特務捜査官レディー(一)序章
2021.07.05
特務捜査官レディー(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します
(響子そして/サイドストーリー)
(一) 序章
厚生省麻薬取締部と警察庁生活安全局、そして財務省税関とが合同して、警察庁の内部に特別に設立された特務捜査課の二人。麻薬と銃器密売や売春組織を取り締まるエージェント。
それが沢渡敬と斎藤真樹だ。
つい先日磯部健児の件をやっとこさ決着させて一安心の敬と真樹。
二人が捜査に手をこまねいている間に、その人生を狂わせてしまった磯部響子のことも無事に解決した。
気を落ち着ける時間がやっと巡ってきて、安らかなひととき。
「ねえ……。しようよ」
真樹が甘えた声で、ブラとショーツ姿で敬の身体を揺する。
事件を解決した後はいつもそうだ。緊張から解き放されて興奮した心身を静めるためには一番いい方法……なんだそうだ。
「なんだ。またかよ」
「いいじゃない」
「俺は疲れてる」
くるりと背を向けて不貞寝を決め込もうとする。
「お願いだよ。このままじゃ、眠れないよ」
といいつつ敬の身体の上にのしかかっていく。
「一人で慰めてろよ」
「そんな冷たいこと言わないでよ。ねえ……」
「もう……しようがないやつだなあ」
「今日は安全日だから……」
真樹が言わんとすることを理解する敬。
しかしできたらできたで、それはそれで構わないと思う敬だった。
結婚し子供を産み育てる平和な生活。
真樹にはその方がいいのかも知れない。
磯部響子の事件に関わるうちに、女の幸せとは何かを考えるようになった。
斎藤真樹……。
その身分は本当のものではない。とある事件にて脳死状態となったその女性のすべてを彼女に移植されて生まれ変わった……。かつて佐伯薫と名乗っていた性同一性障害者で女性の心を持っていた男性。
それが今日の斎藤真樹だ。
せっかく命を宿し産み出す能力を授かったのだ。
命を与えてくれた、その女性のためにも、どうあるべきか……。考える余地もないだろう。
斎藤真樹と佐伯薫。
名前や戸籍は違うものの正真正銘の同一人物だ。だがすでに佐伯薫という人物は死んだことになっている。
あのニューヨークにおいて……。
数日後、敬と二人、局長に呼ばれて出頭した時のことだった。
「健児のことは、今対策課が捜査を続けている。君達はもう何も考える事はしなくていいぞ」
どうかしらね。それだったらとっくに逮捕に踏み切っているはずだ。
所詮、言葉だけだと思った。他局に手柄を立てさせることなどするわけがない。局長のところですべてが握り潰されていることは判っているのだ。
なぜなら、この局長が麻薬類を横流ししているからだ。それが健児に渡って現金化されて戻ってくるという仕組みなのだ。だから局長が今の地位にある限り、健児が逮捕されることはありえない。だがその関係に関しては、確たる証拠がまだ集まっていなかった。
実は健児を逮捕請求した背景には、この局長がどう出るかを確かめる意味合いもあったのだ。
「それで、一体何の用ですか?」
「ああ、実は二人一緒に、ニューヨーク市警へ研修で行ってもらうことになった」
「ニューヨーク市警?」
「麻薬と銃器といえば向こうの方が本場だ。研修の間にぜひ本場の捜査方法について勉強してきてくれたまえ」
「あたし達を厄介払いするつもりね」
「そういうことだな。これ以上、足元を探られないようにしたんだ」
「どうする?」
「所詮、階級と組織の壁は乗り越えられないんだ。俺達がいくら足掻いても局長には手が届かないさ。磯部親子を助けられなかったのは心残りだが、もはや急いで解決しなくちゃならない要件はなくなった。健児や局長を逮捕するには、じっくりと腰を据えてやるしかない。取り敢えず冷却期間として、頭を冷やす意味でもニューヨークで心機一転というのもいんじゃないか」
「そのようね……。まあ、敬と一緒ならそれもいいか。経費でアメリカに行けるんだから」
「そうそう。ニューヨーク観光のつもりで行けばいい」
「調子いいのね、敬は。第一向こうへ行けば英語よ、まともに喋れるの?」
「何とかなるんじゃない? いや、何とかしてみせるさ」
「なんだかなあ……」
「あはは、俺は楽観的だからな」
「もう……」
ニューヨークへ旅立つ間に、敬は英会話の猛特訓を続け、挨拶程度くらいには話せるようになった。後は実地研修あるのみだ。
しかし、ニューヨーク研修が悲劇的な結末を用意していたなどとは、二人とも知る術がなかった。
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