あっと!ヴィーナス!!第三部 第一章 part-1
2020.12.14

あっと! ヴィーナス!!(34)


第一章 part-1


 ここは栄進中学3年A組の教室。
 ホームルームの時間、愛と美の女神ヴィーナスこと『女神奇麗』教諭が壇上に立っていた。
 この物語のヒロインたる相川弘美は、ヴィーナスに激しい怒りの視線を送っていた。
「おい!なんで、お前がいるんだ!!」
「私は教師だぞ」
「俺を女にしたんだから、もう用はないだろが」
「その言葉使いよ。身体は女の子になったけど、心は男の子のままじゃない」
「それがどうした。これが俺の性分だ」
「それがいけないのよ。まるで『男の娘』の言葉」
「しようがねえだろ。心は男なんだから」
「だからよ。あなたが女の子の心を持つまで、私が調教するわ」
「調教だと!?まさか、ボンテージ姿で鞭を手に『女王様とお呼び!』とか言って、ハイヒールを舐めさせたりする奴か?」
「何を言っているのか!?」
「世間の常識だろ?」
「とにかく!あなたが身も心も女の子になるまでが私の役目よ。男の娘じゃ、世間を渡ってけないわよ」
「なんとかなるさ。ほっとけ!アル中のくせに女神面するな」
「言ったわね!」
 などと、矢継ぎ早に繰り出される会話は、すべて以心伝心で行われているので、周囲の生徒達には伝わっていない。

 キンコーンカーンコン!
 となるチャイムの音。
「放課後教務室に来い!教諭命令だぞ!!」
「へいへい」

 放課後となる。
 幼馴染の双葉愛が話しかけてくる。
「帰りましょうか」
 家がすぐ近くなので、登下校はいつも一緒だった。
「あ、いや。女神先生に呼ばれてるんだ。先に帰ってていいよ」
「何の用かしらね?」
「時間が掛かるかもしれないから」
「分かった。先に帰るね」
「ああ、気を付けてな」
 名残惜しそうに別れて、一人帰路に着く愛だった。
 ちなみに天界での出来事は、ヴィーナスによって愛の記憶から消去されている。

 女神の執務室へとやってきた。
「何だよ。呼びつけやがって」
「とりあえず、これを渡しておく」
 と、手渡されたのは封書だった。
「何だよ、これは?」
「ゼウス様からの手紙だ。さしずめ、ラブレターというところだろな」
 聞くなり、ビリビリと封書を破る弘美だった。
「あ、こら!せめて中身ぐらい読めよ」
「知るかよ!!」
 と、ごみ箱に投げ捨てる。
「何が不満だよ。ゼウス様のお目にかなうだけでも栄誉なことだぞ。クレオパトラや楊貴妃のようになりたくないのか?」
「言ってろよ。結局、みんな悲劇の女王になってるじゃないか」
「そうだったけな……(とぼける)」
 その時、ヴィーナスのスマホに着信があった。
「おまえ、神のくせにスマホ持ってるのかよ」
「神だって、最新情報を集める必要があるからな」
 スマホに出る女神。
「なんですってえ!!」
 突然、大声を出す。
「な、なんだよ。ビックリするじゃないか」
「落ち着いて聞けよ」
「落ち着いているよ。動揺しているのはおまえだよ」
「双葉愛ちゃんが誘拐された!」
 耳を疑って、しばし声が出ない弘美。
「聞こえているか?」
 我に返る弘美。
「誘拐されたのか?またアポロンか?」
「アポロンは石になってるはずよ。今度は別の奴たと思う」
「誰なんだ?手がかりとかないのかよ」
「何もないが……おそらく、ゼウス様と関りがありそうね」
「また神がらみかよ」
「運命管理局に犯行声明文がメールで届いた」
「声明文?誰からだよ」
「まだ名乗っていない。犯行声明は一度だけでなく二度三度来るもの。一度目は犯行宣言、二度目に身代金要求、三度目に現金受け渡し方法という具合だよ」
「身代金誘拐なのか?」
「例えばだよ。まだわからん」
「愛ちゃんの家に行く!念のために確認だ」
 教務室を出て、押っとり刀で双葉愛の自宅へと急行する。
「愛ちゃんですか?まだ帰っていませんけど……弘美ちゃんは知らないの?」
 玄関に出た母親が、怪訝そうに答える。
 母親を心配させて、失敗したと思う弘美。
「いえ、何でもありません。勘違いでした」
 その受け答えが、母親を納得させるかは分からないが、そう答えるしかない。

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