銀河戦記/鳴動編 第二部 第四章 皇位継承の証 III
2019.09.07


第四章 皇位継承の証(あかし)/土曜劇場


                III

 宮廷楽団の奏でる音楽の旋律が変わって、パーティーのはじまりを告げていた。
 正面壇上にパーティー主催者であるウェセックス公国ロベスピエール公爵が立っ
た。そばには小さな子供、嫡男であり皇太子候補のロベール王子。
「パーティーにご列席の皆様、ようこそおいで下さいました。ご存知の通りに、帝
国に対して謀反を引き起こしていましたマーガレット皇女様が逮捕され、内乱は鎮
圧されました。このパーティーは、それを祝いまして開催いたしました。と同時に、
我が息子のロベール王子が正式に皇太子として認められたことになる記念日でもあ
ります」
 場内に拍手が沸き起こった。
 皇室議会においてロベール王子が皇太子に推されたことは事実ではあるが、皇女
の一人が意義を唱えて内乱を引き起こしたことによって、一時棚上げとされたので
ある。しかし首謀者のマーガレット皇女が捕らえられたことによって、ロベール王
子擁立に反対する者がいなくなって、皇太子として正式に認知されたということで
ある。
 会場に、アレックスとパトリシアが遅れて入場した。
「おお! 今宵の主賓の登場でありますぞ」
 と、アレックスの方に向かって、大きなジェスチャーで紹介するロベスピエール
公爵だった。
「この度の電撃作戦によって、見事マーガレット皇女様を逮捕された功労者であり
ます。銀河帝国客員中将となられたアレックス・ランドール提督です」
 ざわめきが起こった。
「何とお若い……」
「あの若さで中将とは」
「それにほら、あの瞳。エメラルド・アイではございませんこと」
「すると皇室ゆかりの方でいらっしゃられる?」
「でも、お見受けしたこともございませんわ」
 会場に参列した貴族達に、アレックスの第一印象はおおむね良好のようであった。
「さあさあ、飲み物も食べ物もふんだんにご用意しております。どうぞ、心ゆくま
でご堪能下さいませ」
 アレックスのことは簡単に紹介を済ましてしまったロベスピエール公爵。
 その本当の身分が共和国同盟解放戦線最高司令官であることは伏せておくつもり
のようだ。パーティー主催の真の目的がロベール王子の紹介であることは明白の事
実であった。貴族達の間を回って、自慢の嫡男を紹介していた。
 参列者達の間でも、それぞれに挨拶を交し合い、自分の子供の自慢話で盛り上が
る。
 やがてそれらが一段落となり、見知らぬ女性の存在を気にかけるようになる。
「何でしょうねえ……。提督のご同伴の女性」
 パトリシアである。
 中将提督と共に入場してきた場違いの雰囲気を持つ女性に注目が集まっていた。
「何か、みすぼらしいと思いませんか?」
「ドレスだって、借り物じゃございませんこと?」
 蔑むような視線を投げかけ、卑屈な笑いを扇子で隠している。
「それにほら、あの首飾りです。エメラルドじゃありません?」
「あらまあ、ご存じないのかしら。エメラルドは皇家の者しか身につけてはならな
いこと」
「でもどうせイミテーションでしょ」
「噂をすれば、ほら侍従長が気が付かれたようですわ」
「あらら、どうなることやら……。ほほほ」
 侍従長がパトリシアに近づいていく。


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