特務捜査官レディー(十七)辞令
2021.07.21

特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)


(十七)辞令

「ただいま!」
 真樹が声を掛けると、いそいそと母親が玄関に出迎えた。
 今日は、敬を連れてくると伝えてあったからだ。
「お帰りなさい、真樹」
「お母さん、紹介するわ。こちらは沢渡敬」
「はじめまして、真樹さんと交際させていただいてます、沢渡敬です」
 きっちりとした態度で挨拶する敬だった。
「これはこれは、うちの真樹がお世話になってるそうで」
「お母さん、立ち話もなんだから、上がってもらいましょう」
「そうだね」

 というわけで、応接室に案内され、積もる話などいろいろと話しあう三人だった。

 敬を見送った後で、応接室に戻る真樹と母親。
「いい人じゃない」
「でしょ」
「結婚するのかい?」
「うん」
「そうなの……お父さんはどうかしらね」
「それよ! どうして、出かけちゃったの? 敬を連れてくるから会って欲しいって言っておいたのに」
「やはり父親ですからねえ。娘の彼氏に会うのは勇気がいるわけよ」
「勇気がいったのは敬のほうよ」
「そうだよねえ。敬さんの方が、何倍も勇気が必要だったよね。会社から電話が掛ってきて、なんやかんやと理由をつけて出掛けてしまわれたよ」
「もう……しようがないお父さんね」
「会えるまで、何度も訪ねてきますよって敬さんは笑って言ってくれたわね」
「そりゃそうでしょ。ちゃんと会って結婚の承諾を取り付けるつもりなんだから」
「やっぱり警察官というのに、こだわっているのかも知れないしね」
「警察官じゃだめですか?」
「うーん。ほら、殉職とかあるじゃない。それを気にしていると思うの。承諾に踏み切れない状態なら、会わないほうが良いと思ってるのかも知れないわね」
「そんなこと……どんな職業だって、例えばタクシーの運転手とか、気を許せば死に至るようなことは、どこにでもあるじゃないですか。警察官だけのことじゃないと思いますけど」
「まあ、それはそうなんだけどね」
「とにかく一度会ってもらわくちゃ、話になりませんわね」
「そうね……」

「それで肝心なことなんだけど……」
「なに?」
「結婚したら、うちの家に来てもらえないかなと思ってねえ。ここ、夫婦二人で暮らすには広すぎるんだよね。もし敬さんさえ、良かったらだけど」
「相談してみます。わたしも親孝行がしたいですし」
「そうしてくれるとありがたいわ」
 母親は、すでに真樹と敬が結婚することを、前提として話を進めているようであった。
 世の常として、娘の結婚に肯定的なのは母親であり、否定的なのが父親であるということである。
 自分が腹を痛めて産んだ娘であり、初めて生理がおとずれて、手当ての仕方や女の身体の仕組みなどをやさしく教えた同性の先輩としての思い入れもある。
 もっとも正確には、真樹はこの母親の娘ではないが、自分が産んだ子供は正真正銘、この母親の孫である。
「早く孫が見たいんだけどねえ……」
 それは母親の正直な気持ちなのであろう。
 真樹としてもその方が話しやすかった。
「孫と一緒に暮らせるといいですね」
「父親があれじゃ、いつのことになるやね」
「そうですね」


 光陰矢のごとし、その年の九月に麻薬取締官の採用面接試験を受験し次の年の四月。
 希望通りに麻薬取締職員となった真樹は、採用後の研修に励んでいた。
 この時点での真樹の身分は、麻薬取締職員であり、取締官として正式任官されるまではまだ幾多のハードルがあった。
 麻薬取締職員及び取締官は、適宜研修を受けなければならなかった。
 厚生労働省主催の麻薬取締職員研修、麻薬取締官初任者研修、麻薬取締官中堅職員研修などの研修や、法務省主催の検察事務官中等科、高等科研修などを受講するとともに、国外では、フィリピンにあるWHO西太平洋地域事務局で開催されている語学研修などに参加。また、麻薬取締官は、捜査を遂行する上で危険を伴うこともあるので、拳銃射撃訓練や、逮捕術訓練などを実施するとともに、外国人による薬物犯罪の増加に対処するため、語学研修も行っている。

 それらのカリキュラムを、教官も驚くほどの優秀な成績で終了し、ついに犯罪捜査の最前線の現場に参加できる取締官に任官されたのである。
 当初は女性ということで、押収した薬物などの鑑定を行う部門へ配属される予定だったのだが、研修においてめざましい成績で終了したこと、及び真樹の強い希望と男女雇用機会均等法などから、犯罪捜査の現場への配属が決まった。
 何せ男女雇用機会均等法は、厚生労働省の管轄であるから、従わないわけにはいくまい。

 ここで麻薬取締官に関する概要を簡単に説明してみよう。
 以下は厚生労働省関東信越厚生局麻薬取締部のホームページからの引用である。
 http://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/index.html




麻薬取締部
●薬物乱用防止をめざして
麻薬取締部の業務は、薬物5法、つまり(1)麻薬及び向精神薬取締法(2)大麻取締法(3)あへん法(4)覚せい剤取締法(5)国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例に関する法律等に規定する取締、許認可、中毒者対策を行っています。

●不正ルートの取締
薬物に関する法規制は、輸出、輸入、製造、製剤、栽培、所持、譲り渡し、譲り受け、使用等の行為ごとに規制し、これらに違反した場合には、罰則を設けています。
麻薬取締部に所属する麻薬取締官は、これらの禁止事項に違反した「薬物犯罪」について、刑事訴訟法に基づく特別司法警察員として、捜査権限が与えられています。

●正規取扱者に対する指導・監督
規制薬物の中には、医療になくてはならない重要な薬物も数多く含まれています。
麻薬取締部は、これらの医薬品が製造・製剤され、若しくは輸入されてから医療現場で使用されるまでの間、適正な流通と管理がなされるよう指導・監督を行っています。

●許認可
医薬品である規制薬物の正規取扱いについては、厚生労働大臣、地方厚生局長、又は知事の免許や許可が必要となっています。
麻薬取締部は、厚生労働大臣が行う免許や許可の権限の一部が関東信越厚生局長に委任されたため、これらの許認可業務を行っています。

●中毒者対策
麻薬取締部は、保健所、精神保健福祉センター、医療機関と協力して薬物乱用者の治療や社会復帰のための助言を行っています。
また、麻薬や覚せい剤の乱用者の相談に応じるために相談電話を設置して、ベテランの麻薬取締官が相談に応じています。
「麻薬・覚せい剤」相談電話
03-3791-3779(東京)/045-201-0770(横浜)

●薬物乱用防止活動
麻薬取締部は、麻薬取締官OBの専門知識を活かした規制薬物に対する正しい知識の普及等の活動を支援するとともに、(財)麻薬・覚せい剤乱用防止センター等と協力して広報活動や啓発活動を行っています。

●麻薬取締官は、厚生労働大臣の指揮監督を受けて、下記の薬物関連5法に違反する罪、刑法第2編第14章「阿片煙に関する罪」の他、麻薬、あへん若しくは覚せい剤の中毒により犯された罪について、刑事訴訟法に基づく司法警察員としての職務を行っています。
 また、税関や海上保安庁などの協力を得て国外から密輸される薬物の押収に努めるとともに、平成4年に施行された「麻薬特例法」を適用して、薬物の密売収益の没収や泳がせ捜査による首謀者・密売組織の摘発などを図っています。さらに、麻薬取締官の専門性を活かして、医療関係者による薬物の不正流通・使用事犯やインターネットを利用した広域犯罪についても積極的に捜査を実施しています。


薬物関連5法
●麻薬及び向精神薬取締法
●あへん法
●大麻取締法
●覚せい剤取締法
●国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(麻薬特例法)





 こうして名実ともに麻薬取締官となった真樹のこれからの活躍を見届けよう。

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