銀河戦記/鳴動編 第二部 第八章 トランター解放 IX
2020.09.13

第八章 トランター解放


IX


 惑星トカレフに近づく艦隊があった。
 ジュリエッタ皇女が坐乗するインヴィンシブル率いる第三皇女艦隊である。
 自国領エセックス侯国の伯爵が、先走って共和国同盟への簒奪に走ったとの報を受けて、
自ら説得のために足を運んだのである。
 今後とも同じような轍を踏まないように、きっちりとした態度を見せねばならない。
 カーペンター伯爵艦隊を取り囲むようにして、第三皇女艦隊の配備が完了した。
 インヴィンシブル艦橋に玉座するジュリエッタが発令する。
「トカレフを包囲する艦隊に威嚇射撃を行います」
 ホレーショ・ネルソン提督は、その意を察して下令する。
「威嚇射撃用意!艦に当てない至近に設定」

 伯爵艦隊では、突然の攻撃に右往左往していた。
「今の攻撃はなんだ?」
 軌道待機の艦隊を預かっている指揮官が尋ねる。
「味方艦、帝国艦隊です」
「味方だと?何故、攻撃する」
「巡洋戦艦インヴィンシブルを確認。ジュリエッタ様の艦隊です」
 皇女艦隊だと知って狼狽える指揮官。
 まさか皇女相手に反撃するわけにもいかず、そもそも艦船数で敵うはずもなかtった。
「今の攻撃は威嚇だけのようです」
「入電しました。インヴィンシブルからです」
「伯爵様に繋げ」
 それが精一杯の指令だった。

 通信は伯爵の元へと中継される。
「ジュリエッタ皇女様から通信が入っています」
「皇女様から?繋いでくれ」
 副官が通信端末を開いて受信操作をする。
 壁際のパネルスクリーンにジュリエッタ皇女の姿が映し出される。
「これはこれは皇女様。こんな辺鄙なところに何用でございましょう」
 川の流れを受け流す柳のように、平然至極のように尋ねる伯爵。
「それはこちらが聞きたい」
「何をでしょうか?」
「では聞くが、殿下がこの共和国同盟領に進撃した趣旨は理解しておろうな」
「はい。バーナード星系連邦から解放するためです」
「ならば問う。連邦を追い出したまでは良い。代わりに占領政策を行うとは、殿下の意志
に反するとは思わなかったのか?」
「そ、それは……」
 さすがに言葉に詰まる伯爵だった。
 一惑星の城主という身分では飽き足らないと感じていた。
 もっと大きな権限や領地が欲しかったのである。
 その気持ちが先走りして、大胆にも同盟領の占領という行為になったのだ。
 窓の外には、ジュリエッタが派遣したと思われる部隊が次々と降下していた。
 やがて、伯爵の居室に銃を構えた兵士がなだれ込んできた。
 そこへ悠然と姿を現す一人の文官。
 ジュリエッタ艦隊の中でも、戦闘に関わらずもっぱら政務に従事することを任としてい
た。
「政務次官補のレイノア・ロビンソン中佐です」
 と名乗った。
「この惑星トカレフの解放政策のために派遣されました」
「解放政策?」
「はい。アレクサンダー殿下のご意思のままに、このトカレフを元の共和国体制に復帰さ
せるためにです」
「帝国の領土にするのではなく、共和国制度に戻す……それが殿下のご意思なのか?」
「御意!伯爵、あなたを拘禁させて頂きます」
 配下の兵士に指令する政務次官補。
 兵士に両腕を掴まれ、うなだれる伯爵。

 ほどなくして伯爵配下の艦隊はサセックス侯国へと帰還することとなった。

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