準備だ」
 随行艦として、艦長ハーゲン・ネッツァー大尉の戦艦ビスマルク号、艦長ジェラール・プルヴェ大尉の装甲巡洋艦フィルギア号が共に出発した。
「敵艦隊が戻ってきたら、どうしたら良いですか?」
 居残りの艦隊を指揮する副指揮官、戦艦セント・ビンセント号艦長ダグラス・ニックス大尉が質問した。
「この惑星を死守する必要はない。やばいと思ったら、潔く撤退しても構わない」
「分かりました」

 クラスノダールを離れてゆくサラマンダー以下の三隻。
 それを見送りながら、惑星クラスノダール地表の探査を続けるニックス大尉。
 基地は爆破されたが、まだ破壊されずに残っている施設があるかも知れない。
 それを利用すれば、ゼロから建設するよりも工期はかなり短縮できる。
 地中レーダー探査機を使って、地中に埋まっている埋設物や空洞を調査する。
「使えそうな施設が結構残っていそうですよ」
 副官のジェイク・コーベット准尉が報告する。
「慌てて撤退したから、十分な爆薬を設置できなかったようだ」
「本格的調査にして人員を降ろしますか?」
「いや、敵さんが舞い戻ってくるのを警戒して、いつでも撤退できるように準備しておくのだ」
「なるほど……惑星を防衛するだけの戦力はないということですか」
「主戦力のサラマンダーがいないからな」
「ならば、全艦で移民船をお出迎えでもよかったのでは?」
「来るか来ないか分からないし、来れば戦力分析をしてから撤退して合流するし、来なければ良しでエネルギーを無駄にせずに済む」
「奪還は、サラマンダーの原子レーザー砲があれば容易いですものね」

「前方に感あり!」
 レーダー手のフェリシアが警告を出した。
「先ほどのアルビオン共和国軍の艦隊です」
「何しに戻ってきた?」
 疑心暗鬼の一同だった。
「警戒しろ! 通信回線を開け!」
「相手艦の応答ありません」
 無言のまま接近するアルビオン艦隊。

 そして射程距離内に入った時だった。
「撃ってきました!」
「迎撃せよ! 迎撃しつつ後退!」
 不意打ちを喰らっても、冷静に判断を下すニックス大尉。
 トゥイガー少佐の指示に従って、躊躇なく後退しはじめた。
「どうやらサラマンダーが離れたのを好機とみて、惑星を奪還するつもりだな」
「奴らは、我々が侵略して惑星を奪い取った! とかいう風な言い方をして返還要求してましたからね」
「再度の奪還はサラマンダーと合流してからでいいだろう」
 粛々として、惑星を放棄して撤退の道を選んだニックス大尉だった。



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銀河戦記/脈動編 第十章・漁夫の利 Ⅰ
2022.06.25

第十章・漁夫の利





 司令官  =ウォーレス・トゥイガー少佐
 副官   =ジェレミー・ジョンソン准尉
 技術主任 =ジェフリー・カニンガム中尉
 ミュー族 =エカチェリーナ・メニシコヴァ


 前進基地クラスノダール周辺に展開するサラマンダー艦隊。
 銀河人の使節団が帰還して、一息つくトゥイガー少佐達。
 副官のジョンソン准尉が呆れて言う。
「彼らの言い方は、まるで我々が侵略行為で惑星を奪取したというような雰囲気でしたね」
「そうだな。こっちの技術力の方が勝っていたから、言葉を濁すだけだったが、逆だったら強く返還要求してきて、奪還されていただろうな」
「油断しないで付き合っていくしかないようですね」
「それはともかく、外交問題は本国に委ねるしかない」


 イオリス国首都星。
 評議会において、トゥイガー少佐の報告を受けて、遭遇したアルビオン共和国と惑星クラスノダールの扱いについて協議がなされた。
「彼らの星だというクラスノダールについては、返還要求は拒否することは決定する」
「しかし……彼らが、一万年後の我々の子孫というのは真実なのだろうか?」
「随伴の生物学者やドクターによると、どうやら間違いないらしい」
「だからといって、交流できるとは限らないぞ。我々の歴史を見ても、宗教の違いや為政者の都合によって、幾度もなく同じ民族同士で戦い合った」


「このイオリスは、彼らにすれば銀河の反対側の端、最果ての地となる居住可能な星だ。開拓移民の最終地として発展に尽力を注いだのだろうな。人口は一億人を越えていたようだ」
「それを奪われたのだ、心象的に良くはないだろう」
「いや、冬虫夏草によって都市はすでに滅亡しており、放棄して立ち去ったのだから、現状は無主地と同様だろう。こちらが消毒して住めるようにしたんだからな。これを領有宣言したとて、どこからも批判を受ける筋合いはない」
「しかしどうするのだ? クラスノダールから先の星域は、すでにどちらかの国家の勢力圏になっているだろう。もはや先には進めないぞ」
「彼らの技術では居住できない惑星があるだろう。そこを我らの技術で住めるようにしてやれば、分け与えてくれるのじゃないか?」
「君は、甘いな。自分の領土内に飛び地の所領を分け与える気分になれるか? 仮に分け与えられて開拓を進めて、満足いく環境になった時に、突然返せと言われて見ろ。周りは敵だらけだ」


「ミュー族とかいう方はどうなのだ? この惑星イオリスの先住民を一人残らず殲滅した相手だ。一億人からはいたと思うのだが、好戦的であまりにも無慈悲な民族だな」
「捕虜にしたミュー族の女に対応した者の話だと、従順な感じだったと言いますけどね」
「たかが女一人が従順だとしても、他の仲間がそうであるとは思えない。生き延びるために従順ぶっているだけかも知れんからな」
「そもそも好戦的な国家というのがミュー族ということだろ?」
「ミュー族の方は、御しやすいだろう。勝手に戦いを仕掛けてきて、勝手に自滅する」
「用心しなければならないのは、アルビオンの方だな。油断していると寝首を掻くこともやりそうだ」
「しかしこれからどうするのだ? 我々は生活圏を広げるために新たなる居住地が必要だし、そのためには先に進むしかない」

「前にも議論したと思うが、技術力はこちらの方が勝っているのだ。交渉にならないなら、力づくでも奪い取れば良いじゃないか。この銀河はすでに戦乱の地、我々が乱入して三竦みとなるも望むところだ」
「そもそも彼らだって、勢力争いで相手国に負けじと開発も疎かにして、先へ先へと前進基地を進めてきただけじゃないか。まともな領土とは言えない」

 評議会は、主戦論派(ジンゴイズム)と講和派とが半々であった。
「そろそろ結論を出そうじゃないか」



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銀河戦記/脈動編 第九章・カチェーシャ V
2022.06.18

第九章・カチェーシャ





 司令官 =ヴィルマー・ケルヒェンシュタイナー大佐
 副官  =ゲーアノート・ノメンゼン中尉
 通信士 =アンネリーゼ・ホフシュナイダー少尉
 言語学者=アンリエット・アゼマ
 使節団長=ヘルムート・ビュッセル

 ミュー族=エカチェリーナ・メニシコヴァ

 会談を終えて、賓客室から出てくる使節団。
 緊張から解き放たれて安堵の表情をしている。
「彼らと同盟を組むことはできないでしょうか? そうすればミュー族との戦いにも非常に有利になりますから」
「どうかな。彼らにしてみれば、同盟を結ぶ利点がないからな。彼らだけで、ミュー族とやり合える科学技術を持っている」

 そこへ車椅子に乗った女性が通りがかった。
「この船には障碍者も乗っているのか?」
「戦傷病者でしょうか?」
 賓客室から出てきた通訳係のクリスティンに話しかける女性。
 親し気に話す言葉に驚く使節団だった。
 それはミュー族の言葉だったからである。
「まさか!」
 互いに顔を見合わせる使節団。
「お尋ねする。その女性はミュー族なのか?」
 クリスティンに詰問する。
「その通りです。彼女の属していた艦隊との戦闘後に、漂流している所を保護しました」
「保護? つまり捕虜ということですな。では、我々に引き渡してほしい」
「お断りいたします。カチェーシャは捕虜ではありません!」
 扉の外での騒ぎを聞きつけたのか、トゥイガー少佐が顔を出した。
「どうした? 騒がしいぞ」
「実は……」
 事情を説明するクリスティン。
「なるほど分かった」
 納得すると、使節団に向かって言った。
「彼女は、海難事故の遭難者です。救助し保護しているので、お渡しすることはできません」
 きっぱりと断った。
 それを聞いて安堵するエカチェリーナだった。
「断ると? 外交問題になりますぞ」
 脅しをかけてくる使節団だったが、トゥイガー少佐には通用しない。
「ほほう。宣戦布告でもしますか? 受けて立ちますよ」
 一介の士官が決断する問題ではないのだが、脅しに怯むようでは外交戦には勝てない。
「分かりました。ここは引き下がることにしましょう」
 受けて立つと言われれば、強気に出ることはできなかったようだ。
 すごすごと引き下がる使節団だった。



 使節団が旗艦ヴァッペン・フォン・ハンブルクに戻って来て、司令官ケルヒェンシュタイナーに報告をした。
「相手艦には、ミュー族の捕虜が収容されていました」
 いの一番に伝えたのは、エカチェリーナのことだった。
「捕虜だと? 先の戦闘で捕らえたのか」
「そのようですね。引き渡すように伝えましたが断られました」
「まあ、当然だな。それはそれとして、どうだったか?」
 本来の使節団としての報告を求めるケルヒェンシュタイナー。
「ミュー族艦隊を殲滅させるほどの科学力は目を見張るものがありました。技術力の差は百年からあると思いました」
「まともに戦っては勝てないということだな」
「惑星ザールブリュッケンも彼らの手に堕ちました」
「ザールブリュッケンだと! 冬虫夏草攻撃を受けて住民全員が死亡、殺人胞子が大気中に蔓延して、やむなく放棄した惑星じゃないか」
「彼らは胞子を焼却消毒して住み始めたようです。首都にしたとか言っていました」
「侵略者の何ものでもないではないか! 放っておくと、我々の所領のすべてを飲み込んでしまうのではないのか?」
「可能性は否定できませんが、科学力では太刀打ちができません」
「願わくばミュー族との戦いで消耗してくれれば良いのだがな」
「今は相手の戦力分析に力を注ぎましょう。戦艦を何隻持っているかとか、人口はどれくらいいるのかとかです。この銀河に渡ってきたばかりのようですので、数が少なければこちらの数で圧倒して優勢に進めるかも知れません」

「同盟を組んでおいてミュー族を嗾(けしか)けて、戦闘で疲弊したところで、彼らの基地や都市に殴り込めば奪還できるでしょう」
「漁夫の利を狙うということか」
「元々我らの星なんですから、返してもらって当然でしょう」
「うまくいけばいいのだが」



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銀河戦記/脈動編 第九章・カチェーシャ Ⅳ
2022.06.11

第九章・カチェーシャ





 司令官  =ウォーレス・トゥイガー少佐
 副官   =ジェレミー・ジョンソン准尉
 言語学者 =クリスティン・ラザフォード
 技術主任 =ジェフリー・カニンガム中尉
 ミュー族 =エカチェリーナ・メニシコヴァ

 使節団長=ヘルムート・ビュッセル


「左舷後方七時の方向より接近する物体あり!」
 レーダー手のフローラが報告する。
「奴らが戻ってきたのか?」
「いえ、今まで戦ってきた戦艦とは形態が異なっています。もう一方の国家ではないでしょうか」
「警戒態勢!」
 艦内に警報音が鳴り響き、警戒態勢が敷かれた。
 いつ戦闘が始まってもいいように、それぞれの担当の武器に陣取った。
「相手が撃ってくるまでは、こちらからは発砲するなよ」
 双方睨み合ったような状態の緊張の時間が過ぎてゆく。
「前方の艦隊が停止しました」
「どうやら戦闘を仕掛けてくる気はないようだな」
「相手方より入電……らしき電波が届いています」
 通信士のモニカが受電したが、相手方の通信システムや言語が分からないらしい。
「やはりそうだな。奴らなら問答無用で仕掛けてくるはずだ。カニンガム中尉とクリスティンを呼んでくれ」
 相手方と交信を試みるようだ。
 ここは技術主任と言語学者の出番であろう。
 早速、主任が通信機器を調整して、相手からの信号から音声部分を取り出すことに成功した。
 引き続いて、言語学者のクリスティンの出番だ。
 このマゼラン銀河に棲息している人々は、同じ地球人の血筋を引いている民族だと思われるので、言語体系は似通っているはずだ。惑星イオリスの先住民が残していた通信機器に記録されていた通信の解析からゲルマン語族であることは判明している。

 片言ながらも相手と交渉が進んで、相手側がサラマンダーに特使を派遣してくることとなった。
「今度のは交渉のできる相手で良かったですね」


 数時間後、相手方艦より使節団の乗り込んだ舟艇が出航して、サラマンダーへと近づいてくる。
『着艦許可願います』
 通信が入り、管制官の指示によって発着口が開いてゆく。
『着艦OKです。そのまま進入して下さい』
 指示に従って、ゆっくりと着艦する使節団の舟艇。
 艇が固定され、タラップが掛けられ、使節団が降りてくる。
 キョロキョロと辺りを感嘆の表情で見回す中、副官のジョンソン准尉が出迎えていた。側にクリスティンが控えており、順次通訳している。
「我らが旗艦サラマンダーへようこそ、歓迎いたします。イオリス協和国軍ジェレミー・ジョンソンです」
 クリスティンが通訳して相手に伝える。
「こちらの要請を快くお受け頂き感謝致します。アルビオン共和国軍ヘルムート・ビュッセルと申します」
 クリスティンの同時通訳が続く。
「司令官がお待ちしております。どうぞこちらへ」
 先に立って歩き出すジョンソン准尉。
 案内される道すがら、見たこともない設備に驚嘆し説明を受けながら、トゥイガー少佐の待つ賓客室へと向かう。


 賓客室では、トゥイガー少佐が笑顔で歓待する表情を見せていた。
「ようこそいらっしゃいました。艦隊司令官のウォーレス・トゥイガーです」
 お互いが名乗り合って、椅子に腰かけて会談を始める。
「単刀直入にお聞きいたしますが、あなた方は……もしかしたら隣の銀河系から来たのではないでしょうか?」
「よくわかりましたね。その通りですよ」
「あなた方のそのお姿を見れば、我々と同じ人種だということは明白な事実でしょう。我々の神話に、『遥か昔、彼方から天の川人がやってきて、かの国に降り立った』というものがあります。以来から我々の祖先は発展してきたのですが、天の川人とは交流が途絶えたのです」
「天の川人ですか……」
「銀河を渡ってきた技術を持っていたのですが、数千年経つうちにその文明も朽ち果ててしまったようなのです。この船の中を見させて頂きましたが、技術力は我々のものを遥かに凌いでいます」


「ところで、この惑星は元々我々が所有していたのですが、ミュー族に奪われました。以来取ったり取られたりを繰り返しています。そこでこの惑星を、あなた方の領有となされるのでしょうか?」
「そういうことになりますね」
「なるほど……まあそれはおいといて、天の川銀河から渡ってきたということは、この惑星に来る前に人の住んでいた形跡のある惑星に立ち寄らなかったでしょうか?」
「ああ、住民が滅亡している惑星ですね」
「立ち寄ったのですか! そこも元々我が国の領土だったのですが、敵の生物兵器によって滅亡されたのです」
「立ち寄るどころか、開発して我々の首都星としておりますよ」
「首都! その惑星の事情はご存じですよね?」
「もちろんですよ。人に寄生する植物と胞子が充満していましたけどね。きれいに消毒しましたよ」
「どうなさったのですか?」
「なにね。惑星を丸ごと焼却して、胞子をきれいに除去しただけですよ」
「そんなことできるのですか!」
 自分たちの星ではあったが、どうすることもできずに放棄したものだった。
 それを朝飯前のごとく言ってのける技術力に感嘆する使節団だった。



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