性転換倶楽部/特務捜査官レディー 取り引き(R15+指定)
2019.04.10


特務捜査官レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)


(四十七)取り引き

「男性に戻る限りには、二度とあんな真似をする気が起きないように、罰を受けなけ
ればならない」
「罰だと?」
「そうだ。すぐに男に戻しては罰を与えることができない。おまえはその格好のまま
一年の期限付きで奉仕活動をしてもらうことにする」
「奉仕活動だと……?」
「そうだ。奉仕だよ。それも男性相手のな」
「な、なんだって?」
「つまりゲイバーで一年間働いてもらうことにする」
「ゲ、ゲイバーだと!」
「そうだ。女装して酒飲みの男達を接待する仕事だ」
「そこを逃げ出したらどうする?」
「構わないさ。しかし、一生をそんな中途半端な姿で暮らさなければならないぞ。男
でもなく女でもない、そんなおまえが生きていくには、他に仕事はないぞ」
「しかし……」
「無事に一年の勤めを果たしたら、男性に戻してやる」
「ほんとうだな」
「ああ、私は医者だ。信じることだ。というより信じるしかないのがおまえの現状
だ」
 現実を突きつけられ、考えあぐねている様子の勧誘員だった。
 こんな姿に変えられてしまった今、元に戻るにはこの医者の言う事を聞くしかない
だろう。
 しかし、男相手に女装して接客するゲイバーのホステスになるしかないのか?
 ある日突然に女性に性転換されてしまって、自分がなさなければならない現実を考
えるとき、将来の不安に掻きたてられるのであった。

 黙ったまま考え込んでいる勧誘員のその豊かな胸を注視しながら、黒沢医師が次な
る段階へと言葉の口調を変えて切り出した。
「なあ、これだけのものを持ったんだ。男に戻るより女性になった方がいいんじゃな
いか?」
「いやだ!」
「残念だなあ……。顔も飛び切りの美人だというのに。例え男に戻ってもたぶんその
顔はそのままだろうなあ……」
「な、なに?」
「おや、まだ気が付いていなかったのかい? もう一度じっくりと自分の顔を見つめ
てみろよ」
 改めて鏡を見つめる勧誘員。
「こ、これは……?」
 どうやら今までは巨乳にばかり目が行っていて、顔の方には注目していなかったよ
うだ。
「どうだ。きれいだろう? 今時、これだけの美人はいないぞ」
「う、嘘だろう。これが俺の顔だというのか?」
「正真正銘の今のおまえの顔だよ」
「し、信じられない……」

 その会話を耳にした真樹が敬に耳打ちする。
「ねえ、わたしと彼とどっちが美人かしら?」
 やはり女性としては、美人だと言われた相手が気になるようだ。
 特に男だった相手には負けられないという感情があるのだろう。
「そ、そんなこと……比べられないよ」
「あ! やっぱり彼の方が美人だと思ってるんでしょ」
「そうじゃなくて……」
「いいわよ。どうせ、わたしは整形美人だもん。ぷん!」
 と膨れ面をしてみせる真樹だった。
 そうなのだ。
 真樹の顔は確かに誰の目にも美人として映るが、黒沢医師によって死んだ女性そっ
くりに整形されたものだった。
 そして方や、性転換薬によって変貌した美人。
 果たしてどちらが真に美人と言えるものなのか。
 敬が答えに窮するのも当然と言えるだろう。

「信じられないだろうが、今見ている通りに現実だ。顔だけではなく、体格もまんま
女性そのものだよ。ほんとに……、まさかこの薬が、ここまでほぼ完璧に女性化させ
るとは、私もこの目で見るまでは、とても信じられなかったよ」
「お、男にする薬はないのか?」
「ないな!」
 きっぱりと断言する黒沢医師。勧誘員の表情が暗くなる。
「この薬の開発者は、男性から女性への性転換を可能にする薬剤の研究をしてはいる
が、その反対の女性から男性への薬の開発研究する意思は毛頭ないからだ。つまり…
…それがどういうことかというと……」
 と、ここで一旦言葉を止めて、勧誘員の身体を嘗め回すように観察する。
 勧誘員に自己判断を促しているようだった。
「つまり……なんだよ。ま、まさか……」
 おそらく自分でも結論に達しているのだろうが、認めたくない感情から尋ねずには
いられないといったところだろう。
「そう……。その、まさかだよ。おまえは、生涯その女性の身体と言う事だよ」
「嘘だろ?」
「物体というものは、大きいものを小さくするのは簡単だ。氷像みたいに削って小さ
くすればいいのだからな。だから筋骨隆々だった身体が、こんな風に華奢でしなやか
な身体にするのも簡単というわけだ。だが、一旦小さくしてしまったものを、元の大
きさにするのは不可能だ。それくらいは判るだろう?」
「い、いやだ。そんなこと……。そうだ! さっき男性ホルモンで元に戻れる言った
じゃないか。あれは嘘なのか?」
「嘘ではないが……。ここまでほぼ完全な体型に女性化してしまうと、完全な元の男
性に戻ることは不可能だ。今さっき言った通りなのだが、例え男性ホルモンを飲んだ
としても、骨格までは変えられないということだ。せいぜい筋肉がついてくる程度の
ものだ」
「も、戻れないのか?」
「ああ、戻れないな。……なあ、この際男性に戻るのはあきらめて女性になってしま
わないか? 完全なる女性にしてやるぞ。もちろん手術の費用はただにしてやる。女
性になったからには、これまでの罪はすべて水に流してやろうじゃないか。男性とし
て行ってきた過去は一切無罪放免にして、女性として何不自由なく暮らしていけるよ
うに、ちゃんとした仕事も斡旋してやるぞ。だが、元の男性に戻るというのなら、し
かも不完全な身体のままだ、罪を償わなければならない。どうだ? 男性に戻って罪
を償うか、女性に生まれ変わって新しい人生を踏み出すか。男性といってもおかまみ
たいな男性にしか戻れないが、女性になればその美貌を活かしてファッションモデル
にすらなれる」
 勧誘員は黙り込んでしまっていた。
 そりゃそうだろう。
 たとえ元の男性に戻っても、身体はほとんど女性並みでおかま扱いされるのは必至
である。そしてどんな罪の償いをさせられるか……。この黒沢医師の性格を推し量っ
てみるにつけ、とんでもないような苦しい罰が待っているような気がする。
 だが、女性になることを選択すれば、この豊かな乳房と美貌で黒沢医師の言うとお
りの薔薇色の人生が待っているかも知れないのだ。そして無罪放免され仕事も紹介し
てくれるという。
 どう考えても、答えは一つしかないじゃないか……。
 勧誘員は、じっと考え込んでいる。
 その表情を見つめ柄、にやにや笑っている黒沢医師だった。

「ねえ、先生ったら……。女性への性転換ばかりすすめているけど、元の男性に戻す
つもりはないんじゃない?」
「ああ、たぶんな。先生の悪い癖がまたはじまったというところだ」
「可哀想ね。どうやら女性になるしかないみたい」
「だが、あの格好のままだとしたら、男に戻ってもなあ……。笑い種だ」
「そうね……」

「か、考えさせてくれないか」
 ついに、勧誘員が折れてきた。
 さすがに、黒沢医師の性転換薔薇色人生攻撃? を畳み掛けられては、承諾するよ
りないと結論に至ったようだ。
 ただもうしばらく考える時間が欲しい。
 そういうことのようだ。
「いいだろう。二日待ってやる」
「なあ、せめてこの格好から解放してくれないか?」
 勧誘員は診察台に縛られている。
 その状態で二日もいることは我慢の限界を超える。
「そうだな……」
 というと、敬の方を向いて言った。
「解くのを手伝ってくれ」
「いいですよ」
「悪いな」


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