特務捜査官レディー(十四)これから
2021.07.18

特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)


(十四)これから

 身も心も結ばれた感動の余韻に浸りながら、並んで横になる二人。
 これまでの経緯からすぐには眠りに付けそうになかった。
 寝物語として、これまでの二人の生き様を披露しあう。
 真樹は、生死の境を乗り越えて、かの先生の手によって真の女性として生まれ変わった人生。
 敬は、追撃を振り切って特殊傭兵部隊に入り、ニューヨーク市警の所長暗殺に至った経緯。
 二人の話は尽きなかった。

 やがて今後の問題に入った。
「ところでさあ……。一緒に仕事しようと言ったこと考えてくれた?」
「うん……その件だけどさあ」
 煮え切らない返答に、
「あ、別にいいんだよ。今は新しい両親の元で真樹として暮らしているんだし、俺と結婚して専業主婦になるってのでもいいんだ。親孝行も大切だからね。用は一緒に暮らせればいいんだ」
 と切り替えしてきた。
 確かにそれでもいいとは思っている。
 結婚し家庭に入って、子供を産んで育てる。ごく普通の主婦としての生活。
 それでも十分な幸せと言えるだろうし、今の両親の願いでもあるはずだった。敬はそのことを考慮して言ってくれているのだった。
 しかしわたしの意志は決まっていた。
「違うのよ。敬と一緒に仕事したいけど、ちょっと都合があって……」
「都合って?」
「はっきり言うわ。わたし、麻薬取締官になるつもりなの」
「麻薬取締官?」
「そうよ。どうせ一緒に仕事するなら、やり残したことをちゃんと片付けたいと思う」
「磯部健児か?」
 すぐに答える敬。
 彼も心の隅にずっと気に掛けていたようだった。
「でもね。一介の警察官じゃ、あの生活安全局の局長が大きな壁になる。健児を挙げるのも、局長の真の姿を暴くのも不可能だと思うのよ」
「そうだな。その権限を笠に掛けて握りつぶされるのがおちだな」
「最近の警察の不祥事のニュースを見ても判るとおり、警察内部は腐りきっているわ。身内を庇ったり、不祥事を隠蔽しようとしたり、毎日のように馬鹿げた報道が繰り返されている」
「俺達がニューヨークへ飛ばされた要因でもある縦割り行政の問題もあるからな。生活安全局、刑事局暴力団対策課、それぞれが縄張り争いしてる」
「ああ、それだけど。警察庁組織が改編されて、薬物銃器対策課というのが刑事局組織犯罪対策部の中にできたらしいの」
「そうなのか?」
「警察庁にはね。でも地方警察の方では、相変わらず生活安全局の中にあるところが多いわ」
「ふうん……まずは本庁から組織改編をはじめて、いずれ地方に手を掛けるんだろうな」
「でも、国家公安委員会の下の警察機構の中では一本化されつつあっても、薬物銃器対策の組織ととしては、依然として厚生労働省麻薬取締部や、財務省税関そして海上保安庁とがある。それぞれ独自に捜査を続けていて、綿密に連絡を取り合って情報を共有しあって、薬物銃器対策の捜査に役立てているところは皆無に近い状況だわ」
「どっちにしても今の警察はだめだ!」
「だから警察内でいくら足掻いても無駄なこと、治外法権的な立場から警察を暴くしかないわ」
「それが麻薬取締官か……」
「そうなの。行政組織が違うから、犯罪を立証しさえすれば警察内部に踏み込むことが可能だわ。あの局長だって逮捕することだってできるはずよ」
「麻薬取締官か……俺には無理だな」
「だから、以前申請していたじゃない。麻薬と銃器を取り締まる、それぞれの行政組織を一体化させた新しい組織の創設よ」
「ああ、局長に一握りで潰された話だな」
「麻薬犯罪は悪化の一途を辿っているわ。このまま手をこまねいていては、いたいけな少年少女までにも蔓延してしまう。何せ世界一の生産・輸出国家であるアフガニスタンや南・北朝鮮から大量に流出しているんですもの」
「とにかくだ。おまえだけでも麻薬取締官になれよ。国家公務員の採用試験は一年に一回しかないんだからな」
「うん。判った」
 愛し合う二人だが、それにもまして正義感に溢れることが、こんな会話を可能にしていた。
 正義を守って悪を絶つ。
 二人に共通する思いの丈であった。
「取りあえず俺は、元の警察官に戻るよ。沢渡敬としてね」
「敬として?」
「ああ、あの局長にこの生きた姿で会ってやる」
「驚くでしょうね」
「とにかく局長が俺達を陥れたという証拠はどこにもない。そのためにこそニューヨークへ飛ばしたんだからな」
 確かに今の腐敗した警察内部の不祥事は、報道関係が目を光らせている。一介の警察官が死んだというそれだけもニュースになる時代だ。だから、警察官の死亡など日常茶飯事のニューヨークへ飛ばし、抗争事件の巻き添えで殉職というシナリオを用意していたのだ。
「でも、生きて戻ってきたとなれば、また敬をどうにかしようと動き出すでしょうね」
「そこが狙いだよ。今度こそ、奴の首根っこを捕まえてやる。特殊傭兵部隊で鍛え上げた強靭な身体と根性を見せてやるよ。俺の命を狙うなら狙えってみろだ。返り討ちにしてくれる」
「大した自信ね」
「実際、幾度となく死線を乗り越えてきたからな」
「ほんとにね……」

 ともかくも、わたしは麻薬取締官、敬は元の警察官に戻ることを決めた。
 磯部健児を検挙し、犠牲となった磯部親子に報いるためにも、わたし達ができ得ることをしようと誓い合った。

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