銀河戦記/脈動編 第七章・会戦 Ⅲ
2022.03.26

第七章・会戦





 戦列艦ペトロパブロフスク艦橋。
「まもなく索敵艦が消息を絶った宙域に入ります」
「カチェーシャ、頼む」
 遠隔透視能力のあるエカテリーナ・メニシコヴァに指示を出す。

「敵艦がいます……こちらに近づいてきます」
「近づいて?」
「はい、まっすぐに」
「向こうの方が先にこちらに気づいたというのか?」
「まさか、この宙域は電離した水素イオンのせいで電波探信儀は使えないはずです」
 レーダー手が疑問を投げかけた。
「敵にも遠隔透視能力を持った者がいるのでしょうか?」
「分からんが……とにかく戦闘配備だ!」
 カチューシャの遠隔透視能力が、P-300VXを認識できなかったのは何故か?
 VXの搭乗員に対する精神感応ではなく、直接の物体感知なのだろうか。

 やがて有視界に敵艦が入ってきたのを確認した。
「敵は単縦陣で迫ってきます」
「よし、左右に展開しつつ、左翼と右翼を前に出して応戦する」
 いわゆる鶴翼の陣で迎え撃とうという算段のようだ。
 突撃してきた敵軍に対して集中攻撃を加え自軍の被害を抑えることができる陣だ。
「敵艦、隊列を左先梯形(ていけい)陣に移動しています」
「このまま行く! 有視界戦闘である、各砲台は目視で手動で撃て!」
 電磁波レーダーが使用不可であるから、それに連動した兵器も自動攻撃はできないので手動に切り替えが必要だ。
 双方の艦隊が距離を縮めてゆく。
「射程距離まで三十五秒」
 目前に敵艦隊が迫っている。
「砲撃用意!」
 砲台が一斉に敵艦を捕えようと回り始める。

 その時だった。

 眩いばかりの光が艦体を包み込んだ。
 砲台が蒸発するように消えてゆく。
「な、なんだ今の光は?」
「こ、攻撃です! 敵が攻撃してきました」
「馬鹿な! まだこちらの射程外だぞ。敵の射程は我々より長いのか?」
「優に五割は超えるようです」
「このままではやられる一方だ。相手の懐に飛び込むぞ! 機関一杯、全速前進だ!」
 速度を上げて敵艦隊に突撃する。
 鶴翼陣で包囲殲滅しようとしていた隊形が崩れてゆくが、致し方のない所だろう。
「射程内に入りました!」
「よし、撃て! 撃ちまくれ!」
 勇躍として総攻撃を開始する艦隊。
 無数の砲弾が敵艦隊に向かって襲い掛かる。
「着弾します」
 砲弾が炸裂して、辺り一面が硝煙で埋め尽くされ、艦隊の姿もかき消された。
「砲撃中止、様子を見る」
 双眼鏡を覗きながら、敵艦隊のいる場所を注視している。
 やがて硝煙が治まった時、艦隊の姿は消えていた。
「敵がいないぞ!」
「まさか、あれだけの攻撃で消滅するはずがありません」
「しかし、残骸すら消えてなくなったぞ」
 首を傾げていると、艦に大きな衝撃が走った。
「な、なんだ?」
「艦尾に被弾!」
「敵か? 別動隊でもいたのか?」
 艦の周囲を映し出すスクリーンに、次々と被弾していく友軍艦隊の姿があった。そして取り付いて攻撃を加えている敵艦。
「いつの間に、こんなすぐ傍にまで接近されたのか?」
「フラーブルイ撃沈!」
「サラートフ航行不能になりました」
 次々と損害報告が挙げられてゆく。
「砲台がすべて破壊されました!」
「ここまでか……」
「スクリーンを見てください!」
 ミロネンコ司令官が乗員が指さすスクリーンを見ると、並走して進行する敵艦がいた。
「敵艦からと思われる無線が入電していますが……言語が分かりません」
「無線だと? どうせ『直ちに降伏せよ』だろ。聞く耳もたぬわ」
「しかし、このままでは……」
「また、奴隷にされたいのか? 俺達の祖先がされた屈辱は忘れてはならないのだ。砲台が使えないのなら体当たりだ。一対一で当たれば、勝つことはできなくても負けはしない」
 奇形や遺伝子異常、精神薄弱によって虐げられたという記憶が、潜在意識の奥深くまで浸透しているミュータント族。
 人類との和解など眼中になかったのだ。



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銀河戦記/脈動編 第七章・会戦 Ⅱ
2022.03.19

第七章・会戦





 再びαω星団(七色星雲)へと戻ってきたトゥイガー少佐の艦隊。
「前回の会敵では、相手の方が先にこちらに気づいて近づいてきました。我々より優秀な重力加速度計でも装備しているのでしょうか?」
 副官のジョンソン准尉が首を傾げている。
「どうかな……。少なくとも電磁気によるレーダーや通信が使えないのは同じ状況だけどな」
「通信が出来ないので索敵も出せませんからね」
「特務哨戒艇P-300VXは使えないかな? 光学パルスレーザー通信なら交信も可能だし、敵に悟られることもないと思うのだが……」
「そのためには、常に軸線を合わせておく必要があります。超指向性がありますからね」
「サラマンダーの操舵手の腕前なら、手動でもピタリと合わせられるだろう」
 と操舵手グラントリー・ブリンドル中尉を見る。
 頷いて、OKというように親指を立てる仕草をするブリンドル。
「VXを出して先行させろ!」
「了解、VXを出撃させます」
 サラマンダーの艦載機発進口からP-300VXが出撃する。
 その後部からパルスレーザー通信用の超指向性アンテナが突き出している。
「VXからの通信波受信は良好です」
「通信回線と操舵システムをリンクさせろ!」
「かしこまりました」
 通信士が端末を操作を始めて数分後。
 操舵手の目前にある小型スクリーン上に、戦闘機の照準器のような十字円が映し出され、その中にマーカーが点滅している。
「点滅するマーカーが十字円の中心から外れないように操舵して下さい」
 システムの手直しを終えた通信士が忠告する。
「了解した! マーカーから外れないように操舵します」
 十字円の中心にマーカーがくるように操舵を始めるブリンドル。
「steady(ようそろ)、通信波に乗りました」
「よろしい! VXを先行させろ!」
「VX、進撃せよ」
 ゆっくりと速度を上げて前に進む哨戒艇。
 その後を追うように、サラマンダーを先頭にして艦隊は単縦陣で進行してゆく。無線封鎖状態では当然の隊列である。


 先行するP-300VX。
 戦艦百二十隻分に相当する予算が掛けられた電子戦専用の特務哨戒艇。
 あらゆる電磁波を素通りさせてしまうという時空歪曲場透過シールドに守られて、間近に近づいても敵に悟られることがないという究極の哨戒艇である。
 川の中に顔を出した岩によって、水の流れが回り込む様子を考えればよく分かるだろう。
 操作室の壁面にずらりと並んだ電子装備の表示スクリーン。
「後続のサラマンダーとの通信状態は正常です」
 通信担当が確認した。
「うむ。今回は重力加速度計がメインだ。他の電磁波レーダー手は光学望遠鏡による檣楼員(しょうろういん)をやってくれ」
「了解」
 電磁波を素通りさせるとは言ってもごく僅かに内部には届く、それを増幅して観測できる。
「まもなく前回会戦の戦場跡に着きます」
 操舵手の発言以降、本格的な探査が始まった。
「相手も壊滅した艦隊の消息を探るために近くまで来ているはずだ。重力値の変動を見逃すなよ」
「了解」


 後方から追従するサラマンダー。
「敵と遭遇した場合、相手は前回よりもさらに戦力を増強して臨んでくるだろう。こちらも気を引き締めて掛からねばならぬ」
「VXより敵発見の入電! 敵位置の現在座標と移動ベクトル情報が届きました」
「やはり来ていたか。データを戦術コンピュータに入力。戦闘態勢に入れ!」

 再三の敵艦隊の戦いが始まった。



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銀河戦記/脈動編 第七章・会戦 Ⅰ
2022.03.12

第七章・会戦





 恒星ヴォログダを回る第二惑星ババエボに建設されている、ミュータント族前進基地クラスノダール。
 荒涼とした岩石からなる惑星には、大気も水もないため昼夜の気温差が激しく、昼は摂氏五十度だが夜はマイナス百四十度まで下がり生物は棲息できない。
 岩山の中腹に開けられた人工洞窟の内部に基地は建設され、洞窟から延びる滑走路から戦闘機の発着が行われていた。
 今しがた哨戒に出ていた戦闘機が戻って来て洞窟内へと進入するところだった。
 地表の熱の届かない地下基地は、空調設備により程よい温度に保たれており、快適空間となっている。
 基地内に入った戦闘機から降り立つミュータント。
 その様子を管制室から眺めている基地司令官のイヴァン・ソルヤノフ。
 近づいてくる人物は副官のフリストフォル・イグルノフ。
「索敵に出ていた艦隊からの連絡が途絶えました」
「つまり侵略してきた何者かが襲撃してきたということか?」
 憤慨するソルヤノフ。
 前回の索敵艦に続いての艦隊敗北は信じられなかったのだ。
「おそらく全滅かと……」
「遠隔透視のできるサーシャを失ったのは痛いな」
「いかが致しますか?」
「侵略者は排除するまでだ。すでに我々の星域に向けて進撃しているかも知れない。直ちに迎撃態勢に入る」


 最新鋭戦列艦ペトロパブロフスクを旗艦とする二十四隻が再編成された。
 基地に駐留する艦艇の三分の二に及ぶ数だ。
 艦隊司令官に任命されたのは、ヴィチェスラフ・ミロネンコである。
「これだけの艦艇が集められたのは久しぶりだな」
 副官のアルノリト・モルグンが応える。
「三十年前の七色星雲会戦以来じゃないですかね」
「そうだな。俺はまだ子供だったが……。その時は、敵を打ち倒して拠点である惑星を『冬虫夏草』爆弾で殲滅させたらしい」
「今回の敵もその惑星方面から飛来したようですが」
「銀河人が報復攻撃を仕掛けてきたのか?」
「あり得ますが……例の天の川人の可能性もあります」
「天の川人だと?」
 彼らにしては、隣の銀河である天の川に人類が棲息しているという事実は、遥か彼方の歴史であり忘れ去られたことでもある。そして自分達もその天の川人の子孫であることも知らない。
 クラスノダールから見える、七色に美しく輝く星雲を『七色星雲』と名付けたものの、先に到達し居住惑星を発見したのは、銀河を時計回りに巡っていた銀河人だった。
 ここに至って、ミュータント族と銀河人は激しい覇権争いを繰り広げることになる。
 冬虫夏草の使用によって、敵を滅亡に至らしめたものの、その惑星は居住不可能になってしまった。
 改めて他の星域を探索するものの、猛毒のシアン化水素が充満した惑星しか見当たらず、七色星雲は放置されることになったのである。

 その七色星雲の方角から暗雲が立ち込めてきたのである。

 惑星ババエボを出立する艦隊は、一路隣の星雲へと向かう。
 本格的な戦闘になるだろうから、艤装の点検は念入りに行われている。
 艦橋では、スクリーンに映る七色に輝く星雲を見つめながら感傷に浸るミロネンコ。
 HⅡ領域特有の赤く輝く中に、高温の酸素が放つ緑色などが色鮮やかに輝いている。
「美しい所だ。再びこの星雲での戦いが繰り広げられるということか……」
 そこへ副官が近づいてくる。
「まもなく七色星雲に突入します」
「分かった。カチェーシャ、準備はいいか?」
 カチェーシャの愛称で呼ばれた遠隔透視能力を持つエカテリーナ・メニシコヴァが小さく頷く。
 電離した水素イオンが充満する星雲の中では、レーダーなどはほとんど役に立たないので、彼女のような透視能力を持つ者が活躍できる場所である。
「よし。もう一度、消息を失った索敵艦が向かった星域に向かってみよう」



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銀河戦記/脈動編 第六章・会敵 V
2022.03.05

第六章・会敵





 サラマンダー艦橋。
「パルスレーザー砲照射!」
 次々と襲い掛かる砲弾を撃ち落とす。
「原子レーザー砲発射準備!」
「原子レーザー砲への回路接続」
「レーザー発振制御超電導コイルに電力供給開始」
「BEC回路に燃料ペレット注入開始します」
「発射準備完了しました」
「撃て!」
 一条の閃光が走り、敵艦を捕える。
「命中しました」
「一隻撃沈を確認」
「どう出るかな……。再度、交信を試みてみろ」
「了解」
 通信士が試みるものの応答はなかった。
「だめです」
「敵艦、攻撃を続行中!」
「徹底抗戦か……。仕方あるまい、原子レーザー砲第二射準備だ!」
 交信を拒絶して、有無を言わさず攻撃を続ける相手。
 もはや遠慮は無用であろう。
 第二射が発射され、跡形もなく消し去った。
「敵艦消滅しました……」


「前回の遭遇と合わせて、近くに敵の基地があるのではないでしょうか?」
「うむ……ありうるな」
「好戦的な相手の基地を放っておいては、今後も遭遇会戦は避けられません」
「いっそのこと敵基地を奪取してしまいましょう」
「待て、早まるな! 相手が国家なら外交問題にもなる。本国に報告して支持を得る必要がある」
「外交ですか……。相手に聞く耳があればですけどね」
「ともかく惑星探索は一時中止だ!敵の残骸を集めたら、帰還するぞ!」
「了解しました」
 敵の存在の可能性を考慮して、探索を中止して基地へと帰ることにする。


 惑星イオリス評議会。
 敵がいるかも知れない宙域への探索についての議論を続けていた。
「敵がいるかもというだけで、探索を延期するのはどうかと思う」
「相手は交信を拒絶して問答無用で攻撃を仕掛けてくる輩、遠慮なく叩き潰してしまえば良いじゃないか。相手の基地や惑星を奪取すれば、零から開発する手間も省ける」
「侵略者になろうというのか?」
「侵略してきたのは奴らの方じゃないか」
「それは違うぞ。彼らは我々の星域には踏み込んでいない。我々の方が彼らの星域を侵したから排除しようと戦ってきたのだ」
「待て! このイオリスの先住者は、彼らによって滅ぼされたのではないのか? 既に彼らが侵略をしている証拠だ」
「宣戦布告なしに相手が攻撃を仕掛けてくるなら好都合じゃないか。反撃して相手の基地を攻略するのも可能じゃないか? これまでの戦闘で収集された戦艦の残骸から、戦艦の技術は遥かに我々の方が進んでいる」

「現実を考えてみようじゃないか。ニュー・トランターは未だ開拓途中だし、イオリスも居住限界に達しつつある。どうしても次なる居住惑星が必要なのだ。このタランチュラ星雲内には居住可能な惑星が少ない。だから星雲外に出て、惑星探しに出かけなければならないのだ」
「新たなる惑星探しは必要不可欠だ。相手が戦いを仕掛けてくるなら受けて立つだけだ」
 評議会は、好戦国と戦って領土を奪う、という意見が多数であった。
 天の川銀河にある時は、何万年にも渡って民族紛争を続け、食糧や領土を奪い奴隷制度を作った。今更体裁を述べても仕方がないだろう。
 主戦派と慎重派が議論を重ね続けて、最終的に侵攻すべきという結論を出した。



 評議会の決定を受けて、艦艇の増産が行われて、侵攻作戦部隊が編制された。
 イオリス軍参謀本部に呼び出されるトゥイガー少佐。
 メレディス中佐が待ち受けていた。
「評議会の決議のことは聞いているだろう?」
「はい。侵攻作戦が開始されると……」
「ああ。その作戦司令官に君が選ばれた」
「なるほど……。お引き受けします」
「評議会の連中は、技術力差から勝ち戦と高をくくっているようだが、技術力や艦艇数の多さだけで推し量れるものではないのだ」
「確かに。ランドール提督がどのようにして勝ち続けてきたかを考えれば、そんなに簡単なことじゃないです」
「そういうことだな……。しかし、評議会が決定したことには、軍としては逆らえない。君には、侵攻作戦部隊司令として、サラマンダーから指揮を執ってくれたまえ」
「最初に目指すは、会敵した宙域であるαω星団ですね」
「うむ。よろしく頼む」
「かしこまりました」
 敬礼をして部屋を出るトゥイガー少佐だった。



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銀河戦記/脈動編 第六章・会敵 Ⅳ
2022.02.26

第六章・会敵





 時間を少し遡る。
 ここはミュータント族の前進基地クラスノダール。
 基地司令官イヴァン・ソルヤノフは、副官のニコライ・クニャーゼフから今朝の報告を聞いているところである。
「隣接する散開星雲で、怪しげな交信が頻繁に行われています。調査に向かった船との連絡が途絶えました」
「銀河人の奴らか?」
「銀河人のいた星は我々の冬虫夏草爆弾で壊滅させたはずです。それに電波の種類も銀河人とは異なっています」
「ではどこの種族か?」
「もしかしたら……」
「なんだ?」
「伝承にある天の川人ではないでしょうか?」
「天の川人だと?」
「一万年の彼方の次元の狭間から現れ、災いをなすという話ですが……」
「そうか……我々の祖先が誕生してから、一万年も経ったのか」
「ですね」
「どちらにしても、災いを成すというならば排除するだけだ」

 一万年も経てば歴史の事実も忘れ去られ、全く異なった伝承として受け継がれてゆくこともある。時の政権によって、自己・自国の都合の良いように改竄させられることも。
 次元の狭間を通って一万年前の過去にやってきたのは自分達だという事実は消え去っているようだ。

「念のために、索敵を出すか」
「フョードル・グヴォズダリョフにやってもらいましょう」
「そうだな。イヴァン・マトヴィエンコのヴォストーク号の修理は終わっていないしな」


 戦列艦サラートフ号と従属の二隻、コンスタンチン号・スヴァトーイ号を引き連れて出発するグヴォズダリョフ。
「隣の星域から、未確認の種族が我々の星域へと向かっているらしい。それを撃退する任務を与えられた」
「聞いていますよ。天の川人だとか、どんな種族なのでしょうか?」
「分からんな。銀河人相手でも面倒なのに、新たな敵は手っ取り早く片付けるに限る」
「コース設定完了しました」
「出発する!」
 ゆっくりと動き出す三隻の艦艇。


 やがて色鮮やかな星雲に到達する。
「七色星雲というところだな」
「ここから先は、敵の勢力圏かと思われます。慎重な行動をお願いします」
 扉が開いて車椅子に乗った女性が入室してくる。
「未確認船が近づいています」
「ふむ。サーシャ見えるのか?」
 グヴォズダリョフが声を掛けたアリクサーンドラ・メリキヤナ(愛称サーシャ)は視覚障碍者で虚弱体質である。
 目は見えないが、その感覚を補完するように遠隔透視の能力を有している。
「右舷二十度、七十光秒に接近する移動物体があります」
「分かった。面舵二十度転進せよ! 全速前進」
「面舵二十度転進!」
「全速前進!」
 操舵手と機関長が復唱する。

 数時間後、会敵する。
「敵艦発見!」
「やはりいたか。戦闘配備だ!」
 艦内を自分の部署へと駆け回る乗員達。
「第一主砲配置に着きました」
「弾薬庫、準備よし!」
 次々と戦闘配備の報告が上がってくる。
「全艦、戦闘配備完了しました」
 副長が報告する。
「敵艦、回頭してこちらに向かって来ます」
「こちらに気づいたか。よし、どれほどのものか見てみようか」
「全速前進せよ!」
 副官の下令に続いて、速度を上げて近づいてゆくグヴォズダリョフ艦。
「無線に感あり、全周波で交信を試みているようです」
 通信士が報告する。
「こちらからも返信をしてみますか?」
「必要ない。どうせ言葉も分からんのだ。我々の前に立ちはだかる者はすべて敵だ」
「主砲の射程内に入りました!」
「撃て!」
 砲弾が敵艦に一直線に向かう。
「着弾します」
 激しい閃光が前方に広がる。
「やったか?」
 目を凝らす乗員。

 粉々になった艦が浮遊しているはずだった。

 しかし目に映ったのは、悠然と前進してくる敵艦だった。
「馬鹿な! 外れたというのか?」
「敵艦、反撃態勢に入ったもようです」
「攻撃を続行する。面舵二十度!」
 艦の舷側を敵艦に向けて、後部砲塔をも射撃可能にさせるためだ。
 古来より使われていた砲撃戦で迎え撃つ体勢に入った。
 艦砲を舷側に揃えた戦列艦においては、当然の戦い方である。
「敵艦、真っ直ぐ向かって来ます」
「愚かな。砲撃の的になるつもりか?」
「あ、あれは何でしょう?」
 指さす敵艦が怪しく発光していた。
 次の瞬間だった。
 艦が激しく震動して、投げ出される乗員が続出した。
「な、なんだ? どうした?」
「攻撃されました!」
「損害報告しろ!」
 立ち上がる乗員達。
 やがて各所から報告が上がってくる。
「エンジン部に被弾、機関出力七割低下、機動レベルを確保できません……」
「コンスタンチン号撃沈、スヴァトーイ号中破なるも航行は可能」
 意気消沈の艦橋員達だった。
「たった一発で……」
「相手方は、引き続き交信を求めているようです」
「今更交渉もないだろう……。捕虜になって蔑(さげす)まれるよりも、最後まで戦ってミュー族の誇りを見せるのみだ! 全砲門、全弾撃ち尽くせ!」
 ありったけの弾薬を討ちまくる艦艇。
 やがて、視界が真っ白になってゆく。

 ミュータント族艦隊は全滅した。



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