銀河戦記/鳴動編 第二部 第四章 皇位継承の証 XⅡ
2019.12.28

第四章 皇位継承の証


XⅡ


 その夜のアレクサンダー皇子を迎えての晩餐会は盛大であった。
 アルビエール候国内の委任統治領の領主達が全員顔を揃えていた。
 彼らの子弟達は統制官大号令によって、将軍の給与をカットされて不満があるはずだろ
うが、今はその事よりも自分の顔を売って、委任統治領の領主たることを安寧にすること
の方が大切だと考えていたのである。
 アレックスのもとには、領主達が入れ替わりで挨拶伺いにきていた。その順番は、爵位
や格式によって決められているようである。
 共和国に生まれ育った者としては、実に面倒くさくて放り出したくなる風習だが、これ
が絶対君主国における貴族達との交流であり、国政をも左右する儀式でもある。これから
彼らを傅かせて帝国を存続させてゆく上で大切なものであった。
「いかがですかな? 楽しんでいらっしゃいますか?」
「はい。堪能させてもらっています」
 貴族達の挨拶には辟易するが、目の前に並べられた料理には感嘆していた。選びに選び
抜かれた極上の品々、舌もとろけそうなほどの美味な一品。どれも見張るばかりの豪勢な
ものばかりだ。
「それは良かった」

「そうそう、この星に来る時に海賊に襲われましてね」
「なんと! それはまことですか?」
「私が幼少の頃にも襲われたようですけどね」
「あの時は、皇后がこちらで出産、育児と静養をしておりましてね。そして帝国へお戻り
になられる時でしたな。船ごと誘拐されまして、皇后はお亡くなりになり、皇子も行方不
明となられました。その実は、共和国同盟でご存命であらせられ、軍人として立派な偉業
を成し遂げていらっしゃった。さすがにソートガイヤー大公様の血を継がれたお方だと感
心している次第であります」
 褒めちぎられて、こそばゆく感じるアレックスだった。
「ともかく、帝国領と自治領との境界や、国境中立地帯付近を通る時は注意した方がよろ
しいでしょう」
「そうですな。気をつけることに致しましょう」
 これらの会話において、ハロルド侯爵の表情の変化を読み取ろうとしていたアレックス
だった。内通者としての疑惑的な態度が現れないかと探っていたのであるが、侯爵の表情
は真剣に心配している様子だった。そもそも、侯爵が皇子を誘拐する理由はどこにもない
し、皇帝と血縁関係にあるものを自ら断ち切るはずもなかった。叔父と甥という関係は、
確実に存在しているようであった。
 一応は念のための確認であった。

 翌日。
 自治領艦隊の一部を護衛に付けると言う侯爵の申し出を丁重に断って、サラマンダー艦
隊にて首都星に戻ったアレックス。
 統合軍作戦本部長を執務室に呼び寄せると、海賊に襲われた経緯を伝えて、国境警備を
厳重にして、海賊が侵入できないようにするように命じた。海賊追撃のために自治領への
越境の許可も与えた。
 次々と戦争に向けての準備を続けているアレックス。
 そんな中、トランターのレイチェルのもとから暗号文がもたらされた。
 総督軍が、二百万隻の艦隊を率いて、銀河帝国への進軍を開始したというものだ。タル
シエン要塞からも、進軍する二百五十万隻の艦隊を確認したという報告が入った。後者の
数字が多いのは、輸送艦隊を含んでのことであろう。
 ついに戦争がはじまる。
 アレックスは身震いした。

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