銀河戦記/鳴動編 第一部 第十二章・テルモピューレ会戦 Ⅱ
2021.02.15

第十二章 テルモピューレ会戦




 最後に質問に立ったのは、ゴードンの副官のシェリー・バウマン少尉だった。
「しかし、テルモピューレは敵の勢力圏内にあって、カラカスからはるかに遠く、これと対峙するにはカラカス基地を空にすることになります。もし別働隊が迂回して基地の攻略に向かえば、容易く基地を奪われ逆に背後から襲われる挟み撃ちになります」
 次々と副官三人娘が質問を浴びせた。
 ランドール艦隊の懐刀ともいうべき部隊司令官の副官として自ら志願し、議論にも旺盛な活発さを見せている。艦隊に対する誇りと、上官への忠誠心厚き精神から、少しでも役に立とうする積極性からくるものである。もちろんそんな彼女達を副官に据えるアレックスの期待に応えているわけである。
「それはないだろう。情報によれば攻略に向かってくるのは一個艦隊のみだ。しかもまさか基地を空にして、自分の勢力圏内に進軍して迎撃してくるとは、敵もまさかと思って考えもしないだろう。それを逆手に取るのだ」
「バルゼー提督はそういう人間と言うんじゃないでしょうね」
「そういう人間だよ。回り道はしない。正面から堂々と向かってくる気質から考えれば、至極当然のことだろう」
「やはりですか……」
 一同は、敵将の性格を熟知した上での、アレックスのいつもながらの作戦の立て方に感心していた。士官学校の模擬戦闘での、敵司令官のミリオン・アーティスの詳細を調べ上げて、あの劇的な勝利をもたらしたことは記憶に鮮明に残っている。
「では、全軍をテルモピューレ出口付近に展開させるのですね」
「いや、今回の作戦には伏兵としてゴードンに別働隊として動いてもらう」
「別働隊ですか?」
「そうだ。テルモピューレを形作っている三日月宙域の外縁を迂回して、敵の背後からの急襲の任を与える」
「三日月宙域を迂回ですか? かなりの遠回りになります。そもそも敵艦隊がテルモピューレを通過するルートを通るのもそのためなんですよ」
「その通りだ。ウィンディーネ艦隊の高速性を活かすことのできる作戦だとは思うがな」
 アレックスの問いかけに、ゴードンの副官のシェリー・バウマン少尉が答えた。
「確かにそうですが……、我が艦隊の中では最高速を誇るウィンディーネ艦隊です。しかし、その作戦を遂行するには、敵のテルモピューレ進入時刻を的確に把握する必要があります。到着時刻が早すぎれば進入前の敵艦隊の総攻撃を受けますし、遅すぎれば本隊の援護に間に合わず、数の少ない分だけ本隊が危険に晒されることになりますよ」
 さすがに士官学校では、特務科情報処理を選考しているだけに、頭の切れは鋭い。
「シェリーの言うことはもっともだよ。それがこの作戦の重要な岐路となるだろう。敵艦隊のテルモピューレ侵入時刻を事前に正確に知ることが問題だ」
 皆の視線が、情報参謀のレイチェルに向けられた。それをできるのは彼女以外にはいなかったからである。
「テルモピューレの正確な進入時刻は、敵艦隊が出港するまでは確実なことは言えませんが、出港の予定時刻は把握しておりますので、艦隊の進行速度からおおよその時刻を推定はできます。その推定時刻を元に行動し、敵艦隊出撃の情報を得て修正できるコースを設定します」
「その出港推定時刻は信頼に足るものなんですか?」
「敵艦隊のタルシエン入港時刻は情報通りでしたし、これまでの経緯からしても信頼性は高いものと確信しています」
「確信ですか……」
 レイチェルは毅然として発言していた。「たぶん」とか「おそらく」といった曖昧な表現は決して使わない。情報には自信を持っているからに他ならない。
「情報の信憑性を議論しても仕方がないだろう。ここはレイチェルの情報通りに作戦を立てて行動することにする」
 アレックスが決断した。
 そうとなれば、事は急展開で進行する。
 敵艦隊の出撃予定時刻を元に、ランドール艦隊の出撃時間やコース設定。別働隊として動くゴードンの行動開始時間が決定されていく。

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2021.02.15 15:17 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十二章・テルモピューレ会戦 Ⅰ
2021.02.14

第十二章 テルモピューレ会戦


I

 惑星カラカス衛星軌道上に旗艦艦隊が展開している。
 ウィンディーネ艦隊は補給と休息待機で惑星に降下しており、ドリアード艦隊は哨戒作戦で惑星周辺に散開していた。
 サラマンダー艦内司令用の個室。
 ベッドの上でまどろんでいるアレックス。
 照明の落とされた部屋の扉が開いて、レイチェルが入ってくる。
 アレックスは、この部屋の解錠コードを、部隊創設の副官時代のレイチェルに与えており、パトリシアに副官が交代してもそのまま与え続けていた。情報参謀として最重要な人物だからである。
 ベッドの側に立ってアレックスを起こすレイチェル。
「ランドール司令」
「ん? レイチェル……。何かあったか?」
 眠たそうな目を擦りながら起き上がり、ベッドの縁に腰掛けるアレックス。自分を名前ではなく称号で呼んだことと、この部屋を直接訪れたことから、極秘重要報告を持ってきたのだと察知していた。
「タルシエン要塞に、カラカス基地を奪還するべく新たな艦隊が入港するという情報が入りました」
「そうか……とうとうやってきたか……」
「敵は一個艦隊、司令官はバルゼー提督です」
「バルゼーか……詳細を聞く前に、シャワーを浴びて頭をすっきりさせんといかんな。ちょっと待っててくれ。その間、パトリシアに連絡して、参謀達を第一作戦室に呼び寄せてもらってくれ」
「わかりました」
 アレックスがシャワー室に入るのを見届けて、艦橋にいるパトリシアに連絡を入れるレイチェル。

 サラマンダー艦橋。
 指揮官席に座るスザンナのところのヴィジホーンが鳴る。
「艦橋、ベンソン中尉です」
 機器を操作して答えるスザンナ。
 パネルにレイチェルが映し出される。
「作戦会議の招集です。参謀全員を呼び寄せるようにパトリシアに伝えてください」
 自分の名前が呼ばれたのを聞いて、脇から顔を出して質問するパトリシア。
「ウィング大尉、何があったのですか?」
 参謀を呼ぶのはいいが、大概その集合目的を聞かれるので念のためだ。
「敵艦隊の動静をキャッチしました。このカラカス基地奪還の動きがあります」
「わかりました。参謀全員を集合させます」
「よろしく」
 映像と音声が途切れた。
 早速ゴードンとカインズに連絡をとるパトリシア。
 まずはゴードンだ。
「……というわけで、ご休憩中のところ申し訳ございません。サラマンダーまでご足労お願いします」
「やっとおいでなすったか、なあに遠慮はいらんよ。腕が鳴ってしようがなかったんだ。今からそっちへ行く。艀をこっちへ回してくれ」
「只今、向かっています。十分後には到着するはずです」
「わかった」
 親しげにパトリシアに心境まで伝えて答える。
 そしてカインズはというと、
「了解した。今すぐ行く」
 と簡潔明瞭に答えて無駄話はしない。
 二人の性格の違いが良くわかる。

 司令室。
 バスローブを羽織って頭をタオルで拭きながら、バスルームから出てくるアレックス。
 カウンターではレイチェルがコーヒーを煎れている。
 タオルを首に掛けて、端末の前に座って操作をはじめるアレックス。
「どうぞ」
 そばのサイドテーブルにコーヒーカップを置くレイチェル。
「ああ、すまないね」
「どういたしまして」
 カップを受け取り、コーヒーを一口すすってから尋ねる。
「それで、進撃ルートは?」
「まだはっきりした情報ではないのですが、おそらく最短距離でテルモピューレを通ってきます」
「テルモピューレか……わざわざ、銀河の難所を通ってくるわけだ」
「しかし一応連邦側の勢力圏にありますからね。時間の節約を考えれば自然な選択かと思います」
「うーん……」
 と呟いたまま、パネルに映し出されたテルモピューレ周辺図を見つめていた。

 第一作戦室。
 パトリシア、ゴードン以下の参謀達が揃っている。
 そこへアレックスがレイチェルと共に入ってくる。
 一斉に席を立って敬礼する参謀達。
「全員、揃っています」
「うん……」
 明いた中央の席に腰を降ろしてから、厳かに言い放つアレックス。
「最新情報だ。連邦軍がこのカラカス基地奪還のために艦隊を派遣、現在タルシエン要塞に入港して乗員の休息と燃料補給中だ」
 その言葉に会場がざわめいた。
 アレックスがレイチェルに目配せして合図すると、
「派遣された艦隊は、第二十九艦隊。一個艦隊をバルゼー提督が指揮しています。推定進撃コースはテルモピューレを通過する最短コースの可能性大。なおも情報の信頼性を確認中です」
 淡々と説明をはじめレイチェルだった。
 ほうっ。というため息がそこここから聞こえる。
 またもやレイチェルのお手柄か……という表情をしている。
「それで今回の対応はいかになされるおつもりですか?」
 レイチェルの情報を得て、アレックスがすでに作戦の概要をまとめているだろうことは、全員が推測しており、事実その通りだった。
「敵艦隊が最短距離のテルモピューレを通過してくることは間違いないだろう。そこで、このテルモピューレという宙域の特殊性を利用させてもらう」
「特殊性?」
 ここで再びレイチェルが解説する。
「タルシエン要塞より出撃した艦隊がカラカスへ最短距離で向かうとすると、このテルモピューレ宙域を強行突破しようとするでしょう。周囲は銀河乱流の分流にさまたげられて航行可能域は非常に狭く、艦隊は密集隊形で進軍するよりありません」
 テルモピューレは、判りやすく例えるならば、蛇行する川が氾濫して流路を変えた跡に残された三日月湖のような空間に挟まれた宙域だ。
「なるほど……」
 カインズが納得して頷いたのを見て、その副官のパティ・クレイダー少尉が言葉を継いだ。
「判りました。宙域の出口に包囲陣を敷いて、先頭集団を各個撃破していけば、たとえ相手が数十倍の艦隊とて対等に渡り合えます。そういうことですね?」
 さらにロイド少佐の副官のバネッサ・コールドマン少尉が確認する。
「確かにテルモピューレは狭いから、縦列で細長く進軍するしかない。結局どんなに艦隊の数が多くても直接戦闘に参加できるのは前面の部隊だけ」

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2021.02.14 12:22 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十一章 帝国反乱 Ⅰ
2021.02.13

第十一章 帝国反乱




 ウェセックス公国のロベスピエール公爵率いる摂政派の貴族たちが反乱の狼煙を上げた!

 衝撃的なニュースが飛び込んできた。
 顔を見合わせるマーガレット皇女とジュリエッタ皇女だった。
 以前からきな臭い情勢だったのだが、共和国同盟内の反乱鎮圧に、アレクサンダー皇太子と両皇女が留守にしている間に、これを機会にと決起したのであろう。
「ハロルド侯爵は?」
「無事です」
 マーガレットが答える。
 ハロルド侯爵はアルビエール侯国領主であり、アレックスとマーガレットの叔父にあたる人物である。
「自治領艦隊百万隻と第二・第三の駐留艦隊総勢百五十万隻が守っています」
「うむ。摂政派も連邦もすぐには仕掛けてこれないな」
「しかし帝国本星は摂政派が押さえてしまいました」
「サセックス侯国のエルバート侯爵は、従来通り中立を保っているようです」
「国境を接するバーナード星系連邦に対する守りの方が重要だからな。内戦には参加しないのも当然だろう」
 連邦に対する守りであることを、摂政派も皇太子派も十分承知しているので、自派に取り込もうとはしない。
「帝国へ戻るぞ」
「御意にございます」

『内憂外患状態なのに、皇太子は何しているのだ?』
 と、思われないためにも、一刻も早い帰国が必要だった。

 アレックスは、ウィンディーネ艦隊をディープス・ロイド准将に預けて、急遽帝国へと向かった。

 押っ取り刀で、アルビエール侯国に戻ると、ハロルド侯爵が笑顔で出迎えた。
「おお、無事でしたか。心配していましたぞ」
「ご心配おかけしました」

 アレクサンダー皇太子を迎えての晩餐会が始まった。
 交わされる会話はもちろん摂政派の動向である。

 ロベスピエール公爵は、ジョージ親王の皇太子擁立が皇室議会で決定されていたことを根拠に、息子を帝位に就けると同時に皇太子派の貴族たちを次々と拘禁しはじめた。
 配偶者であるエリザベス第一皇女が摂政を務めていただけに、内政については正常に回っているように見えた。
 改めてジョージ新皇帝の戴冠式を執り行い、神聖銀河帝国の樹立を宣言したのだった。

「神聖銀河帝国ねえ……分裂も止むなしと考えたのだろうな」
「認めれば、バーナード星系連邦との分裂以来三度目となります」
 かつてのソートガイヤー大公が専制君主国家アルデラーン公国を起こし、孫のソートガイヤー四世によって全銀河を統一して以来、最初の分裂がトリスタニア共和国同盟の独立だった。そして二度目、軍事国家バーナード星系連邦が分離独立を果たした。
 神聖銀河帝国は防衛面から考えれば、侵略国家である連邦に対して、エセックス侯国及びアルビエール侯国が防壁となる位置にある。
 摂政派は、連邦のことは考慮に入れなくてもよいと考えているようだ。
 連邦の侵略を防ぐためにも、エセックス侯国自治領艦隊は動かせない。
 よって、摂政派と対峙できるのは、アルビエール侯国自治領艦隊だけとなる。

 摂政派の軍勢は、第二・三・六皇女艦隊を除く全軍三百万隻ほど。
 皇太子派の軍勢は、皇女艦隊百四十万隻とアルビエール侯国艦隊百万隻、合わせて二百四十万隻ほどである。
「数は多くても戦闘の経験のない艦隊では、正直相手にならないかと」
「そうやって油断していると痛い目を見るぞ。一頭の羊に率いられた百頭の狼の群は、一頭の狼に率いられた百頭の羊の群に敗れる、という諺がある」
「ナポレオンですね。でも、摂政派軍に狼に匹敵するような指導者がいるかが疑問ですが……」
「隠れた逸材はどこにでもいるよ。ただ、それを見出し活用できるかが問題なのだ」
「ニールセン中将のように、たとえ有能でも自分の意にならない士官を最前線送りするようでは駄目ということですね」
 チャールズ・ニールセン中将は、共和国同盟軍統合参謀本部議長であって、上位の大将が空席だったために軍最高司令官となっていた。
 赤色超巨星べラケルス宙域決戦において、三百万隻の艦隊とともに消え去った。

「殿下、お見せ致したいものがあります」
 ジュリエッタ皇女が話しかけてきた。
「見せたい? 何かね?」
「艦隊駐留基地格納庫にお越し願えませんか? ご覧になって頂きたいものがあります」
「分かった」
 ジュリエッタに案内されて、格納庫へと訪れたアレックス。
 そこで目に飛び込んできたのは、
「ハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式六番艦です」
 見慣れた艦の雄姿だった。
「六番艦? 六番艦があったのか?」
「はい。廃艦が決まった折に、建造途中のこの艦を譲り受けたのです」
「五隻の他に、建造中か……」
「技術者にも来ていただいて、この艦を完成させました。この艦を、殿下に献上したくご案内した次第であります」
「この艦を私に?」
「ウィンディーネを失われた今、艦隊運用にも支障が出ておられましょう。その補充に最適かと」
「本当に良いのか?」
「もちろんでございます。この艦は相当なじゃじゃ馬だとお聞きします。殿下か配下の提督しか乗りこなせないでしょう」
「そうか……ありがたく頂戴しておくよ」

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2021.02.13 12:26 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)

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