銀河戦記/鳴動編 第二部 第六章 皇室議会 V
2020.04.04

第六章 皇室議会




 正面パネルスクリーンには、勇壮と進軍する統合軍艦隊が映し出されていた。
「しばし後を頼む」
 席を立つアレックス。
「どちらへ?」
「ティータイムだ」
 統合軍の進撃が順調に進んでいるのを見届けて、ちょっと休憩したくなったのであろう。
 第一艦橋を出てすぐの所に、自動販売機コーナーがある。
 立ち寄って販売機にIDカードを挿しいれてドリンクを購入するアレックス。
 湯気の立ち上がるカップを取り出して、そばのベンチに座って口にする。
「うん。自動販売機にしては、結構いける味だな」
 一服している間にも、艦橋要員のオペレーターが立ち寄っていくが、アレックスが任務
中なのを知っているので、軽く挨拶をするだけで話しかける者はいない。


 ドリンクを飲み終わり、やおら立ち上がって艦橋とは反対方向へと歩きはじめる。
 向かった先は、通信統制室の一角にある通信ルーム。
 その中の一室に入り、端末の前に着座して、機器を操作している。
「特秘通信回線を開いてくれ」
 端末に向かって話すと、
『IDカードヲ、ソウニュウシテクダサイ』
 と喋り、言われたとおりにIDカードを差し入れると、
『モウマクパターンヲ、ショウゴウシマス』
 レーザー光線が目に当てられて、網膜パターンのスキャンが行われた。
『アレックス・ランドールテイトクト、カクニンシマシタ。トクヒカイセンヲ、ヒラキマ
ス』
 と同時に背後の扉が自動的に閉じられ鍵が掛けられた。
 アレックスは通信相手の暗号コードを入力して短い電文を送信した。

 静かな湖から白鳥は飛び立つ

 たったそれだけであった。
 何かを指示する暗号文なのであろうが、これだけでは知らない人間には通じない。
 おそらく受け取った誰かだけが、その真意を理解することができるのであろう。
 ややあってから、
『ジュシンヲ、カクニンシマシタ。リョウカイシタ』
 という通信が二度返ってきた。
 暗号文が二箇所の相手に伝えられ確認されたことを意味していた。
 通信端末の回線を切るアレックス。
 回線を切ると自動的に扉が開く。
「よし。これでいい」
 立ち上がり、通信ルームを退室する。


 艦橋に戻ると一騒動が起きていた。
 整然と並んでいた艦隊が乱れていた。
「どうしたんだ?」
「はい。地方の委任統治領の領主が参戦したいと割り込んできたのです」
「委任統治領?」
「いわゆる周辺地域をパトロールしていた警備艦隊を引き連れてきました」
「警備艦隊ねえ……」
 警備艦隊は、各地で起こった暴動や反乱などを鎮圧するのが主な任務である。
 つまり艦隊戦の経験がまったくないということである。
 これからやろうというのは、総督軍との艦隊決戦である。
 艦隊戦闘の経験のない艦隊など役に立つどころか足手まといになるだけである。
「ここで名を売っておこうという腹積もりなのではないかと」
「おそらくな」
「どうしますか、追い返します?」
「そう無碍にもできないだろう。何か役に立つこともあるだろうさ」
「索敵にでも出しますか?」
「いや。索敵を甘く考えてはだめだ。勝利の行方を左右する重大な任務に素人を投入する
のは危険だ」
「では、後方支援部隊に協力させて、解放した惑星の戦後処理にでも当たらせますか?」
「そうだな……」
 厄介なことになったが、相手は委任統治領の領主であり、土地持ちの上級貴族である。
 今後の銀河帝国における政策にも関わる問題であり、彼らを抜きにしては将来は保証で
きない。
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