銀河戦記/鳴動編 第一部 第二章 士官学校 Ⅲ
2020.11.27

 第二章 士官学校




 パトリシアが学生自治会室に戻ると、窓際に腰を降ろして空を仰ぎ見ている人物
がいた。
 その瞳は、エメラルドのように澄んだ深い緑色をしており、褐色の髪がそよ風に
なびいていた。一目見て、パトリシアは彼が、アレックス・ランドールであること
にすぐに気がついた。
「やあ。君が、パトリシアかい?」
 とパトリシアの入室に気がついて振り向いた彼が尋ねた。
「そうですけど。ランドールさんですね」
「その通り……といっても、僕がランドールであることは、一目瞭然だろうけど。
ともかく僕の副官に選ばれたという人物を拝見したくてね」
 パトリシアは、スベリニアン校舎に来て三年になるが、この緑色の瞳をした人物
と面と向かって対話したのは、はじめてであった。これまでに戦術シュミレーショ
ンや、通路ですれ違い様にこの緑色の瞳の人物と出会いはしたが、遠めに眺めるこ
とはあっても対面して会話したことはなかった。彼の噂に関しては、彼の同僚でパ
トリシアの先輩であるジェシカ・フランドルから聞いて、ある程度は知らされてい
たが。
「しかし、副官が君のような美人だなんて光栄だな。アレックスと呼んでくれ」
 彼は右手を差し伸べてきた。
「あら、おせじがお上手ね。パトリシアです」
 パトリシアはその手を握りかえして微笑んだ。

 数日後、パトリシアは街に出てウィンドウショッピングを楽しんでいた。玉虫色
に輝く神秘的なブルーのシフォンシャンブレークレープ素材ワンピースドレス。プ
リーツスカートの細かなひだが風にそよいで揺れている。クリーム色の靴を履き、
黒皮にゴールドチェーンのハンドバックを小脇に抱えて、ウィンドウの中の商品を
品定めしていた。
 肩を叩いて声を掛けるものがいた。振り返ると微笑みながら背後に立っているア
レックスがいた。
「あら、アレックス」
「君一人?」
「ええ」
「恋人はいないの? せっかくの休日なんだろ?」
「いませんわ。誘ってくれる人がいなくて」
「君のような美しい人に、恋人がまだなんて、信じられないな。もしかしたら、と
っくに決まった人がいると思って、誰も声を掛けないのかもしれないね」
「そうでしょうか」
「そうだよ。きっと。よし、今日は、僕と付き合ってくれないか」
 といってパトリシアの手を引いて歩きだすアレックスであった。
 数時間後、レストランで食事をとる二人がいた。
 テーブルに対座して、談笑している。
「君っておしゃれなんだね」
「そ、そうですか」
「しかし、本当に恋人はいないの?」
「いません」
「そうか……じゃあ、恋人に立候補してもいいかな」
 といってアレックスはパトリシアをじっと見つめなおした。
「そんな……」
 パトリシアは赤くなって恥じらんだ。
 彼女は成績こそ優秀で常に首席を維持しているが、男性との交際では何も知らな
い初な女性であった。


 数日後、パトリシアは、アレックスから第一作戦資料室に呼び出された。
 正式に模擬戦の作戦会議がはじめられたのである。
 当日の参加者はパトリシアの他は、ゴードン・オニール、ジェシカ・フランドル、
スザンナ・ベンソンといった、アレックスが親友と認め、その才能を高く評価して
信頼している人物達である。
「事務局から、今回の模擬戦の作戦宙域が発表になった」
 アレックスがパトリシアに機器を操作させて、正面のスクリーンに作戦宙域を映
しだした。
「ここが、今回我々が作戦を行う、サバンドール星系、クアジャリン宙域だ」
 全員からため息のような声が発せられた。
「付近一帯の詳細な資料を、パトリシアに調べてもらった。先程配布したファイル
がそれだ。ご苦労だったね、パトリシア」
「どういたしまして」
「なんだ、やっぱりパトリシアに手助けしてもらったんだ」
「僕は、資料作りといった、細やかな作業は苦手でね」
「でしょうねえ」
「とにかく、資料を充分検討して今後の作戦立案に役立ててほしい」
「わかった」
「それでは、本題にはいるとするか」
 五人は、それぞれの役割分担からはじめて、今後の作戦遂行に必要な各種参謀役
の人選、おおまかなる作戦要綱をまとめていった。

 アレックス・ランドール=作戦指揮官
 ゴードン・オニール  =作戦副指揮官
 ジェシカ・フランドル =航空参謀
 スザンナ・ベンソン  =旗艦艦長
 パトリシア・ウィンザー=作戦参謀

 これらの役割が、第一回目の作戦会議で決定された。
 中でも、三回生であるパトリシアが作戦参謀という重要な幕僚に着任することに
なったのは、彼女の先輩であるジェシカの強い推薦があったからである。
 数時間後。
「よし、今日のところはこんなところでいいだろう」
 アレックスの発言で、作戦会議は終了した。
 席を立った五人は、資料を片手に作戦会議室を退室し、次の予定の目的地へと四
散していく。
「あ、ちょっとパトリシア」
 ジェシカと一緒に帰ろうとしていた彼女を、アレックスが呼び止めた。
「はい。何でしょうか」
「ついでといっちゃ、なんだが、パトリシア。ジャストール校のミリオンについて
詳細な資料を集めてくれないか」
「ミリオンといいますと、ミリオン・アーティスですか?」
「そうだ。知っているのか?」
「ええ、まあ。ジャストール校では、百年に一人出るか出ないといわれる神童とま
で称される逸材で、戦術シュミレーションでは常に圧倒的成績で勝利を続けている
そうですから」
「って、それくらいなら誰でも知っているわよ。アレックス。わざわざ、知ってい
るかと確認することはないわよ」
「そうかなあ……僕は、ジャストール校のことを調べなきゃならないってんで、つ
い昨日その名前を知ったばかりなんだ」
「呆れた! そんなことで、よくもまあ指揮官に選ばれたものね。先行き不安だわ」

「しかし、ミリオンを調べて実際の戦闘に役に立つのですか?」
「敵の指揮官の素性を知る事は作戦の第一歩じゃないか」
「指揮官? ジャストール校側の指揮官はまだ発表されていないじゃない。第一、
ミリオンは三回生よ。指揮官には、速すぎるのではないかしら?」
「そうとも限らないよ。例えば、うちだって副官にパトリシアが選ばれているくら
いだから。あのミリオンなら充分有り得るさ」
「まあ、あなたが、そうまで言うのなら。パトリシア、調べてあげなさい」
「はい。わかりました」
 パトリシアにとって、ジェシカは一年先輩であり、士官寮では昨年までの二年間
同室となっていた。戦術理論などの実践について、手取り足取り教えてもらった経
緯もあって、ジェシカに対しては従順であった。
「その中でも特に、性格的な特徴が知りたい」
「性格ですか」
「短気だとか、好みの色とかなんでもいい」
「わかりました。でもそんなことが役に立つのですか?」
「もちろんさ。それから……ジェシカには、このメモにあるものを手配しておいて
くれないかな」
 とアレックスが、ジェシカに手渡したメモには次のようなものが記されていた。

 迫撃砲、催涙弾、煙幕弾、麻酔銃……

「何よこれ……」
「もちろん白兵戦用の道具さ」
「白兵戦?」
 二人は驚いた。模擬戦は艦隊戦なのである。
 それなのに……。
「何も聞かずに集めてくれないかな」
「かまわないけど、時間がかかるわよ。士官学校では、手に入れにくいものばかり
だから」
「わかっている。だから、早めに依頼しておくのさ」

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2020.11.27 07:06 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二章 士官学校 Ⅱ
2020.11.26

 第二章 士官学校


II

 時代は、アレックスがまだ士官学校に在籍していた頃に遡る。

 士官学校スベリニアン校舎。
 小高い丘の上にそびえ立つ校舎からゆるゆるとした坂となっている小道。道の両
側にはポプラ並木となっており、そこここの木陰には腰を降ろして本を読んだり、
数人集まって談笑している学生達が、昼休みの短いひとときを過ごしていた。
 そんな中を、一人の女子学生が、人探し風にきょろきょろとあたりを見回しなが
ら、足早に歩いている。やがて探していた人影を見つけたのか、アスファルトの道
から、生け垣を踏み越えて芝生の中へと踏みいっていった。
「やっぱり、こんなところでさばっていたのね!」
 芝生の上で、帽子で顔を覆うようにして仰向けに寝入っていた人物がのっそりと
起き上がった。緑色の瞳を輝かせて来訪者の姿を確認すると、親しげな声でその名
を呼んだ。
「なんだ。ジェシカか」
「なんだ。ジェシカか、じゃないわよ。アレックスったら、また体育教練をさぼっ
たでしょう。どうせどこかで昼寝してるんじゃないかと思っていたけど、やっぱり
だったわね」
「で、わざわざ僕を尋ねてきた理由はなにかな」
「今日、模擬戦の指揮官が発表されるというのは知っているわよね」
「そういえば、今日だったかな。ということは決まったのか、模擬戦の指揮官」
「そうよ。聞いて驚きなさいよ」
「ふうん。驚くようなことなんだ」
「そうよ。誰だと思う?」
 といいながら、アレックスの顔色を伺うジェシカ。
「なんか、意味ありげだな。誰なんだい」
「知りたい?」
 なおもじらすようにすぐに答えないジェシカ。
「知りたいね」
「じゃあ、教えてあげる」
「うん」
「あたしの目の前にいる人よ」
 といってアレックスの顔を刺すように人差し指を突き出すジェシカ。
「目の前って……この僕が?」
「そうよ」
「俺がか。落第すれすれの問題児が」
「ふふふ。驚いたでしょ」
「ああ、驚いたねえ」
「あたしも、発表を聞いた時は信じられなかったわ。でも事実よ」
「そっかあ……で、わざわざ知らせに来てくれたんだ」
「そうよ。その問題児を恋人に抱えているあたしとしては、これを機会に名誉挽回
してもらえるチャンスを逃して欲しくないのよね」
「名誉挽回ねえ」
「わかっているの? 今のままでは、卒業は難しいわよ。卒業できなかったら奨学
金も返さなくちゃいけないし、軍に入っても上等兵からよ」
「きびしいことを言ってくれるねえ」
「現実の問題じゃない。とにかく、校長がお呼びよ」
「校長が?」
「そうよ。模擬戦の話しがあるんじゃないかしら。はやく校長室へいかないと」
「わかった」
「ああ、それから。模擬戦の指揮官の副官として、パトリシア・ウィンザーが任命
されたわ」
「パトリシア?」
「あたしの一年後輩よ」
「君の後輩?」
「そうよ。成績抜群で席次ナンバーワンの秀才よ。きっと、あなたのいい補佐役を
務めてくれるわ」
「わかった」
「さあ、時間がないわ。はやく行きましょう」
 二人は立ち上がると、校舎のある丘への道を連れ立って歩きだした。

 士官学校戦術専攻科三年生のパトリシア・ウィンザーが、校内放送で自分の名前
を呼ばれて校長室を訪れると、主任戦術教官が同席しており、単なる学校用事で呼
ばれただけではないことを瞬時に見抜いていた。模擬戦闘の指揮官の人選について
最終決定権を有している人物であった。
「生徒会の仕事が忙しいところをわざわざ呼び立ててすまないね。まあ、掛けたま
え」
「ところで、主任戦術教官がいらっしゃるところをみますと、模擬戦闘の件でしょう
か」
 パトリシアは応接セットに腰を下ろしながら尋ねた。
「うむ。流石にウィンザー君だ。察しがはやいな。およそ半年後に行われる今度の
模擬戦なのだが、当スベリニアン校舎からも精鋭の人材を選抜して、優勝を目指し
てたいと思っている。君を呼んだからには、もちろん参加してもらいたいのだ」
 パトリシアは、三年生では席次首席という優秀な成績を常に維持していたし、品
行方正で学生自治会役員に推薦で選ばれるほど生徒達からの信望も厚く、教官達か
らも一目置かれている良い子であった。
「ありがとうございます。ですが指揮官はどなたを選ばれたのですか」
「それなんだが、アレックス・ランドールが選ばれた。つい先程、彼にそのことを
伝えたばかりだ」
 主任戦術教官が答えた。
「あの……アレックス・ランドールって、あまり良い噂を聞いたことがありません
が……」
 パトリシアは、噂にきくランドールの怠惰な日常を思い起こしていた。
「そう……。遅刻常習だわ、体育教練は欠課するわ。ろくなことはないんだが」
「そのような方に、このような重要な任務を与えるのですね」
「確かに授業態度は最悪なのだが、君も知っての通り裏の学生自治会長とよばれる
ほど、学生達からは人望厚く、人を集めて行動を起こす時の能力値は高い。なによ
り学科の中では、戦術シュミレーションに関してだけはだんとつのトップだ。その
他の教科の分を埋め合わせてなんとか落第を免れているようだが」
 パトリシアも学生自治会役員であるが、表の学生自治会長であるゴードン・オ
ニールの裏で采配を振るっていることを知っている。采配といっても、文化祭や学
園祭、各種パーティーの主催において、出店などの縄張りや、施設の使用許可など
の事実上の決定権を有していたのである。
 また学期末などに提出される彼の戦術理論レポートは、誰もが考えつかないよう
な独特で、一見実現不可能な作戦でありながら、実際の戦術シュミレーションでは
見事に仮想敵を看破して満点に近い成績を修めているのであった。一度彼とシュミ
レーション対戦したことがあるが、見事な戦術を見せられ完膚なきまでに全滅させ
られてしまった。だからパトリシアも、彼の戦術理論だけは必ず目を通すようにし
ていたし、さらに改良を加えることによって彼女もまた戦術シュミレーションで連
戦連勝を続けていたのである。しかし二番煎じであることは否めなかった。その彼
の副官として実際に模擬戦のメンバーに選ばれることは、彼の戦術理論を肌で感じ
ることのできる最高の機会といえたのである。
「つまり授業の全体的な成績ではなく、彼の戦術能力に賭けるというわけですか」
「その通りだ。ここのところ隣のジャストール校舎に大きく水を開けられているか
らね。ここいらで一矢を報いたいところなのだが、今年の四回生は頼りない奴ばか
りで、致し方なくランドールを選ぶしかなかったのだ」
「致し方なくですか」
「そういうことだ。そこで彼一人では心細いので、君に副官として搭乗してもらい
たくて呼んだのだよ」
「喜んで、搭乗しますわ」
「そうか、そう言ってくれるとありがたい」

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2020.11.26 06:08 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二章 士官学校 I
2020.11.25

第二章 士官学校


I

 アレックスが無敵艦隊とまで言われた第一空母機動艦隊を退けて、トリスタニア
共和国同盟始まって以来の大戦果を挙げたことは、翌日のニュースのトップで大々
的に報じられることとなった。

 旗艦空母四隻を撃沈。五人の提督を葬る。同盟の英雄。
 議会は、勲章を授与することを決定した。
 各新聞、TVは連日で報道を続けていた。

 主力空母四隻を含む連邦軍の艦隊の主要艦艇を多数撃沈させ、ナグモ中将以下多
くの司令官クラスの将軍を葬った功績にたいして、共和国同盟は少佐への三階級特
進と第十七艦隊所属特別遊撃部隊の司令官に任じた。本来なら大佐クラスの評価に
値する功績点を挙げたのであるが、少尉がいきなり大佐に昇進するにはあまりにも
無理があるため、とりあえずは一個部隊を指揮できる少佐の階級にとどめ、艦隊運
用の実務を経験させながら一年期末ごとに自動的に昇進させることとなった。
 これらの決定は、異例のスピードで行われたが、同盟の英雄を称えることで、敗
走を続ける同盟軍の将兵達や国民の士気を高めるためのものであった。

 一方、アレックスの出身校である士官学校スベリニアン校舎では、連日ひっきり
なしに報道取材の記者が訪れていた。アレックスのことを調べようにも士官学校で
たばかりで、他に行くところもなく卒業校のスベリニアンを取材するしかなかった
のである。
 記者達が右往左往する中、生徒会役員のパトリシア・ウィンザーと、彼女をお姉
さまと慕う一年下のフランソワ・クレールは、五階にある生徒会室の窓から下界の
騒々しさを遠巻きに覗いていた。
 パトリシア・ウィンザーは、蒼い瞳と肩甲骨の下あたりまである金髪を有してい
た。前髪を眉のあたりで切りそろえ、耳にかかる髪をピンク色のリボンで軽く後ろ
で束ねて垂らしていた。身長百七十二センチ、バスト八十八、ウェスト六十二セン
チ、ヒップ九十二センチという魅力的な理想的に近いプロポーションをしていた。
そのサイズを知っている人物が二人いる。隣にいるフランソワと、婚約者であるア
レックス・ランドールの二人である。
「お姉さま、聞きましたか。学校側はアレックス先輩を特別表彰することに決定し
たそうですよ」
 フランソワはパトリシアの一年後輩である。女子寮で同室になったのが縁で、お
姉さまと呼ぶほどになついている。身長百六十五センチ、バスト八十五センチ、ウ
ェスト六十一センチ、ヒップ八十八センチと、パトリシアより少し小さい。ウェー
ブのかかった肩までの髪をパトリシアとお揃いのリボンでまとめている。
「らしいわね。在校中は厄介者扱いしていたのにね」
「遅刻常習だし、無断欠課はするし、体育教練はさぼるし、それにお姉さまには手
を出すし」
「これこれ、最後は余計じゃなくて」
「だってえ」
「とにかくわたし達は婚約しているんですからね。わかってるでしょ」
「わかっているから、くやしいんだもの。こんな素敵なお姉さまを横取りしたから」
「でも助かったわ」
「何がですか」
「学校側が、わたしとアレックスのことを秘密にしておいてくれたから」
「お姉さまは優秀ですもの。学校がその脚を引っ張るようなことしないですよ。と
はいっても、TV局のことですもの、根掘り葉掘りいずれ探りだすんじゃないでし
ょうか」
「そうね……」
「でも、正式に婚約しているのですから、知られたって構わないでしょう」

 数日後の士官学校。
 その日の報道陣の多さは最高だった。TVカメラが至る所にずらりと立ち並び、
取材の記者達の数は生徒数をはるかに越えていたと言っても過言ではないほどの盛
況であった。今日は、アレックスの特別表彰の日だったのである。それを実況放映
しようとするTV報道陣が殺到していたのである。英雄の表情を捉える最高の状況
設定であるからだ。
 やがて士官学校スベリニアン校舎の上空を一機の上級士官用舟艇が護衛のジェッ
ト戦闘ヘリ二機を伴って飛来した。一斉にTVカメラが空に向けられ、キャスター
の声が騒がしくなる。
「来た、来たわよ」
 教室中は騒然となった。
「聞いた? アレックス先輩、少佐に任官されたそうよ」
「それで上級士官用舟艇に乗ってきたのね」
「配属希望。アレックス先輩のいる部隊に決めたわ」
 生徒達は口々に噂話しに夢中になっていた。
「全校生徒は講堂へ集合してください」
 館内放送が鳴った。
 校舎のあちらこちらから生徒がぞろぞろと出てきて、教官とともに次々に講堂に
入館していく。

 一方、生徒会役員であるパトリシアとフランソワは校庭の隅にあるヘリポートで、
花束を小脇に抱えて歓迎の用意をしていた。婚約者ということで別の人物にしたほ
うがいいのではないかとの指摘もあったが、生徒達がその事実を知っているものも
少ないだろうということで、交替はなしとなった。
「お姉さま。少佐ということは、どこかの部隊の司令官になるんでしょ」
「第十七艦隊所属の特別遊撃部隊だそうよ」
「そうかあ。じゃあ、あたしが卒業したら配属希望先を、特別遊撃部隊にしようっ
と」
 上級士官用舟艇がゆっくりと下降をはじめ、士官学校の校庭に着陸した。昇降口
が開いてタラップが降ろされ、白色の儀礼用の軍服を着込んだアレックスが姿を見
せた。続いて大尉となったばかりのゴードン・オニールの姿もあり、彼も同校出身というこ
とで同じく呼ばれていたのだ。カメラのフラッシュのまばゆい光が至る所で光ってい
る。
 全校を代表して席次首席のパトリシアが前に進み出て歓迎の花束を贈呈した。
「ようこそいらっしゃいました」
「これはどうも」
 二人とも内心、笑いで吹き出しそうなのをこらえながらも、平然の表情を装って
淡々と花束を受け渡ししていた。フランソワはゴードンに花束を手渡していた。

 講堂内。
 ここにも沢山の報道陣やTVカメラが待ち構えていた。
 緊張する全校生徒達が見守る中、アレックスとゴードンが入館してくる。
「気をつけ! 敬礼!」
 生徒全員がアレックスに対して敬礼で迎えた。
 アレックスは立ち止まって軽く敬礼を返し、講堂の壇上への階段を昇りはじめた。
 壇上中央やや右寄りに配置された椅子に、係りの者に案内されて腰掛ける二人。
「これよりアレックス・ランドール少佐とゴードン・オニール大尉の特別表彰をは
じめます。まずは校長よりお話しがあります。校長どうぞ」
 反対側の席より、指名された当校校長が立ち上がった。
 壇上に立ち、こほんと咳払いをした後に、説教を始める校長。
「諸君もすでに承知かと思うが、こちらにお招きしたお二人は、我が校を去年優秀
な成績で卒業したばかりの……」
「よく言うぜ。在校中は厄介者扱いしていたくせにな」
 講堂内のあちこちから笑いが沸き起こる。
 パトリシアは、一年前のアレックスとの出会いを思い起こしていた。

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2020.11.25 08:03 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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