銀河戦記/鳴動編 第一部 第十一章・スハルト星系遭遇会戦 Ⅺ
2021.02.12
第十一章・スハルト星系遭遇会戦
Ⅺ
それから数日後。
アレックスの前にレイチェルが意見具申に訪れていた。
「ところで司令」
「なんだ」
「部隊の女性士官の制服なのですが、やぼったいという意見が非常に多く、デザイン変更の要望書が数多く提出されております」
「ま、またかよ……ここの部隊は女性上位もいいところだな。それで……今度は何だよ」
「はい。独立遊撃部隊を名乗っている以上、それにふさわしい制服が欲しいという声が上がっています」
「早い話しが新しい制服をくれということだな」
「はい。軍規などをつぶさに調べてみましたが、士官の制服のデザインについて、明確に規定された銘文はございません。現在着用されております制服においては、国防省内務通達規定によって約五十年前に採用されたものです」
「ま、指揮統制をはたし、機能性のあるものなら、何だっていいわけだよな」
「その通りです」
「ま、いいか。どうせ、我が部隊は同盟軍のはぐれ者だ。自由の証である五色の旗印の下、好き勝手やらせてもらっても構わんだろう。軍規に抵触しない限りね」
「その通りです。司令」
「で、手回しの良い君のことだ。制服のデザインとかは、すでにいくつか候補を持っているのだろう」
「はい。先程、司令もおっしゃられておりましたが、『自由の証である五色の旗印』であります旗艦・準旗艦のシンボル、火・水・木・風・土の各精霊達。赤・青・緑・白・茶などの彩色を取り入れる意見が候補にあがっております」
「とにかく、そういうことは。当事者である女性士官達の選択に任せよう。君が責任を持って対処したまえ」
「はい。では、そのように致します」
「一言いわせて頂けるならば……」
「何でしょうか」
「司令官としてではなく、一人の男性の希望として……できれば、ミニのタイトスカートにして欲しいな」
「考慮しましょう」
「うむ。よろしく頼む」
それから程なくして、制服制定委員会が発足した。
レイチェルが委員長となり、パトリシアとジェシカが副委員長として補佐する。
他のメンバーには、ウィンディーネからシェリー・バウマン少尉、ドリアードからパティー・クレイダー少尉、シルフィーネからバネッサ・コールドマン少尉、ノームからサラ・ジオベッティ少尉。そして衣糧課の人々。
もちろんデザイナーであるアイシャ・ウィットマン少尉も参加している。
「というわけで、司令の希望であるミニのタイトスカートという案は、第一優先です」
「本当に司令がおっしゃられたのですか?」
パトリシアが怪訝そうな表情でたずねた。
「そうですよ」
「ううん……」
「まあ、そう怪訝な顔はよしなさいな。我が艦隊にあって、自由な風潮が守られているのも、司令の意向によるところがあるのだから。少しは希望を適えてあげないとね」
「そうは言っても……」
サラマンダー 赤
ウィンディーネ 青
ドリアード 緑
シルフィーネ 白
ノーム 茶
「……と以上のごとく旗艦の旗印を象徴する五色を基調としたデザインにすることに、皆の意見が一致しました」
「色を区別して制服を制定するのはいいですが、その着用区分をどうなされるのでしょう。階級別ですか?」
「部隊の所属別はどうかしら。旗艦部隊は赤で、第一分艦隊は青という具合に」
「いいえ。制服は全員を統一したほうがいいわ。階級別とか部隊別に色を分けるのは賛成できない。赤が嫌いな人、茶色が嫌いな人、それぞれいますし、服が違えば対抗意識が芽生える素地となってしまいます。全員が納得できるように、一つの制服としてこの五色をバランス良く配置させるようにするのよ」
「五色も使うとなると、ちょっとカラフル過ぎるのではないでしょうか?」
「それを上手にデザインするのがあたし達の役目よ」
「わかりました。大尉のおっしゃるとおりにします」
「そうですね」
第十一章 了
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第十一章・スハルト星系遭遇会戦 Ⅹ
2021.02.11
第十一章・スハルト星系遭遇会戦
Ⅹ
その頃、アレックスはオフィスでゴードンと対面していた。ドアの所にはゴードンの副官のシェリー・バウマン少尉が控えている。
「どういうことだ、ゴードン。君の配下の者が命令違反を犯すとは」
「申し訳ありません」
スハルト星重力ターンでの帰投命令を無視し、追い掛けてきて戦列に復帰してきた艦艇と艦長のリスト。その十二隻すべてが第一分艦隊所属、ゴードンの配下であった。ゴードンの分艦隊は高速性が優先されているために、防御壁が脆弱で耐熱性に弱い艦艇が多かった。ゆえに脱落艦も多数出てしまったのである。それを突きつけられて恐縮しているゴードン。
「スザンナは帰投命令を出していたはずだ。そうだな」
「はい。間違いありません」
「今回の奇襲作戦の主旨からいっても、一部の者の身勝手によって部隊全滅の危機にさらすことになったことは、君にも理解できるだろう。作戦コースを外れた場所でコース変更を行えば、敵の重力加速度計に探知されるのは周知の上だったはずだ。その上敵の哨戒機に発見されなかったのはたまたま運が良かっただけだ。違うか?」
「その通りです」
「敵艦隊には特殊任務を帯びていたらしく、索敵とかには無頓着だったみたいだから、幸いにも作戦自体には影響はなかったが……。その上、彼らのおかげで退却し逃げ出す寸前の敵将を捕虜にできたことは幸運だが。結果は問題じゃない。行為そのものが問題にされていることは理解できるだろう」
「はい」
「それらの艦長全員に対して、二ヶ月間の限定階級剥奪と謹慎処分を命ずる」
厳かに処分を言い渡すアレックス。
女性士官専用居住区の設定や、ランジェリーショップの許可など、色々と乗員の為に福利厚生などには、十分すぎるくらい配慮しているものの、艦隊の危機を招くことになる命令違反は重大であり、厳罰をもって処分しなければいけない。
「監督不行き届きとして、君にも厳罰を与えねばならないが」
「覚悟しております」
「うん……。給与の二割減棒及び二週間の謹慎処分だ。いいな」
「わかりました」
今回の命令違反は、指揮官としてゴードンも重々承知しており、一言の弁明も反論もしなかった。ただ粛々として処分を受け入れるしかなかった。
「話しは以上だ。下がって良し」
「はっ」
敬礼し、表情を強ばらせたまま退室するゴードン。
通路に出たところでシェリー・バウマン少尉が話し掛けてきた。
「少佐殿に対する処分は、ちょっとひどすぎると思いませんか」
自分の信奉する上官に下された処分に、憤懣やるかたなしといった様子だ。
「彼らのおかげで、逃げ出す寸前の敵将捕獲に成功したのですよ。いわば功労者ではありませんか」
「確かに結果的にはそうかもしれない。がしかし、いかな戦果をあげたかではなく、いかに行動したかが問われているのだ。司令代行のベンソン艦長は、帰還命令を出した。司令から全権を委ねられた以上、彼女の判断と命令は、司令自らが下したものと同じなのだ。それを無視したことは、軍法会議にかけられても致し方ないものだ。司令訓告だけですませてくれただけも有り難いと思わなくては」
「しかし……長年の友人なのに……」
「いいんだ、シェリー。中佐の取られた判断には間違いはない。戦いに友人も何もないさ。あるのは上官と部下であり、命令と服従なんだよ。私情は禁物さ。ここで彼らを許しては、今後も同様の命令違反を犯す者が出てくる。そうではないかな?」
「は、はい……」
「逃げ出す寸前の敵将を捉えたのだ。本当は勲章を与えてもいいくらいなのだが……結果を誉めるよりも、行動を懲罰する方を選んだのだよ。心を鬼にしてね」
「はあ……そうですね」
「とにかく、彼らに会うとしよう。ウィンディーネに戻るぞ」
「はい」
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第十一章・スハルト星系遭遇会戦 Ⅸ
2021.02.10
第十一章・スハルト星系遭遇会戦
Ⅸ
およそ三時間後。
戦闘は圧倒的勝利で終わった。
「長い道のりだった割には簡単に終わってしまいましたね」
「敵の背後から急襲できたし、相手はまったく油断していたみたいだからな」
「搾取した艦艇ですが、いかがなされますか?」
「そうだな……」
と考え込んでいるアレックス。
今回の戦闘でも五百隻ほどの艦艇が白旗降参し、これを拿捕することができたのだった。これまでは拿捕した艦艇は、そのまますべて部隊に編入し、艦隊を増強してきた。
「いや、今回は止めておこう。捕虜を収容したら全艦撃沈処理する」
「え? いいのですか?」
「戦闘の前にも言っただろう。罠かも知れないと」
「え、ええ。確かにおっしゃいましたが」
「あまりにも事が簡単に運び過ぎた。これがブービートラップではないという保証はないじゃないか」
「でもシステムの総入れ替えをすれば」
「システムだけじゃない。艦内のどこかに探査できないように施された爆薬などが仕掛けられていたらどうする? あるいは艦隊の位置を逐一知らせる発信器でもいい」
「まさか……」
「考えてもみろ。我々の帰還コース、同盟軍の勢力圏内で行動しているにも関わらずろくな索敵もせず、まったくの無防備状態でいる艦隊がいると思うか? まるで襲ってください、拿捕してくださいとばかりに、目の前に置いてあった感じだ。おそらく拿捕した艦艇を編入してきた私のこれまでを考えて、罠を仕掛けてきたと考えても道理だと思うが、どうだ?」
「そう言われればおかしな点が多いですね」
その頃、バーナード星系連邦タルシエン要塞基地。
司令官室を行ったりきたりしながら、いらいらしているスピルランス少将。
「信号が跡絶えました。全艦撃沈されたもようです」
静かに報告をするのは、深緑の瞳を持ったスティール・メイスン大佐だ。
「降伏し拿捕された艦もか?」
「はい。すべての艦艇です」
「そんな馬鹿な……。そんなことはあるはずがない……」
「どうやら閣下の思惑が外れたようですね。二千隻の艦艇が宇宙の藻屑と消え去り、六万余人の将兵が無駄死にし捕虜になったわけです」
「言うな!」
「ランドールという男、なかなかしたたかな相手です。これまでの経緯なら拿捕した艦艇を自らの艦隊に加えて、兵力を増強してきましたのに、今回に限っては閣下が仕掛けた罠に気づいて艦を残らず撃沈させるとは」
「ええい。言うなというに。出ていけ!」
「はっ!」
うやうやしく頭を下げて退出するスティール、そして扉を閉めると同時にため息をついて嘆くのだった。
「自軍の艦艇や将兵達をただの駒のように扱ったあげく、ただ作戦が失敗したことを悔やんでいるだけとは……。無駄に死んでいった将兵のことなんか少しも気にもとめていない。あれじゃあ、死んだものが浮かばれない」
サラマンダー兵員食堂。
アレックスとパトリシアが仲良く食事を取っている。
「まあ、何にしても今回のスザンナの働きは賞賛に値するな。それだけははっきりとしている」
「そうですね……」
「どうした浮かない顔だな」
せっかく忘れようとしていたのに思い起こされてしまったという表情のパトリシア。
「いいえ。何でもありません」
「そうか……。ところでパトリシア」
「何でしょう?」
「今、どんな下着を着ている?」
周囲を気にしながら、パトリシアの耳元でひそひそ声で尋ねるアレックス。
「はあ……?」
突拍子もない質問をされて唖然としている。
いくら夫婦生活にある間柄とはいえ突然のこととて、さすがに答えに窮してしまう。
その戸惑っている様子をみて、
「い、いや。いいんだ。忘れてくれ」
と前言撤回した。
丁度、その時だった。
「中佐殿。探しましたわ」
「レ、レイチェル!」
「巡回査察がまだ途中です。続きを致しましょう。おいで下さいませ」
「なあ、巡回はもう済んだということにしないか?」
「だめです。前例を作ることを許したら、今後も逃げ口上に使われるのでしょう」
「レイチェルには、かなわないな……」
この時ほど、レイチェルが鬼のように感じたことはなかった。
渋々と立ち上がるアレックス。
そんな二人の会話を聞きながら、怪訝そうなパトリシア。優柔不断な態度のアレックスと毅然としたレイチェル。いつもの二人とまるで様子が違っていたからだ。
「ああ、そうだ。パトリシア」
「何でしょう?」
「スザンナに、スハルト重力ターンで脱落した艦艇とその艦長のリストを作成してもらって、オフィスに届けておいてくれ」
「スザンナ艦長の帰投命令を無視して戦列に復帰した艦艇ですね」
「そうだ。それとゴードンも呼んでおいてくれないか。1700時がいいな」
「かしこまりました」
「じゃあ、頼むね」
巡回査察再開のために、レイチェルと共に食堂を立ち去って行くアレックス。
「アレックスらしくないわねえ。たかが巡回査察に、レイチェルさんと、一体何があるのかしら……」
女性居住区という女性達の憩いの場に、踏み込まなければならないアレックスの心境を、女性であるパトリシアが理解するにはまだ経験が浅かった。
それから数時間後、巡回査察を終えたレイチェルとパトリシアが並んで歩いている。
「なんだ。そういうことだったのね」
「アレックスとしては女の城に入り込んで行くにはやはり相当な勇気が必要だったみたいね」
「アレックスらしいわね」
「で、悩殺下着なんかプレゼントされたらどうする? 彼のために着てあげる?」
「その時になってみなければ判りませんよ。アレックスのその時の態度次第じゃないですか。やだあ……。こんなこと言わせないでくださいよ」
と真っ赤に頬を染めてしまうパトリシア。
二人の会話が示すように、レイチェルが二人が夫婦である事を知っている数少ない理解者であると、パトリシアは知っている。だから親しみを込めてすべてを話し合っている。
「で、今日はどんな下着を着ているの?」
「もう……秘密ですよお」
「にしても今回はスザンナに先を越されちゃったわね」
「参謀の面目丸潰れというところかしら」
「あの作戦プランは、わたしも考え付いてはいたのだけど、あのまま脱出した方が理にかなっていたから言わなかったの」
「まあ、考え方の違いってことね」
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11
2021.02.12 06:40
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