銀河戦記/脈動編 第十二章・追撃戦 Ⅲ
2022.09.17

第十二章・追撃戦





 激しく損傷して宇宙空間を漂流している艦がある。
 アルビオン旗艦ヴァッペン・フォン・ハンブルグである。
 機関室では炎を上げて燃えるエンジンを消火しようと奮戦する乗員達。
 艦橋では悲痛の表情で事態を収拾しようとしている司令がいた。
「どうだ?」
 報告を受けて尋ねる司令に、副官のゲーアノート・ノメンゼン中尉が答える。
「だめです。メインエンジンが完全に破壊されて、起動レベルを確保できません」
「そうか……」
「このままでは、惑星アグルイスの重力に引かれてゆきます」
「アグルイス……。植人種の星じゃないか」
「不可避のようです」
「そうか、それでミュー族は攻撃を止めたのか」
「撃沈してやすらかに眠らせるより、植人種の星で最後まで苦しませようという魂胆のようです」
「脱出艇での離脱は可能か?」
「味方艦は全滅、アグルイスの重力からの脱出は不可能です」
「そうか……アグルイスに不時着するしかないか」
「しかし、あの星は……」
「わかっている」

 しだいに惑星アグルイスへと引き寄せられてゆくハンブルグ。
「完全に重力に捕らわれました」
「仕方あるまい。救難信号ブイを衛星軌道に投入し、大気圏突入準備せよ!」
 各ブロックの気密ドアが遮蔽されてゆく。
 艦尾から射出される救難ブイ、衛星軌道を周回しつつ救難信号を打電し続ける装置である。
「総員宇宙服着用せよ!」
 艦内のあちらこちらで、宇宙服を着こみ始める乗員達。
「大気圏突入コース設定!」
 突入コースが浅ければ大気に跳ね返されるし、深ければ燃え尽きないにしても艦内は生存不可能なほどに熱せられるだろう。
「まもなく大気圏に突入します」
「総員衝撃に備えよ。立っている者は何かに掴まれ!」
 大気圏に突入し、大気の断熱圧縮熱によって艦体が急上昇、火球に包まれて墜落していくハンブルグ。この状態では、艦の制御は不可能であり、自然落下運動に任せるしかない。
 艦内では、投げ飛ばされないように何かに掴まり、激しい震動に耐えている乗員達。
 艦橋内では、必死の形相で生き残るための手段を講じていた。
「艦内温度上昇中!」
「冷却装置のパワーを最大に上げろ!」
「成層圏突破まで二十四秒!」
「逆噴射準備!」
「まもなく圏界面を通過します」
 圏界面とは、地球において成層圏と対流圏の境目にあたる場所である。
 地表から上へ昇っていくと気温が下降していくが、地上十キロのあたりから成層圏に入ると、逆に気温が上昇していくという現象が起きる。その境界面のことを圏界面という。
 ここらあたりまでくると、断熱圧縮熱による艦体温度上昇も止み、冷えてくる。真っ赤な灼熱状態から、黒光りの艦体へと変化する。
「よおし、逆噴射! 緊急制動開始!」
 対流圏に入り、やっとこ艦体制御が可能になって、全力で姿勢制御を開始する。
 雲海の隙間をくぐり抜けて、海上へと姿を現わすハンブルグ。
「海上に出ました」
「陸地を探せ!」
「了解しました」
 レーダー手のナターリエ・グレルマン少尉が探知機を操作する。
「右舷二時の方角に陸塊の存在を確認しました」
「分かった。面舵六十度転回、陸地に向かえ!」
 しかし損壊した艦体が軋み音を立てる。
「陸まで持ちこたえられません!」
「艦を軽くするんだ! 弾薬を捨てろ! とにかく生命維持に必要な物資以外はすべてだ!」
 弾薬が次々と投下され、海面で爆発を繰り返す。
 廃棄物処理投下口から、雑貨類が投下されてゆく。
 荷物を捨てて軽くなった艦は、一直線に陸地へと向かった。
「海岸線近くの海に着水しつつ、慣性で陸地に着陸する」

 数時間後、海岸線の砂浜に打ち上げられて停船したハンブルグがあった。
 艦橋には、衝撃で倒れている乗員達。
 しばらく身動きしなかったが、一番に気が付いたのがケルヒェンシュタイナーだった。起き上がり、指揮官席に座りなおす。
「無事な者はいるか?」
 辺りを見回しながら尋ねる。
 その声を聞いて、副官のゲーアノート・ノメンゼン中尉が、よろよろと起き上がって、
「わ、私は大丈夫です」
「傷を負っているようだが」
「かすり傷ですよ」
「そうか。艦内の損害を調べてくれ。気密性を最重点にな」
「かしこまりました」
 艦長のランドルフ・ハーゲン上級大尉が各部署に連絡を入れ始める。
「総員に告げる。気密性が確保されるまでは、宇宙服を着用して作業に当たれ!」
 暑苦しいながらも、黙々と作業を続ける乗員達。

 そんな中、レーダー手が声を上げた。
「近づく物体があります」
「なんだと?」
「生命反応です」
「外部モニターに繋げ!」
 モニターには、緑色に染め上げられた動く植物のようなものが多数近づいていた。
「植人種だ!」



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銀河戦記/脈動編 第十二章・追撃戦 Ⅱ
2022.09.10

第十二章・追撃戦





 戦闘宙域から後方に下がった空間に特務哨戒艇Pー300VXが浮かんでいる。
「データは取れたか?」
 艇長が確認すると、機器を操作していたオペレーターが答える。
「ばっちりですよ」
 右手に親指を立てるようにして掲げる。
「帰還命令が出ています」
 と、通信士のモニカ・ルディーン少尉。
「分かった。サラマンダーに戻るぞ」

 サラマンダー艦橋。
「哨戒艇、帰還しました」
 と、副長のジェレミー・ジョンソン准尉。
「よし。スヴェトラーナのワープ先は計算できたか?」
「はい。大丈夫です」
 技術主任のジェフリー・カニンガム中尉が答える。
「ワープ準備しろ! スヴェトラーナを追うぞ!」
「了解しました」
 艦隊をクラスノダールに残したまま、サラマンダーの追跡行が続く。

 データ解析室。
 スヴェトラーナが、W.V.ハンブルグに対して行った戦闘記録を解析している技術者。
 その傍らでは、トゥイガー少佐が眺めている。
「どうだ?」
「はい。最初に出くわした時の戦闘記録と、今回のP-300VXが記録した分と合わせて解析していますが、今少しデータが足りないようです」
 申し訳なさそうに答える技術主任だった。
「もう一回やり合えば、データが揃うか?」
「ええ、まあ……たぶんですが」
「そうか、分かった。ともかく戦術コンピューターに入力しておいてくれ」
「かしこまりました」

 艦橋に戻ったトゥイガー少佐。
「まもなくワープアウトします」
 航海長のラインホルト・シュレッター中尉が伝えた。
「総員警戒しろ! ワープアウトで何が起きるか分からんからな」
 念のために警戒態勢を指示するトゥイガー少佐。
「了解。総員警戒態勢!」
「ワープアウトします」
 艦橋内に緊張が走る中、サラマンダーはワープを終えて、見知らぬ空間に姿を現わした。
「追ってきたは良いが、ここは初めてだな」
 トゥイガーが呟くと、
「周囲に反応ありません」
 レーダー手のフローラ・ジャコメッリ少尉が答える。
「重力震を感知しました」
 重力震とは、質量のある物体が爆発した時など、地震のように重力波(衝撃波)が伝搬する現象である。戦艦などが爆沈した時などに発生する。
「方角は?」
「ベクトル座標、x124・y236・z458です」
「よし、航路変更! 現場へ向かえ!」
「了解」

 現場急行したところ、あたり一面に撃沈した艦の残骸が散らばり浮遊しており、近くの恒星の重力に引かれて流れていた。
「戦闘は終わったのか?」
「どちらが勝ったのでしょうか?」
「残骸を確認しましたところ、アルビオン艦がほとんどのようです」
「奇襲を受けて、反撃の余裕もなかったか。それとも例の超能力ワープに翻弄されたのか?」
「その両方ではないでしょうか」

「左舷十一時の方角に戦火!」
「スクリーンに映してくれ」
「スクリーン望遠にします」
 映し出された宇宙空間の中で戦っている艦艇の姿。
「アルビオン軍旗艦ヴァッペン・フォン・ハンブルグです」
 その周りを軽巡洋艦スヴェトラーナが、超能力ワープを駆使して攻撃を続けていた。
「近づいてみよう。取り舵三十度!」
 ゆっくりと転回しつつ、戦場へと向かうサラマンダー。

 戦場の後背には、恒星の光を受けて緑色に輝く惑星があった。
「あの緑色は植物か、それとも鉱物か?」
「調べてみます」
 生物学者のコレット・ゴベールが惑星地表を光学スペクトル分析を始めた。
「クロロフィルを確認しました。地表を多くの植物が覆っています」
「大気組成も動植物が生存可能な環境にあります」
 大気を調べていた技術主任のジェフリー・カニンガム中尉が報告する。
 酸素21%、窒素77%、アルゴン0.8%、二酸化炭素0.04%などとなっており、地表温度35度、湿度20%、風速3m、恒星から受ける放射照度800W/m2……と、一見地上で宇宙服を着こむことなく暮らすに十分な環境であった。



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銀河戦記/脈動編 第十二章・追撃戦 Ⅰ
2022.09.03

第十二章・追撃戦




旗艦ヴァッペン・フォン・ハンブルク(戦列艦)
 司令   =ヴィルマー・ケルヒェンシュタイナー大佐
 副長   =ゲーアノート・ノメンゼン中尉
 艦長   =ランドルフ・ハーゲン上級大尉
 レーダー手=ナターリエ・グレルマン少尉
 通信士  =ヴィルヘルミーネ・ショイブレ少尉


 惑星クラスノダールより撤退するミュー族艦隊。
「せっかく取り戻したというのに、すぐさま撤退するはめになるとはね」
 副長のノメンゼン中尉が嘆く。
「まさかだな。思惑としては、ミュー族とイオリスが潰し合いの戦闘してくれると期待していたのだが……。まさか、ほとんど無傷のまま共闘してくるとは思いもしなかったわ」
 ケルヒェンシュタイナーも頷いている。
「戦力で二倍以上とあっては、撤退するしかありませんでしたね」


「後方より接近する艦影あり!」
 レーダー手のグレルマン少尉。
「追いかけてきたのか? どちらの艦だ!」
「ミュータント族の模様です」
「アルビオンは惑星に留まっているのか?」
「そのようです。アルビオン軍が惑星防衛、ミュー族が攻撃という分担にでもしたのでしょう」
「増援部隊と合流するまでは、戦う状況ではない。全速力で逃げるぞ!」
 ケルヒェンシュタイナーが下令し、ノメンゼンが復唱する。
「了解。全速前進! 進路そのまま!」
 速度を上げて、追撃してくるミュー族との距離を引き離そうとしていた。
「両国の艦の最高速度はほぼ互角ですから、故障さえしなければ逃げ延びられそうです」
 宇宙空間を追撃戦をする両国の艦隊。

 しかし、ミュー族がただ黙って無意味な追いかけっこをするはずがなかった。

「後方の艦隊が消えました!」
「何? まさかワープしたのか?」
「警戒しろ! 全艦戦闘配備!」
 艦内に警報が鳴り響き、あたふたと走り回る乗員達。

「前方二時の方角に艦影!」
「警報! おいでなすったぞ!」
 乗員達に緊張が走る。
「敵艦急速に接近中!」
「砲雷撃戦、右舷砲塔は各個に撃破せよ」
 射程距離内に入り、砲撃戦が始まる。
 各砲塔室では、次々と砲弾が自動装填されてゆく。
 艦橋からスクリーンに投影されている戦闘状況を見つめているケルヒェンシュタイナー。
「おかしいな。旗艦スヴェトラーナが見当たらないぞ」
「そういえばそうですね。後方の安全な場所から指揮しているだけでしょうか?」
「いや、ミュー族はすべてが先陣を切って出てくるタイプだ。安全地帯に避難しているわけがない」
 と突然、艦が激しく揺れた。
「左舷に被弾!」
 艦長のランドルフ・ハーゲン上級大尉が速やかに調査して報告する。
「左舷後方に敵艦出現!」
 続いてレーダー手のナターリエ・グレルマン少尉。
「スクリーンを左舷モニターに切り替えろ!」
「左舷モニターを映します」
 スクリーンに映し出されたのは、軽巡洋艦スヴェトラーナだった。
「いつの間に回り込んだんだのでしょう?」
「迎撃しろ!」
 その下令に対して副長が意見具申する。
「待ってください。この状態で撃ち合えば、後方にいる同僚艦に流れ弾が当たります」
「だからといって黙って見れいれば、こちらがやられる! 構わん撃て!」
「りょ、了解。左舷砲塔迎撃開始!」
 スヴェトラーナに対して砲撃が開始される。
 砲弾が着弾する寸前だった。
 スヴェトラーナが消えてしまったのだ。
 砲弾は後方にいる味方艦へと向かってゆき炸裂する。
「ブラウンシュヴァイク被弾! 損傷軽微」
 それ見たことかといった表情の副官。
「スヴェトラーナが消えた!」
 焦るケルヒェンシュタイナー。
「どこへ行った? 全方位警戒しろ!」
 次の瞬間だった。
 艦の後方にスヴェトラーナが再出現したのだった。
「艦尾に被弾! エンジン部に損傷!」
「機関出力三十パーセントダウン」
 スヴェトラーナは、能力ジャンプを使いつつ一撃離脱を繰り返していた。
「チキショウ! なんて奴だ!」
「このままではやられっ放しです」
「仕方がない。ワープで逃げるぞ!」
「ワープ座標を設定している余裕がありません!」
「かまわん! 適当にワープしろ!」
「それでは艦隊が迷子になります!」
「いいから、やれ!」
「りょ、了解! 適当にワープ!」
 戦闘領域から、一斉にワープして逃げるアルビオン艦隊だった。

 残されたミュー族艦隊も、追撃するようにワープして消えた。



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銀河戦記/脈動編 第十一章・共同戦線 Ⅳ
2022.08.27

第十一章・共同戦線





 サラマンダー艦橋。
 通信スクリーンパネルに映るケルヒェンシュタイナー。
『ここは我々の星だ。申し開きすることなど毛頭ない』
 その言葉には、引くに引けない感情が溢れていたが、イオリス国とミュー族との連合軍相手では戦力差がありすぎるのも事実。
『と、言いたいが……ここは、一旦引かせて貰おうか。無駄な戦いはしたくないのでね』
 と言うと、通信が途切れた。
 やがてアルビオン軍は撤退を始めた。

 あっけらかんとするサラマンダーのオペレーター達。
「意外とあっさりと引き下がるんですね?」
 通信士のモニカ・ルディーン少尉が呆れたように言う。
「追撃しますか?」
 ジョンソン准尉が尋ねると、
「いや。無駄追いをする必要はない。おそらく増援の艦隊が、こちらに向かっているはずだ。追撃すれば鉢合わせする可能性がある」
 トゥイガー少佐が制止した。
「なるほど、素直に撤退したのは罠に掛けようとの魂胆なのですね」
「可能性を話しただけだ。用心に越したことはないだろう」


「ミュー族艦隊が動き出しました。アルビオンを追撃するようです」
 レーダー手のフローラ・ジャコメッリ少尉。
「なんだと? スヴェトラーナに繋げ!」
 通信機器を操作するモニカだったが、
「だめです。繋がりません」
「通信に出れば止められると思ったか」
「独断専行は、共同戦線では御法度ですよね。いかが致しますか?」
「放っておくわけにはいかないだろう。サラマンダーで後を追う。他の艦はそのまま惑星に留まっておけ」
 サラマンダーは、先の戦闘で舷側砲塔を破壊はされたが、機関部はやられていないので、高速航行を頼りにして追尾するのに最適だし、いざとなれば原子レーザー砲を撃つこともできる。
「輸送艦はいかが致しますか?」
「情勢がまだどうなるか分からない。もうしばらく待機させておいてくれ」
 基地を再建するための岩盤削岩機を始めとする各種工事用機械及び建設資材を積み込んだ輸送船。安全が確保されるまでは、荷下ろしすることはできないので、待機を余儀なくされることとなった。
「サラマンダー舷側砲塔の修理が必要だ。輸送艦から技術者と資材をこちらに至急回してくれ」
「かしこまりました」


 惑星クラスノダールを離れ、舷側砲塔の修理を行いつつ、軽巡洋艦スヴェトラーナの後を追いかけるサラマンダー。
「追尾しているのは、やっこさんも気づいているでしょうね」
 とジョンソン准尉。
「たぶんな。特殊哨戒艇Pー300VXを出してみるか」
「哨戒艇を?」
「そうだ。彼らの戦いぶりを、詳細にモニターするんだ。特に超能力ワープに規則性がないかとかな」
「規則性? 例えば能力者の癖とかですか?」
「そうだ。それが少しでも分かれば、能力ワープで次にどこへ跳ぶかの判断がつく」
「なるほど。人間の行動には癖があることを利用しようと……。って、まさかミュー族と戦うおつもりですか?」
「今は共同戦線とか申し込んできたが、俺たちは彼らの腹のうちは読めない。どうも一癖も二癖もあるみたいだ。こちらは相手の腹の中は読めないからな」
「分かりますよ。三度も問答無用で仕掛けてきた奴らですからね」
「ともかく砲塔の修理を急がせろ!」
 どうやらミュー族との戦闘があるだろうとの予測で動いているトゥイガー少佐だった。



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銀河戦記/脈動編 第十一章・共同戦線 Ⅲ
2022.08.20

第十一章・共同戦線




旗艦ヴァッペン・フォン・ハンブルク(戦列艦)
 司令   =ヴィルマー・ケルヒェンシュタイナー大佐
 艦長   =ランドルフ・ハーゲン上級大尉
 副長   =ゲーアノート・ノメンゼン中尉
 レーダー手=ナターリエ・グレルマン少尉
 通信士  =ヴィルヘルミーネ・ルイーゼ・ショイブレ少尉
戦列艦フリードリヒ・ヴィルヘルム
 ヴェルナー・シュトルツェ少佐


 クラスノダールの奪還に成功したアルビオン軍艦隊。
 惑星周辺に展開して、敵艦隊が引き返してくるかと警戒態勢を執っていた。
「ミュー族艦隊が、奴らを追いかけ戦闘になったもようです」
 副長のノメンゼン中尉が報告する。
 戦闘によって発生するエネルギー波を検知する計測器に反応する数値を読み取ったからだ。
「思い通りだ。互いに潰し合ってくれればいいんだがな」
 ケルヒェンシュタイナーが呟くように言う。
「ミュー族に情報を流した甲斐がありました」
「まあ、元々ミュー族も復讐戦を挑むつもりだったろうからな。情報に乗ったというところだろう」
 敵の両国を鉢合わせさせることに成功して、ほくそ笑む二人だった。
「奴らはいずれ戻ってくるでしょう。それまでに十分な迎撃態勢を敷いておく必要がありますね」
「後方の基地に応援を呼んである。奴らが引き返してくる前に到着するだろう」


「それよりも、基地の状態はどうなっているか?」
「滑走路はもちろんのこと、洞窟内も派手に破壊されている模様です」
「探査艇を降ろしてみるか……」
「たぶん奴らも探査していたでしょうね」
「そうだろうな。簡単にここを放棄したところをみると、利用価値がほとんどないと判断したのだろうしな」
「でも、奴らの探索隊が居残っているかも知れません」
 一応確認のためにと、探査艇が降ろされる。
 しばらく探査した結果、居残り組はいないことを確認した。
 その後、探索艇は艦に戻った。
 撤退した艦隊が戻ってくるかもしれないからである。


「本国より入電しています。暗号通信、只今解読しています」
「分かった。暗号解析室に行く。それまでここを頼む」
「了解」
 艦橋を離れて暗号解析室へと向かうケルヒェンシュタイナー。
「どうだ? 解読できたか?」
 暗号解析室に入ってくるなり尋ねるケルヒェンシュタイナー。
 エニグマ暗号解析機を操作していた通信士が、解読電文が記された紙をを手渡す。
 受け取って、黙読するケルヒェンシュタイナー。
「ふむ。やはり、そうきたか……」
 読み終えて、傍らの裁断機に投げ入れて退出し、艦橋へと戻ってゆく。

「どういう連絡でしたか?」
 ノメンゼン中尉が尋ねる。
「この惑星は、ミュー族及び天の川人に対しての防衛拠点となりうる。是が非でも死守せよとの命令だ」
「当然の反応ですね」
「応援の艦隊が到着するのは、二百五十六時間後とのことだ。それまで何とか守り抜くぞ」
「ミュー族と戦闘して艦隊数を減らしてくれていればいいのですけど」

 約三十時間後。
 レーダー手のナターリエ・グレルマン少尉が気づく。
「前方に感あり! 艦影多数!」
「なんだと! 奴らが、もう戻ってきたのか?」
 信じられないという表情をするケルヒェンシュタイナーだった。
「早すぎます。ミュー族との戦闘があったのなら、こんなに早く戻れるはずがありません」
「とにかく、戦闘配備だ!」
 慌てて艦内を掛け回る乗員達。

「敵艦隊内に、サラマンダーを確認!」
「何だと? 生き残っていたのか」
「軽巡洋艦スヴェトラーナも……確認しました」
「馬鹿な! 奴ら共闘するつもりなのか?」
 驚愕するケルヒェンシュタイナー。
「サラマンダーから映像通信が入っています」
「何だと?」
 通信士ヴィルヘルミーネ・ショイブレ少尉の言葉に、戸惑いを見せつつも、
「つ、繋いでくれ」
 通信回線を開く様に指示する。
 通信パネルに姿を現わすトゥイガー少佐は、静かに言葉を申し送った。
『さてと、申し開きをお聞きいたしましょうかな』
 その質問に間髪入れず答えるケルヒェンシュタイナー。
「この惑星は、元々我らが先に入植したものだ。それをミュー族に横取りされ、さらにお前らに奪われた。取り返して当然ではないか」
『なるほど……』

 トゥイガー達の首都星イオリスの先住民は、どうやらアルビオン共和国の人々であろうし、タランチュラ星雲にまで踏破していたことを鑑みるに、彼の主張の道理は通っている。
 マゼラン銀河を時計回りと反時計回りと、銀河人とミュー族とがそれぞれ移民開拓競争を続けて、この地で出くわした。
 つまりこの惑星は、両国にとっては重要拠点となる地でもあるから、例え居住に適さなくても、是が非でも確保したいということだ。



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