梓の非日常/第三章・ピクニックへの誘い(十四)戦い済んで火が暮れて
2021.02.28

梓の非日常/第三章 ピクニックへの誘い


(十四)戦い済んで日が暮れて

 参加者全員が競技を終えた。
「それでは一回戦の競技の結果を発表しますが、二回戦では一回戦の成績の男子上位からと女子下位から順番に男女ペアを組んでいただきます」
 電光掲示板に男女別順に成績が発表された。
「一位が沢渡か……信じられないなあ。最後の最後に油断したのかスプリット出して227点。それ以外オープンフレームがないよ。ほとんどプロじゃんか。こんな奴とは勝てるわけないじゃないか」
「二回戦は、クロス成績順の男女ペアだから一応平等になると思うよ」
「男子一位、沢渡慎二君。ペアを組まれるのは女子十五位の真条寺梓さん」
「おまえが最下位とはなあ……58点か」
「ああ、波に乗るのが遅すぎた。もう少しコツが判るのが早ければ絵利香ちゃんに勝てたのにな」
「男子二位の鶴田公平君と、女子十四位の篠崎絵利香さん」
「公平くん、上手なんですね」
「まあ、上達本読んだり、それなりに経験積んでるから。ほら幹事としてボーリング大会開催したりするのに、ルールとか覚えたり素人さんにある程度教えたりしなきゃならないでしょう」
 組み合わせ発表が終わり、第二回戦が開始された。
「二回戦ではペアの二人でワンゲームをチャレンジします。奇数フレームの一投目は男子、二投目は女子に。偶数フレームでは反対に一投目を女子、二投目を男子に投げていただきます。もちろんストライクなら二投目はありません。それではみなさま仲良く優勝目指して頑張ってください」

「ストライク!」
 指を鳴らしてガッツポーズの梓。
「やったな。とりあえずダブルだ」
「へへん。もうすっかりコツ掴んだからな」
 すっかり有頂天の梓。腕前の上達もさることながら、大衆遊戯というものをはじめて経験して興奮しているせいもある。ゲームセンターはもちろんの事、映画館、劇場、プールなど不特定多数の客が利用する場所には、出入禁止というお触れが出されていたから。財閥令嬢の哀しき宿命というところ。
 一方の絵利香・鶴田組は確実にスペアを取っていた。第二投を絵利香が投げる時は、鶴田が確実にピンを取れるアドバイスをしていた。
「ボーリングでは高得点を出すには、ストライク取るのも肝心ですが、オープンフレームを作らない事も大切なんですよ」

 ストライクを決める慎二。
「これでターキーだな」
「あたし達の勝ちかな」
「いいや、第二・第五フレームでスプリットオープンがあるから得点は、絵利香ちゃん組みに負けているんだ」
「ええ? うそお、あたし達の方がストライクが多いよ」
「うーん。そこがボーリングの採点方法の不思議な所なんだ」
 スコアに目を移す慎二。
「さて、みなさん第九フレームを終了した時点で、得点を確認してみましょう。第九フレームでスペアの絵利香・鶴田組は、第八フレームの得点が180点。同じくターキー出した梓・沢渡組は、第十フレーム一投目でストライク出しても169点となっています。優勝の行方は、この両ペアに絞られたようです。第十フレームを全部ストライクだしたとして絵利香・鶴田組が230点、梓・沢渡組が229点ということになります」
「一点差か……まあ、いい勝負だよね」
 一同が電光掲示板を眺めている。
「勝負は最終フレーム次第ですね。スペアとターキーの後のダブルスコアとなる第一投目が重要です。ストライクを出せば断然有利になります」
 一同が注目する中、梓がスタートラインに立った。
「梓さん、第一投目を投げました。ボールはレーンを転がってポケットまっしぐら。おおっと! トップピンが残った! 残念です。これで絵利香組がスペアを取れば優勝が決まります。気を取り直して第二投目。スペアです」
 会場がどよめいている。
 残念そうに梓がレーンから降りてくる。代わって絵利香がレーンに上がる。
「続いて絵利香さんが、第一投目に掛かります。投げました、ボールは……いけない! 深い。割れたあ! 7と10番ピンのスプリット。プロでもこれは難しい。鶴田君が話し掛けています。おそらく無理せずどちらかの一本を倒すように伝えているのだと思います。絵利香さん、第二投目に入ります。ボールは7番ピンを倒して、ゲーム終了。得点は207点。これで梓さんがストライクを取れば208点で、逆転優勝です」
 スタートラインに立つ梓。
「おい、梓ちゃん。ストライクだぞ」
「まかせて頂戴」
 ゆっくりと投球に入る梓。
「いっけえ!」
 快音とともにピンが弾け飛ぶ。
「あちゃああ……」
 顔を覆い残念がる梓。
「なんと! またしてもトップピンが残った。同点! 梓組も、207点でゲームを終了しました」

 VIPルーム。
 ベッドに仰向けになり、両手を掲げるようにしてスコアを眺めている梓。
「最後の最後で波乱万丈ってところかな」
 縁に腰掛けて同じようにスコアを眺めている絵利香。
「梓ちゃん。初めてにしてはすごいじゃない。運動神経抜群だから」
「絵利香ちゃんこそ。よくやったよ」
「コーチが良かったんだよね。で梓ちゃん、機嫌は直った?」
「そうだね。身体動かしたら、すっかり良くなったよ。うじうじしてたのが不思議なくらい」
 スコアを放り出して、大の字になる梓。
「寝ようか!」
「うん。明日は、河原でバイキングだよ」
「そうだね」
 枕もとのランプを消して眠りにつく二人。

第三章 了

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