あっと!ヴィーナス!! 第三部 第二章 part-8
2020.12.25

あっと! ヴィーナス!!(42)


第二章 partー8

「そこはそれ、さっきリレミト呪文使っただろ?あれだ」
「あれはMPが必要だ。さっきのでMPは尽きた」
「たった一回でか?」
「ああ、ドラクエは初心者だからなMPは少ししかなかった」
「ヴィーナスはどうなんだよ?」
「私は、そもそもドラクエの呪文は知らないし」
「ならば神通力を使えよ。それならば無限にあるんだろ?」
「いやなに。最後の城門をくぐったらもはやハーデースの領域だ。我々天上界、一介の女神の力などすでに封印されておるわ」
「あんだとお!?なぜそれを早く言わないんだ」
「聞かないからだ」
「聞くも何も、知らなきゃ聞けないだろが!!」
 侃々諤々(かんかんがくがく)、大広間に響き渡るほどの声でまくし立てる。
 実は、一行を取り囲むようにして、無数の魔物たちが蠢(うごめ)いているのにも気づかない。
 知らぬが仏、能天気な会話を続けながらも前に進む。
「お!前方に何かあるぞ!!」
「あれは、人?……いやハーデース様のようだ」
「なに!ハーデースだと?」
 途端に歩みが早くなって、とうとうハーデースの前に立ったのである。

 玉座に腰を降ろして、一行を出迎えるハーデース。
「よくぞ参った。疲れただろう、そこに電気按摩椅子を用意してある。身体を解(ほぐ)すがよかろう」
 指さした所には、某メーカーのマッサージチェアが置いてあった。
 どこから電気を引き込んでいるのかは謎であるが……。
「まさか、座った途端。手枷足枷が出て拘束されるんじゃないのか?」
「それはないぞ」
「さらに、電気椅子になっているんだろう?数千ボルトの電気が流れてあの世行きとか。ああ、ここがあの世だっけか……」
「だから違うと言っておる」
「電気椅子と言えば、送電施設を交流直流どっちにするかで、直流を推すエジソン陣営と、交流を推すテスラ&ウェスティンぐハウス陣営とで鍔迫(つばぜ)り合いやっててさ」
「何の話をしている?」
「エジソンは、交流の危険性を訴えるために、電気椅子の公開実験をやったそうだ」
「だから、何の話をしているかと聞いておる」
「結局、自由に電圧を変えられる交流に軍配が上がったのさ。でもさ、本当は直流の方が送電ロスという面では優れていたんだ。技術が発達して、簡単に直流交流変換が容易になって、再び直流送電が行われるようになってる」
「……もういいよ」
 長々と説明を続ける弘美に、耳ダコ状態になったハーデースだった。
 ふと、マッサージチェアの方を見てみると。
「ほほう、これは楽ちんだな」
 イの一番に、その恩恵に預かっていたヴィーナスだった。
 適度にモミモミされて、肩や腰などが揺れ動いている。
「まるで天国にいる気分じゃ!」
 実に気持ち良いという表情をしている。
 天国気分とか、天上人の言葉ではないが。
「おまあなあ!俺を差し置いて、真っ先に按摩椅子に乗っかるとは間違ってないか!?」
「女神とて疲れるんだぞ。日頃から歩くなどしたことないのに、地を掘り進んできたんだ。それに、レディーファーストという言葉を知らぬのか?」
「それは、足腰立たぬほどまで酒に溺れているからじゃないのか?」

「まあまあ、喧嘩するな。あと二台出してやるから」
 というと、下僕の骸骨が電気椅子をさらに二台運び出してきた。
「こらこら、電気椅子と言うなよ」
 文章が長くなるからです。
 新聞紙が字数を減らすために、コンピューターを電算機と呼ぶのと同じです。
「新聞ねえ……。気持ち悪くなるから止めてくれ!」
 マッサージチェアが二台、弘美たちの前に置かれた。
「そいじゃ、遠慮なく」
 ハーデースの御前において、マッサージチェアに身体を委ねる三人。
 ゆらゆらと身体が揺れて気持ちよさそうである。
「なんか、忘れてるような……」
 ヴィーナスがぼそりと呟いた。
 我に返る弘美。
「そうだった!こんなことしてる場合じゃなかったあ!!」

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