梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件(一)ハワイ航路
2021.04.01

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件


(一)ハワイ航路

 太平洋上を飛行するDC-10型改ジェット機。機首には日の丸、そして尾翼には篠崎重工のシンボルマークが記されている。
 DC-10はロッキード事件に絡む汚職事件、販売戦争によって欠陥機を増産して、事故が相次ぎ、1988年に生産終了となった。
 とはいえ、篠崎重工の技術陣によって、機体の改良と綿密な整備が図られ、今なお大空を飛び続けている。
 そのコクピット(操縦室)では、パイロットが青ざめた表情で計器を操作している。
「どうだ?」
 機長が神妙な面持ちで隣の副操縦士に確認している。
「だめです。やはり足りません」
「そうか……」
「申し訳ありません。私が計器確認を怠ったばかりに」
「それを言うなら、私も同じ事だ。ともかく麗香さまにこっちに来てもらおう。お嬢さま方には、まだ知られてはいかんからな」

 その機内では、梓と絵利香に麗香が対面して座っている。
「ほら、見て。新しく買った水着」
 と梓が、バックから取り出した水着を見せている。
「へえ、可愛いワンピースね。梓ちゃんのことだから、ビキニかなと思ってた」
「う……ん。あたしも最初はビキニにしようかなと思ったんだけど、やっぱりね……。で、絵利香ちゃんは?」
「あまり見せたくないんだけど……」
「もう、どうせ海に出れば着るんじゃない」
 梓自身が水着を持ち出したことで、自分も仕方なく見せるしかないとあきらめる絵利香。
「なんだ、絵利香ちゃんもワンピースじゃない。遠慮するから、てっきり……」
「ビキニを着るってがらじゃないから」
「だよね。で、麗香さんは?」
「え? 私は、世話役としての仕事がありますから」
「ん、もう隠すなんてずるいわよ。自由時間を与えてるんだから、当然持ってきてるでしょ」
「仕方ありませんね」
 梓の前では、隠し事は許されない。
「わあーお! 黒に金縁のビキニだよ。さあーすが、麗香さん」
「うん。麗香さんのプロポーションなら、やっぱりビキニだよね」
「おだてないでください」
 そんな風に水着談義をしている梓達から通路を隔てた反対側には、美智子ら梓の専属メイド四人がトランプ遊びをしている。ここは篠崎重工の自家用機内、篠崎側の客室乗務員がいるので、美智子たちは機内にいる間は自由なのである。ここは機内勤務のプロに任せて、口出ししないほうが無難である。
「ねえ、あなた達はどんな水着持って来たの?」
 通路の向こうから梓が尋ねる。
 顔を見合わす四人だったが、棚からバックを降ろし、
「はーい。これでーす」
 と、一斉に水着を掲げ上げた。
 ビキニにワンピース、そして色と柄、それぞれの好みに応じた水着だ。
 結局全員の水着を取り出させた梓。何事も一蓮托生というところだろう。

 そこへ神妙な面持ちをした客室乗務員が麗香を呼びにくる。
「麗香様。機長がお呼びです。コクピットへお越しいただけませんか」
「コクピットへ?」
 乗務員の表情と、コクピットへの呼び出し。
 聡明な麗香のこと、非常事態が発生したに違いないと即座に判断した。梓の方をちらりと見てから、
「……わかりました」
 と立ち上がった。

 乗務員に案内されて、コクピットに入ってくる麗香。
「あ、麗香様」
「どうしましたか?」
「正直に申し上げます。飛行機がコースを逸脱、ハワイに到達するだけの燃料も足りません」
「どうしてそんなことになったのですか?」
「はい、直接の原因は、出発前に重量確認した数値と、現在の重量計が示す数値に食い違いが生じていることです。およそ八十五キロなんですが、それで計器に微妙な狂いが生じて、長距離を飛行する間に大きく航路が外れてしまったようです」
「今の今まで、重量オーバーに気づかなかったというわけですか?」
「申し訳ありません。出発前に点検したきりで、計器の確認を疎かにしてました。自動操縦装置に頼り過ぎていたようです」
「過ぎたことを今更責めてもしようがないでしょう。ともかく結論として、ハワイにはたどり着けないというわけですね」
「その通りです。それに近辺にも空港を持つ島はありません」
「どこか安全に着陸できそうな島はありませんか?」
「はい。探索中です」
「遭難信号は?」
「発信しています」
「わかりました。私は、お嬢さまがたに実情を話してきます。引き続き探索を続行してください」

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