性転換倶楽部/特務捜査官レディー これを着なさい(R15+指定)
2019.04.11



特務捜査官レディー・特別編
(響子そして/サイドストーリー)


(四十八)これを着なさい

 だが、解き放たれた瞬間だった。
 勧誘員が、猛然と敬に体当たりしてきた。
 隙を見計らって、脱出を試みたようだった。
 しかし……。
「い、いたた……。痛い」
 敬に簡単に腕をねじ上げられてしまった。
 勧誘員は、自分が女性の身体になっていることを、すっかり忘れていたのだ。
 その女性的な華奢な身体では、特殊傭兵部隊時代に鍛えた筋骨隆々の敬を、弾き飛
ばすことすらできなかった。
 腕を取られてもそれを振りほどく腕力さえもまるでない。
 体格も筋力も、そしてその美貌をもして、勧誘員は完全なまでに女性化していた。
「どうやら、まだ自分のことが判っていないようだな。言ったろうが、おまえはもは
やほぼ完全な女性になっているんだよ。あきらめるんだな」
 その言葉に、うなだれる勧誘員。
 もはや女性になるしかない状況なのだと理解したようだ。
「もう、結論は出たな」
 問いかける黒沢医師に対して、ゆっくりとうなづく勧誘員だった。
「ほ、ほんとうに……。完全な女性になれるんだろうな?」
 女性になると決めたからには、やはりまがい物ではない真の女性になりたいと願う
のは当然だ。
「もちろんだ。わたしは産婦人科医だ。女性の身体の事はすべて理解しているし、性
転換手術のことなら、ここにいる真樹が証明してくれる」
 と、突然に言い出した。
「な、何を言い出すんですか? 先生! そのことは……」
 さすがに慌てふためく真樹だった。
 それを知っているのは、黒沢医師と敬、そして両親の四人だけである。
 全くの他人に明かすような内容ではないだろう。
「いいじゃないか。今日からこの娘は……。そう、この娘と言おうじゃないか。私た
ちの仲間となるんだ。言わば真樹とこの娘は姉妹というわけだよ。秘密事はなくして、
仲良くしようじゃないか」
「そんな……。勝手に決めないでください!」
「あはは、さてと……。いつまでも裸のままじゃ、可哀想だな」
 といいながら、戸棚から手提げ袋を取り出した。
「さあ、これを着なさい」
 と勧誘員に手提げ袋を手渡す。
 勧誘員がそれを開けると……。
 出てきたのは、女性用の衣料だった。
 ワンピースドレスにブラやショーツといったランジェリーも揃っていた。
 それを見た真樹が驚いたように言った。
「せ、先生! やっぱり最初から、この人を女性にするつもりだったんですね?」
「あはは……。その通りだよ。私は男は嫌いだからな、男に戻すことは端から考えて
いない」
 女性衣料を手渡されて勧誘員はとまどっていた。
 そりゃそうだろう。
 これまで男として生きてきたのだ。
 例え身体が女性になってしまったとはいえ、いきなり女性衣料を着るには勇気がい
るだろう。
「成り行きでこういうことになってしまったが、判るな?」
 と念を押す黒沢医師だった。

 少し考える風だったが、やがてゆっくりとその衣料に手を伸ばす勧誘員だった。
 黒沢医師は、最初から性転換するつもりだった。
 だが、それを知ったところで、今更どうすることもできない。
 男には戻れない。
 黒沢医師にその意思がない以上、これは確定的だ。
 一生をこのまま女性として生きていくしかない。
 ならば、この目の前にある女性衣料……。
 着るしかないじゃないか。
 ブラジャーを手にした勧誘員だったが……。
「どうやって付けるんだ? これ?」
 というような困った表情をしていた。

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 取り引き(R15+指定)
2019.04.10


特務捜査官レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)


(四十七)取り引き

「男性に戻る限りには、二度とあんな真似をする気が起きないように、罰を受けなけ
ればならない」
「罰だと?」
「そうだ。すぐに男に戻しては罰を与えることができない。おまえはその格好のまま
一年の期限付きで奉仕活動をしてもらうことにする」
「奉仕活動だと……?」
「そうだ。奉仕だよ。それも男性相手のな」
「な、なんだって?」
「つまりゲイバーで一年間働いてもらうことにする」
「ゲ、ゲイバーだと!」
「そうだ。女装して酒飲みの男達を接待する仕事だ」
「そこを逃げ出したらどうする?」
「構わないさ。しかし、一生をそんな中途半端な姿で暮らさなければならないぞ。男
でもなく女でもない、そんなおまえが生きていくには、他に仕事はないぞ」
「しかし……」
「無事に一年の勤めを果たしたら、男性に戻してやる」
「ほんとうだな」
「ああ、私は医者だ。信じることだ。というより信じるしかないのがおまえの現状
だ」
 現実を突きつけられ、考えあぐねている様子の勧誘員だった。
 こんな姿に変えられてしまった今、元に戻るにはこの医者の言う事を聞くしかない
だろう。
 しかし、男相手に女装して接客するゲイバーのホステスになるしかないのか?
 ある日突然に女性に性転換されてしまって、自分がなさなければならない現実を考
えるとき、将来の不安に掻きたてられるのであった。

 黙ったまま考え込んでいる勧誘員のその豊かな胸を注視しながら、黒沢医師が次な
る段階へと言葉の口調を変えて切り出した。
「なあ、これだけのものを持ったんだ。男に戻るより女性になった方がいいんじゃな
いか?」
「いやだ!」
「残念だなあ……。顔も飛び切りの美人だというのに。例え男に戻ってもたぶんその
顔はそのままだろうなあ……」
「な、なに?」
「おや、まだ気が付いていなかったのかい? もう一度じっくりと自分の顔を見つめ
てみろよ」
 改めて鏡を見つめる勧誘員。
「こ、これは……?」
 どうやら今までは巨乳にばかり目が行っていて、顔の方には注目していなかったよ
うだ。
「どうだ。きれいだろう? 今時、これだけの美人はいないぞ」
「う、嘘だろう。これが俺の顔だというのか?」
「正真正銘の今のおまえの顔だよ」
「し、信じられない……」

 その会話を耳にした真樹が敬に耳打ちする。
「ねえ、わたしと彼とどっちが美人かしら?」
 やはり女性としては、美人だと言われた相手が気になるようだ。
 特に男だった相手には負けられないという感情があるのだろう。
「そ、そんなこと……比べられないよ」
「あ! やっぱり彼の方が美人だと思ってるんでしょ」
「そうじゃなくて……」
「いいわよ。どうせ、わたしは整形美人だもん。ぷん!」
 と膨れ面をしてみせる真樹だった。
 そうなのだ。
 真樹の顔は確かに誰の目にも美人として映るが、黒沢医師によって死んだ女性そっ
くりに整形されたものだった。
 そして方や、性転換薬によって変貌した美人。
 果たしてどちらが真に美人と言えるものなのか。
 敬が答えに窮するのも当然と言えるだろう。

「信じられないだろうが、今見ている通りに現実だ。顔だけではなく、体格もまんま
女性そのものだよ。ほんとに……、まさかこの薬が、ここまでほぼ完璧に女性化させ
るとは、私もこの目で見るまでは、とても信じられなかったよ」
「お、男にする薬はないのか?」
「ないな!」
 きっぱりと断言する黒沢医師。勧誘員の表情が暗くなる。
「この薬の開発者は、男性から女性への性転換を可能にする薬剤の研究をしてはいる
が、その反対の女性から男性への薬の開発研究する意思は毛頭ないからだ。つまり…
…それがどういうことかというと……」
 と、ここで一旦言葉を止めて、勧誘員の身体を嘗め回すように観察する。
 勧誘員に自己判断を促しているようだった。
「つまり……なんだよ。ま、まさか……」
 おそらく自分でも結論に達しているのだろうが、認めたくない感情から尋ねずには
いられないといったところだろう。
「そう……。その、まさかだよ。おまえは、生涯その女性の身体と言う事だよ」
「嘘だろ?」
「物体というものは、大きいものを小さくするのは簡単だ。氷像みたいに削って小さ
くすればいいのだからな。だから筋骨隆々だった身体が、こんな風に華奢でしなやか
な身体にするのも簡単というわけだ。だが、一旦小さくしてしまったものを、元の大
きさにするのは不可能だ。それくらいは判るだろう?」
「い、いやだ。そんなこと……。そうだ! さっき男性ホルモンで元に戻れる言った
じゃないか。あれは嘘なのか?」
「嘘ではないが……。ここまでほぼ完全な体型に女性化してしまうと、完全な元の男
性に戻ることは不可能だ。今さっき言った通りなのだが、例え男性ホルモンを飲んだ
としても、骨格までは変えられないということだ。せいぜい筋肉がついてくる程度の
ものだ」
「も、戻れないのか?」
「ああ、戻れないな。……なあ、この際男性に戻るのはあきらめて女性になってしま
わないか? 完全なる女性にしてやるぞ。もちろん手術の費用はただにしてやる。女
性になったからには、これまでの罪はすべて水に流してやろうじゃないか。男性とし
て行ってきた過去は一切無罪放免にして、女性として何不自由なく暮らしていけるよ
うに、ちゃんとした仕事も斡旋してやるぞ。だが、元の男性に戻るというのなら、し
かも不完全な身体のままだ、罪を償わなければならない。どうだ? 男性に戻って罪
を償うか、女性に生まれ変わって新しい人生を踏み出すか。男性といってもおかまみ
たいな男性にしか戻れないが、女性になればその美貌を活かしてファッションモデル
にすらなれる」
 勧誘員は黙り込んでしまっていた。
 そりゃそうだろう。
 たとえ元の男性に戻っても、身体はほとんど女性並みでおかま扱いされるのは必至
である。そしてどんな罪の償いをさせられるか……。この黒沢医師の性格を推し量っ
てみるにつけ、とんでもないような苦しい罰が待っているような気がする。
 だが、女性になることを選択すれば、この豊かな乳房と美貌で黒沢医師の言うとお
りの薔薇色の人生が待っているかも知れないのだ。そして無罪放免され仕事も紹介し
てくれるという。
 どう考えても、答えは一つしかないじゃないか……。
 勧誘員は、じっと考え込んでいる。
 その表情を見つめ柄、にやにや笑っている黒沢医師だった。

「ねえ、先生ったら……。女性への性転換ばかりすすめているけど、元の男性に戻す
つもりはないんじゃない?」
「ああ、たぶんな。先生の悪い癖がまたはじまったというところだ」
「可哀想ね。どうやら女性になるしかないみたい」
「だが、あの格好のままだとしたら、男に戻ってもなあ……。笑い種だ」
「そうね……」

「か、考えさせてくれないか」
 ついに、勧誘員が折れてきた。
 さすがに、黒沢医師の性転換薔薇色人生攻撃? を畳み掛けられては、承諾するよ
りないと結論に至ったようだ。
 ただもうしばらく考える時間が欲しい。
 そういうことのようだ。
「いいだろう。二日待ってやる」
「なあ、せめてこの格好から解放してくれないか?」
 勧誘員は診察台に縛られている。
 その状態で二日もいることは我慢の限界を超える。
「そうだな……」
 というと、敬の方を向いて言った。
「解くのを手伝ってくれ」
「いいですよ」
「悪いな」


11
性転換倶楽部/特務捜査官レディー 巨乳なる姿(R15+指定)
2019.04.09


特務捜査官レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)


(四十六)巨乳なる姿

 翌日となった。
 真樹は敬を連れて、早速黒沢医師の下へと急行していた。
「先生! あの男はどうなりました?」
「早速来たな。見てみるか?」
「もちろんです」
 というわけで、昨日の場所に向かう。
 例の産婦人科用の診察台に括り付けられたままの勧誘員はまだ目覚めていなかった。
「どれどれ、見るか」
 と、診察台に近づいて勧誘員の診察をはじめる黒沢医師だった。
「台に縛り付けたままにしていたのですか?」
「ああ、逃げられたくないからな。完全独房の覚醒剤患者用リハビリ病室というのも
あるが、どうせまたこれに乗せなきゃならんから、二度手間は面倒だ」
「で、どうなんですか?」
「ふふふ。面白いことになっているよ」
 勧誘員の上着がはだけられて、胸が露出していた。
「こ、これは……」
 そこにはまさしく豊かな胸が形成されていた。
 それもFカップはありそうな巨乳サイズだ。
 普通の日本人は仰向けに寝たりすると、乳房がのっぺりと扁平状態になってしまう
ものだが、これはまあ……張りがあって天を向いて、豪快なくらいに山形になった
ドーム上の乳房を維持していた。
「あれから、豊胸手術をしたんじゃないですよね」
「本物の乳房だよ。手術なら一晩では治らない縫合痕ができるはずだろが」
「まあ……そうですが。しかし、たった一晩でこんなに大きな胸ができちゃうなんて
信じられないわ。どんな薬剤なのですか?」
「私の製薬会社の新薬開発研究所の所員が開発したものでね。ハイパーエストロゲン
とスーパー成長ホルモンというものが調合されている」
「どちらも女性化には必須のホルモンじゃないですか」
「まあな……。実はその研究員は、君と同じ性転換手術を行った最初の女性なんだ」
「性転換……してるのですか?」
「ああ、彼女は性転換をテーマにした新薬を開発していてね。MTFの人々の気持ち
は身に沁みて感じているから、一人でも多くの患者を救いたいと、実に真剣に日夜取
り組んでいるよ。で、臨床試験直前にまでこぎ着けた新薬の成果がこれだ」
 と、勧誘員を指差す。
「へえ、面白い話ですね。確かに一晩でこれだけの胸が出来ちゃうなんて、すばらし
いじゃないですか。人体実験されたこの人には悪いですけど」
「天然痘の予防方法の種痘法の効果を確かめるために、当時下僕だった8才のジェー
ムズ・フィップスという父親のいない子供(自分の子供という説は誤りであり、その
効果を確認した後に自分の息子のロバートに摂取したというのが正しい)に牛痘摂取
したというジェンナーのように、何事にも誰かが犠牲にならなければならない。たま
たま、悪事を働いたこいつに実験台になってもらったわけだ」
 話し声や黒沢医師に胸を触れているせいか、勧誘員が目を覚ました。
「ん……ん?」
「どうかね、気分は?」
「お、おまえは!」
 一瞬として、自分の身に起きていることを理解できなかったようだが、昨日のこと
にすぐに気がついて叫んだ。
「俺に、一体何をしたんだ!」
「おや、気がつかないようだ。じゃあ、これならどうかな」
 と言いながら、その豊かな胸を掴んだ。
「これを見たまえ。おまえの胸だよ」
 寝てていても張りのある巨乳である。目の前にあるそれが見えないわけがない。
「こ、これは……!!」
 さすがに事態を飲み込まざるを得ないようだった。
「見事なものだろう。おまえの胸にできた本物の乳房だよ。これだけ大きな、いや巨
乳というべきかな……。これだけのものはそうは見られないぞ。どうだ、嬉しい
か?」
「誰が、嬉しいものか?」
「納得していないようだな」
「当たり前だ!」
「うむ……じゃあ、これならどうかな」
 というと計器を操作する。
 天井に固定されていたとある器械が、かすかな音を立てて降りてくる。
「鏡だよ。おまえの位置から、自分の姿を良く見ることができるぞ」
 やがて鏡が静止して、診察台の勧誘員の全身像を写した。
 はだけられたシャツの胸から、大きく張り出した巨乳に釘付け状態になっている勧
誘員。
「さてと、これだけじゃまだ。信じられないだろう」
 というと、洋裁用の大きな鋏を取り出して、勧誘員の服を切断しはじめた。大やけ
どを負った患者の衣服を切り裂くために用意してあったのだろう。やけどを負うと体
液で衣服が皮膚に張り付いて、衣服を脱がそうとするとべろりと皮膚まで剥がれてし
まう。それを避けるために癒着していない部分を選んで切り裂いていくための鋏であ
る。

 とにもかくにも診察台に縛り付けている者の衣服を剥ぐには切り裂くしかない。
「な、何をする!」
「鏡を見ているんだな。面白いことになっているぞ」
 やがて上半身は露になった。
 驚いたことに、その上半身は男性ではない、撫で肩の細い体格をした明らかに女性
的な骨格になっていたのである。
「す、すごい!」
 真樹が思わず声を上げた。
「どうだ。どこから見ても女性にしか見えないだろう?」
「ええ、本当にあの勧誘員なのですか?」
「別人ではないよ。当の本人そのものだ」
 その本人は変わり果てた姿に茫然自失となって言葉を失っていた。
「たった一日でこれですか?」
「私もこの目で見るまでは信じられなかったよ。何せ、この薬を使ったのはこの男が
はじめてだからな。一体どうなるかとね。さてと……下半身はどうなっているかな」
 黒沢医師は鼻歌交じりで、ズボンを切り裂きに掛かった。
 科学者的な探究心で目が輝いていた。
「何か今日の先生……。怖いくらいね」
 真樹が敬に小声で囁く。
「ああ、まるでマッドサイエンティストだ」
「言えてる」
 確かに、性転換に関わることとなると目つきが異常に鋭くなる黒沢医師だった。ま
るで自分の世界に没頭したように夢中になってしまう性格を持っていた。
「どうですか?」
 真樹が覗き込む。
「残念だが、完璧な性転換とまではいかなかったようだ」
 とその股間を指差す。
 そこには男性特有のものが残存していた。
「ありゃりゃ。可愛い♪」
 まあ、確かに男性自身であったが、子供くらいに小さくなっていたのである。
「ここまでが限界のようだ。内性器がどうなっているか調べる必要があるな」
 と勧誘員の方に振り向いて、話しかける。
「おい、呆然としてないで、そろそろ自分の現状を見つめて、今後のことを考えてみ
たらどうだ?」
「ど……、どうしろというのだ?」
 やっとのことで言葉を搾り出したという感じだった。
「まあ、不完全だが……おまえはもはや、今のままではまともな男としては生きられ
ないと言う事だ」
「嘘だ!」
「どうだ。この際、この股間のものも取り去って、今すぐ完全な女性にしてやろう
か? おまえが望めば今すぐにでもできるぞ」
「じょ、冗談じゃない。女になんかなりたくない」
「そうだなあ……。このまま女性にしてしまって、どっかの売春組織に売り飛ばすこ
ともできるぞ。生きている限り抜け出せないような所がいいだろう」
「な……。や、やめてくれ!」
「これだけ、大きな乳房ならひっきりもなしに客が付くかも知れないな。もちろん、
おまえにはそれを拒絶することはできない。毎日毎日、より多くの男に抱かれなけれ
ばならないというわけだ。身体を壊すのもそれだけ早いと言う事だ」
「い、いやだ……」
「身体を壊して使い物にならなくなった売春婦の行き着く末は……。おまえなら知っ
ているかも知れないが……」
 勧誘員の言葉には耳を傾けることなく、売春婦にされ残酷な日々を暮らす惨状を、
たんたんと語り続ける黒沢医師だった。
「やめてくれ!」
 突然に大きな声を張り上げて黒沢医師の言葉を遮る勧誘員。
「た、たのむ。昨日も言ったように、なんでも言う事を聞く。アジトのことも話す。
たのむから女にするのはやめてくれ!」
「そうか……女にはなりたくないか……。残念だな」
 というと勧誘員に微かな安堵の表情が浮かんだ。
「仕方ないな。おまえが心を入れ替えて、善人の道に入るというのなら、元の男性に
戻してやることもできるのだが……」
「も、元に戻れるのか?」
 急に明るさを取り戻す勧誘員だった。
「ああ、今ならまだ間に合う。男性ホルモンを飲めば、時間は掛かるかもしれないが、
元に戻ることができるだろう。しかしこのまま放って置いて時間が経てば、さらに女
性化が進んで手の施しようがなくなる」
「た、頼む! 元に戻してくれ。男性ホルモンといったな。それをくれ!」
「それには条件がある! もちろんおまえの組織のアジトを吐いてもらう以外にな」
 と険しい表情に変わる黒沢医師だった。
「それは……?」
 ごくりと唾を飲み込んで黒沢医師の次なる言葉を待つ勧誘員だった。


11
性転換倶楽部/特務捜査官レディー 性転換薬(R15+指定)
2019.04.08



特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)


(四十五)性転換薬

 その勧誘員を運び込んだ部屋は、産婦人科で使われるあの診察台のある部屋だった。
「手伝ってくれ。こいつを診察台に乗せるんだ」
 言われるままに勧誘員を診察台に乗せるのを手伝う二人。
「そうしたら、こいつの手足を台に縛り付ける」
 両腕を台に縛りつけ、両足を足台に乗せた状態にして、動けないように固定する。
「よし、準備完了だ。目を覚まさせよう」
 薬品棚から瓶を取り出して、ガーゼに含ませている。
「気付け薬ですか?」
「そういうこと」
 そのガーゼを勧誘員の鼻先に近づけると……。
「ううっ!」
 といううめき声を上げて目を覚ました。
「こ、ここはどこだ?」
 開口一番、ありきたりな質問だった。
 まあ、それ以外には言いようがないだろうが。
 そして診察台に固定されていることに気づいて、縛られている状態から抜けようと
して盛んに身体を動かしていた。
 しかし無駄な行為だった。
「とある病院だよ」
「俺を、どうするつもりだ?」
「貴様が売春婦の斡旋業をしていることは判っているのだ。若い女性を『アイドルに
してあげよう』とか言葉巧みに誘い込んで、強姦生撮りビデオを撮影していた。そし
て、その後には売春組織に売り渡していたこともな」
「そ、それは……」
 図星を言い当てられて言葉に窮する勧誘員。
「これまでに侵した罪を償ってもらうことにする」
「な、何をするつもりだ?」
「強姦された挙げくに売春婦にされてしまった罪もない女性たちの苦しみをおまえに
も味わってもらうことにする」
「どういうことだ」
「おまえを女に性転換して、売春婦として一生を惨めに生きてもらうのさ」
「性転換だ……。売春婦だと? 馬鹿なことを言うな」
「信じたくもないだろうがな……」
 と言いながら再び薬品棚から別な薬剤の入ったアンプルを持ち出してくる黒沢医師。
「さて……。これが何か判るか?」
 アンプルを取り出して、その中の薬剤を注射器に移している。
「な、なんだ?」
「究極の性転換薬だ」
「性転換薬だと? 嘘も休み休み言え!」
「信じられんだろうな。だが、明日の朝になれば真実かどうか判る。その目で確認す
るんだな」
 その声は相手を脅すには十分過ぎるほどの重厚な響きを伴っていた。
「や、やめてくれ!」
 診察台に縛り付けられて、どこからともなく漂ってくる薬剤の匂い。明らかに病院
の中だと判る場所。
 そんな所で言われれば、さすがに本当なのかと思い始めているようだった。
「た、たのむ。何でも言う事を聞く。組織のことも喋る。おまえら警察だろう?」
 勧誘員の声は震え、懇願調になっていた。
「無駄だよ。お前の運命は決まってしまったんだ」
「本当だ。嘘は言わない。組織のことを喋る。おまえらそれが知りたいんだろう?」
 しかし、冷酷な表情を浮かべて、押し殺すような声の黒沢医師。
「諦めるんだな」
 そいういうと、注射を勧誘員の腕に刺した。
「やめろー!」
 黒沢医師が止めるはずもなかった。
 注射器のシリンダーが押し込まれ、薬剤が勧誘員の体内へと注入されていく。
「い、いやだ……やめて……くれ」
 勧誘員の声が途切れ途切れになり、そしてそのまま意識を失ってしまったようだ。

「どうしたんですか?」
 真樹が近づいて尋ねる。
「薬剤の中に睡眠薬を入れておいた。明日の朝まではぐっすりだ。逃げられないよう
に、このままの状態で置いておく」
「睡眠薬? 性転換薬じゃなかったのですか?」
「睡眠薬も入っているということだ。性転換薬というのは本当だ」
「冗談でしょう?」
 真樹は麻薬取締官であると同時に薬剤師でもある。
 現在市場に流通している薬剤のことならすべて知っている。
 性転換薬など、許認可されてもいなければ、開発されたという噂すら聞いたことも
ない。
「私の運営している会社は知っているだろう?」
「もちろんです。医者は副業、本職は薬剤メーカーの社長さんですよね」
「その通りだ」
「まさか、開発に成功されたのですか?」
「いや、奴に射ったのは試験薬だ。人間に投与しての臨床試験に入っていない」
「まさか、この男で人体実験を?」
 敬が核心に触れるように言った。
 意外なところで他人の心を読み取ることがある。
「あはは、その通りだ。何せ、臨床試験しようにも、出来る訳がないだろう? 女に
なりたいという人間は数多くいても、どうなるかも知れない怪しげなる薬を試してみ
ようという人間はいないさ。もっと確実に性転換できる手術が発達しているからな」
「なるほど……」
「明日の朝っておっしゃってましたけど……」
「ああ、動物実験から類推するに人間なら一晩で可能なはずだ」
「本当にできるのでしょうか?」
「だから、人体実験だよ。明日が楽しみだ」
 といって笑い出す先生だった。
「そんな……」
「まあ、興味があって成果を見たいなら明日来てみるんだな。成功か失敗か、いずれ
にしても面白いものが見られるはずだ」
「見に来ます! 乗りかかった船ですよ。最後まで見届けたいです」
「いいだろう。明日の午前九時にきたまえ。囮捜査のことで、明日も出勤日ではない
のだろう」
「はい。明日の九時ですね。必ず参ります」

 というわけで、奇妙なる性転換薬というものの存在を知り、もっと早くこれが完成
していて自分がそれを使うことが出来ていたら……。
 心底そう思う真樹だった。


11
銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第三章 狼達の挽歌 V
2019.04.07



 機動戦艦ミネルバ/第三章 狼達の挽歌


 V エースパイロット

「すげえ!」
 ストライク・ファントム戦闘機のコクピットから、ミネルバの状況を目の当たりに
したパイロットが驚く。
 パイロットの名は、カッシーニ・オーガス曹長。
 あの撃墜王のジミー・カーグ中佐に戦闘の手ほどきを受けたエースパイロットであ
る。
 端末から指令が届く。
「艦載機は敵戦艦に対し、攻撃開始せよ」
 その指令に従うように操縦桿を握り締めるオーガスだったが、引き続いて入電が入
った。
「オーガス曹長は、ただちに帰還せよ」
 出鼻をくじかれたような指令に、
「え? どういうことですか。敵艦の迎撃に入るんじゃないですか?」
 意外な命令といった感じで確認する。
「迎撃は、他の艦載機にまかせてください。曹長は帰還です」
「納得いかないなあ……」
 うだうだと言っていると、相手が代わってスピーカーががなり立てた。
「馬鹿野郎! おまえは新型モビルスーツの搭乗員だ。ここで撃墜されるわけにはい
かないんだよ」
 発進前に甲板に陣取っていた、モビルスーツパイロットで戦闘班長のナイジェル中
尉の声だ。
「新型っていっても、機体を搬送していた輸送艦が敵揚陸部隊に捕獲されてしまった
というじゃないですか。肝心の機体もないのに、パイロットも何もないじゃないです
か」
「機体については、メビウスの特殊部隊が奪還作戦に入っている。だから今後のため
にもファントムを失うわけにはいかないんだ」
「ファントムですかあ?」
「当たり前だ。そのファントムは新型機にドッキングしてコクピットとなる大事な部
品でもある。パイロットの補充はできるが、ファントムは補充がきかん」
「きついなあ……」
「いいから、戻って来い! 命令だぞ」
「へいへい。戻ればいいんですね、判りましたよ」
 言いながら乱暴に通信機を切るパイロットのオーガス曹長。
 ユーターンしてファントムがミネルバへ戻っていく。

 艦載機発着場。
 ファントムが着陸して、オーガスが機体から降りてくる。
 そしてパイロット待機所に戻るやいなや、ナイジェル中尉に詰め寄る。
 中尉は、愛機のモビルスーツの燃料・弾薬補給を待つ間に、自分自身の燃料補給中
だった。
 戦闘中のために、ペースト状の食料を詰めたチューブ式の携帯食料を食していた。
「納得できませんよ!」
 憤懣やるかたなしといった様子で、中尉に食い下がるオーガス。
「まあ、そういきり立つな。血圧が上がるぞ」
「血圧が上がるのは中尉じゃないですか。納得いく説明をしてください」
 食していた携帯食料をカウンターに置きながら、質問に答えるナイジェル。
「知ってのとおり、この艦にはおまえの他に三人の新型のモビルスーツパイロット候
補生がいる。もちろん自分もその中に入っているがな。しかしながら」
「肝心のモビルスーツがない!」
「そのとおりだ。当初の予定では、タルシエン要塞から護送船団によって運ばれてく
る予定だったのだが」
「敵の陣営に横取りされてしまいましたよ。その護送船団の指揮官は艦長殿ですよ
ね」
「まあな……。背後から敵艦隊が押し寄せている状態で、本星にまで無事に輸送して
きたことは評価に値すると思うがな」
「しかし反面、敵に最新鋭のモビルスーツを与えたことになりませんか? あのフ
リード・ケースン中佐が開発し、わざわざ送ってよこしたものです。ただのモビル
スーツであるはずがありません。その機動性能、戦闘能力、すべてにおいて現行のモ
ビルスーツの性能を凌駕しているに違いないのです」
「ほう……。なかなか鋭い判断だ」
「それを奪われてしまったんですよ。これが落ち着いていられますか?」
「それだ! 近々、その最新鋭のモビルスーツを奪回する作戦が発動するらしいの
だ」
「奪回作戦ですか?」
「そうだ。しかも、その作戦に我がミネルバも参加するらしい。何せそのモビルスー
ツ専用の整備・補給システムなどが装備されているのが当艦だからな。つうか……、
このミネルバに搭載することを前提として開発されたと言ってもよい機体だ。最新鋭
のモビルスーツと最新鋭のこのミネルバが揃ってこその【メビウス】旗艦としての位
置付けがあるというわけだ」
「その奪回作戦はいつですか?」
「そうだな……」
 と言いかけたところで、
「ナイジェル中尉。弾薬の補給が完了しました。すみやかに出撃してください」
 艦内放送が中尉の出撃指令を伝えていた。
「おっと。将来の話よりも、まずは目の前の敵を叩くのが先だ。今の話は、戦闘が終
わってからにしよう」
「で、その間。自分は何をしていればいいんですか?」
「飯を食って、寝ていろ!」
「寝……。戦闘中だというのに、眠ってなどいられませんよ」
「馬鹿者が! 眠ることも大事だぞ。出撃しないものは体力の回復と温存に務める。
これもパイロットの仕事のうちだ」
「わっかりました! 寝ていりゃいんですね」
「そういうことだ」
 携帯食料をカウンターに戻して、そばに置いてあったヘルメットを取り上げ、
「それじゃ、行ってくる。殊勝な気持ちが少しでもあるのなら、みんなの無事を祈っ
ていてくれや」
 と右手を軽く上げて、発着場へと向かっていく中尉だった。
「へいへい。いってらっしゃい」
 後姿を見送りながら、
「空を飛べない陸戦用モビルスーツでどう戦うつもりですかね……」
 と、呟きにも似た吐息をもらすオーガスだった。

 艦載機発着場。
 モビルスーツに乗り込み機器を操作しているナイジェル中尉。
『ナイジェル中尉は、甲板にて近寄る戦闘機を撃墜してください』
 通信機器より指令が入電する。
『了解した。甲板にて敵戦闘機を撃滅します』
 飛翔することのできない陸戦兵器には、動かない砲台としての役目しかなかった。
「ま、やるだけのことをやるだけさ」
 苦笑いしながら、
「さて、行くとしますか」
 操縦桿を握り締めて、ゆっくりと機体を動かして、甲板に出る昇降エレベーターに
乗る。
「ナイジェル、出る!」
 通信機に
『了解。エレベーターを上げます」
 ゆっくりと上昇するエレベーター。
 やがてナイジエルの視界に飛び込んできたのは、勇躍として迫りくる敵戦艦の姿で
あった。


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