銀河戦記/鳴動編 第一部 第九章・コレット・サブリナ Ⅳ
2021.01.19
第九章・犯人を探せ
Ⅳ
ランジェリーショップを出てくるコレット。
「彼氏か……。ミシェールもカテリーナも、どうやら相手がいるらしい……」
コレットには彼氏がいなかった。
毎日のように死体や容疑者達を相手にしていると、性格のきつい厳格な女性というイメージが付きまとう。捜査官と聞いただけで、男女に関わらず誰もが身を引いてしまう。
実に損な役回りだが、コレットは気にしていない。
自ら進んでこの職業を選んだのだ。最初から覚悟はしていた。
しかしせめてもの心のゆとりのために、ランジェリーには気を遣っているのだ。可愛いブラなどしていると、身も心も安らぐ。
自分の部屋に戻る。
特務捜査官は、その特殊任務のために個室が与えられていた。大部屋にいれば、捜査機密が洩れる可能性があるからである。
買ったばかりのブラ&ショーツの入った紙袋を机の上に置いて、端末を操作して乗員名簿を閲覧する事にする。自分のIDには、閲覧コードが入力されているので、ディスプレイには乗員名簿を開くメニュー画面が表示されている。
ミシェールに関わった人物達の情報を取り出しにかかる。
まずは当の本人のミシェール・ライカー少尉である。
高等士官学校スベリニアン校舎飛行科航空管制専攻。第二通信管制室勤務。サラマンダーから発着する艦載機の管制業務の任にあたっていた。
「航空管制か……。ウィンザー中尉と仲が良かったというのは、航空参謀のジェシカ・フランドルの後輩同士ということがあるわけね」
パトリシアとジェシカが、かつて官舎の同室となって以来の仲というのは、誰でも知っている。ジェシカとミシェールは、艦載機運用を担う指揮官とその管制オペレーターという関係であり、そこにパトリシアが絡んでくるというわけである。もっともミシェールは一般士官なので、戦術科の二人より三・四歳若い。
キャブリック星雲における不時遭遇会戦において、初戦闘参加にて准尉から少尉に昇進。
サイズは上から八十三・五十八・八十五、身長百五十二。
引き続き同室の乗員達を閲覧する。
カテリーナ・バレンタイン少尉。
高等士官学校パンテントン校舎特務科通信管制専攻。第一通信管制室勤務。
キャブリック星雲会戦にて昇進。
サイズは上から八十・五十六・八十二、身長百四十八。
ニコレット・バルドー少尉。
同スベリニアン校舎特務科通信管制専攻。第一通信管制室勤務。
キャブリック星雲会戦にて昇進。
同は八十五・六十・八十八、百六十二。
ニーナ・パルミナ少尉。
同ブライトン校舎飛行科航空管制専攻。第二通信管制室勤務。
キャブリック星雲会戦にて昇進。
同八十八・六十六・九十、百七十二。
クリシュナ・モンデール中尉。
同ジャストール校舎特務科通信管制専攻。第一艦橋勤務。
ミッドウェイ及びキャブリック星雲会戦にてそれぞれ昇進。
同八十五・六十三・八十七・百六十三。
ソフィー・シルバン中尉。
同スベリニアン校舎特務科レーダー管制専攻。第一艦橋勤務。
ミッドウェイ及びキャブリック星雲会戦にてそれぞれ昇進。
同九十一・六十八・九十三、百七十。宿房長。
いずれも士官学校出たばかりとはいえ、司令官を支える優秀な管制オペレーター達だ。
「みんな甲乙つけ難い人ばかりね。ミシェールが殺害されたとすると、同室のこの人達のいずれかが犯人である可能性が高いのだけれど……」
臨検医の言葉を思い出した。それによれば、背の低い相手にロープで首を絞められたかも知れないということだった。だとすると、ミシェールより背が低いとなると、
「カテリーナか……」
カテリーナの証言には、いくつかの不審な点がある。
器械に挟まれたミシェールを発見して死んでいると思った、と証言しているが……。はたして本当にそうなのか?
あの状態では、はっきり死んでいるとは判断つかないと思うのだが。生死を確認し、ロープを外して蘇生を試みるといったことは考えられなかったのか。
まるで最初から死んでいるのが判っていたかのように感じる。
同室なら、食事前にアスレチックジムで運動をしていたことと、ミシェールの心臓が悪い事ぐらい知っていたはず。だとしたらミシェールがアスレチックジムに再び立ち寄ることはないだろうと推測できるだろう。なのにどうして探しに行ったのか?
容疑者として濃厚ではあるが、証言における不備だけで、確たる証拠が何一つない状態ではどうしようもない。
もっといろいろな方面からも捜査を続けてみよう。意外な人物が容疑者として浮上することだってあるからだ。
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第九章・コレット・サブリナ Ⅲ
2021.01.18
第九章・コレット・サブリナ 犯人を探せ
Ⅲ
その喫茶室。
室内を静かな曲が流れている。
先程立ち寄った放送局から流れているのだろう。
もちろん艦内放送を聞く事ができるのは、居住区内だけである。こうした店内や病院そして乗員宿房である。
検屍報告書に目を通しているコレット。
死亡推定時刻は、十二時三十分から十三時の間。
死因は、ロープによる頸動脈圧迫からくる脳酸欠死。
「まあ、このあたりは順当な鑑定ね。あたしでも判断できるわ」
首筋の紫斑と現状のロープ位置からの所見は、死後に遺体の位置が変わったものと認める。
膝の擦過傷における所見は、死後三十分にできたものと認める。創傷からの体液の付着痕、ジムのいずこにからも発見されず。
以上の所見から、いずこかで事故死もしくは殺害された後に、移送されてきたものと認める。
報告書は、現時点で殺人とは断定するには早計ではあるが、死体遺棄と証拠隠蔽工作は明らかである。結論は、司法解剖に委ねると結んであった。
「結局、殺人かどうかは司法解剖しないと判らないか……。しかし死体遺棄は明らかなので、犯罪事件として捜査できるわね」
と、次ぎなる問題は……。
被害者の死亡場所と死亡理由、そして遺体を運ばなければならなかった理由と、その運搬方法である。それが殺人なら、殺害動機も考えなければならない。
「気分が悪いと言っていたらしいし、心臓の持病もある。一人こっそり宿房を抜け出すことは考えられない。死んだ場所は宿房に違いない。首筋の紫斑から心臓麻痺かなんかで死んだのじゃない。これは明らかに絞首による殺人だわ。おそらく、誰もいないと思って宿房に入ってきた犯人が、ミシェールに気づかれて殺害したに違いない。何のために犯人は宿房に入ったか……。これが動機ね。そしてこのままではまずいと判断して遺体をアスレチックまで運んだ。が、その方法が判らない」
遺体を運ぶとなると、女手一人ではとうていここからアスレチックジムまで運ぶのは不可能だろう。
「共犯者がいるわね……」
喫茶室を出て、再び捜査を再会するこにする。
「そうね、殺害当時の放送局員に尋問してみるか」
コレットは、その中のカテリーナ・バレンタイン少尉に興味があった。
何よりもミシェールの第一発見者であり、同じ放送局員で同室でもある。
交代時間になっても来ないミシェールを探していたと証言している。当然宿房にも戻っているだろうし、そこで死んでいるミシェールを見たか、或は自ら殺人に及んだ可能性も示唆できる。ミシェールとは最も接点の多い容疑者といえる。
容疑者。そう、容疑者だ。
コレットの直感が騒いでいた。
カテリーナは引っ越した先の宿房にいた。
「お休みのところ申し訳ありません。ご協力お願いします」
「構いませんよ。どうぞ、何でも聞いてください」
「では率直にお尋ねします。十二時十五分からミシェールを発見するまでの間、どちらにおられましたか?」
「もちろん放送局にいましたよ。十二時四十五分頃に、交代のミシェールが来ないので探しに出ました」
「放送中にですか?」
「はい。タイムキーパーとしては、終了十五分くらい前になるとやることがないんです。それで他の三人の許しを得て探しにでました」
「どこを探しまわりましたか」
「もちろん一番に部屋に戻りました。そこにいないので、喫茶室とか美容室とか回って最後にアスレチックジムです」
「そこでミシェールが死んでいるのに遭遇したわけですね」
「そうです」
「もう一度確認しますが、他に誰もいなかったのですね」
「はい。いませんでした」
「わかりました。また何かありましたら、お聞きいたします。ありがとうございました」
取り敢えずカテリーナへの尋問を終了して、次の証人をあたることにする。
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第九章・コレット・サブリナ 犯人を捜せ Ⅱ
2021.01.17
第九章・コレット・サブリナ 犯人を探せ
Ⅱ
IDカードを受け取って胸ポケットにしまうコレット。
「ウィンザー大尉にお願いしまして、ミシェール・ライカー少尉のいた部屋とアスレチックジムを、当面の間立ち入り禁止にしていただきました。よろしいですね」
「ああ、構わないだろう。運動嫌いな者も多いと聞くから、喜んでいる人間の方が多いかも知れないしな」
「恐れ入ります。それからウィンザー中尉にお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
アレックスが頷いているのを確認してから、パトリシアが口を開いた。
「わたしに何を?」
「中尉は、ライカー少尉とは士官学校では、仲が良かったとお聞きしましたが、間違いありませんか?」
「はい。その通りです」
「ミシェールの性格面についてお聞きします」
「どうぞ」
「ミシェールはいつも誰かと一緒にいたというのは事実ですか?」
「はい。ミシェールは決して一人で行動するような性格ではありません。いつも必ず仲良しグループの中の誰かと行動を共にしていました。それが宿房を一人抜け出して自主トレをしていたなんて到底考えられません。寂しがりやでたいがい誰かのそばにいましたね」
「彼氏がいたという話しもありますが」
「そんなことまで証言したんですか? しようがないですねえ……」
「いかがですか? 痴情のもつれから彼氏に殺害されたともとれますからね」
「ミシェールは彼氏のことについては、ちっとも話してくれませんでした。相手の男性が、交際していることをあまり公にはしたくなかったようです。それで黙っていたようです」
「関係はうまくいっていなかったとかは?」
「表情がすぐ顔に現われる性格でしたからね、交際にひびでも入っていればすぐに判ります。今のところ順調だったと思います」
「そうですか。他に特徴的なことはありませんか?」
「スポーツに関してですけど、何かというとすぐ疲れたと休んでいました。ずる休みではなくて、昔から心臓が弱かったんです。ですから、事件直前に食事も取らずに部屋にいたのは、そのせいだと思います」
「心臓が弱かったのですか……。それでよく、入隊検査にパスできましたね」
「ぎりぎりの健康状態でしたが、何とかパスできました」
「とすると、自主トレでアスレチックジムに行ったとは考えられませんね」
「当然です。心臓の持病があるために、必ず誰かと一緒でした。一人きりの時に、発作が起きたらと心配していたからです」
「良く判りました」
メモ帳に要件を記入しているコレット。普通の乗員なら司令官の目前で無礼な行為なのだろうが、コレットは直属の部下ではないし、捜査特務権があるので許される。
「ところで中佐殿はどうですか、何か心当たりなところはありませんでしたか?」
「うーん。自分としては全然見当がつかないんだ。女性士官すべてに目配りしている余裕はないからね。女性士官の宿舎のある区域は男子禁制になっているしね。ま、自分なりに考えられるとしたら……カラカス基地を落として敵艦を搾取したのだが、それらを使役するために多数の乗員を補充した。その中に敵のスパイが乗り込んでいて、ライカー少尉がそれに気付いたところを口封じされたというのは?」
「それは十分ありえるといえますが、憶測で物事を判断するわけにはいきません。今のところ何の根拠もありませんからね。まあ、一応参考意見として考慮にいれておきます」
とはいいつつも、コレットはアレックスの意見にはそれほどの感心を抱いていなかった。
例えれば真犯人が捜査を混乱させるために、わざとそれらしい状況解説をすることはよくあることだ。コレットにとっては、この同盟の英雄でさえ、容疑者として候補に挙げていたのである。
関係者すべてが容疑者である。
すべての者を疑ってかかることは、捜査の基本中の基本である。
その中から、白と断定できたものを消していって、最後に残った者が犯人である。
「一応艦隊規則にある通り、遺体はカラカス基地で降ろされる。捜査期限はカラカス入港までだ。それまでに犯人を挙げてくれたまえ」
「かしこまりました。では、捜査を開始します」
敬礼して、司令室を退室するコレット。
「さてと、次はどこを捜査をはじめましょうか……って、まずは検屍報告書に目を通してみますか」
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2021.01.19 07:30
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