銀河戦記/脈動編 第九章・カチェーシャ Ⅲ
2022.06.04

第九章・カチェーシャ




 司令官  =ウォーレス・トゥイガー少佐
 副官   =ジェレミー・ジョンソン准尉
 技術主任 =ジェフリー・カニンガム中尉
 ミュー族 =エカチェリーナ・メニシコヴァ


 ミュータント族前進基地クラスノダールに近づくトゥイガー艦隊。
 エカチェリーナの水先案内で迷うことなくたどり着けそうだ。
 彼女は、意外なことに盲目だが一度通ったルートを記憶のできる空間認知能力を有していた。
 失った視覚を補うように、耳の三半規管がジャイロコンパスのように機能しているらしい。さらに重力波をも感知できて、敵の動きをも遠くから知ることができる。
「便利なものだな。彼らが有能な彼女だけを脱出させたのも理解できるな」
 とのトゥイガー少佐の弁も納得できる。

 サラマンダーのレーダーが惑星を探知した。

「まもなく前進基地クラスノダールです」
「基地の周辺を索敵だ!」
 トゥイガーが指示を出すと、艦長が索敵機を出撃させる。
 サラマンダーの発着口から艦載機が出撃していく。
 エカチェリーナの探知能力を使用するには、それだけの精神力を消費するので、虚弱体質の彼女に任せきりにするのは無理だ。
「基地の周辺には、艦影は見当たりません」
「恐れをなして撤退したか」
 彼女の話では、基地にはまだ十六隻の艦艇が残っていたはずだが。
「そのまま哨戒行動を続けてさせくれ」
「了解、哨戒行動を続行します」
 目の前には、敵基地惑星があった。
 荒涼とした岩石惑星に
「衛星軌道に入ってくれ」
 十数分後に軌道に乗る艦隊。
 地上からの反撃はなく沈黙していた。
「ミサイルでも飛んでくるかと思ったが。ともかく地上を探査してくれ」
 用心を期して、すぐには地上には降りない。
 軌道をほぼ一周回ったところで、
「生命活動と思われる反応はありません」
「エネルギー探知機にも反応なし」
 どうやら人っ子一人おらず、完全撤退を完了したようであった。
「ジョンソン、どう思う?」
 副官に問いかけてみるトゥイガー少佐。
「ブービートラップが仕掛けてありそうですね」
「やはり君もそう思うか」
「ランドール提督なら、ただでは手渡さないでしょう」


「この岩石惑星は、居住には適さないが資源は豊富にありそうです」
「撤退したのなら、貰い受けてベースキャンプとして基地を建設すればよいな」
「まさか惑星ごと破壊する爆弾は仕掛けてないでしょうねえ」
「そこまでの科学力は発達していないだろ。せいぜい基地を自爆させる程度だな」


 罠を警戒して、無人探査機が地上に降ろされた。
 滑走路を進み、洞窟内へと進入する。
 洞窟内の様子は、搭載のカメラからサラマンダーのモニターに映し出されていた。
 人っ子一人いない構内をゆっくりと進む探査機。その起動音だけが静かな構内に響く。
 時折静止しては、周囲を丁寧に探査している。
 動体反応感知、臭気感知、音響感知センサーを使用して、人や物の動き・火薬類の有無、時限装置の時を刻む音などを調べ始める。
「誰もいませんね。すでに総員退去が完了しているようです」
 と、探査機を遠隔操作している技術主任のジェフリー・カニンガム中尉。
「爆薬の信管はどのタイプだろうか? 時限式かセンサー式か?」
「遠隔ということもありますよ。基地に侵入したのを確認してからドカン!」
「遠隔なら、電磁波が出ているだろう。探知してみろ」
 探査機からパラボラアンテナが突出して、くるくる回りながら辺りを探り始めた。
「反応ありました。出てますよ電磁波が」
「妨害電波を放射して遮断してみろ」
「妨害電波出してみます」
 探査機から強力な妨害電波が放射される。
 と、その途端だった。

 モニターが閃光に焼かれ、探査機との通信が途絶えた。

 サラマンダーのスクリーンには、敵基地が大爆発を起こして飛び散る様が映し出された。
 洞窟の入り口から爆風が飛び出し、岩山が砕け散った。
 さらに滑走路も次々と誘爆して跡形もなくなった。

 一瞬何が起こったのか?
 というような表情の一同だった。
 予想はしてはいたが、こうもあっさりと自爆しちゃったなという風だった。
「どうやら、起爆装置を解除・停止するなどの外部要因が加わると、起爆するようでしたね」
「うむ。用心して正解だったな」

「ここは居住にはあまり適していない惑星ですね。どうなされますか?」
「それは本国が決めることだが……。ここから先に向かっても、居住可能惑星は既に二つの国家のどちらかが開発済みになっているだろう。イオリスも先住惑星だったからな」
「この銀河のほとんどが移民済みで、双方の国が領土拡大に戦争をしているということですか?」
「そこへ我々も分け入って、三つ巴の戦いになるかも知れないな」
「天の川銀河の方では、やっと平和がやってきたというのに、こちらに来て再び戦乱に巻き込まれるのですか……いやですね」
「人類のあくなき性というやつだ」



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銀河戦記/脈動編 第九章・カチェーシャ Ⅱ
2022.05.28

第九章・カチェーシャ




 司令官  =ウォーレス・トゥイガー少佐
 言語学者 =クリスティン・ラザフォード
 ミュー族 =エカチェリーナ・メニシコヴァ


 ミュータント族前進基地クラスノダールへと向かうサラマンダー。
 遭遇戦の宙域から、敵が出現した方角へと向かうことにしたのだが、クリスティンが聞き出した情報から、その方角に敵基地があることが明確となったのだ。
 サラマンダー艦内、自室にて報告書に目を通しているトゥイガー少佐。
 隣の秘書室からのインタフォンが鳴り、来訪者を告げた。
『クリスティンがいらっしゃいました』
「おお、通してくれ」
『かしこまりました』
 扉が開いて、エカチェリーナが座る車椅子を押して、クリスティンが入室してくる。
 事前に捕虜であるエカチェリーナの自由行動の許可を得ている。
「どうやら進展があったようだな」
 二人の顔を交互に見つめながら訪ねる少佐。
 ある程度の内容は聞いてはいたが、直接聞きただすことも必要と思っていた。
「はい。改めて紹介します、エカチェリーナ・メニシコヴァさんです」
「エカチェリーナです、司令官さま」
「そう堅苦しくしないでいいよ。捕虜ではなく、客人として優遇するつもりだ。ゆっくりしていきたまえ」
 それに呼応するように、秘書官がお茶とケーキをワゴンに乗せて持って来た。
「クリスも遠慮せずに座って食べてくれ」
 クリスティンの愛称で呼ぶ二人の関係は幼馴染である。一方は軍人の道を進み、一方は学者の道を進んだので、主従の関係はない。
「はい、遠慮なく頂きます」
 会議テーブルの椅子に座り、エカチェリーナにも食べられるように車椅子をセッチングしてあげた。

 お茶の時間が済んで、改めて対面するトゥイガー少佐とエカチェリーナ。
 通訳に回るクリスティン。
「我々の祖国についての質問だそうだが……さて、君たちの住んでいるこの銀河の隣に、別の銀河が存在するのは知っているかい?」
「はい、知っています。天の川銀河ですね」
「そう。我々は、その天の川銀河からやってきた。冷凍睡眠による宇宙航行してね」
「クリスから、伺っております」
「睡眠中は、自動航行システムで運行していたのだが、一隻の移民船が行方不明となった」
「行方不明ですか?」
「ここからは推測でしかないんだが、その一隻の移民船が何らかの影響を受けて次元の狭間に迷い込み、一万年前のこの銀河系に迷い込んできたんだ」
「一万年前?」
「君たちの太古の歴史というか神話を聞くと、およそ一万年前から始まるということだよね。突然、この銀河に現れたことだ」
 一万年前と言えば、古代地球においては新石器時代に相当する。
 猿人からネアンデルタール人もクロマニョン人の歴史的記録もなく、突如として新人類が出現している。
 海の中で、最も単純な単細胞生物に必要な酵素が全て作られる確率は、十の四万累乗分の一。「廃材置き場の上を竜巻が通過した後で、ボーイング747ジェット機が出来上がっているのと同じような確率である」フレッド・ホイル
 ならば、どこからかの移民入植と考えるのが自然であり、行方不明になっている開拓移民船の人々である可能性がある。
「はい」
「人類の進化の過程を考えれば、一万年で済むはずがないからな。結論を言えば、君たちと我々は同じ血が流れているということ。早い話が、我々はご先祖様ということさ」
「あくまで推測の域を出ませんけどね」

 それから数時間、話し合いをする三人だった。

「さて、君の仲間との仲介と折衝役をやってもらいたいのだが」
「分かりました。私にできることなら、お役に立ちたいと思います」
「ありがたい。よろしく頼むよ」



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銀河戦記/脈動編 第九章・カチェーシャ Ⅰ
2022.05.21

第九章・カチェーシャ




 言語学者 =クリスティン・ラザフォード(英♀)
 ミュー族 =エカチェリーナ・メニシコヴァ


 医務室で待機する盲目の女性。
 彼女の名前は、エカチェリーナ・メニシコヴァ。
 目が覚めた時、周りには人の気配と聞いたことのない声と、規則的で機械的な音が続いている。そして、病院特有の消毒薬の匂いが漂っていた。
 ベッドの上に寝かされているようだった。
『ここは敵の船の中? それも病院?』
 寝てもいられず、ともかく身体を起こしてみる。
「あら、気が付いたのね」
 女性の声がしたが、何と言っているか分からない。
 近づいてくる足音。
「言葉が分かる? 分からないわよね……どうしたものかしら」
 優しく問いかけるその言葉には、何とか意思疎通をできないかとの、緊張感が伝わってくる。
 手を取られたかと思うと、自分の胸辺りに誘導して、
「あなたね」
 と言った。
 続いて、その手が伸びたと思ったら何かに触れたが、どうやら相手の胸のようであった。
「わたしよ。名前はクリスティン」
 と言った。
 そして再び、自分の胸を触って、
「あなた、名前は?」
 と言った。
 どうやら名前を聞いているようで、ボディーランゲージを使って意思を伝えている。
『私の名前は、エカチェリーナです』
 相手の言語が分からないので、自身の言葉で答える。
 言葉の中から、明らかに名前だと分かる部分を理解したようだ。
「エカチェリーナね。あなたの名前は、エカチェリーナ」
 頷いて応えるエカチェリーナ。

 ともかく意思疎通するには、言語を理解しなければならいし、基本の単語と文法を覚えなければならい。
 身近に触れられる対象物を、お互いの言語で語り合うことから始めた。
 目が見えるクリスティンが親切丁寧に、対象物に触れさせてから、
「これはベッドで、ここに眠るのよね」
 などと、名称と使い方を伝える。
「チーズケーキよ。美味しいから食べてみて」
 食べ物も、味覚などの情報を交えてゆく。
 
 会話の中から、エカチェリーナが使用する言語の文法を解析していくクリスティンだった。
 やがて日常会話程度なら、理解できるようになっていた。
「ねえ、エカチェリーナ」
 呼びかけた時、
「わたしのこと、カチェーシャと呼んでくださっていいです」
 と呼び名を変えてほしいと言った。
 カチェーシャとはエカチェリーナという名前の愛称である。
 親しい間柄ではカーチャと呼び習わし、さらに親しくなるとカチェーシャとなる。
「愛称で呼んでいいの?」
「はい。クリスティンなら平気です」
「分かったわ、カチェーシャ」

 それなりに親しくなった二人は、会話を通してそれぞれの言葉を話せるようになっていった。
 特に言語学者のクリスティンは、カチェーシャとの会話から文法なども理解できていた。

 言葉が分かれば、相手の事を知りたくなるものだ。
 カチェーシャの属する国家と、もう一つの国家について質問するクリスティン。
「わたしの祖国は、この銀河の反対側の端にあります。惑星都市サンクト・ピーテルブールフが首都です」
「銀河の反対側なの? 随分と遠くまでやってきたのね」
「私たちの国は、開拓移民のため首都を旅立って五千年もの年月を掛けて、銀河をぐるりと一万五千光年を回ってきたのです」
「開拓移民ですか?」
「既にご存じかと思いますが、もう一つの国家との開拓競争と領地争いを戦ってきました」
「そうだと思いました。あなたの国と戦争している国があるのですね」
「はい。クリスティンの国は、もしかしたら隣にある銀河にあるのではないですか?」
「その通りです」
「なるほど、銀河間を渡る科学技術を持っているのですね。あなたの国の事、詳しくお話頂けないかしら」
「そのお話は、司令官直々にお伺いしましょうか」
 二人の間で会話をしても、司令官にも内容報告する必要がある。ならば直接司令官と話した方が良いだろう。
「分かりました。司令官さまに合わせて頂きますか」
「いいわ。合わせてあげましょう」
 数時間後、トゥイガー少佐とエカチェリーナの面談が設定された。



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銀河戦記/脈動編 第八章・ミュータント族との接触 V
2022.05.14

第八章・ミュータント族との接触





 ミュータント族前進基地クラスノダール。
 輸送船が盛んに発着を繰り返している。
 管制塔から指揮を執っている基地司令官イヴァン・ソルヤノフ。
 傍らに立つ副官フリストフォル・イグルノフが首を傾げている。
「まさか後方司令部が撤退許可を出してくれるなんて意外でした。一旦引いて後方の基地で迎撃するらしいです」
「敵との戦闘記録を見て例のエネルギー兵器に興味を持ったようだ。敵船を鹵獲して技術を盗む気だ」
「鹵獲? 可能ですかね」
「本星より秘蔵のESP部隊を呼び寄せるらしい」
「ESP部隊! それは頼もしい増援ですね」
 ミュータント族の中には、一定の割合で超感覚的知覚などの特殊能力を持った者が生まれることがある。
 主に精神感応によって、相手に幻視や幻聴などを引き起こす才能である。敵兵を惑わして戦闘不能に陥らせることができ、その間に総攻撃して撃沈するなり艦を鹵獲するなりできるわけだ。
 但しESP要員は、能力持ちの出生確率が極端に低いので人員に限りがあり、ここぞという時にしか出撃することはない。

「無償で基地を明け渡すつもりはない。奴らが降り立ったら、目を丸くする罠を仕掛けておく」
 基地のあちらこちらに、自爆装置が取り付けられていった。
 いわゆるブービートラップである。
 敵が近づいたり、設備に触ったりしたら自動的に爆発する。


 軍属などの一般住民が輸送船に乗り込み後背の基地へと出発する。
 技術者が基地内の仕掛けを終えて、最後の船が基地の住民を乗せて惑星を離れたのは、撤退命令が出てから十八時間後だった。
「総員、撤退準備完了しました」
「よし、速やかに撤退する」
 全艦、ゆっくりとクラスノダールを離れ始める。
 スクリーンに映る基地が遠くなっていくのをを眺めながら、イグルノフ副官が感慨深げに呟いた。
「無骨な惑星基地でしたけど、撤退するにつけて改めて見つめなおすと、郷愁が呼び覚まされますね」
「そうだな。岩盤をくり抜いて汗水垂らして作り上げた血と汗の結晶だからな」
「我らと同様にこの惑星に目を付けていた銀河人を近づけさせないために突貫工事でやりましたからね」
 やがて、後方のノルトライン=ヴェストファーレン星区前線基地クレーフェルトへと撤退していった。


 ミュータント族の首都星、惑星都市サンクト・ピーテルブールフ。
 宇宙港から一隻の艦が宇宙へ舞い上がってゆく。
 やがて周囲から戦艦が集まって来て、その艦を護衛するかのように周りを囲い込んだ。
 艦の名前は軽巡洋艦スヴェトラーナ、ESP要員が搭乗している。
 艦橋内には、正面スクリーンに対して扇状に座席が設けられ、ヘルメットを被った人々が座っている。
 彼らはESP要員で、ヘルメットから延びたケーブルは精神増幅装置に繋がれている。中には生命維持装置に繋がれている者もいるが、筋萎縮性側索硬化症の患者であり、身体は動かせないがそのハンデを補うように超能力に目覚めたようだ。
 乗員達の意思疎通も、言葉ではなくケーブルを通して念波で行われている。
『微速前進!』
 扇の要にいる人物が指示を、声を出さずに下令する。
 彼の名はドミトリー・シェコチヒン。
 その名は、伝統的にミュータント族の族長が名乗ることになっていた。
 機関担当が念ずると、機関室のエンジンが回りだす。
 機関室には人は誰もおらず、念動力で動いている。
『機関全速、前進基地クラスノダールへ全速前進!』
『面舵三十度』
『機関全速!』
 ゆっくりと進み始めるスヴェトラーナ。
 それに付き従うように、他の艦艇も動き出す。
『全艦、予定進路に入りました』
『よし、ジャンプしろ!』
 艦影が揺らいだ次の瞬間、すべての艦艇が消え去った。



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銀河戦記/脈動編 第八章・ミュータント族との接触 Ⅳ
2022.05.07

第八章・ミュータント族との接触




 司令官  =ウォーレス・トゥイガー少佐
 副官   =ジェレミー・ジョンソン准尉
 言語学者 =クリスティン・ラザフォード
 医者   =ゼバスティアン・ハニッシュ
 生物学者 =コレット・ゴベール

 トゥイガー少佐がサラマンダーの医務室にやってきた時、言語学者のクリスティン・ラザフォードが診察室から丁度出てきた。
「どうだ、彼女に話せるか?」
 クリスティンに尋ねる少佐。
「不思議です。彼女が話す言葉は、地球圏東スラブ語族の言語に源流を持つようです」
「どういうことだ?」
「人類が言葉を発し始めた時は、一つの言語しかなかったものが、何千年と経つうちに色んな言語の派生が生まれてきました。それに伴って多種多様な民族に分かれました。インド・ヨーロッパ語族、シナ・チベット語族、アフロ・アジア語族、コンゴ・コルドファン語族などにです」
「我々の共通言語は、印欧語族に属するゲルマン語から発展した英語ですが、同じ英語でも銀河帝国、バーナード星系連邦、そしてトリスタニア共和国同盟、それぞれに微妙に変化してきています」
「まあ、同じ国内でも地方に行けば訛りがあったり、ご老人の話す言葉と若者の言葉も違っていてお互いまったく理解できないこともあるからな」
「一万年も経てば、意思疎通すらできない新たなる言語に進化します」
「一万年か……。ドクターも遺伝子変異がどうのこうのと言っていたな」
「彼女はかなり怯えています。もうしばらく一人にしておいて下さい。折を見て私が彼女のことや仲間のことを聞き出してみましょう」
「そうか……。分かった、彼女のことは君に一存する。随時報告してくれ」

「ドクター、一緒に来てくれないか」
 どやら医学的見地から、彼女の身体的特徴などを聞いてみようということのようだ。
 ミュータント族の彼女を残して、ドクターを連れて司令室に戻るトゥイガー少佐。
 そこには先客の生物学者コレット・ゴベールが来ていた。
「まあ、腰かけてくれ。茶を出してあげよう」
 応接椅子に腰かけるように言って、カウンターでお茶を入れ始める。
 椅子に座り、お茶を啜る三人。
「早速報告をしてくれ」
「先に結論を言いますと、彼女もイオリスの先住民も、我々と同じ地球人の血を受け継ぐ民族です」
 コレットは、イオリスで亡くなっていた遺体を持ち帰って、遺伝子情報などを精密に調べていた。そして新たにミュータント族の遺伝子情報を得て、結論を導いたようだ。
 持論を発表するコレット。
「彼らと我々の祖先は同じだと思います。遺伝子進化の系統を詳しく調査しますと、彼らは我々よりおよそ一万年の経年変化を辿っているようです」
「一万年か……以前も言っていたが、どういうことだ? 納得できる説明をしてくれ」

「ランドール提督の乗られていた移民開拓船が行方不明になったまま」
「ああ、悲しい現実だな」
「こうは考えられませんか?」
「?」
「これは仮説ですが、ランドール提督らは、何らかの要因で一万年まえに飛ばされたと考えてみましょう」
「一万年前に飛ばされただと?」
「次元の狭間に飲み込まれたとかありえます。そうでないと忽然と消えた理由が分かりません。それに双方の遺伝子が似通っているのも納得できます」
 原始の海の中で、最も単純な単細胞生物に必要な酵素がすべて作られる確率は「がらくた置き場の上を竜巻が通過し、その中の物質からボーイング747が組み立てられる」のと同じで、十の四万累乗分の一の確率だと言われる(フレッド・ホイルのパンスペルミア仮説)
「つまり同じ血筋に連なる者同士が戦っているということか……」
「人間の性というが、アダムとイブ以来の原罪というか。親子でも殺し合いをするのが人類ですからね」
「そうか、何とかならないものかな……」
 押し黙る三人だった。



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