銀河戦記/鳴動編 第一部 第一章 索敵 V
2020.11.24
第一章 索敵
V
ナグモの艦隊が奇襲を受けているころ、同盟軍第十七艦隊にとりついている連邦
の艦載機群は、一旦後方に退いて第二次攻撃の体制に入っていた。
そのさらに後方の安全圏に待機する小型高速艇。艦載機群の指揮艦には、航空参
謀のミノル・ゲンダ中佐が坐乗していた。
「中佐、大変です。我が本隊が敵の空襲を受けています」
「なんだと」
ゲンダはまさかの報告に、我が耳を疑った。
「アカギ、カガ、ソウリュウ、ヒリュウ他多数の艦艇が撃沈されたもよう」
「アカギが撃沈!? 長官は?」
「どうやら難を逃れて、ナガラに移乗なされたもようです」
「そうか……」
長官が無事と聞かされて一安心とはいえ、事態は急転直下にあった。
もしかしたら、別働隊に発見され奇襲の受けたのか。別働隊の存在など報告には
ないが、実際主力空母が撃沈されたことは否めない。果たしてこのまま、作戦を続
行すべきか?
瞬時に判断はためらわれたが、次の報告がゲンダを動かした。
「敵艦隊の打電を傍受しました」
「なんだ」
「『これより反転して反復攻撃を行う』です」
「これ以上、艦艇を損失してはいかん。一刻も早く戻らねば。全編隊に伝達、撤退
して本隊の援護に向かう」
「了解しました」
トライトンの旗艦リュンクスでは、敵編隊が退却していくのを確認し、全員小躍
りしながら喜んでいた。
「助かったな。全滅は免れたようだ」
「司令。今のうちに前面の艦隊を叩きましょう。数ではこちらが勝っていますし、
敵艦載機もいない」
「よし、反撃に転じるぞ。艦載機発進。全砲門、前面の艦隊に集中砲火を浴びせろ」
ようやく艦載機の発進命令が下され、待機していた艦載機は勇躍宇宙空間に踊り
出て、敵艦隊へまっしぐらに突進をはじめた。まるでそれまでの鬱憤をはらすかの
ような、猛攻撃を敵艦隊に浴びせはじめた。
前面の艦隊は自身の艦載機の護衛に守られていたとはいえ、同盟軍の圧倒的多数
の艦載機群の到来には太刀打ちできなかった。やがて身ぐるみはがされて無防備を
さらすことになった敵艦隊はたまらず退却を始めたのであった。
「敵艦隊、撤退をはじめました」
フランクはスクリーンを指差しながら叫んだ時、一斉に艦橋の士官達は歓声をあ
げた。それがあまりにも騒がしくて、フランク自身がそれを鎮圧するはめになった。
興奮がおさまるのを待つようにトライトンは言った。
「深追いの必要はないぞ。みな、よくやってくれた」
「一体何があったというのでしょうか。完全に敵は勝っていたというのに」
「わからんが……おい。もう一度ランドール少尉の通信内容を」
戦闘がはじまって小一時間ほどして通信士が傍受したアレックスからの打電され
た通信が気になっていたからだ。
通信士は艦の戦闘記録から該当の通信内容を再生してみせた。
『これより、敵空母艦隊に奇襲攻撃を敢行する』
『これより、反転して反復攻撃を行う』
どちらも間違いなくアレックスの編隊からの打電であることを通信士は確認して
いた。しかも後の文はまるで敵に傍受させるのが目的のように、第一宇宙国際通信
波帯を使用していた。それは救難信号や降伏勧告・受諾用の通信波帯として統一使
用されているものである。
「うーむ。敵の撤退とこの通信の内容から考えられることは」
「まさか……たった十数隻で……」
時間を遡ること一時間前、ヨークタウン上ではフレージャー提督が、ナグモの編
隊が急に退却をはじめるを目の当たりにして、怒りをあらわにしながら全艦に撤退
命令を下しているところだった。もちろんそれを進言したのはスティールであった。
今回の作戦は、ナグモ達が制空権を確保しながら攻撃を加え、フレージャー達が
艦砲射撃によってとどめを刺す計画であった。そのナグモ達なしには作戦は継続で
きない。戦艦の数では敵の方が勝っているのだから。
「なぜだ。第二波の攻撃を開始すれば、敵を完全に看破できただろうに」
「助っ人に全面的に頼る作戦にはやはり無理があるのでしょう。自分達の都合だけ
で作戦を放棄して退却されたのではたまりませんよ。下手すりゃ、こっちにが全滅
していたかも知れません。すみやかな撤退はやむを得ない決断、さすが提督です」
「負け戦を誉められても少しもおもしろくないぞ」
「しかし被害を最低限に食い止めたのですし、敵本隊にかなりの損害を与えたとい
うことで、ここはよしとしなければ」
その頃、ヒリュウが撃沈するを見届けて撤退の道を選んだ第一航宙艦隊、その首
席参謀タモツ・オオイシ中佐は、退艦時に怪我を負って入院した参謀長リュウノス
ケ・クサカ少将のベッドを訪れることにした。
「我々は責任をとって自決すべきではないでしょうか。これは幕僚一同一致した意
見として、参謀長どのから長官に善処を勧告されたく、ご同意願いたくて参上いた
しました」
オオイシは参謀長が同意するのではないかと意見具申したのであるが、意外にも
クサカの口から出たのは叱責の言葉であった。
「今は自決など考える時期ではない。第一航宙艦隊の任務は、生き永らえて戦い、
きたるべき戦闘に勝利することである」
果たせるかなそれは、第二航宙艦隊司令のヤマグチ少将が残した言葉に相違なか
った。
しかしオオイシが不服げな言葉を漏らすと、
「馬鹿野郎!」
と怒鳴って一喝した。
オオイシが退出したあと、クサカはベッドを降りて、従卒に抱えられながらも幕
僚連中の集まっている所へいき、自決を思いとどまるように諭した後に、ナグモ長
官の居室へ向かった。
ナグモはナガラの艦長室をあてがわれ、一人きりでいた。
クサカの入室に気がついたナグモは微かに笑ってはいたものの、異様な眼光に輝
いていた。
「長官は死ぬ気だな」
クサカは直感した。
そして幕僚達との一件を包み隠さず報告すると、自分は死して責任を取ることよ
りも、敗戦の恥じを堪え忍びつつも、将来のために生きつづけるほうがより勇気あ
る行動ではないかと思う、とナグモに言い聞かせた。
「そうは思いませんか、長官」
「わかった。万事君にまかせる」
ナグモは喉を詰まらせながらも説得をつづけるクサカに、涙を両目にためながら
静かにうなずいたのであった。
アレックスが旗艦に帰投すると、トライトン准将自ら出迎えに来ていた。
「ただいま、もどりました」
「ご苦労だった。君の口から直接報告を聞きたいところだが、見たところ相当疲れ
ているようだな。報告書を提出して、とりあえずはゆっくり休みたまえ」
「はっ、では。お言葉に甘えまして」
アレックスは敬礼をして自室に戻った。ベッドに入るとそのまま死んだように眠
ってしまった。過度の緊張から解放されて……。
戦闘中は、極度の緊張から眠気を催す暇もないが、その呪縛から解放された時、
それまでの疲れが怒濤のように押し寄せてきたのである。
トライトン准将の元には、アレックスの戦闘日誌と彼の乗艦していた艦に搭載さ
れているコンピューターの戦闘記録が解読されて報告された。その内容とアレック
ス自らの戦闘日誌とが照合されて、敵艦隊にたいする戦果が判明することとなった。
アカギ・ヒリュウ・ソウリュウ・カガの主戦級主力空母を撃沈、重巡モガミ・ミ
スミ沈没、その他多くの艦船に被害を与える。
「大戦果じゃないか」
報告を聞いたトライトン准将は小躍りしそうになった。まさか索敵に出した十数
隻の艦隊だけで、これだけの戦果をあげようなどとは誰が想像できただろうか。
「敵が撤退をしたのもうなづけますね」
「そうだな……」
「敵艦隊はミッドウェイ宙域より完全に撤退したもようです」
「主力旗艦空母四隻を失ったんだ。おそらく多くの司令官も失っていることだろう。
撤退も止むをえんだろうさ。これで連邦の同盟侵攻も半年から一年は延びることに
なるだろう」
第一章 了
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第一章 索敵 Ⅳ
2020.11.23
第一章 索敵
Ⅳ
連邦軍第一空母機動艦隊旗艦アカギの艦橋は、突然の敵編隊の出現で騒然となっていた。
「な、なんだ。どうした」
チュウイチ・ナグモ司令長官は、いまだ事態を飲み込めていなかった。
「攻撃です。敵から攻撃を受けております」
アカギの艦隊参謀長リュウノスケ・クサカ少将が状況を説明した。
「攻撃を受けているだと!?」
なおも信じられないという表情でクサカを叱責した。
「護衛艦は何していたんだ」
「そ、それが。突然現れまして」
「応戦しろ!」
「はっ」
「迎撃の艦載機はいないのか」
「そ、それが全機敵艦隊攻撃で発進中です」
その瞬間、艦橋の目の前に爆撃機が現れた。
「伏せろ!」
全員が床に伏せると同時に爆風が吹き荒れた。
轟音と震動が艦内を揺るがし、艦橋は無残にも破壊された。隔壁が損傷し、風穴があいて、すさまじい勢いで空気が流出する。その勢いに流されて数人の兵士が風穴から真空の宇宙へと吸い込まれて消えていった。
「ぼ、防御シャッター、降下!」
薄れていく艦内空気と暴風に、喉を詰まらせながら機器を操作して、緊急装置を作動させるオペレーター。
一瞬にして緊急防御シャッターが降りて、空気の流出も止まり、徐々に平静を取り戻しつつある艦内。
「大丈夫ですか。長官」
息、咳き込みながら、参謀の一人が長官の側によって安否をきずかった。
「あ、ああ……何とか無事なようだ。他の者はどうか」
「数名の者が、投げ出されたもようですが、艦橋は無事に機能しているようです」
「そうか……」
長官を助け起こすアカギ艦長のタイジロウ・アオキ大佐。
「アカギの損傷状況をすぐさま調べよ」
「かしこまりました」
アオキ大佐は、自分の部下にたいして命令を下した。
「やられましたね。長官」
「そうだな。まさか、たかだが十数隻だけで、敵中の懐の内に飛び込んで来るなどとは、誰も思いつきもしないだろう」
「しかし、実に効果的です。迎撃しようにも、戦闘機は出払っているし、こんな至近距離での艦砲射撃は、同士討ちとなるのが関の山、敵の思う壺にはまります」
やがて下士官から、アカギの損害状況が報告されてきた。
「艦載機発進デッキ及び格納庫に爆弾が命中、回りは火の海となりもはや使用不能となりました。誘爆により機関部も延焼中です。もはやアカギは退艦やむなしの状況であります」
「退艦だと」
クサカ少将は艦長の意見に同意して長官に進言した。
「長官、ご決断を。ヒリュウはまだ健在であります。我々はヒリュウある限り戦いつづけねばなりません」
クサカ少将が指差すパネルスクリーンには、艦載機に取り巻かれながらも奮戦する空母ヒリュウの姿があった。
アカギの艦長、タイジロウ・アオキ大佐も同意見であり、口をそえるように進言する。
「長官。どうか将旗を移して指揮をおとりください。アカギはこのアオキが責任を持って善処いたします」
参謀達の進言にわなわなと拳を震わせながらも、ナグモは承諾するしかなかった。
「わかった……退艦しよう」
「ナガラに命じて、駆逐艦ノワケをご用意いたしました」
だが、幕僚達が最後の望みとしたヒリュウも、アレックス達の猛火を浴びていた。
その艦橋から、艦体が爆煙を上げながら炎上している様が、スクリーンを通して手に取るように観察されていた。
第二航宙艦隊司令官、タモン・ヤマグチ少将はこの時すでに決断を下していた。
「残念ながら、ヒリュウの命運もこれまでと思います。総員退去はやむをえません」
ヒリュウ艦長トメオ・カク大佐が承諾を求めた時、少しも騒がずに長官の安否を尋ねた。
「長官はどうなされた」
「はい。無事軽巡ナガラに」
「よし」
そしてマイクをとって、全艦に訣別の訓示を垂れたのである。
「諸君、ありがとう。ヒリュウは見てわかるとおり母港に帰還するだけの力はすでにない。艦長と自分は、ヒリュウとともに沈んで責任をとる。戦争はこれからだ。皆は生き残ってより強い艦隊を作ってもらいたい」
その言葉を受けて、ヒリュウでは総員退艦の準備がはじまった。負傷兵、搭乗兵、艦内勤務者の順で次々と退艦をはじめていく。
第二航宙艦隊の首席参謀であったセイロク・イトウ中佐がヤマグチ少将に近寄った。
「司令官」
その声に振り向くヤマグチ。
「おお、イトウ君か。君もはやく退艦したまえ」
「何か頂けるものはありませんか」
「そうか……では、これでも家族に届けてもらおうか」
ヤマグチはかぶっていた黒い戦闘帽子をイトウ中佐に手渡した。
「誓って、必ずご家族にお渡しいたします」
「うむ。よろしく、たのむ。ところでそれをくれないか」
ヤマグチはイトウ中佐が腰に下げていた手拭いを指差した。
イトウはヤマグチの意図を察知して、手拭いを渡したあと最敬礼をして踵を返して退艦するため元来た通路へ引き返した。
爆音は続いている。
ヤマグチは手拭いを使って艦のでっぱりに身体を縛り付けはじめた。
やがて友軍の手によってヒリュウは処分されるだろうが、爆発によって艦の外に弾き飛ばされることを懸念したのである。ヤマト民族の誇りとして、ヒリュウとともにありたいと思うヤマグチの軍人としての心意気の在り方であった。
第十戦隊の旗艦である軽巡ナガラには、司令官ススム・キムラ少将が乗艦していた。将旗をこのナガラに移したナグモは、彼を捕まえて尋ねた。
「キムラ。このナガラでアカギを引っ張れんか」
「現在のアカギの状況からみて、残念ながら曳航できないと判断せざるをえません」
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第九章 共和国と帝国 Ⅸ
2020.11.22
第九章 共和国と帝国
IX 援軍現る
一方、敵艦隊側では一騒動が起きていた。
「後方に艦隊出現!」
「なに?どこの艦隊だ!」
「確認中です!」
「ほ、砲撃してきました!」
「敵艦隊です」
「共和国同盟です。艦数およそ二千隻」
うろたえる艦橋の乗員たち。
正面スクリーンに映し出される敵艦隊の映像の中に見出したるもの。
「あ、あれは!!」
共和国同盟艦隊の中にひときわ目立つ彩色の図柄の入った艦があった。
「さ、サラマンダーです!!」
艦体に火の精霊を配する艦は、宇宙にただ一つ。
ハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式、バーナード星系連邦を震撼させるシンボルを持つ、
共和国同盟軍旗艦「サラマンダー」である。
「何故、やつらがここにいる?確かタルシエン要塞に向かったのではなかったのか?」
「偽情報を掴まされたようです」
「ただでさえ強敵なのに、こちらの三倍の数、しかも背後を取られてしまいました」
その頃、当のサラマンダーでは。
「強襲艦、突撃開始せよ!」
白兵部隊が搭乗する強襲艦が、敵艦隊旗艦に向かって数隻突撃開始した。
「自爆されるまえに、艦橋を押さえるのです」
指揮を執るのは、旗艦の全権を任されたスザンナ・ベンソン少佐である。
敵旗艦に取り付いた強襲艦は、すべての出入り口をこじ開けて中へと侵入した。
艦内にいる兵士達との撃ち合いがはじまる。
しかし白兵用の特殊装甲を着込んでいる相手には、連邦の持つブラスターでは歯が立た
ない。
次々と打ち倒される連邦兵士。
「艦橋に急げ!自爆されるぞ」
入手した艦内見取り図を見ながら着実に艦橋へとたどり着く。
艦橋になだれ込む白兵部隊。
バタバタと倒されてゆく、艦橋の兵士達。
指揮官と思われる士官が取り押さえられる。
「指揮官を確保しました!」
「連れていけ!」
「はっ!」
強襲艦へと連行される指揮官だった。
「自爆スイッチは入っていないか?」
艦橋内にある計器をしらべる兵士。
「大丈夫です。入ってません」
「よし!通信機を調べて、記録媒体を抜き取れ!」
「分かりました」
通信記録は、当然暗号化されているだろうから、媒体を持ちかえって暗号解読機にかけ
るのである。
「通信記録媒体を抜き取りました」
「よおし!総員退去せよ」
元来た道をたどって、自艦に戻る白兵達。
「総員退去完了しました!」
「離艦せよ!」
敵旗艦から離れる強襲艦。
サラマンダー艦橋。
「作戦部隊より報告あり。任務完了!成功です」
「よろしい!強襲艦が十分離れた所で、敵艦を撃沈させる」
宇宙空間では、すでに戦闘は終了していた。
六百隻対二千隻では、まともな抵抗は出来るはずがなかった。
海賊行為は国際法違反である。
彼らは連邦のあぶれ者であり帰る場所はない。
全艦が白旗を上げることなく自沈を選んだ。
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2020.11.24 03:43
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