響子そして(十九)縁談2
2021.07.23

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します


(十九)縁談2

「それから響子さんには、会わせたい方がもう一人いらっしゃるの」
「会わせたい?」
「秀治さんお連れしてください」
「わかりました」
 秀治は、隣室の応接室に入っていった。
 そして連れて出て来たのは、
「お、おじいちゃん!」
 わたしの祖父だった。
 祖父の娘でありわたしの母親を殺したという後ろめたさと、女になってしまったという理由で、仮出所以来も会う事ができなかった。
「ひろし……いや、響子。苦労したんだね」
「おじいちゃんは、わたしを許してくれるの?」
「許すもなにも、おまえはお母さんを殺しちゃいない。覚醒剤の魔手から救い出したんだよ。あのまま放置していれば、生前贈与した財産のすべてを吸い尽くされたあげくに、売春婦として放り出されただろう。それが奴等のやり方なんだ。いずれ身も心も廃人となって命を果てただろう。おまえは命を絶って、心を救ったんだ。お母さんは、死ぬ間際になって、母親としての自覚を取り戻せたんだ。おまえを恨むことなく、母親としての威厳をもって逝ったんだ。もう一度言おう。おまえに罪はない」
 母親の最後の言葉を思い出した。
 ご・め・ん・ね
 ……だった。
 助けて、とは言わなかった。
 殺されると知りながらも、覚醒剤から逃れるために敢えて、その身を委ねたのだ。
息子に殺されるなら本望だと、母親としての最後の決断だったのだ。
「おじいちゃん……。そう言ってくれるのは有り難いけど……。わたし、もうおじいちゃんの孫じゃないの。見ての通りのこんな身体だし、たとえ子供を産む事ができても、おじいちゃんの血を引いた子供じゃないの」
「倉本さんのお話しを聞いていなかったのかい? 臍の緒で繋がる。いい話しじゃないか。おまえは儂の孫だ。間違いない。その孫から臍の緒で繋がって生まれてくる子供なら、儂の曾孫に違いないじゃないか。そうだろ?」
「それは、そうだけど……」
「おまえが女になったのは、生きて行くためには仕方がなかったんだろう? 儂がもっと真剣におまえを弁護していれば、少年刑務所になんかやることもなかったんだ。女にされることもなかった。娘が死んだことで動揺していたんだ、しかも殺したのが息子と言うじゃないか。儂は、息子がどんな思いで母親を手にかけたのか思いやる情けもなく、ただ世間体というものだけに縛られていた。弁護に動けなかった。おまえが少年刑務所に送られてしばらくしてからだった。本当の殺害の動機が判ったのはな。おまえの気持ちも理解できずに世間体しか考えなかった儂は……。儂は、親として失格だ。許してくれ、ひろし!」
 そう言うと、祖父は突然土下座した。
 涙を流して身体を震わせていた。
「おじいちゃんは、悪くないわ」
 わたしは駆け寄って、祖父にすがりついた。
「済まない。おまえを女にしてしまったのは、すべて儂の責任なんじゃ……」
 もうぽろぽろ涙流していた。
「そんなことない、そんなこと……」
 わたしも泣いていた。
「わたし、女になった事後悔してないよ。秀治という旦那様に愛されて幸せだったよ。わたしは、身も心も女になっているの。だからおじいちゃんが悲観することは、何もないのよ」
「そうだよ。おじいさんは、悪くはないよ」
 秀治が跪き、祖父の肩に手を置いて言った。
「女にしたのが悪いというなら、この俺が一番悪いんだ。刑務所で、ひろしを襲わせるように扇動したんだからな。しかし、俺は女らしくなったひろしに惚れてしまった。女性ホルモンを飲ませ、性転換させてしまったのも全部俺のせいだ。もちろん俺はその責任は取るつもりだ。生涯を掛けて、この生まれ変わった響子を守り続ける。そう誓い合ったから死の底から這いあがってきた。別人になっても俺の気持ちは変わらない。な、そうだろ? 響子」

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