銀河戦記/脈動編 第十章・漁夫の利 V
2022.07.23

第十章・漁夫の利





 司令官  =ウォーレス・トゥイガー少佐
 副官   =ジェレミー・ジョンソン准尉
 艦長   =マイケル・ヤンセンス大尉
 レーダー手=フローラ・ジャコメッリ少尉
 通信士  =モニカ・ルディーン少尉

 副司令官 =ダグラス・ニックス大尉
 副官   =ジェイク・コーベット准尉


 惑星クラスノダールがアルビオン共和国艦隊によって奪われた報は、すぐさまサラマンダーのトゥイガー少佐の元へと届けられた。
 おりしも開拓移民船との合流を果たした時だった。
「戦艦セント・ビンセント号が多少の損傷を受けたようですが、全艦無事に撤退を完了したようです」
「ニックス大尉は、判断を間違えなかったようだ」
「味方艦隊と合流できるのは八時間後の予定です」

「奴らは、『クラスノダールは元々自分らの惑星だから返してくれ』とかいう言動を見せていましたね。サラマンダー以下の三隻が離脱して戦力が少なくなったのを見て、実力行使にでたようです。弱みを見せれば寝首を掻く、油断ならぬ国家ですな」
「ともかく、彼らは明確に敵対行動を示したということだ。今後は遠慮なく戦闘行為を行える。で、本国はどう言っているか?」
「開拓移民船も向かっていることだし、奪還せよということです」
「まあ、そう言うだろうな」


「三時の方向に感あり! 接近する物体あり!」
 レーダー手のジャコメッリ少尉が、緊張した声で警告した。
「未確認艦です。高速で接近中!」
「警報発令!」
 すかさず艦長のヤンセンス大尉が下令した。
 警報が鳴り響き、艦内を持ち場へと走り回る乗員達。
「どこの艦艇だ?」
「識別信号確認できず。味方艦ではありません」
「アルビオン軍は、しばらくクラスノダールから動かないだろう……となるとミュー族艦隊か?」
「たぶんそうでしょうね」
「一応相手方と連絡を取ってみてくれ」
 通信士のモニカ・ルディーン少尉が、通信を試みるが、
「応答ありません」
「相変わらずだな」
 さらに接近を続ける敵艦隊。
「敵艦隊射程距離に入りました」
「よし、撃て!」
 一条の軌跡を引いて、原子レーザーのエネルギーが敵艦に襲い掛かる。
 かと思われた時、敵艦の姿が消え去った。
 光の帯は虚しく深淵の漆黒の彼方へと見えなくなった。
「敵艦、直前にワープしたもよう」
「これは、まさか!」
 ジョンソン副官が叫ぶと同時に、艦体が激しく震動した。
 立っていた者のほとんどが床に倒れていた。
「何が起こった?」
 軽い脳震盪を起こしたのか、頭を押さえながらゆっくりと起き上がるジョンソン准尉。
「後方七時の方向に、敵艦出現!」
 背後を取られて動揺するオペレーター達。
 敵艦は、容赦なくサラマンダーの砲塔めがけて攻撃を加え始めた。
「迎撃せよ! 砲塔旋回!」
 正面を向いていた副砲の砲台が、敵艦を捕えようと旋回する。
「敵艦捕捉!」
「撃ちまくれ!」
 艦長の号令とともに反撃を開始する。
 攻撃可能な砲塔から、一糸乱れぬ攻撃が続く。
 しかし、敵艦に当たる前に消えてしまったのだ。
「敵艦、消失!」
「警戒を怠るな。また、どこかに出現するぞ!」
 その言葉通りに
「こ、これはランドール戦法?」
「いや違うな。ワープして敵艦に接近し、後は艦隊ドッグファイトで戦うのがランドール戦法だ。しかし奴らは、頻繁にワープを繰り返して位置を変えて攻撃してくる」
「頻繁にワープを繰り返すなんて不可能ですよ」
「それが奴らにはできるようだ」
 ランドール戦法もどきにワープを繰り返し、縦横無尽に動き回る敵艦に対して成す術もないサラマンダーだった。

「ミュー族は、このサラマンダーだけに攻撃を集中しています」
「奴らの目的は、この艦のようだな」
「しかし副砲や舷側の機関砲しか狙ってきません。機関部にも攻撃はありません」
「狙いは原子レーザー砲か?」
「火力も射程距離も、奴らの兵器に比べればけた違いですからね」
「奴らの目的が、この艦の鹵獲と分かった以上、乗員の生命までは奪わないだろう。艦を動かすにも、兵器を作動させるにも、熟知した乗員が必要だからな」
「つまり我々は、捕虜になるということですか?」
「仕方あるまい。これ以上無駄に戦って、人的被害をだすこともない」
「ランドール提督も、極力戦傷者を出さないように苦慮していましたね」
「奴らの目的はこのサラマンダーだけだ。そうとなったら、我が艦以外は戦線を離脱して、本隊との合流を急げ!」
 開拓移民船を含むサラマンダー以外の艦艇が離れてゆく。
 敵艦隊は、それを追いかけることもなくサラマンダー周辺から動かない。
「エンジン停止、投降の意思表示を」
 機関停止して、動きを止めるサラマンダー。

 降伏を確認したミュー族も戦闘停止して、サラマンダーを取り囲んだ。
「敵艦より入電しました」
 早速クリスティンが内容を翻訳して伝える。
「『我に着いてこい』と言っています」
「了解した。と返信してくれ」



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