銀河戦記/拍動編 第一章 Ⅲ アンツーク星
2022.11.19
第一章
Ⅲ アンツーク星
帝国も知らない未踏地の小惑星帯にあるアンツーク星の地表、ゴツゴツとした岩場に宇宙戦艦オリオン号と工作艦を含む随伴艦が着陸している。
クレーン車や走行車が動き回って、艦の修理が行われている。
オリオン号艦橋。
技術長に向かって怒鳴っているネルソン提督。
「艦の修理はいつ終わるのだ。予定より随分遅れておるじゃないか?」
「はい。動力炉外壁に必要なテラサイトの採集が思うように進んでおりません。この星の全体におけるテラサイトの含有量が低いからです」
「代用品も見つからないのか?」
「はっ。只今、艦長以下、私の部下が調査している所であります」
「我々が、この星で足踏みしている間にも、本国は敵からの攻撃を受けているのだ。一刻も早く戦線に復帰しなければならない」
艦長アンドレ以下、調査員の乗った走行車が渓谷を走り回っている。
修理に必要な鉱石を探しているのだ。
「どうだ、まだ見つからないか?」
隣の隊員に尋ねるアンドレ。
計器を操作しながら答える隊員。
「はい。今だ反応がありません」
「そうか……」
その時、計器が反応音を立てはじめた。
「艦長。反応がありました」
「よし。止めろ!」
運転手に停止を命じるアンドレ。
「了解」
走行車が岩山の側で止まっており、調査機器を持った一団が動いている。
「どうだ?」
アンドレが調査員に尋ねる。
「上々です。質・量とも十分にあるようです」
「よし、早速提督に報告して、採掘機械を回してもらおう」
通信士、機器を操作して本艦と連絡を入れた。
「それにしても、美しい花の一つなく、動物一匹いない死の星だなあ」
といいながら辺りを見回している。
「当たり前ですよ。大気がありませんからね。夜ともなれば放射冷却で氷点下マイナス百度まで下がりますから」
「まあ、そうなのだがな」
と、何かに気が付いた。
「ん? 何だあれは?」
岩山の中ほどに何か光る物がある。
「どうやら金属物質が光っているようです」
金属探知機を操作していた乗員が応えた。
「行ってみよう」
岩伝いに一行が進んでいる。
「確かこの辺りっだったが……」
「あ、あそこにありました」
指さすところに金属プレートがはまっていた。
「何でしょうね。こんな処に……何かの目印なのでしょうか?」
と、隊員がプレートに触れた時だった。
突然、岩盤が音を立てて崩れだしたのだ。
「危ない! 退避しろ!」
あわててその場を下がる一行だった。
安全地帯から岩山を確認してみると、中腹に大きな穴が開いていた。
「洞窟か?」
完全に開ききった洞窟は静まり返っている。
「調べてみよう」
足元に注意しながら、岩山を登り洞窟へとたどり着く。
「この洞窟は自然にできたものでしょうか?」
「分からんな。ともかく調べてみよう」
懐中電灯で照らしながら洞窟内を慎重に進む一行。
「この堀具合だと人工的に開けられたようですね」
やがて頑丈な扉に出くわした。
「扉か……?」
「この扉の内側に何があるのでしょうか?」
「さあな……」
扉の周辺に開ける何かの手がかりがないかと調べ回る一行。
「艦長! ここを見てください!!」
隊員の一人が気が付いて指さしている。
そこには懐中電灯の光を反射して輝く紋章が描かれていた。
「この紋章は……!」
オリオン号艦橋。
「調査隊より入電!」
「繋いでくれ」
通信士が調査隊からの通信映像を、ビデオパネルに反映させた。
隊長が映し出されている。
「どうした。テラサイト鉱石は見つかったか?」
「はい、、発見しました。質・量とも十分です。場所は北緯45度、東経125度のいちにあります」
「よし、ご苦労だった。ただちに採掘車を向かわせる」
「提督。さらに我々は大変なものを発見しました」
「何だ?」
「それは提督ご自身の目でお確かめ下さる方がよろしいかと思います。是非こちらへいらっしゃってください」
「意味深だな。分かった、すぐ行く」
採掘隊がテラサイト鉱石を採集して、オリオン号の方へと次々に運んでゆく。
その傍らの洞窟の前には歩哨が二名立って警戒している。
ネルソン提督一行が洞窟内を進んでいる。
「こちらです」
アンドレ艦長が案内している。
やがて一行の目前に例の扉の前に出る。
「何でこんな洞窟に扉があるのだ?」
「不思議でしょう? 中に入ったらもっと驚きますよ」
艦長が扉の脇にある仕掛けを作動させると、鈍い音とともに扉がゆっくりと開いた。
あちらこちらで明滅する光が無数にあった。
「これは?」
「提督、よく見てください」
ネルソンが目を見開いて見つめた先には、
「これはコンピューターか?」
「そうです。壁面のすべてがコンピューターです。こちらのディスプレイを見てください」
艦長が機器を操作すると、ディスプレイにはオリオン号がこの惑星に接近するところから、着陸し修理を開始する様子が鮮明に映し出されていた。
「これは一体なんだ?」
「半自動防空管制装置のようです。あちらの方には、警戒迎撃管制装置もあるみたいです。どうやら岩山にミサイル発射管も巧妙に隠されているみたいです。もしオリオン号が敵だと判断されていたら、撃墜されていたことでしょう」
「つまり我々は、一部始終を監視されていたのか?」
「しかし我々は迎撃されることなく、ここに招き入れられている。少なくとも敵とはみられていないようだな」
「提督こちらへ来てください」
アンドレが手招きする。
先に立って歩き、隣室への扉を開けて入っていく。
ネルソン、彼に続いてゆく。
うって変わって落ち着いたムードのある部屋にたどり着いた。
壁に額があり、赤子を抱えた夫婦の写真が収まっている。
「プライベートルームのようだな」
「そうですね。あの額の人物が暮らしていたのでしょう」
「あの機械を作り上げたのも、この人たちでしょうか?」
「それにしても、人っ子一人いないのはどうしてだろうか」
「隣にもまだ部屋があるようです。行ってみましょう」
一行再び歩き出す。
アンドレが扉の前の計器を操作して扉を開ける。
そこにも計器類が並んでいる部屋だった。
部屋の中央に横長のカプセルが二つ並んでおり、中に男女が横たわっている。
覗き込んでみると、隣室の額縁の夫婦だった。
「これは?」
「死んでいるのでしょうか?」
「まるで眠っているかのような死に顔だった」
トラピスト星系連合王国首都星トランター、トリタニア宮殿。
「女王様、ネルソン提督より入電しました」
「ビデオスクリーンに映してください」
「かしこまりました」
スクリーンに、ネルソン提督が映し出される。
「どうなさったのですか?」
『フレデリック様が見つかりました』
驚いて身を乗り出す女王。
「それは本当ですか?」
『はい。しかし残念ながら、すでにお亡くなりになっておいででした』
「ええっ! フレデリックが?」
女王崩れるように、玉座に深々と座りなおした。
慌てて駈け寄る侍女たち。
介抱を受けて、やがて気を取り直して聞き直す。
「そう……。フレデリックは亡くなっていたのね……」
『ここにフレデリック様が記録されたビデオコーダーがありますのでご覧ください』
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング

11
コメント一覧
コメント投稿