梓の非日常 第二部 第八章・小笠原諸島事件(七)無人島
2021.03.05

梓の非日常 第二部 第八章・小笠原諸島事件


(七)無人島

 父島一泊目の夜が明けた。
 食堂に集まって、食事の合間に鶴田が今日の予定を発表している。
「今日は、班に分けてグループ行動の自由時間とします」
 その一日は、一般の旅客がするように、島内の観光名所を、班ごとに分けられた各自が自由に巡ることとなった。
 ただし、小笠原海洋センターのように『おがさわ丸』が停泊していない期間は休業という所もあるので要注意。
 携帯の受信範囲から出ないようにし、圏外になったら戻るように決めておく。
 下条教諭は、万が一に備えて連絡係として旅館で待機することとなった。
 各自それなりに楽しんで、自由行動の日が暮れた。

 父島、二日目の朝となる。
 この旅行でのメインイベントの日である。
「今日は、お待ちかねの無人島生活体験クルーズです」
「おおお!」
「よっしゃあー! この日を待ってたぜ」
 一同も楽しみにしていたイベントである。
『都会では経験することのできない原始生活を過ごしてみよう!』
 ということである。
「島には電気・ガスもなければ水道もありません。すべて自給自足で、丸一日を過ごしていただきます」
「万が一に備えて、非常食一日分を置いておきますが、手を付けないでください。一応鍵を掛けた緊急箱に入れて、下条先生に預けておきます。その箱には緊急連絡用の無線機も入れておきます」
「ところで、携帯は持って行っていいのか?」
「だめにきまっているでしょ! 原始生活をエンジョイするのですから」
「第一、圏外になるでしょ」
「ゲームはできるけど……」
 スゲもなく拒否される。
「はい。携帯はすべて預かります」
 ガイドの前に二人の人物が進み出た。
「一応、その道のプロフェッショナルであるインストラクターが男女二人付いていただけるので、安心できます」
 ペコリと頭を下げる二人。
 インストラクターは、IR(イントラ)と略称しましょう。


 というわけで、船に乗って無人島へとやってきた。
「明日のこの時間にお迎えに参ります。それまで、無人島生活をお楽しみください」
 そういって、船は島を離れていった。
「おいおい。俺達を放っておいて、行っちゃうのかよ」
 島に残るのは、梓達生徒と下条教諭そしてインストラクターの二人だった。

「まずはこの島について説明致します」
 IRが語りだした。
「毒蛇や毒虫、マラリアを運ぶハマダラカなどはいませんのでご安心ください」
 島の状況を詳しく解説している。
 蚊が生息できるには、吸血する対象がいなければ繁殖できないので、無人島など動物のいない島には当然吸血する面倒な蚊はいない。
「しかしよお。無人島っつうけど、俺らが入った時点で、すでに無人島じゃねえんじゃね?」
「まあ、確かにそうですけどね」

「空の下、土の上で寝なさい というのは酷ですので、十人用の大型テント四基用意してあります」
「そうよね。吸血蚊はいなくても普通に虫が飛んできたりして、結構うざいから」
「いろいろと必要な物がありますが、たった一日ですべてゼロから作るのは不可能ですので、火を起こす道具や釣り用品や採集籠などは用意してあります」
「まあ、当然そうなるだろうね」
 誰かが呟いた。
「それでは、役割分担を決めましょう。飲み水を採取する掛かり、食料を調達する掛かり、火を起こす掛かり、野営できる場所を確保する掛かりです」
「飲み水? 湧水があるでですか?」
「はい。ここは狐島ですので、飲用に適した水が湧く場所はありません。なので、飲み水はこちらで用意させていただきます」
「ただし、サバイバルで水を得る方法だけはお教えいたします」
 島の滞在期間が一日しかないのに、無人島生活らしくあれもこれも 0 から作り始めれば、それだけで日が暮れてしまう。

「公平を期するために、クジで役割を決めます」
 と言って中央に穴の開いた箱を持ち出した。
「この箱の中に、役割を示した紙が入っています。各自手を差し入れてクジを引いてください」
 順番にクジを引いていく生徒達。
 梓も箱に手を入れる。
「火起こしがかりだよ」
 と発表すると、
「あ、俺もだ」
 慎二が応える。
 絵利香はというと……。
「残念、飲み水採取掛かりだわ」

 というわけで、各自分担ごとに分かれて行動を始めた。

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