銀河戦記/鳴動編 第二部 第七章 反抗作戦始動 IV
2020.05.09

第七章 反抗作戦始動


IV


 マック・カーサー率いる帝国侵攻軍、旗艦ザンジバル艦橋。
 さらに事態は最悪に向かっていく。
「トランターのワープゲートが襲われています」
「まずい! ワープゲートを奪われたら、首都星へ直接艦隊を送り込まれる」
「どうやら、首都防衛の艦隊を暴動鎮圧や艦隊迎撃に向かわせ、手薄になったところを襲
撃する算段だったようです」
「何ということだ……。我々が出撃して留守にしている間に、これ幸いと決起したという
わけか」
 やがて絶望的な報告がもたらされた。
「トランターとの通信が途絶えました」
「トランターが占領されてしまったのでしょうか?」
「いや、そんなことはない。首都星の防衛力は絶大なはずだ。そう簡単に墜ちるはずがな
い。おそらく通信設備が破壊されたか乗っ取られたか、もしくは通信システムをハッキン
グされてしまったかのどちらかだ」
「だといいんですが……」
 ワープゲートが奪われれば、タルシエン要塞側にあるワープゲートから、いとも簡単に
艦隊を送り込むことができる。しかも防衛艦隊は情報操作によって全艦出撃して、首都星
は丸裸である。トランターが占領されるのは時間の問題といえた。
 もしそうなれば……。
「なあに、仮にトランターが墜とされたとしても、共和国同盟全体までが奴らの手中に墜
ちたわけではない。銀河帝国艦隊との決戦に勝利して帝国を手中に治めてからでも、引き
返してトランターを取り戻すことも容易だ」
 自信に溢れるカーサー提督の表情であった。
 二百五十万隻対百五十万隻なのだ。
 しかも銀河帝国軍は戦闘の経験が少なく、赤子の手を捻るに等しいだろう。
 戦力差にしても、数の上で圧倒して勝利は確実と言ってもよい。
 何を心配する必要があるものか。
「よおし、先鋒艦隊を下げろ! 全軍で総攻撃だ」
 相手の力量を測る小手先の戦いは止めて総力戦に突入する決断をするカーサー提督だっ
た。


 その模様はサラマンダーに伝わっていた。
「敵の先鋒艦隊が後退します」
「どうやら総攻撃を開始するつもりらしい」
「いよいよですね」
「さて、こちらはどう打って出るかだが……。ともかくマリアンヌを下げさせろ。このま
までは集中砲火を浴びる」
「判りました。第六皇女艦隊を下げます」
 後退する双方の先鋒艦隊。
 マリアンヌが後方に下がったところで、敵艦隊が前進をはじめた。
「いよいよ、おいでなすったぞ」
「どうなさいますか? こちらも前進して迎え撃ちますか」
「いや、まだ早いな……」
 と考え込むアレックス。
 戦乱急を要する状態を呈している。
「全艦に伝達。敵の動きに合わせて、こちらは後退する」
 その指令を聞いて驚くパトリシア。
 他の乗員たちも同様の表情だった。
「後退するのですか?」
「そうだ。後退だ。機はまだ熟していない。時期相応。繰り返す、全艦後退せよ」
 アレックスの言動に拍子抜けの乗員達。
 二百五十万隻対百五十万隻という圧倒的な数の差に、今になって怖気づいたのか?
 とはいえ、これまでにも幾度となく共に生死を掛けた戦いをくぐり抜けてきた同士であ
る。アレックスに対する信頼は絶大なものがあり、少しも動揺を見せていない。
 指揮官と将兵の間には厚い信頼関係が築かれていたのである。

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