銀河戦記/鳴動編 第二部 第六章 皇室議会 IV
2020.03.28

第六章 皇室議会

      
IV


 サラマンダー艦橋。
 指揮官席に、腕を組み目を伏せているアレックスが座っている。
 周囲からは管制オペレーター達の出撃準備の指示命令が聞こえている。
「全艦隊へのリモコンコードを送信する確認せよ」
「帝国旗艦アークロイヤルへ、サラマンダー左舷への進入を許可する」
「インヴィンシブルは右舷で待機せよ」
 前面のパネルスクリーンには、サラマンダーを中心に展開を進める統合宇宙艦隊の姿が
映し出されている。
 サラマンダーの左側にマーガレット皇女の乗る攻撃空母アークロイヤル、右側にジュリ
エッタ皇女の巡洋戦艦インヴィンシブルが並進しており、後方には修理を終えたばかりの
マリアンヌ皇女の戦艦マジェスティックが控えていた。
「同盟軍、全艦隊出撃準備完了しました」
「よろしい!マーガレット皇女を呼んでくれ」
「了解」


 アークロイヤル艦橋。
 艦隊司令官のトーマス・グレイブス少将がてきぱきと艦隊指揮を執っていた。
 正装したマーガレットが皇女席に腰掛けている。
 皇女として常に凛々しい姿を見せるために、戦闘服などいう野暮ったいものは着ていな
い。しかし、実際には皇女席の周りには、対衝撃バリアが張り巡らされていて、いざとい
う時には床下から緊急脱出艇へ、着席したまま移動できるようになっていた。
「殿下がお出になっておられます」
「繋いでください」
「かしこまりました」
 正面パネルスクリーンにアレックスの姿が映し出された。
「そちらの準備はいかがですか?」
「ちょうど出撃準備が完了したところです」
「まもなく出撃します」
「判りました、こちらはいつでも構いません」

 インヴィンシブル艦橋。
 こちらの艦隊司令官はホレーショ・ネルソン中将である。
 同じく正装姿のジュリエッタが、アレックスと交信していた。
「これからの戦いは今までの相手と違って、手加減はしてくれません。正真正銘の殺し合
いになりますが、将兵達の士気はいかがですか?」
「士気は上がっております。殿下の期待に十分応えられると存じます」
「結構ですね。それでは全艦の準備が終わり次第、出撃します」
「かしこまりました」

 再びサラマンダー艦橋。
「帝国艦隊、全艦隊出撃準備完了です」
「よし、足並み揃った。行くとするか……」
 傍に控えるパトリシアに目配せしてから、全軍に指令を下すアレックス。
「統合軍、全艦隊出撃開始せよ!」
 アレックス指揮以下の宇宙艦隊が進軍を開始した。
 するとどこからともなく民間の宇宙船が集まってくる。
 TV局の報道用宇宙船であった。
 報道宇宙船が追従を続ける。
『我等が皇太子殿下のお乗りになられる旗艦サラマンダーであります。最大戦闘速度は、
戦艦では銀河系随一の俊足を誇り、火力の射程距離も最大級。艦体に彩られた図柄は、伝
説の火の精霊。連邦軍はその艦影を見ただけで、恐れをなして逃げ出すといわれておりま
す。その両翼にはマーガレット皇女さまのアークロイヤル、ジュリエッタ皇女さまのイン
ヴィンシブルが並進し、まるでご兄妹仲の良さを現しているかのようであります』
 また別のTV局も負けじと報道合戦を繰り広げる。
『帝国二百億の皆様。ごらんください。皇太子殿下率いる、共和国同盟解放軍および銀河
帝国軍の混成連合艦隊の雄姿であります。総勢百五十万隻の艦隊が一路、共和国同盟の解
放を目指して進軍を開始しました。かつてのトリスタニア商業組合連合が帝国からの分離
独立を果たした第二次銀河大戦以来、二百年ぶりの国境を越えての本格的な軍事介入とな
ります。その目的が独立阻止から民衆解放と変わったとはいえ、歴史の一ページを飾る大
きな出来事といえます』
『伝説の火の精霊に彩られた旗艦サラマンダーは、これまで皇太子殿下が幾多の戦いを乗
り越えられ勝利されてきた名誉ある戦闘艦です。そして今また、銀河帝国の存亡の危機を
救わんと殿下自らが艦隊を率いて共和国同盟総督軍との戦いに臨まれます』
 さらにサラマンダー艦内にもTV局の報道陣が入っていた。軍艦であるから厳重なる軍
事機密があるはずなのにである。
『ここは旗艦サラマンダーの居住区であります。皇太子殿下より特別許可を許されまして、
はじめて報道のカメラが入りました。但し、乗員への取材は厳禁となっております。今カ
メラの視野に入っておりますのは病院です。乗員たちの健康を維持し、体力を増進させま
す。医療機器も最新の設備を誇り、臓器移植さえ可能なスタッフを揃えています』
『さて、とっておきの映像をお届けしましょう。なんと! 旗艦サラマンダーの第一艦橋
内部の映像です。皇太子殿下が御座なさり、全艦隊への勅命を下される司令塔であります。
とは申しましても、残念ながら一箇所にカメラを固定されてのワンカット映像のみで音声
もありません。艦橋内は最高軍事機密ですので、乗員達の素顔や最新鋭の計器類を撮影す
ることは許されておりません。しかしながら、背中越しとはいえ、艦橋内の緊迫感は伝わ
ってくるかと思います』

 パネルスクリーンに投影されている報道局の宇宙船を眺めながらパトリシアが尋ねる。
「しかし、提督はどうしてTV局の追随を許可なされたのですか? しかも艦内撮影まで
許可なされるとは」
「民衆にたいする宣伝だよ」
「宣伝?」
「そうだ。いかに帝国皇太子といえども、民衆の支持なくしては、政治を円満に推し進め
ることはできないし、第一、皇室議会からは未だ正式な皇太子継承の承認を受けていない
からな。頭の固い大臣達だって、民衆の声を無視するわけにはいかないだろう」
「民衆を味方につけるわけですか」
「保身に走りたがる貴族よりは、民衆のほうがよっぽど銀河帝国の将来を心配しているの
が実情だ。虐げられているとはいえ、民衆の気持ちは大切にしたいからね」
「それで……。そこまでのことをする限りは、この戦いに勝つ算段が十二分におありなん
でしょうね」
「まあ、それなりのことはするつもりだよ。もし敗れれば、逆効果となって、帝国内部で
再び騒乱が起きる可能性もででくるかもしれないがな」
「摂政派の連中が、それ見たことかと冗長するでしょうね」
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