銀河戦記/脈動編 第一章・謎の宇宙生物との闘い Ⅲ
2021.10.02

第一章・謎の宇宙生物
UMO(Unidentified Mysterious organism/未確認生物)




 アメーバーを退治し、犠牲となった者と補充要員を交代して、平常に戻ったラグランジュ基地。
 活躍した隊員たちは、休息のためにニュー・トランターに降りた。
 生物学者のコレット・ゴベールも、自分の所属する細菌研究所に戻ってレポートを書いていた。
「あのアメーバーはどこから漂流してきたのか? 生物であるならば、生息地がどこかにあるのかも知れない。凍結破砕したからといって、死滅したのではなく、あくまで休眠状態にしただけだろう。プラナリアなどの単細胞生物の中には、幾つにも切断しても切片からそれぞれ再生を始めて新しい個体となるものがある。平温に戻せば復活してまた動き出す可能性大だ……」
 と、ここまで書いて一息つくためにコーヒーを淹れる。
 ふと机の脇においたショルダーバックに目が留まる。
 バッグを開けて、筒のようなものを取り出した。
 熱いものは熱いまま、冷たいものは冷たいまま、という保冷容器だった。
 部屋の片隅に保育器を大型にしたような培養器設備があり、マニュピレーターやレーザーメス、そして顕微鏡などが付いており、温度管理もできるようだった。
 培養器の中の温度を極限まで下げると、保冷容器を投入して密閉した。
 マニュピレーターを使って、保冷容器の蓋を外して、中の物の一部を取り出し、顕微鏡用のプレパラートに置いて観察を始めた。
「これが宇宙生物……」
 じっと食い入るように観察しているコレット。
 密かにアメーバーを採取して持ち込んでいたのである。
 生物学者として、未知の生物に出会えば探求したくなるのは本能というものである。
『コレット、これより報告会をやるから第一会議室に来てくれ』
 ヴィジホンが、隊長からの指示を伝えてきた。
「分かりました。今いきます」
 アメーバーの生体研究を一時中断して、部屋を出るコレットだった。

 第一会議室。
 今回の探索艇遭難事件の概要が報告されてゆく。
 アメーバー発見から消息不明となるまでの捜索艇のボイスレコーダーとフライトレコーダーの解析結果。
 犠牲者リストの発表。
 アメーバーのこれまで判明した正体と退治法など。
 一通りの報告の後、隊長が生物学者であるコレットに尋ねた。
「コレット君、宇宙生物に関する所感を聞かせてくれ」
 指名されて立ち上がり意見を述べるコレット。
「その生命活動の根源はエネルギーを吸収することであり、かつまた物質に変換する能力を持っております。エネルギーに対する走行性を持ち、おそらく無性生殖で分裂増殖するものと思われます。
 宇宙空間にある時は、皮膜もしくは粘膜で覆われていて、凍結を防いでいたようです。活動時はこの膜が溶けていたために、凍結したのです。
 生物兵器として活用する以外は何ら有用性は見当たらないので、発見次第害虫よろしく駆除する対象でしょう……」
 発言の途中だったが、室内の机や椅子などがカタカタと振動を始めた。
「なんだ?」
 振動はさらに大きく振れ始める。
「地震か!」


 コレットのいた研究室も激しい地震に見舞われていた。
 棚が倒れて薬品瓶が倒れる、椅子があちらこちらへと動き回る。
 天井の照明が落ちて、培養器のガラスを破壊して、中の冷気が漏れ出す。
 粉々になっていたアメーバーの破片が、次第に寄り添ってゆき一個体に戻ってゆく。

 
 地震は止まる気配は見せずに激しくなるばかりだった。
「これは大きいぞ!」
 やがて次第に治まっていった。
「終わったか……」
 誰ともなく呟く。
「会議は一時中止だ。各自地震による被害を調査に向かってくれ。特に気密性のチェックを最優先だ。大気中のシアン化水素が侵入してきたらヤバイからな」
 解散して各自の個室に戻って気密性などのチェックを始める隊員たち。

 コレットが自分の研究室に戻ると、その惨状に驚く。
「こ、これは!」
 培養器に駆け寄るが、もぬけの殻だった。
「脱走した?」
 辺りを警戒するコレット。
 ここには冷線ガンはない。
 取りに行っている余裕もない。
 逃げ出したいが、アメーバーがどこへ消えたのか逃げ出したかを確認する必要がある。
 慎重にアメーバーの痕跡を探る。
「カタツムリのように粘液出しながら進めばすぐ分かるのに」
 くまなく探したが、この部屋にはいないことが分かった。
 どうやら換気扇から他の場所へ移動したらしい。
 放っておくわけにはいかない。
 コレットは警報装置を作動させた。
 館内に警報音が鳴り響く。
「どうした? 何があった?」
 端末に管理センターから状況を尋ねるビデオ音声が流れる。
「例の宇宙生物に侵入されました。全館に警告を流してください」
「宇宙生物だと? どういうことだ! 状況説明しろ!」
 嘘を付くわけにはいかないので、正直に説明するコレット。
「分かった。処分は後回しだ。第一会議室に関係者を招集させるから、おまえも来い!」
「分かりました」

 第一会議室には、冷線ガンを携帯したメンバーが集まっていた。
「例の宇宙生物が侵入したので、これから退治するのだが、知っての通りに今現在分かっているのは、凍結粉砕して保冷容器に収めることだけだ」
「ちょっと質問いいですか?」
 隊員の一人が手を挙げた。
「宇宙生物が侵入した経緯は何ですか? ラグランジュ基地ではすべて凍結して封印しましたよね?」
 激しく追及し憤る表情の隊員。
 隠してみようとしてもいずれ知られると、
「私が持ち込みました」
 正直に手を挙げるコレット。
「まあ、待て! 彼女を責めるべきではない」
「どういうことですか?」
「考えてもみろ。奴は宇宙を漂っていたのだ。他の個体がいないとは断言できないはずだ。ならば、奴の生態を調べる必要があるだろう? 弱点も突き詰めなければならない。彼女の行動は、押して図るべきだ」
「しかし……」
 納得していない隊員だったが、隊長のいうことも一理あることは理解できる。
「奴を発見するものが必要だ。誰か探知機を作ってくれないか?」
「それなら簡単ですよ。奴はエネルギーを喰らうので帯電しています。荷電検知器か磁気検知器でOKだと思います。三時間もあれば作れますよ」
「よし、各班に一つずつ作成してくれ」
「分かりました」
 こうして幾つかの班に分かれて、検知器と冷線ガンそして保存容器を持って、アメーバー退治を開始した。

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