銀河戦記/鳴動編 第一部 第十一章・スハルト星系遭遇会戦 Ⅷ
2021.02.09

第十一章・スハルト星系遭遇会戦




 六時間後、第一艦橋に全員の姿が揃っていた。
「さてと……、敵艦隊との接触推定時刻は?」
 アレックスが尋ねるとオペレーターから答えが返ってくる。
「およそ三十分後です」
「敵艦隊の動静は? こちらには気づいていないか?」
「あれから変わった動きは見せていません。こちらには気づいていない模様です」
「これだけ近づいても気づかないなんて、敵は何を考えているのでしょうか?」
 パトリシアが首を傾げている。
「完全に油断しているか、それとも罠か……のどちらかだな」
「罠……ですか?」
「しかし今更後には引けないな。ここまで来たらたとえ罠でも戦うしかない」
「そうですね。通常航路上で大幅な進路変更すれば重力探知機に反応しますから、さすがに敵も気づくでしょう。転進して来る敵に背後を取られることにもなります」
「その通りだ。ジェシカに連絡、艦載機全機発進準備だ」
「はい」
 艦載機などの航空兵力はすべてジェシカの配下にあった。
 その航空兵力の正式な名称は、第百七航空兵団という共和国宇宙空軍の組織の中にある一部隊だった。宇宙空軍から宇宙艦隊への派遣という形で配備されている。ゆえに空軍と艦隊の階級も呼び慣わし方が違う。よく知られているのが「キャプテン」という呼称である。空軍では大尉であるが、艦隊では大佐の階級として呼称されている。

 空母セイレーン、艦載機発進デッキ。
 艦載機に駆け寄り搭乗するパイロット達。
 一人ゆっくり歩きながら愛機ファルコン号に向かっているジミー・カーグ大尉がいる。先のカラカス基地攻略で一階級昇進していた。
「頼むぜ、相棒よ」
 隼のイラストが描かれているその機体を平手で軽くぽんと叩く。
「キャプテン、今度の会戦で勝てばついに少佐も夢じゃないですね」
 ファルコン専属の整備士が話し掛けてきた。
 もちろん整備員がジミーを「キャプテン」と呼んだのは、空軍での大尉の呼称であるのは周知の通りだ。
「バーカ。一般士官の俺らが佐官になれるわきゃないだろ。名誉勲章ばりの戦績をあげなきゃ無理だよ」
「名誉勲章ですか? 例えばランドール司令のように?」
「そうだよ。そもそも俺達は上からの指令に従って戦う駒にしか過ぎないから、よほどの事でもない限り名誉勲章はないさ。例えばカラカス基地攻略のように、戦闘機だけで敵要塞を攻略するような作戦で勝利した場合のようにな。つまり少佐にはなかなかなれないようになっているってことさ」
「でも宇宙艦隊と違って、宇宙空軍には少佐になるのに、佐官昇進査問委員会や試験がないだけ楽なんでしょう?」
「まあな、俺達はどんなに階級が上がっても、動かせるのはこの戦闘機一機だけだが、宇宙艦隊で少佐になるということは、部隊司令官になって、数百隻の艦艇と数万人の乗員の生命を預かるということだからな。それだけ少佐への昇進は難しい……。のだが、この艦隊はどうも特別らしいな。中佐は無論、オニール少佐もカインズ少佐も簡単に昇進しているよ」
「劇的な功績を上げていますからね。それに何せ、特別遊撃部隊というくらいですから」
「ジミー、いつまで話し込んでいるつもりなの。他の乗員は全員搭乗しているわよ」
 艦内放送が名指しで注意勧告していた。ジェシカの声だった。
「おやおや、やかましの航空参謀殿がお叱りだ」
「キャプテン、いいんですか?」
「なにがだ?」
「だって、相手は中尉です。階級が下の参謀にあんなに言われて」
「知らないのかい? 我が部隊は階級じゃなく能力主義なんだよ。能力のある者が、階級を越えて指揮を執ることが可能なんだ。スザンナ艦長だって、多くの参謀達を差しのけて今回の作戦を立案し、ついさっきまで指揮を執っていたじゃないか。それにキャブリック星雲会戦での作戦失態による功績点の返上がなければ昇進していたはずだし。何にしても航空戦力の用兵の妙は、ランドール司令をも上回るとさえ言われている航空参謀殿だからな。俺達が戦功を挙げられるのも彼女次第という場合もあるしな」
「そりゃそうですが……いつも不思議に思ってたんですが、司令が任命した者なら皆素直に従っている。何故なんでしょうねえ」
「ああ、ただの二等兵にだって能力さえあれば指揮官になれるし、従わない者はいないさ。それが司令の信頼されている由縁だな」
「そんなもんでしょうか……」
「まあな。さて、再度のお叱りがこないうちに搭乗するか」
 と梯子を昇りはじめる。
「ご武運を」
 それに答えるように親指を立てるジミー。
 シートに着席すると同時に、通信が入った。
「遅かったじゃないか。何話し込んでいたんだよ」
 ハリソン・クライスラー大尉だった。
「ちょっとな……」
「まあ、いいさ。まもなく発進だぞ。エンジン始動して待機だ」
「判った」

 サラマンダー艦橋。
 警報が鳴り、メインスクリーンパネルの映像が切り替わった。
「前方に敵艦隊! 索敵レーダーに捉えました」
 次々と敵艦隊を示す光点が増えていく。
「敵艦隊の後ろにつきました」
「敵艦数およそ二千!」
「いよいよですね」
「そうだな……。
 呟いてから、
「全艦、戦闘準備! 粒子ビーム発射準備! 艦首魚雷装填! 艦載機は全機発進!」
 と矢継ぎ早に指令を発した。
 その指令をオペレーター達が全艦に伝達指示する。
 次々と発艦をはじめる戦闘機群。
「艦載機、全機発進完了しました」
「ようし! 全艦魚雷一斉発射!」
「魚雷発射します」
 一斉に発射される魚雷。
「突撃開始、艦載機は母艦に追従せよ」
 遠回りしてきた道のりの末に、ついに戦闘の火蓋が切って落とされたのだ。
 やがて前方に魚雷による無数の爆発の光が輝いた。
「粒子ビーム砲、三十秒間一斉掃射の後、艦載機は全機突入せよ」

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2021.02.09 08:11 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十一章・スハルト星系遭遇会戦 Ⅶ
2021.02.08

第十一章・スハルト星系遭遇会戦




 その頃、再び指揮官席に付いたアレックス。
「敵艦との接触推定時刻は?」
「およそ八時間後、0507時です」
「よろしい。各艦に伝達、三時間交代で乗員を休息させ、0307時には戦闘配備に入れ」
「了解、伝達します」
 パトリシアが戻ってきた。
「任務に復帰します」
「ああ、パトリシアか。済まないが携帯食を持ってきてくれないか」
「判りました」
 取って返して艦橋を出て行くパトリシア。

 パトリシアは食堂へ歩いていた。
 交代休憩を与えられた隊員達が食堂へ続く通路を行きかっている。
「まずは腹ごしらえしようぜ」
「しかし生きた心地がしなかったな」
「指揮官がベンソン艦長だからか?」
「いや、艦長のことは信用しているよ。何せ司令官の士官学校時代から旗艦艦長を務めてきたんだし、指揮運用を任せる限りには、それなりの能力を持っているのだろうと思っているさ。ただね、ちょっと今回ばかりは、危険率が高かったからな」
「まあ確かに、模擬戦闘のベネット十六星雲強行突破作戦以来ってとこかな」
 そんな会話を耳にしながらパトリシアは思った。
 アレックスは、スザンナを艦長としてではなく、指揮官としての能力を見出し、戦術士官ではない彼女に、いろいろと教育しているのだ。それを確たるものにするために、あえてスザンナにスハルトの重力ターンの指揮を執らせたのだ。
 このわたしではなくスザンナという事が気になっていた。戦術士官としての教育を受けているこのわたしに指揮を執らせてくれても良かったのではないか。
 と考えているうちに気がついた。
 もしかしたらスザンナに嫉妬しているのではないだろうか。
 戦闘に際し私情は禁物だ。
 改めて冷静になって考え直してみる。
 パトリシアは艦隊勤務新入生だ。指揮官としての経験が浅く、まだ一人きりで指揮を任せられるほど成長していない。その点、スザンナは常日頃から巡航時での艦隊運用の経験があり、アレックスが見抜いている通り指揮統制能力が十分備わっているのは明らかだった。
 艦隊運用に必要なものは、司令官の能力もさることながら、それを実行する有能な指揮官が必要だ。より多くの指揮官を得るためには候補性を育てる事も肝要だ。その最短距離にあるのがスザンナだった。指揮統制能力では、今のパトリシアよりもはるかに高い位置にあるのは確かだ。
 それに何よりアレックスがいつも言っていた言葉を思い出した。
「パトリシア、君には艦隊指揮よりも作戦参謀として活躍してもらいたい」
 アレックスは言う。人にはそれぞれ違った能力特性を持っている。最前線で目の前の敵と戦い抜くのが得意な者がいれば、それらの兵を指揮する用兵に長けた者もいる。そして作戦立案を考える参謀に適した者もいる。適材適所、それを見誤ったらいかに有能な人材であっても、ただの無駄飯ぐいになってしまうのだという。
 そうなのだ。スザンナに嫉妬しても詮無いこと。スザンナにはスザンナの、パトリシアにはパトリシアの適材適所というものがあるはずだ。

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2021.02.08 08:19 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十一章・スハルト星系遭遇会戦 Ⅵ
2021.02.07

第十一章・スハルト星系遭遇会戦




 サラマンダー艦橋。
「近日点付近の危険ゾーン通過に要する時間は、およそ二十五分。防備の薄い駆逐艦を守るために、戦艦・巡洋艦を恒星に対して内側になるように部隊編成を行います。急いで」
 スザンナが指令を出しはじめていた。
 メインスクリーンには巨大なプロミネンスを吹き上げる灼熱のスハルト星が映し出されている。その強力な重力が艦体を歪め、至る所で軋み音を上げていた。
 ここまで来てはもはや躊躇は許されなかった。その時点での自分が考えられる最良の指示を出し続ける他にはなかった。もし間違っていれば中佐殿が訂正してくれるはずだ。アレックスのその存在感は絶大だった。
「全艦、耐熱シールド展開」
「武器系統の動力をすべてカットして、パワーを機関に回して」
「機関出力をオーバーリング状態にして、速力を一定に保って下さい」
 次々と指令を出し続けるスザンナ。
 一息をつく暇もない。いくらコンピューターが算出したコース設定通りに艦隊リモコンコードで全艦一斉移動しているとはいえ、逐一コースの修正を行わなければならなかった。なぜなら地点地点によって重力値が微妙に変動するし、黒点や白斑そしてプロミネンスの状態によって、その放射圧力が極端に変化するからだ。
 戦闘の指揮がどれほど大変かを痛感した。
 中佐も戦闘の度にどれほどの精神をすり減らしていたかが実感できた。しかも今の自分の相手のスハルトは、弾を撃って来ないだけまだ精神的に余裕があると思った。最悪ならば作戦を放棄してスハルトから脱出することもできる。しかし敵艦隊との戦闘では相手は黙って通過を許してはくれないし、見逃してもくれない。ビーム砲は撃ってくるし、ミサイルも発射してくる。どう出てくるか判らない相手の行動を推測し、寸秒刻みで的確な判断を下さなければならないのだから。
 その尊敬する司令官アレックス・ランドール中佐は、ただ静かにスザンナを見守っていた。

「指揮官。一部の駆逐艦が出力不足で予定コースから外れていきます」
「艦数は?」
「十二隻です」
「十二隻か……。仕方ありませんね。当該駆逐艦に作戦変更を伝達、敵追撃作戦を断念して帰投コースに戻れ」
「了解。当該駆逐艦に帰投命令を出します」
 スザンナは一部艦艇を離脱させる命令を躊躇しなかった。恒星スハルトの強大な重力圏内で無理なコース変更をすれば機関不良を起こして失速、スハルトに飲み込まれてしまう。作戦に勝利するよりも部下の生命を大切にすることは、ランドール司令のモットーだ。それを忠実に実行しているのである。ランドール中佐は動かない。つまりスザンナの判断が間違っていないということだ。
「近日点を通過します!」
「よし、全艦機関出力最大、全速前進。スハルトの重力圏から離脱する」
「全艦機関出力最大」
「全速前進」
「重力圏離脱します」

 それから二十分後。
「追撃コースに乗りました。先の十二隻以外には脱落艦はありません」
 ふうっ。
 と大きなため息をつくスザンナ。
 その肩に手が置かれた。
「よくやった。完璧な指揮だったよ。これで戦闘指揮もこなせることが判った。今後も君には期待している」
 アレックスだった。満面を笑顔を見せて、スザンナの采配振りを誉めちぎった。
「ありがとうございます」
「交代だ。休憩してきたまえ」
「判りました。休憩してきます」
 ほんとうは艦長として、引き続き操艦したい気分だった。
 しかし命令であり、休憩する事も重要な任務の一つだ。
 部屋に戻り、タイマーを六時間後にセットしてベッドに入ると、あっという間に寝入ってしまった。自分では気づかなかったが、精神的疲労は極限にまでになっていたのであった。死んだように深い熟睡の眠りに陥った。

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2021.02.07 07:11 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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