梓の非日常/第二部 第四章・峠バトルとセーターと(二)久しぶりの喧嘩
2021.05.22
続 梓の非日常・第四章・峠バトルとセーターと
(二)久しぶりの喧嘩
川越から日高街道(県道15号)を通って、JR八高線の陸橋を越えて、入間市から始まる一般国道299に合流する。
起点:長野県茅野市 ~ 終点:埼玉県入間市
と、続く189.7km、車での所要四時間44分ほどの飯能丘陵を走り抜ける景観豊かな国道だ。ただし、工事がやたら多く、現在も十国峠(箱根ではない)土砂崩れで通行止めとなっている。令和3年4月29日現在。
途中横瀬町芦ヶ久保と飯能市吾野の間に正丸トンネルがあるが、吾野側入り口の信号を右へ入る道が正丸峠への入り口となる。正丸トンネルができたせいで、旧街道の峠道は寂びる一方となっており、道路の補修などもあまり行われていない。ガーデンハウスや峠茶屋などは休業中の所が多いので要注意である。
峠道をタンデムで走り抜ける慎二の自動二輪。
と、背後から爆音をあげて駆け上ってくる自動二輪の一団があった。
次々と慎二達を追い抜いていきながら、
「ヒューヒュー!」
からかう仕草を見せていた。
「なによ、あれ?」
「いわゆる暴走族ってところだろうな」
峠頂上にあるガーデンハウス付近に、先ほどの暴走族がたむろしていた。
峠道では判らなかったが、ヘルメットを脱いだ姿は、全員女性だった。
だからといっておとなしいはずはない。慎二達が先に進めないように道を塞いでおり、仕方なく停止すると同時に囲まれてしまった。
「見逃してくれそうにないね。どうする、梓ちゃん?」
「しようがないわよね」
自動二輪から降りて、ヘルメットを脱ぐ梓。
慎二もヘルメットを脱いで降りる。
「何か用?」
こういうことには慣れている梓だった。
怯える表情も見せずに問いただす。
「この先に行きたかったら通行料を貰おうか」
「通行料?」
「そうだよ。この辺りは、あたし達の縄張りなんだよ。痛い目に遭いたくなったら金を出しな」
「で、いくら出せば通してくれるの?」
「五万円だ。なければあるだけ出せ!」
金額を聞いて驚く慎二だった。
「五万円! それだけあれば高速道路を日本の北から南まで行って、お釣りがくるぞ」
一方の梓は、金額を言われてもまるでぴんとこない。
「それって高いの? 安いの?」
「ばーか。高いに決まっているだろ」
「そうなんだ……」
周りを囲んでいるにも関わらず平然としている二人に、暴走族達の方がいきり立ってきていた。
「出すのか、出さないのか!」
「出すわけないだろう」
きっぱりと言い放つ慎二だった。
「貴様らあ! ほんとに痛い目に遇いたいようだな」
「痛い目か……。遭わせてもらうじゃないか」
久しぶりに喧嘩ができると、はりきっている感じの慎二だった。
ジャンパーを脱いで自動二輪に掛ける慎二。
「もう……しようがないわね」
梓も楽しそうな表情を見せて、フェイクムートンジャケットを脱いで、慎二に倣うとすると、
「まあ、まてよ。梓ちゃんは見ていろよ。ここは、デートに誘ってこんな処に連れて来た俺の責任だ。まかせておきな」
と余裕たっぷりに制する慎二だった。
「あらそうなの? でも、女の子には手出ししない主義じゃなかった?」
「手加減してやるさ。顔には傷つけないようにしてやるよ」
二人の会話を聞いて、腹を立てない者はいないだろう。馬鹿にされたように感じるのは当然だ。
「お、おまえら」
逆鱗に触れられたような表情になって襲い掛かってくる暴走族達だった。
鬼の沢渡と恐怖される慎二のこと、ただの暴走族が敵うわけがなかった。彼女らは集団行為によって相手を怯えさせるだけで、まともな喧嘩などしたことない。
手加減しながらも次々とねじ伏せてゆく。
「ふう……」
大きく深呼吸する慎二。
その足元にはうずくまっている暴走族レディー達。
「早かったわね」
声を掛けられて、倒れている者達を跨いでいきながら、自動二輪の所の梓の元へ歩いていく。
「この程度のやつらなら、ほんの朝飯前さ。とっととこんな所からオサラバしようぜ」
「放っておいて大丈夫なの?」
「軽い脳震盪や麻痺を起こしているだけだ。十分もしないうちに回復するさ」
「それならいいけど」
ヘルメットを被りなおして自動二輪に跨る慎二。
梓もそれに従う。
「そいじゃ、行きますか」
エンジンを始動させて、その場を走り去る二人だった。
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