銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第六章 新造戦艦サーフェイス Ⅶ
2020.03.08

 機動戦艦ミネルバ/第六章 新造戦艦サーフェイス




 一方のサーフェイスの方でも、戦闘体勢が完了していた。
「超伝導磁気浮上システム正常に稼働中です」
「光学遮蔽に入るかも知れん、重力加速度探知手は見逃すなよ」
 超伝導磁気シールドは、電磁気を通さず光さえも遮蔽することもできるが、重力を遮蔽
することはできない。
 惑星上で移動するには、重力に逆らって加速しなければならない。その加速度を計測す
るのが重力加速度計である。
「戦艦自体の戦闘能力は互角。後は将兵達の能力次第というわけだ」
「ミネルバの方は、士官学校出たての未熟兵が多いと聞きましたが」
「これまでにも幾度となく戦闘を重ねて、熟練度は向上しているはずだ。特にミネルバと
いう特殊戦艦の運用については、あちらの方が一日の長がある」
「そうですね。ミネルバ級という点では、こちらはマニュアルすら精読してません」
「まもなく、敵艦を射程内に捕らえます」
「待機せよ」
「大気圏内戦闘だ。光学兵器は使用不能と考えてよい」
「ミサイル接近中!」
「来たか!面舵一杯でかわせ」
 艦体が大きく右に動いて、ミサイルを回避した。
 ミサイルは後方で炸裂した。
「無誘導ミサイルのようです」
「なるほど、誘導ミサイルだと磁気シールドで撹乱されるというわけか」
「こちらも無誘導ミサイルで応戦しましょう」

 ミサイルが交わされたのを確認するフランソワ。
「ミサイルの射程が遠すぎたようです」
「次弾装填は?」
「いえ、その余裕はありません」
 サーフェイスは目の前に迫り、長距離用のミサイルは使えない。
「まもなくすれ違いに入ります」
「面舵五度、敵艦の左舷に回る。往来激戦用意!」
「面舵五度」
「往来激戦用意!」
 副長が復唱しながらも、感心する。
「往来激戦ですか……。まるで古代地球史にある大航海時代の海戦みたいですね」
 大航海時代の戦艦には、攻撃手段の艦砲が舷側に固定配置されており、戦闘は舷側を向
かい合わせて互いに撃ち合うというものだった。
 電子兵器は無論ありもしないし、艦長の判断と砲兵長の経験が戦闘の采配を左右した。
いかに有利な位置に船を誘導し、いかに大砲の弾を敵艦に届かせるかである。
 宇宙空間での戦闘における、ランドール戦法もこれに近いものだ。
「敵艦も我が艦の左舷方向に回りこむようです。敵もやる気のようですね」
「望むところだわ。戦闘要員以外は右舷に退避させて。ダメコン班出動準備!」
「了解。戦闘要員以外は右舷に退避せよ」
「ダメコン班出動準備!」
「第一主砲及び第三副砲に艦砲戦発令!砲塔を左舷旋回して待機」

 やがて、ミネルバとサーフェイスが、舷側を向かい合わせる配置についた。
 会戦の第二段階に突入したのである。
「敵艦、艦砲の射程内に入りました」
「撃て!」
 フランソワが戦闘の狼煙を上げた。
 当然、相手も撃ち返してくる。
 激烈なる戦闘が繰り広げられる。


「第十二ブロック第三発電室被弾、火災発生!」
「第十二ブロック、消化が間に合いません!」
「仕方がありません。ハロンガスで消化しましょう」
「第十二ブロック、総員退去して隔壁閉鎖!」
 ミネルバには、火災に対する対応法として、ハロンガス消化法が導入されていた。ハロ
メタン(トリフルオロヨードメタン)による消化で、一般・油・電気火災に対応できるが、
人体に有害であるから、火災区画を閉鎖する必要があった。しかし、消化剤を使わないこ
とから、鎮火後にはガスを排気すれば、すぐに点検なしで機器を使用できる利点がある。
ハロンガスとしては、かつてはブロモトリフルオロメタンが使われていたが、オゾン層破
壊が著しくて1000分の1といわれる、このガスに取って変わられた。
 特に発電室は、戦闘に不可欠重要な施設ゆえに、逸早く復旧が急がれるためにその処置
が取られたのだろう。


 新型モビルスーツも善戦したが、さすがに歴戦の勇士であるリンゼー少佐の方が戦闘巧
者であった。
 宇宙戦艦搭乗の際には、コテンパンにやられたが、今回は同型ミネルバ級機動戦艦同士
である。司令官もだが、率いられる部下の乗員達も戦闘慣れしていた。
 士官学校出たばかりで未熟なミネルバとは格が違った。


 さすがのミネルバも、戦闘巧者のリンゼー少佐によって、大変なことになっていた。
 的確な砲撃が次々に飛来する。敵の砲撃手も熟練者のようである。
「被害甚大!修復もままなりません」
 艦内のあちらこちらで火災が発生していた。
 恒久応急班も手一杯であった。

 だがそれも、サーフェイス側の方も全く同様であった。
「致し方ない。今回は痛み分け、引き分けとしよう」
 リンゼー少佐は、後退の指示を出した。
 このままでは、双方とも取り返しのつかない損害を被るだけ。
 無駄な戦いは続けないという信条のようだった。

 そんな敵側の情勢を報告するオペレーター。
「敵が退きます」
「こちらも後退しましょう。これ以上戦うのは無理です」
「判りました」
 両艦とも背を向けて離れていく。
「応急修理ではとても、巡航速度が出せるまでには回復できません」
「基地に戻って修理するしかないですね。入港許可をとって下さい」
 海底秘密基地の存在を、敵に知られないように転戦してきたわけだが、ここに至っては基地
に戻って、専門の造船技術者に頼るしかない。
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