梓の非日常/第二章・スケ番グループ(五)黒帯?
2021.02.09

梓の非日常/第二章 スケ番グループ(青竜会)


(五)黒帯?

 スーパーリンペイの演技が終わった。
 絵利香から手渡されたタオルで汗を拭っている梓。他の一年生が息を切らしているのに、呼吸は整っているし道着さえも少しも乱れていない。
「一年生は、ここで少し休憩します」
 さすがに壱百零八手の後に、稽古を続ける体力は、一年生にはない。
「今回教えた型は、スーパーリンペイと言って、空手の型でも最高難度と言われています。今日明日で覚えられるものではないし、高校在学中にも覚えられるとも限りません。ではどうして教えたのかというと、型とはどういうものかを、身を持って感じてもらうためです。次回の稽古からは、やさしい基本の型から順次教えていくつもりです。ではしばらくは、端によって先輩方の練習を見学していてください」

 梓のもとに下条が歩み寄ってきた。
「ちょっと、真条寺君」
「はい?」
「君は、空手の経験があるのかい?」
「いいえ」
「しかし、君の動きを見ていると鍛練の形跡がある。それも沖縄唐手の鍛練法とみたが」
 ……ええ! ちょっと動きを見ただけで、唐手のことを見抜くなんて、この先生ただものじゃないわ……
「はい。空手の経験はありませんが、合気道と沖縄古武術の稽古をしておりました」
「どうりで、動き方が手慣れていると思ったよ」
「先生こそ、一目で見抜くなんて、よほど研究なされているんですね」
「それなりにね……だてに空手部の顧問をしていないってところかな」
 梓が研究といったのは、下条教諭がとても武術をやっているようには思えなかったからだ。武術家というよりも研究家として、顧問を引き受けていると思っていた。
「それと真条寺君」
「はい?」
「次の稽古からは、黒帯絞めてきていいからな」
「どうして、黒帯と?」
「体道、つまり君の身のこなしを見れば判るよ。だいたいからして、道着は着古しているのに新品の白帯なんておかしいだろ」
「あはは、やっぱり判ります? 本当は道着も新調しようかと思ったんですけど、着慣れているものでないと十分な動きができないから。新品のものってごわごわしてますからね。白帯は持っていなかったので、仕方なく新規購入しました」
「頭かくして尻かくさずだな。正直に、合わせ段位でいくらの免状を持ってる?」
「三段です。合気道三段、古武術の方は民間伝承なので正式な段位というものはありません」
「そうか……とにかく許すから黒帯絞めてこい」
「どうして黒帯にこだわるんですか? 空手は始めたばかりです。白帯が自然だと思いますけど」
「それはだなあ……」
 と切り出そうとした時、横合いから藤沢が口を挟んだ。
「黒帯絞めた女の子がいれば、新入部員が増えるからですよ」
 いつの間にか、梓を取り巻くように部員達が集まって来ていた。口々に質問をあびせかけている。
「へえ、梓ちゃん。黒帯だったんだ」
「どうして隠してたの?」
「え? だってえ……」
「しかし、有段者の女の子が空手部に入ってくれるなんて、願ったりかなったりだよ。ね、せ・ん・せ・い」
「あのなあ、おまえら。稽古中だろが!」
 一年生担当の藤沢はともかく、稽古していたはずの二・三年生までが集まってきていた。
「この際、固いことは言いっこなしだよ。先生」
「あのですねえ……。空手については無段なんですから、白帯でいいじゃないですか。まずは級位認定から一歩ずつやりましょうよ」
「そうは言ってもなあ……」
 ひとえに黒帯を勧めるのはやはり新入部員勧誘のためだろう。
 そもそも梓の空手は喧嘩空手で、正式に習って体得したものではないし、認定試験も受けていないので、白帯黒帯以前の問題である。

ちなみに段位認定を取得するには、各都道府県空手道連盟公認段位審査会に合格すること。
3段(少年段位2段)までは、以下のものを体得する必要がある。

基本:外受逆突、手刀受逆突、前蹴逆突
形 :2つの形
  全空連指定形1つ/自由形(但し、ピンアン・平安・鉄騎・サンチン・ゲキサイを除く、JKF指定型かWKF得意型リストから受審者が選択)計2つの形
組手:自由組手又は約束組手(2回)

少年初段は基本形と全空連指定形1つ

全空連指定形は
●セーパイ  (剛柔会)
●サイファ  (剛柔会)
●ジオン   (松濤館)
●カンクウ大 (松濤館)
●セイエンチン(糸東会)
●バッサイダイ(糸東会)
●セイシャン (和道会)
●チントウ  (和道会)
などがある。

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