梓の非日常/第二章・スケ番グループ(六)スケ番登場
2021.02.10

梓の非日常/第二章 スケ番グループ(青竜会)


(六)スケ番登場

 道場の窓から中を覗く女達がいた。この学校を取り仕切るいわゆるスケ番グループ
という奴だ。
「あいつが、そうか」
「はい。間違いありません」
「よし。あいつが出てきたらやるよ。いいな」
「はい」

 女子クラブ棟から制服に着替えて出てくる梓と絵利香。
 シャワーを浴びてしっとりと湿った梓の髪が夕日に輝いている。
「信じられない! 男子クラブ棟にシャワー室がないなんて」
 言いながら掻き上げる髪から、シャンプーの香りがほのかに漂う。
「シャワー室は、結構場所とるからよ。男子はシャワー室よりも、より多くの部室を
確保したかったみたい」
「それで汗臭い身体で電車やバスなんかに乗られたら、そばにいる乗客は迷惑じゃな
い」
「そんなことないわよ。聞いたら、稽古の後は近くの銭湯に入るって言ってたよ」
「ふーん。銭湯か……大衆浴場のことよね。知ってる? 銭湯には、水着を着て入っ
ちゃだめなんだぞ、すっぽんぽんで入るんだ」
「それくらい知ってるわよ。梓ちゃん。入った事ないでしょ」
「あるわけないでしょ」
「今度、一緒に入ってみようよ」
「そうだね。日本にいる間に、一度くらいは経験してたほうが後学のためになるか…
…」
「そこまでかしこばらなくてもいいと思うけど」
「そうか……あはは」
「ふふふ」
 梓が笑うと絵利香もつられて笑う。アメリカ育ちの財閥令嬢の二人には、特別な事
情がない限り銭湯に入る機会はないだろう。
 お抱え運転手の石井に迎えに来るように伝えてあるので、ロールス・ロイス・ファ
ンタムVIを待つべく裏門へ向かう梓達。裏門に通ずる道は広く人通りも少ないので、
ファントムVIが入ってくるのに都合がいいからだ。
「それでね、先輩達の練習見学してたけどさあ、やっぱり稽古相手となると武藤先輩
しかいないみたい。彼、基本がしっかり出来ているのよね。多分小学校の頃からやっ
てるんじゃないかな、それともどこかの道場に通っているか」

 その時だった。
 わらわらと梓達を取り囲むようにスケ番グループが現れたのだ。二人が逃げ出せな
いように完全に包囲されている。
「なに?」
「さあ……」
 首を傾げる二人だったが……、
「あ、分かった!キルラキルのコスプレでしょ?アニメなのに、ドカーンと書き文字
が入ってて面白かったよ」
 と、突拍子に納得する梓。
「ちがう、ちがう!」
 絵利香が慌てて訂正する。彼女らを怒らせるような発言は禁句のようだから。
「何言ってんだこいつ」
 不良の一人が呆れて言った。
「と、とにかくだ。沢渡と一緒に、あたい達の仲間を病院送りにしたのは、あんただ
ね」
 リーダー格と思われる人物が強面の表情で言う。
「こいつら、あたしに用があるみたい。絵利香ちゃん、危ないから下がってて」
 梓が自分の鞄を手渡しながら囁くように言うと、納得して静かに退く絵利香。
 自分には何もできない。せめて邪魔にならないように離れているのが策なのだと、
十分承知しているからだ。
 梓は、洗ったばかりでまだ結っていなかった自慢の長い髪を、ポケットにしまって
いたリボンで簡単にまとめはじめた。
「さてと……釈明しても無駄のようだから」
 といいながら臨戦体制をとり、
「いつでもいいわよ。掛かってくるなら掛かってらっしゃいな」
 自分の方から戦いののろしを上げる梓だった。
「わかってるじゃないか。それじゃ、遠慮なくいくよ!」
 合図とともにスケ番達が襲ってくる。
 最初に飛び掛かって来た相手、その腕を極めて懐に潜り込み、そして見事な一本背
負い。相手はもんどりうって宙を舞って飛んでいく。
「あ! あれは、慎二くんにかけた技だわ。そうか……」
 以前梓が絵利香に語ったことがある。
『大勢の人数相手に喧嘩する時はね、まず機先を制して戦う意欲を失わせることが大
事なのよ』
 それを実行に移していたのである。
「あんな大技を見せられたら、好んで接近戦を挑もうとするものはいなくなるわ」
 確かにスケ番達の攻撃が散発的になっていた。意を決して殴りかかって来ても、腰
が引けているのでまともな有効打がでない。梓は苦もなく近づいてくる相手を倒して
いく。

 勝負あったかと思われた時だった。
「きゃあ!」
 悲鳴があがり、梓が振り向くと絵利香が、一人の女に羽交い締めされていた。
「へへ、こいつがどうなってもいいのかな」
 カミソリを頬にあてられている絵利香は、恐怖のあまり声も出せず震えている。
「てめえが動けば、こいつの奇麗なお肌に傷を作ることになるぜ」
 まともに戦っては相手にならないと悟ったスケ番達は、絵利香を人質にとる作戦に
出たのである。
「……絵利香ちゃん……」
「形勢逆転だな」
「今までの分、まとめて返させてもらうぜ」
 一斉に梓に向かっていく女達。
 絵利香を人質に取られ攻撃手段を失った梓は、身体を屈め両腕で顔から胸をブロッ
クする態勢に入った。
「待ちな!」
 大きな怒声がこだました。思わず立ち止まり、一斉に声のしたほうに振り向く女達。
 そこには、絵利香を羽交い締めしていた女の腕を、ねじり上げている慎二がいた。
「いてえ、何すんだよ」
「おまえら、喧嘩するなら正々堂々と戦えよ」
 慎二は、腕をねじ上げていた女の背を、どんと押して突き出した。
 つんのめるようにして地面に倒れる女。
「沢渡! なんでおまえがここに」
「言っとくが、俺は女とは戦わんからな」
 ……よく言うよ。あたしとは決着つけるつもりのくせに……
「女は女同士、心ゆくまで戦いな。俺はここで見物させてもらうぜ」
「形勢、再びぎゃーくてん。ってところかしら」
 態勢を立て直し、再び攻撃の姿勢を取る梓。
「ちぃっ。みんな、かかれ」
 再び乱闘がはじまる。
 絵利香はどうやら慎二が守ってくれるようだ。
 そう判断した梓は、手加減しない。

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