銀河戦記/鳴動編 第二部 第三章 第三皇女 XIV
2019.08.10


第三章 第三皇女


                XIV

 やがて一隻の艦が接舷してきた。
「乗り込んでくるもようです」
「排除しなさい」
「判りました」
 答えて艦内放送で発令するグレイブス提督。
「艦内の者に告げる。接舷した敵艦より進入してくる敵兵を排除せよ。銃を持てる者は
すべて迎撃に回れ」
 次々と乗り込んでくるサラマンダー艦隊の白兵部隊。
 だがいかんせん、戦闘のプロの集団に、白兵など未経験の素人が太刀打ちできる相手
ではなかった。
 白兵部隊は艦橋のすぐそばまで迫っていた。
 ロックして開かないはずの扉が開いてゆく。投げ込まれる煙幕弾が白煙を上げて視界
が閉ざされていく。そしてなだれ込んでくる白兵部隊。次々と倒されていく味方兵士達。
 やがて煙幕が晴れたとき無事でいたのは、マーガレット皇女と侍女、そしてグレイブ
ス提督他数名のオペレーターだけであった。
 やがて敵兵士によって確保された扉を通って、警護の兵士に見守られながら一人の青
年が入ってきた。
 どうやら敵白兵部隊の指揮官のようであった。
「ご心配なく。倒れているのは麻酔銃で眠っているだけです。十分もすれば目を覚まし
ます」
 言われて改めて周囲を見渡すマーガレット皇女。確かに死んでいない証拠に、微かに
動いているようだ。麻酔があまり効かなかったのか、目を覚まし始めている者もちらほ
らといる。
「このようなことをして、何が目的ですか?」
「銀河帝国摂政エリザベス皇女様の命により、あなた様を保護し帝国首都星へお連れ致
します」
「わたしを逮捕し、連行すると?」
「言葉の表現の違いですね」
 麻酔が切れて次々と目を覚まし始めるオペレーターや兵士達。
 敵兵の姿を見て銃を構えようとするが、
「おやめなさい! 銃を収めるのです。わたしの目の前で血を流そうというのです
か?」
 皇女に一喝されて銃を収める兵士達。
 マーガレット皇女の旗艦アークロイヤルは、敵艦隊の包囲の中にあり、接舷した艦が
発砲すれば確実に撃沈するのは、誰の目にも明らかであった。
 いわゆる人質にされてしまった状況では、戦うのは無駄死にというものである。将兵
の命を大切にする皇女にできることは一つだけである。
「提督。全艦に戦闘中止命令を出して下さい」
「判りました。全艦に戦闘中止命令を出します」
 提督の指令で、アークロイヤルから停戦の意思表示である白色弾三発が打ち上げられ
た。
 ここに銀河帝国を二分した内乱が終結したことになる。
「首都星へ行くのは、わたしだけでよろしいでしょう? バーナード星系連邦の脅威あ
る限り、この地から艦隊を動かすことはできません。罪を問われるのはわたし一人だけ
で十分です」
「皇女様の思いのままにどうぞ」
 皇女の気高さと自尊心を傷つけるわけにもいくまい。
「ありがとう」
 そう言って改めて、その若き指揮官を見つめるマーガレット皇女。
 常に笑顔で対応するその指揮官の瞳は、透き通った深緑色に輝いていた。
「あ、あなたは……?」
 言葉に詰まるマーガレット皇女。ジュリエッタ皇女が初対面の時に見せた表情とまっ
たく同じであった。
「共和国同盟解放戦線最高司令官、アレックス・ランドール少将です」
 指揮官が名乗ると、艦内に感嘆のため息が起こった。
 ここでも、アレックス・ランドールの名を知らぬものはいないようであった。
「なるほど……。共和国同盟の英雄と称えられるあの名将でしたか」
「巡洋戦艦インヴィンシブルが近づいてきます」
「ジュリエッタが来ていたのね」
「インヴィンシブルで首都星アルデランにお連れ致します」
「参りましょう。提督、艀を用意してください」
 グレーブス提督に指示を与える。
「かしこまりました」
「提督には残って艦隊の指揮を執って頂きます。引き続き連邦への警戒を怠らないよう
にお願いします」
「はっ!誓って連邦は近づけさせません」
「ランドール殿、それでは参りましょうか」
 こうしてアレックスに連れられて、インヴィンシブルへと移乗するマーガレット皇女
だった。


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