銀河戦記/脈動編 序章・マゼラン銀河
2021.09.04

序章・マゼラン銀河


 漆黒の宇宙を進む宇宙船。
 天の川銀河から大マゼラン銀河へと向かう開拓移民船団の群れであった。
 およそ十六万光年の道のりには補給できる星はなく、一億人からいる人々は冷凍睡眠カプセルの中で来るべき日を夢見て眠っている。
 船はコンピューターにプログラムされた通りに進むため、運航要員はおらず数人の監視員が交代で計器を見守っているだけだった。
 移民船団には万が一を考えて護衛艦隊が付き添っていた。
 その旗艦サラマンダーの艦橋。
 アントニー・メレディス少佐以下の六名が当直で起きていた。
「まもなく最後のワープに入ります」
「とは言っても、我々は何もすることもないのだがな」
「全自動ですからね。計器が正常に動いているかを見てるだけ」
「まあ一億人からの生命を預かっているには違いない」
「ワープの時間です」

 宇宙空間。
 航行していた移民船団の船がワープして姿を消した。


 やがて別の空間に姿を現す移民船団。
 サラマンダー艦橋。
「最後のワープ終了!」
「計器異常ありません」
「大マゼラン銀河の端に到着したようです」
「よし、第一次探索隊の要員を起こそう」

 大型輸送船内にある居住区の冷凍睡眠カプセルのあるブロック。
 次々とカプセルが開いてゆく。
 ゆっくりと起き上がる隊員たち。
 長い眠りから覚めても、今なお夢うつつ状態が続いている。
 数時間後、食堂で朝食? を食べている隊員たち。
「大マゼラン銀河に到着は間違いないのだろうね」
「間違いないそうだ」
 食事を終えてゆっくりしていると、
『第一次探索隊要員はミーティングルームへ集合せよ』
 艦内放送が聞こえてきた。

 ミーティングルーム。
 大マゼラン銀河の映像が表示されたモニターを前にして、探索指揮官が説明をしている。
「このように、ここから十光年の間にある恒星が二十個ほど見つかった。このうち惑星系を持つと思われるのが、この三つの恒星だ」
 モニターに三つの光点が、方角と距離と共に表示されている。
「探索班を三つに分けて、これらの恒星を探索してもらいたい」

 大型輸送船発着口。
 長距離探索艇が格納庫から引き出されている。
 戦闘用の兵器は擬装されていないが、重力加速度計などの惑星探査レーダーを搭載しており、一光年を一時間ほどで超光速航行できる。
 三つの方角に向けて、次々と出発する探索艇。


 サラマンダー艦橋から、探索艇が出発する様子を見つめているメレディス少佐と副官。
「惑星が見つかるといいですね」
「そうだな」
 地球のように水と大気のある惑星でなくてもよい。
 月のように大気がなくても、しっかりと大地を踏みしめることのできる岩石型惑星(灼熱惑星除く)なら何でもよいのだ。
 まずは探索の拠点となるベースキャンプを確保することが先決なのである。


 惑星探査に向かった探索艇の一班。
「まもなく目的の恒星に到着します」
「恒星の自転方向を調査」
 惑星系は、自転する恒星の赤道面に並んで公転している公算が高いので、自転軸の真上か真下から離れて見れば容易く発見できる。惑星の公転面の上下から俯瞰して探すことができるというわけだ。
「自転方向確認できました」
「よし、二班に分かれて調査する」
 探査艇が、恒星の北・南極方向に分かれてゆく。

 数時間後。
「こちらA班、惑星を発見!」
「了解した。A班は、惑星の調査に向かえ。こちらB班は、引き続き二個目の惑星がないか探査する」
「A班了解。惑星探査に向かいます」


 惑星発見の報は、すぐさまサラマンダーにも伝えられた。
「見つかった惑星は木星型の巨大惑星が二つです。双方とも衛星系を持っており、その幾つかは鉱物資源を採掘できそうです」
「ベースキャンプにはできそうだな」
「残り二つの恒星に向かった班は、距離が遠くて探査はまだこれからです」
「そうか、地球型が見つかるといんだがな」
 数時間後、別の探索班から報告が入る。
「地球型惑星発見!」
「やりましたね」
「そうだな。精密調査隊を派遣させて、詳しく調べさせよう」
 地質や気象などを本格的に調べて居住に適した環境かを調べる部隊。

 やがて地球型惑星は居住可能で、大気と海と陸地がある一億人の住民が生存できる環境であることが判明した。
「よおし、開拓民総員起こしだ! その地球型惑星に移民船を向かわせる」

 移民船が地球型惑星に到着した。
 人々は、開拓移民船を衛星軌道上に待機させて当面の間、船の中で暮らすこととなった。
 まず最初に静止衛星軌道上に数隻の大型輸送船を配置して宇宙ステーション代わりとして、そこから下へと延びる宇宙エレベーターが造られた。
 建設土木機械が地上に降ろされ、そこから毎日出勤するようにして地上に降りて開拓を始める。

 地球型惑星の開拓は続き、その星に『ニュー・トランター』という名前が付けられた。
 人々は、ドーム状の居住空間を作って地球のような空気を満たして暮らし始めた。
 大気中に酸素濃度は2パーセントほどしかなく、有害猛毒なシアン化水素も含んでいた。
 現状では、宇宙服なしでは外を歩けないが、よりよい環境とするためのテラフォーミングが続く。
 海の成分は、水に溶けたシアン化水素酸とそれが加水分解したアンモニア、各種のミネラル成分がある。

 シアン化水素を燃やせば、水と窒素と二酸化炭素が生成するので、二酸化炭素を植物の光合成で酸素を生み出すことができる。(引火点摂氏ー18度、発火点摂氏538度)
 大規模なシアン化水素火力発電プラントが建設されて、空気中のシアン化水素を取り込んで燃焼させて、水と酸素を作り出して空気中や海に放出していた。
 海に溶けているシアン化水素は、Pedobacter 属細菌を使って分解無毒化する方法がとられた。

 Pedobacter 属細菌を培養している細菌研究所。
 研究員が談話している。
「海に溶けているシアン化水素を完全に無毒化させるには何年掛かりますかね」
「どうかな。百年はかかるんじゃないか? 俺たちの世代では無理だろうな」
「百年ですか……、気が遠くなりますね。それまで宇宙服なしでこのドームからは出られないのですね」
「まあそういうことだな」
「この星は諦めて、別の完全地球型惑星を探した方がいいんじゃないですか?」
「無理だよ。そんな理想の惑星を見つけるのに何年掛かると思う? 百年か? 千年か? この星が見つかったのも、何万分の一以上の確率の賜物なんだよ。それに、天の川銀河との橋渡しとなる橋頭保でもあるからな」


 その頃、巨大惑星の衛星の方でも、鉱物資源採掘がはじまっていた。
 衛星のあちらこちらで掘削機が稼働して、有用鉱物を採掘していた。
 ケイ素、鉄、マグネシウムなどがあり、酸素はそれらの酸化物として存在している。
 鉱物集積ステーション。
 採掘場から集められた鉱石が輸送船に積み込まれて、ニュー・トランターへ次々と出発している。
 ステーション事務所では、鉱石輸送船の手配などを行っている人員がいる。
「これが本日最後の船です」
 本日最後と言っても、この衛星では一日という概念がない。
 巨大惑星によって潮汐固定されており、公転周期の七日三時間(地球時換算)がこの衛星の一日に相当する。惑星に向いている側は惑星表面の反射光を受けて常に昼のように明るいし、反対側は常に夜のように暗い。
 一応生活時間として、トランター標準時を使用している。
「それから第二次開拓移民船団が出発したようですよ」
「そうか……。ニュー・トランターから、さらに先の銀河中心に向けて調査団が派遣されるということだな」

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