銀河戦記/鳴動編 第二部 第七章 反抗作戦始動 V
2020.05.16

第七章 反抗作戦始動




 戦闘が開始されていた。
 敵艦隊からの攻撃は熾烈で、後退しつつも少しずつ戦力を削り落とされていく。
 次々と味方艦隊が撃墜されていく。


 アークロイヤル艦橋。
 オペレーター達が小声で囁き合っている。
「どういうことだ? 決戦を前にして後退とは……」
「まさか、恐れをなしたというわけではあるまい」
「がっかりだよ。共和国同盟の英雄と言うからどんな素晴らしい作戦を用意しているのか
とおもっていたのに」
「二百五十万隻対百五十万隻。圧倒的な戦力差に、いまさらにして無謀な戦いだと悟った
のか」
「いずれにしても、このままでは負けるのは必死だぜ」
 同盟軍の将兵はともかくも、銀河帝国の将兵達には、アレックスの人となりをまだ十分
に理解していない。
 不安に駆られるのも当然であろう。
 マーガレット皇女がそれらの会話を聞きつけて咎めるように言った。
「そこのあなた達。言いたいことがあるのなら、ちゃんと意見具申しなさい」
 と言われたのを機に、一人が立ち上がって意見具申を申し述べた。
「それでは申し上げます」
「申し述べてみよ」
「はい。中立地帯を越えて共和国同盟くんだりまで来て、いざ決戦という時に後退とは、
殿下は何をお考えになられているのでしょうか? 二百五十万隻対百五十万隻。圧倒的な
戦力差に我が艦隊はなし崩しに崩壊の危機にあります」
 もう一人が立ち上がった。
「その通りです。このまま無策のまま後退を続けていては、全滅は必死です。完全撤退な
らともかく、ただ後退するだけではいかがなるものかと」
 そしてまた一人。
「いっそのこと帝国領まで撤退して、帝国艦隊全軍五百万隻を持って対峙すれば勝てま
す」
 いずれも正論だと思われた。
「あなた方が心配する気持ちも良く判ります。しかしながら、殿下がジュリエッタを従え
て、アルビエール侯国へ反乱勢力討伐のために出撃し、自らが僅かな手勢を率いてこの
アークロイヤルを捕獲し、私を捉えてしまったことを忘れたのですか?」


 一方の第三皇女艦隊旗艦インヴィンシブルの艦橋でも同様な事態になっていた。
 ジュリエッタ皇女が叱咤激励していた。
「この艦隊が海賊に襲われた時のことを思い出しなさい。あなた達は見たはずです。殿下
の率いる艦隊の勇猛果敢な戦いぶりを。僅か二千隻という艦艇数で、数万隻の敵艦隊と戦
った殿下のこと、何の策もなくただ後退しているはずはありません」
 ジュリエッタに言われて、オペレーター達は思い起こしていた。
 サラマンダー艦隊が援軍に現れた時、それはまるで曲芸師のような見事な動きを見せて、
数に勝る敵艦隊を翻弄して撤退に追い込んでしまった。
 まさしく脳裏にくっきりと焼きついていた。
 そんな勇猛果敢な戦士が、ただ無策に後退しているはずがない。


 皇女艦隊において、そんな成り行きとなっていることなど、アレックスの耳元には届い
ていない。
 正面スクリーンに投影されたベクトル座標に映し出された艦隊の戦況をじっと見つめて
いた。
「現在の戦況をご報告します。我が方の損害は二百五十隻、第二皇女艦隊において二千五
百隻の大破及び轟沈。同じく第三皇女艦隊では、三千二百五十隻に及びます。対して敵艦
隊の推定損害はおよそ三千隻かと思われます」
 アレックス直下の旗艦艦隊の損害が小さいのは、艦の絶対数が少ないのと戦場慣れして
いるせいであろう。
 オペレーターの報告に対してパトリシアが語りかける。
「我が方の六千隻に対して敵艦隊は三千隻の損害で済んでいます」
「二対一ということだ」
「その通りです。このままでは敗退は必至の情勢といえるでしょう」
「多少の損害は覚悟の上だ……」
 両手を組んで顎を乗せる格好で厳しい表情を見せるアレックス。
 事情を飲み込めないパトリシアは首を傾げるだけであった。


 そう。
 アレックスは待っていたのだ。
 静かな湖に、白鳥が再び舞い降りるのを……。

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