銀河戦記/脈動編 第九章・カチェーシャ Ⅳ
2022.06.11
第九章・カチェーシャ
Ⅳ
司令官 =ウォーレス・トゥイガー少佐
副官 =ジェレミー・ジョンソン准尉
言語学者 =クリスティン・ラザフォード
技術主任 =ジェフリー・カニンガム中尉
ミュー族 =エカチェリーナ・メニシコヴァ
使節団長=ヘルムート・ビュッセル
「左舷後方七時の方向より接近する物体あり!」
レーダー手のフローラが報告する。
「奴らが戻ってきたのか?」
「いえ、今まで戦ってきた戦艦とは形態が異なっています。もう一方の国家ではないでしょうか」
「警戒態勢!」
艦内に警報音が鳴り響き、警戒態勢が敷かれた。
いつ戦闘が始まってもいいように、それぞれの担当の武器に陣取った。
「相手が撃ってくるまでは、こちらからは発砲するなよ」
双方睨み合ったような状態の緊張の時間が過ぎてゆく。
「前方の艦隊が停止しました」
「どうやら戦闘を仕掛けてくる気はないようだな」
「相手方より入電……らしき電波が届いています」
通信士のモニカが受電したが、相手方の通信システムや言語が分からないらしい。
「やはりそうだな。奴らなら問答無用で仕掛けてくるはずだ。カニンガム中尉とクリスティンを呼んでくれ」
相手方と交信を試みるようだ。
ここは技術主任と言語学者の出番であろう。
早速、主任が通信機器を調整して、相手からの信号から音声部分を取り出すことに成功した。
引き続いて、言語学者のクリスティンの出番だ。
このマゼラン銀河に棲息している人々は、同じ地球人の血筋を引いている民族だと思われるので、言語体系は似通っているはずだ。惑星イオリスの先住民が残していた通信機器に記録されていた通信の解析からゲルマン語族であることは判明している。
片言ながらも相手と交渉が進んで、相手側がサラマンダーに特使を派遣してくることとなった。
「今度のは交渉のできる相手で良かったですね」
数時間後、相手方艦より使節団の乗り込んだ舟艇が出航して、サラマンダーへと近づいてくる。
『着艦許可願います』
通信が入り、管制官の指示によって発着口が開いてゆく。
『着艦OKです。そのまま進入して下さい』
指示に従って、ゆっくりと着艦する使節団の舟艇。
艇が固定され、タラップが掛けられ、使節団が降りてくる。
キョロキョロと辺りを感嘆の表情で見回す中、副官のジョンソン准尉が出迎えていた。側にクリスティンが控えており、順次通訳している。
「我らが旗艦サラマンダーへようこそ、歓迎いたします。イオリス協和国軍ジェレミー・ジョンソンです」
クリスティンが通訳して相手に伝える。
「こちらの要請を快くお受け頂き感謝致します。アルビオン共和国軍ヘルムート・ビュッセルと申します」
クリスティンの同時通訳が続く。
「司令官がお待ちしております。どうぞこちらへ」
先に立って歩き出すジョンソン准尉。
案内される道すがら、見たこともない設備に驚嘆し説明を受けながら、トゥイガー少佐の待つ賓客室へと向かう。
賓客室では、トゥイガー少佐が笑顔で歓待する表情を見せていた。
「ようこそいらっしゃいました。艦隊司令官のウォーレス・トゥイガーです」
お互いが名乗り合って、椅子に腰かけて会談を始める。
「単刀直入にお聞きいたしますが、あなた方は……もしかしたら隣の銀河系から来たのではないでしょうか?」
「よくわかりましたね。その通りですよ」
「あなた方のそのお姿を見れば、我々と同じ人種だということは明白な事実でしょう。我々の神話に、『遥か昔、彼方から天の川人がやってきて、かの国に降り立った』というものがあります。以来から我々の祖先は発展してきたのですが、天の川人とは交流が途絶えたのです」
「天の川人ですか……」
「銀河を渡ってきた技術を持っていたのですが、数千年経つうちにその文明も朽ち果ててしまったようなのです。この船の中を見させて頂きましたが、技術力は我々のものを遥かに凌いでいます」
「ところで、この惑星は元々我々が所有していたのですが、ミュー族に奪われました。以来取ったり取られたりを繰り返しています。そこでこの惑星を、あなた方の領有となされるのでしょうか?」
「そういうことになりますね」
「なるほど……まあそれはおいといて、天の川銀河から渡ってきたということは、この惑星に来る前に人の住んでいた形跡のある惑星に立ち寄らなかったでしょうか?」
「ああ、住民が滅亡している惑星ですね」
「立ち寄ったのですか! そこも元々我が国の領土だったのですが、敵の生物兵器によって滅亡されたのです」
「立ち寄るどころか、開発して我々の首都星としておりますよ」
「首都! その惑星の事情はご存じですよね?」
「もちろんですよ。人に寄生する植物と胞子が充満していましたけどね。きれいに消毒しましたよ」
「どうなさったのですか?」
「なにね。惑星を丸ごと焼却して、胞子をきれいに除去しただけですよ」
「そんなことできるのですか!」
自分たちの星ではあったが、どうすることもできずに放棄したものだった。
それを朝飯前のごとく言ってのける技術力に感嘆する使節団だった。
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