銀河戦記/鳴動編 第一部 第七章 不期遭遇会戦 Ⅵ
2021.01.06

第七章 不期遭遇会戦




「一つ質問してもよろしいですか?」
 オブザーバーとして参加していたスザンナ・ベンソンが発言した。一艦長に過ぎないスザンナは、本来参謀会議に出席する権限はないが、操艦技術だけでなく作戦指揮能力もかなり高い能力を有していることを、アレックスは見抜いていた。巡航時における艦隊運用の実績を見てもそれは証明されている。ゆえに作戦会議などにオブザーバーとして参加させているのである。
 他の参謀が責任を感じて暗く押し黙っているのに対し、作戦立案に関与していないがために、それほどの重圧はかかっていない。
「何かな」
「あの時、熱源感知ミサイルを使用なさらなかったのはいかなる理由でしょうか。被害をもっと最小限に食い止められたのでは?」
「あの時熱源感知ミサイルを使用すれば、こちらの被害は皆無に近い状態で、勝利していただろう。が、それでは訓練にはならない。目の前の小さな敵にばかり気をとられて、将来にかかわるもっと強大な敵が迫っていることを忘れてはならない。そのための訓練であり、まともな実戦を戦ったことのない寄せ集めの将兵達を再訓練し、実戦部隊として使えるものにしなければならなかった。ここは多少の犠牲を払ってでも、部隊の将兵全員が一丸となって全力を挙げて戦い、勝利しなければ訓練の意味がなかったのだ。私が敵が潜んでいるかもしれない星雲に、あえて訓練としての作戦任務を遂行したのもそのためなのだ。実戦のための訓練でありながら、訓練のための実戦であったのだ」

 アレックスが呼吸を整える度に、会議室は静まり返る。
「それはともかくも、問題は今回の作戦だ。君達参謀としてのいい加減な対応によって、部隊将兵達全員の生命を軽く扱い危機に陥らせる可能性をもたらした罰として、ゴードン、カインズ両名は給与を三ヶ月間二割減額し、その他の者は同二ヶ月一割減額する。意義のあるものは?」
 誰も意義を言い出す者はいなかったし、言い出せるものではなかった。アレックスの機転がなければ部隊は全滅、全員この場にいるはずのない事態に陥っていたからである。
「さて、私は君達に宿題を出しておいたはずだが、今回の作戦の反省を十二分に踏まえて、カラカス基地防衛の作戦立案をもう一度検討して明後日に提出のこと。一人で考えるもよし、数人で相談して連名で提出してもいい」
「わかりました」
「よし。今日のミーティングはこれまでだ。解散する」
 立ち上がって退室するアレックスと、敬礼して見送る参謀達。

 アレックスの姿が見えなくなって思わずため息をもらす参謀達。
「参りましたね……」
「ああ……。今回の作戦に際しては、司令には頭が上がらない」
「参謀達全員で立てた作戦の欠陥にただ一人気がついていただけでなく、部隊を窮地から救った上に見事な作戦で敵部隊を壊滅に追い込んだ」
「大破こそあったものの、一隻の撃沈なしにな」
「それも十五倍以上の数の敵部隊にたいして」
「司令がおっしゃってた、七百隻で敵一個艦隊を撃滅する作戦を考えている。というのは本当のことだったんですね」
「オニール少佐は、士官学校の模擬戦闘にも一緒に参加なされたそうですね」
「模擬戦闘か……あの当時から常軌を逸脱した作戦を敢行する人格だったなあ。原始太陽星雲ベネット十六を突破するなんてことは、誰も予想もできなかったよ。確かに不可能と思われていたことを、可能にしてみせている……今にして思えば」
「対戦校の指揮官にミリオンが選ばれたことが発表される半年以上も前から準備周到な作戦を練って、彼を完膚なきまで打倒しちゃったんですよね。それも誰も想像だにしなかった奇抜な作戦で」
「やっぱり噂通りに、司令には予知能力があるのでしょうか」
「あるわきゃないだろ、そんなもん」
「でも敵が潜んでいることを予期していらしたですよ」
「それだよな。どうやって連邦が訓練航海の情報を得たかだよ」
「報道部が宣伝流してたから?」
「なぜわざわざ流す必要がある」
「やはり、軍部内にランドール提督を貶めようとする輩がいるということでしょう」
「出る杭は打たれる……」
「チャールズ・ニールセン中将なんか、昇進著しかった当時のトライトン少佐を妬みの対象にして最前線送り」
「まあ、彼の思惑は外れてさらに昇進させる結果になってますけど」
「ニールセン中将か……。自分はデスクにどっかりと座って、気に入らない将校を片っ端から前線送りしてますね」

「ところで、今回の戦績からすれば、司令は大佐に昇進してもいいんではないでしょうか」
 その言葉の背後には、つまるところゴードンやカインズそして多くの士官さえもが、同時に昇進できるのではないかとの、思惑もあったようである。
「いや、今回の軍事行動は、あくまで訓練の延長であると、司令自身が辞退したそうだ」
「辞退!?」
「俺達がとやかく言える権利があると思うか?」
「いえ。今回の不期遭遇会戦の戦果は、すべてランドール司令お一人の手柄です。その司令が辞退するというなら、わたし達には口出しできません」
「そうだよな。功績点も、作戦会議に同席した士官全員の分を返上されたらしい。戦死者や一級負傷退役兵の特進や恩給、下士官クラス以下の処遇などは規定通りに行われたがな」
「でもレイチェルさんだけは、大尉に昇進なさっていますよね」
「ああ、敵の一個艦隊が隠密裏に行動しているのを察知して、キャブリック星雲に向かった可能性を示唆していたそうだ」
「じゃあ、その情報がなかったら、わたし達全滅していたかもしれませんね」
「まあ、哨戒作戦に不備があることは確かだったし、司令のことだからあのまま星雲に突入するようなことはしなかっただろうけどね。情報があるのとないのとでは雲泥の差がでるよ。あれだけ完璧な指示を出せたのも、情報があればこそだ」
「そうでしょうねえ……」
「レイチェルのすごいところは、司令が今一番欲しがっている情報は何かと逸早く察知して、言われなくてもほぼ完璧な資料を提示してみせることだ。ハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式五隻が廃艦になることを進言して、我が部隊に配属できるようにしたのも彼女だからな。カラカス基地の詳細図のことも皆が知っての通りだ。司令が言うように、彼女の情報収集能力は一個艦隊に匹敵するというのは、本当のことだよ」
「司令の立てる完璧な作戦の裏には、レイチェルさんの完璧な情報があったというわけですね」
「結果的にはそういうことになっているな。この二人にパトリシアが加われば鬼に金棒さ。もっとも今回はさすがのパトリシアも手落ちになっちゃったけど」

 司令室。
 デスクに着き、今回の作戦の報告書をまとめているアレックス。
「お疲れさまです」
 デスクの上にコーヒーカップを置きながらねぎらうレイチェル。
「パトリシアはどうしている?」
「はい。自室に籠っています。作戦参謀として、敵の存在を感知しえなかった自分に責任を感じてふさぎ込んでいます」
「そうか……まあ、パトリシアだって見落とすことぐらいあるさ。問題となっているのは、参謀全員が気づかなかったことだから」

第七章 了

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2021.01.06 15:42 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第七章 不期遭遇会戦 Ⅴ
2021.01.05

第七章 不期遭遇会戦




 キャブリック星雲内における不時遭遇会戦の結果は、同盟側損害二十七隻に対し連邦側推定損害三千隻という、アレックスの率いる部隊の圧勝に終わった。それも四百隻対七千隻という数において劣勢の状況下において味方撃沈が一隻も出なかったのは驚異であった。
 その勝利要因を分析すれば、艦隊リモコンコードに頼らないアレックス独特の艦隊ドックファイトという近接戦闘・乱撃戦法が真価を発したというものであった。一定の距離を保って相対して撃ち合う艦隊決戦に固執した連邦が、懐に飛び込まれて身動きがとれなくなり、果ては同士討ちまで引き起こして被害を広げたことによって敗北を決定づけたといえた。
 なお将兵の犠牲者は、死亡三十一名、行方不明十八名、重傷七十八名、軽傷二百四名であった。
 撃沈が一隻も出なかったことで賞賛されることはあっても、その陰で多数の犠牲者を出したことにたいしては、とかく内密に処理されることが多い。敵船艦を何隻撃沈したとか味方艦が何隻撃沈されたとかいった物理的な報告は正確なまでに発表されるが、人が何名死んだといったことはまず発表されることはなく、報告書としてまとめられて事後処理されるだけである。
 その報告書に署名をするアレックスは、暗く押し黙り悲痛の念を表しながら、
「何の感情もなく報告書にサインできるような人間にはなりたくないものだ」
 と、副官のパトリシアにもらしたという。

 アレックスが、作戦会議室に幕僚を招集して、今回の作戦結果について、
「さて、みんなご苦労であった……。と、いいたいところなのであるが、今回の作戦については苦言を言わねばならない」
 と切り出した時、一同はアレックスが何を言いたいかをとっさに察知していた。戦闘訓練の作戦立案において、キャブリック星雲に敵部隊が潜んでいた場合の作戦を、誰一人として想定しえなかった点についてである。
「パティー・クレイダー少尉」
「はい」
 アレックスはカインズの副官である彼女に質問した。
「作戦実行の二十四時間以内に、我々の哨戒機がキャブリック星雲の全域を捜索していたかね?」
「いいえ」
「では、その時部隊が取るべき行動は?」
「はい。部隊の突入前に、改めて索敵機を発進させて、敵艦隊の有無を確認すべきでした」
「その理由は? キャブリック星雲は、三日前の捜索では敵艦隊の存在は確認されていなかったはずだが」
「星雲内は濃密な星間物質及び中心にあるパルサーからの強力な電磁波によって通常の索敵レーダーが使用不可能なため、カラカス基地から背後にあたる空域は死角となっています。小部隊なら間隙をついて背後から忍び寄って隠れ潜入することは可能でしょう」
「そうだ。我々は総勢七百隻しか有り合わせがないために十分な哨戒行動が取れない。大艦隊ならともかく、小部隊で隠密裏に行動されると索敵の網から漏れることは十分にありうることだ」

 続いてゴードンの副官を指名して質問を続けるアレックス。
「シェリー・バウマン少尉」
「は、はい」
「キャブリック星雲の直前で突然の作戦変更を断行し、雷速五分の一で魚雷発射して急速転回、星雲の側面から部隊を突入させたその作戦意図を述べてみよ」
「はい。我々が訓練でキャブリックに向かったことは、報道部などから広く情報が流されていました。星雲内に敵が潜んでいればその情報を傍受して奇襲をかけることは十分予想されます。司令の突然の作戦変更は敵の裏をかくためでした」
「それで?」
「雷速五分の一、つまり戦艦と同速度による魚雷発射は、魚雷を同盟軍艦船だと敵に誤認させるためのカモフラージュ。敵は索敵レーダーの効かない濃密な星間ガスの中にいますから、星雲に突入した魚雷群を同盟軍戦艦と見誤ってこれに攻撃を開始する可能性は大いにありました。その間に、最大戦速をもって星雲を迂回した我が部隊は、敵の側面から攻撃を加えられます。しかも敵は我々の部隊に対して反転迎撃しようにも、次々と飛来する魚雷群に側面を見せることになる上に、艦首魚雷を放ったばかりで、再装填にかかる間にやすやすと我々に接近されて、得意の乱撃戦に持ち込まれてしまい、被害は拡大するだろう……と、司令は判断したのだと思います」
「いいだろう……」
 シェリーが席に腰を降ろしたのを見届けてから、自分の考えを述べはじめるアレックス。
「ま、運良く敵がいてくれたからこういう結果になったが、いなかった場合は魚雷相手に戦闘訓練するつもりだったことを付け加えておく。さて……」
 と言い継ぐ言葉を止めて、まわりの参謀達を見渡すようにしてから、言葉を続けた。
「今回のキャブリック星雲における不時遭遇会戦には、二つの大きな意味合いが含まれている」
「二つの意味合いですか?」
「そうだ。その一つは、敵が我々の訓練航海の情報を得て、星雲内で待ち伏せをしていた節があること。何も知らずに当初の作戦通りに行動していれば、四百隻すべてが全滅していただろう。つまりは情報を知るということがいかに大切であるかということだ。情報を得て待ち伏せに出た敵と、星雲内の情報が得られないことから作戦を変更した我が部隊。結局は私の方に、幸運の女神は微笑んでくれたが、その成否は実に紙一重なところにあったのだ。私はついていたのだ。ともかく、敵の情報を一刻も早く集め、敵にはこちらの情報を悟られないようにすることだ。そして……」
 ここで息を継ぐように、一同を見回してから言葉を続けるアレックス。
「もう一つは、当初の作戦計画立案と決定に際して、誰一人として意義を訴えなかったことだ」
 アレックスのその言葉は、一同の胸をえぐった。
「訓練ということで、作戦立案のすべてを参謀である君達に一切任せた以上、口を挟むべきではないと判断して何も言わなかった。いつか誰かが間違いに気がつくのではないかと考えたからだ。しかし流石に戦場を前にしては変更せざるを得ないだろう。部隊の将兵全員の生命がかかっているからな。君達は、どうせ訓練なのだという安直な意識がなかったか、一度索敵をすれば大丈夫だろうとタカを括ってはいなかったか。それが作戦立案において哨戒作戦を安直なもので済ませてしまったのだ。その結果がこの始末だ」
 会議場は静まり返り、アレックスの憤りの声だけがこだましていた。
「いいか。敵は、どのような些細な間隙をついてくるかわからないのだ。ゴードン」
「はっ!」
「ミッドウェイ宙域における、私の作戦は?」
「敵空母艦隊の度真ん中へのワープでした」
「カインズ!」
「はい」
「カラカス基地攻略の概要を述べてみよ」
「流星群に紛れての揚陸戦闘機による奇襲攻撃です」
「二つの作戦がいかにして大成功したか。パトリシア、その要旨を述べてみよ」
「はい。いずれの場合も敵が予想もしなかったというよりも、不可能と判断していた進撃ルートをとったからです」
「その通りだ。人が常識的に不可能と考える場合でも、果たしてそれが本当に不可能なのか? と再考慮するところから作戦ははじまるのだ。不可能と思われている事柄の中にも、どうにかすれば可能にすることはできないか? 常識に捕われていてはいけないのだ。……そもそもキャブリック星雲に向かったのはいかなる目的だったかな」
「訓練でした。未熟な将兵や落ちこぼれといわれていた者達が多く、寄せ集めのできそこない部隊と蔑まれていました。それを再訓練することによって一人前の将兵に鍛えることでした」

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2021.01.05 15:40 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第七章 不期遭遇会戦 Ⅳ
2021.01.04
第七章 不時遭遇会戦



「どうだ、艦数はわかるか」
「重力測定によれば、通常戦艦換算でおよそ七千隻かと」
「七千隻か……」
「全艦戦闘配備完了しました」
「よし」
「前方にエネルギー反応多数」
 パネルスクリーンに前方で輝く光点の明滅が確認された。
「どうやら敵は我々が放った魚雷を、同盟艦船と思い違いして攻撃しているようです」
「思惑どおりだ」
「司令はこうなることを予測していたのですね」
「いや……可能性を想定していただけだ。万が一を考えて作戦を変更させた。何せ報道部の奴等が、ご丁寧に訓練の作戦予定コースまで発表してくれたからな」
「敵がその報道を傍受して罠を仕掛けて待ち受けていた。その裏をかいたのですね。魚雷を戦艦と同速度で発射して、予定通り作戦コースを進行しているように見せかける。星雲の中にいて索敵レーダーが不能になるのを見越して……そうですよね」
「まあな……全艦にミサイル発射準備」
「司令。星間物質のせいで自動照準装置が作動しません」
「かまわん。手動モードに切り替えて、敵部隊中央に適当にぶち込んでやれ」
「適当にですか? ミサイル巡航艦なら熱源感知ミサイルを搭載していますが」
「通常魚雷で十分だ。まわりが見えない状態で奇襲を受ければ、敵は混乱状態に陥いる。それが目的だ。当たらなくてもいい。とどめは粒子ビーム砲と艦載機攻撃にまかせる」

「まさか敵がこんな身近な所に潜んでいるなんて。カラカス基地を防衛していた艦隊の一部でしょうか」
「そうではなさそうだ。星雲から発せられる電磁界ノイズによって、その背後の領域の探知が困難だからな。いつでも近づいて隠れることができる」
「それにしてもこの濃厚な星間ガスによって探知レーダーが一切使用不可能なのは痛いですね」
「それは敵も同じことだ」
「そりゃそうですが」
「有視界戦闘か……望むところといいたいが。あいにく戦闘経験の乏しい将兵が多い」
「どうなさいますか。反転離脱をはかりますか?」
「反転している余裕はない。敵も我々を探知しているはずだ。側面を見せればそこを叩かれて被害を増やすだけだ。このまま全速前進して敵中突破をはかる」
「紡錘陣形をとりますか?」
「いや。星間物質によって索敵レーダーによる照準が効かないのを逆手にとって、ここは散開して進むのが得策だ。一塊になっていれば、重力探知機によっておよその狙いがつけられる。重力反応の強いところに集中砲火を浴びせれば必ず命中するからな」
「それに同士討ちの危険も回避できます」
「そうだ。全艦、散開体制で全速前進。敵の懐に飛び込んで乱撃戦に持ち込む」
 アレックスは手元の艦内放送のスイッチを入れて、全兵士に状況説明をはじめた。
「各将兵に告げる。訓練の最中に不時遭遇会戦となり、約十五倍の数の敵部隊と戦闘になった。しかし敵艦数が多いことを恐れるにはあたらない。このような状態では、いかに冷静に判断しかつ行動したかによって、勝敗がつくものなのだ。照準がつけられないからといって闇雲に砲撃して弾薬を浪費するな。粒子ビーム砲は、濃密な星間物質に吸収されて威力が半減以下に落ちているはずだ。視界に入った目前の敵のみを確実に撃破するのだ」
 敵艦隊を目前にしても、冷静沈着なアレックスの姿勢に、味方将兵達は混乱することなく、落ち着いて指令に従っていた。
「まもなく有視界射程に入ります」
 その途端、エネルギー波が艦を横切った。
「敵が撃ってきました」
「どうやらあてずっぽうに遠距離射撃しているようだな」
「司令のおっしゃった通りです。粒子ビーム砲は、この距離では威力が半減以下、ビームシールドで十分防げます」
「ミサイルも近すぎて使えないしな」
「はい」
「粒子ビーム砲へのエネルギーチャージ完了」
「よし。そのままアイドリング状態で待機。ビームシールド全開して敵中に侵入せよ」
「撃たないのですか?」
「まだ早い」
「しかし敵は目前です。十分照準範囲に接近しました」
「いや。まもなく敵は、ビーム砲のエネルギーが尽きて、再充填にかかるはずだ。それが完了するのに最低三分。ビーム砲へエネルギー充填している間のビームシールドの防御能力が低下する。そこが付け目だ、勝負は三分で決する」
「敵のビーム攻撃が弱まりました。再充填に入ったもよう」
「よおし! 全艦、粒子ビーム砲一斉発射」
 各艦から放たれたビームが敵艦に襲いかかる。ビームシールドの減衰した相手は、いともたやすく撃破されていく。
「往来撃戦用意。各高射砲準備せよ」
 舷側を守る高射砲に司令が伝わる。
 ものの数分で艦隊同士がすれ違いをはじめ、乱撃戦の様相を呈してきた。
「往来撃戦に突入した。私の指示を待たずに、各艦の艦長の判断で攻撃を続行せよ」
 もはや艦と艦の一騎打ちの戦いである。アレックスの統合指令は意味をなさない。艦長の采配だけが勝負を分けるのだ。

 軽空母セイレーンから艦載機編隊の指揮を統括していたジェシカ。
「艦載機は母艦を視認できる範囲内から外に出ないようにしてください。帰ってこれなくなります」
「了解!」
 艦載機の奮戦ぶりを応援しながらも、
「まさか、こんなことになるなんて思いもよらなかった……アレックス」
 司令官アレックスの乗る旗艦サラマンダーに視線を移すジェシカ。
「やはり、あなたはただ者じゃないわね」

「敵が撤退をはじめました」
 やったー!
 という歓声が、艦橋中に沸き上がる。
「追撃しますか」
「その必要はない。もう十分に戦った。これ以上将兵達に、負担を強いることもないだろう。それよりも被弾した味方艦船の救護を優先する」
 敵を叩くよりも、まず味方を助けることを第一に考えるアレックスであった。現状からすれば敵部隊を全滅させることも十分できたはずである。
「逃がした敵はいずれ叩くことが出来るが、失った将兵を生き返らせることは出来ない。一刻も早い救援で一人でも多くの将兵を助けることの方が大切だ。もちろん敵味方の区別はしない」
 そういった処置を見せられて、人命尊重を掲げるアレックスの人徳を知る隊員達であった。
 その後、数日をかけて星雲内がくまなく捜索されて、味方艦艇や将兵の救助はもちろんのこと、被弾し航行不能となって漂流している敵艦船の拿捕と乗員の捕虜収容が行われた。拿捕した敵艦船のうち再利用可能と判断された六百十三隻はカラカス基地へ曳航され、残りは魚雷攻撃が加えられて撃沈処理された。
 当然として搾取し修理運用可能となった六百十三隻はすべてアレックスの部隊の所属となり、配下の三人の部隊に編入されることとなった。これによってアレックスの遊撃部隊は、ゴードン及びカインズの分艦隊それぞれ四百五十隻に、ロイドの旗艦部隊四百隻を合わせて、総勢千三百余隻に膨れあがったのである。


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2021.01.04 08:11 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第七章 不期遭遇会戦 Ⅲ
2021.01.03

第七章 不期遭遇会戦




 艦橋に再び姿を現したアレックス。
「よし。ウィンザー中尉、ここまでよくやってくれた。及第点だ。後はわたしがやる。かわってくれ」
「はい」
 アレックスに指揮官席を譲るパトリシア。スザンナも艦長席へと戻っていく。
 ひと呼吸おいてから、毅然とした表情で発令するアレックス。
「全艦に告げる。これより、当初予定の作戦を変更する」
 え? というような表情でいぶかしがるパトリシアにお構いなしに指令を下すアレックス。
「全艦、艦首発射管一号から四号、魚雷発射準備だ。発射角度十二度、雷速を五分の一に設定せよ」
「雷速を五分の一に落とすのですか?」
 オペレーターが、指令を聞き正した。
 雷速を五分の一に落とすということは、戦艦と同速度で魚雷を発射することである。発射された魚雷は、母艦を離れることなく寄り添うように進むことになる。オペレーターが聞きただしたくなるのも当然であろう。
「復唱はどうした!!」
 しかしアレックスは毅然として怒鳴った。
「わ、わかりました。全艦、艦首発射管一号から四号まで魚雷発射準備。発射角度十二度、雷速五分の一に設定します」
 オペレーターは、復唱した指令を各艦に伝達した。艦隊リモコンコードを使用していれば、指令を暗号コードにして発信すれば一瞬にして済むことであるが、コード使用を禁じている部隊においては、いちいち口頭による伝達と確認復唱を繰り返さねばならない。伝達を終えるが早いか、各艦の艦長から即座に反問が返って来る。
「ちょっと、待て。雷速五分の一とはどういうことだ?」
「いちいち聞き返さないで、言われたことを実行してください」
「理解できん。司令を出してくれ」
「これは、司令からの直接命令です。変更はありません」
「馬鹿野郎!」
 艦橋内に突然怒号が響き渡った。
「何度言ったらわかるんだ。五分の一と言ったら五分の一だ」
 艦長のスザンナ・ベンソン中尉が電送管を通して魚雷長に怒鳴っている。ミッドウェイ宙域会戦からその操艦の腕前を買われて、アレックスの坐乗する指揮艦の艦長を務めているのだ、その人となりを知り尽くしているから、微塵の疑いも持っていない。
 正式型式名称、ハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式。かつて廃艦の運命にあったじゃじゃ馬も、フリード・ケースンとレイティ・コズミック二名の連携によるシステム改造によって、共和国同盟軍最速にして最強の戦艦に生まれ変わっていた。その艦長としての誇りと自信がスザンナ・ベンソンを動かし、アレックスに対しては忠実なる部下の一人として、旗艦サラマンダーの要人となっていた。
 各艦の魚雷発射管室では、発射管制員が指令に従い魚雷の雷速調整を行いつつも、不満をもらしていた。
「おい、おい。聞いたかい。雷速五分の一だとよ。それじゃ戦艦のスピードと同じだぞ」
「つまり発射してもミサイルと一緒にお付き合いしたまま進行するということだよな」
「上は一体何を考えているんだろうか」
「魚雷長も魚雷長だよ。なんで簡単に承服しちゃったんだ」
「しようがないよ。魚雷長、艦長に頭上がらないんだ」
「なんで?」
 急にひそひそ声に変わっている。
「ここだけの話し、艦長に借金がしこたまあるんだとさ」
「そ、そうなんだ……」
 魚雷長に視線を集中させる魚雷発射管制員。

「全艦。艦首魚雷発射準備完了しました」
「よし。第一列陣から順列順次に、魚雷発射と同時に急速右転回、全速前進でキャブリック星雲を右側に迂回コースをとる」
 立方陣で進む部隊のまず最前列が魚雷を一斉発射すると右へ急速転回して離脱する。その後に第二列陣が続き、第三列以降も同様に次々と魚雷を発射しては右転回していく。結果、当初の作戦コース上を雷速五分の一で突き進む魚雷群と、それらを左舷に見る位置方向へ転回し全速前進で星雲を迂回するアレックスの部隊という、二つの隊列に別れて進行することになる。これは艦隊リモコンコードを使用しないからこそ出来る芸当であった。
「全艦、魚雷を発射して当初作戦コースを離脱、キャブリック星雲を迂回するコースに乗りました。脱落艦はありません」
「よし。艦首発射管に魚雷再装填せよ。雷速を通常に戻せ!」
「了解。艦首魚雷発射管、再装填急げ。雷速、マキシマムスピード!」
 パトリシアが質問を投げかけてきた。
「お聞かせいただけませんか」
「作戦を変更した理由か?」
「はい。作戦立案をまとめた者としては気になってしかたがありません」
「だろうな。だが今は説明している暇はない。いずれわかることだ」
 その言葉が終わらないうちにオペレーターの報告が入る。
「魚雷群、まもなく星雲に突入します」
「よし。こちらも星雲に突入するぞ。全艦、コースターンだ。取り舵一杯、左九十度転回。最大戦速で星雲に突入する。全艦に、戦闘配備発令」
 報告がある度に、次々と指令を出し続けるアレックス。
 これはただ事ではない!
 という雰囲気が艦橋を覆い尽くし、次第に緊迫感を増していく。
「取り舵一杯、左九十度転回」
「最大戦速」
「全艦、戦闘配備」
 矢継ぎ早の発令に、艦橋オペレーター達も息つくひまもない。
「キャブリック星雲に突入します」
「前方に重力反応!」
「やはりいたか」
「はっ。この反応からすると、おそらく敵艦隊かと」
 艦橋にいたオペレーターのほとんどが息を飲んだ。
「パネルスクリーンに前方拡大投影せよ」
「前方拡大投影します」
 しかし、スクリーンには濃密な星間ガスの渦が広がっているだけであった。
「やっぱりだめですね……」
「わかっている。全艦に発令だ。訓練体制から実戦体制に変更!」
「はい。直ちに実戦体制での戦闘配備発令します」
 パトリシアやゴードンら参謀達が驚愕している。訓練航海のはずが実戦になってしまったのだから。まさか星雲の中に敵艦隊が潜んでいたなどとは予想もしていなかった。
「訓練ではないことを繰り返せ」
「全艦に伝達。訓練体制は解除された。実戦体制での戦闘配備に移行する! これは訓練ではない。不期遭遇会戦である。実戦体制での戦闘配備。繰り返す、これは訓練ではない。実戦である」
 アレックスが発令すると同時に艦内に警報が鳴り響き、慌てふためいて将兵達が駆け回っている。
 部隊全般を指揮するアレックス達のいる統合司令室の階下では、スザンナ・ベンソン艦長が各部署への適確な指示を出していた。
「原子レーザービーム砲への回路開け」
「原子レーザービーム砲の回路開きます。BEC(ボーズ・アインシュタイン凝縮)回路に燃料ペレット注入開始」
「レーザー発振制御用超電導コイルに電力供給開始」

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2021.01.03 12:52 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十章 反乱 Ⅳ
2021.01.02

第十章 反乱





 アルサフリエニ方面への道行きのため、艦隊編成と補給が急がれた。
 同行するのはサラマンダー艦隊二千隻の他、マーガレット艦隊から五千隻、ジュリエッタ艦隊から同じく五千隻が編成された。いずれも帝国の中でも精鋭を選りすぐった艦隊である。
 今回の遠征には、TV放送局の艦艇は同行を許されなかった。かつての仲間で骨肉相食む戦闘となるのだ。横やりが入っては集中できないし、相手方に情報を漏らすことにもなる。
 アレックスが決断して三日後に出航準備は完了した。
「アルサフリエニ方面に出撃する!」
 進軍を下令するアレックス。

 こうして準備を終えた一万二千隻の艦隊は、静かにアルデラーンを出立した。
 途中トランターに燃料補給で立ち寄るも、ワープゲートを使用することなく、そのまま通過した。
 ワープゲート不使用は、要塞側のゲートがハッカーに乗っ取られた場合を考慮したのである。
「ワープはしたが、出口側が消失して異次元空間を彷徨うことになりたくないからね」
 タルシエン要塞へと急ぐ艦隊。
 二日と七時間を要して、ついに要塞に到着した。
「入港許可願います」
 通信士が入港許可申請を出す。
「許可します。十一番ゲートから入港願います」
「十一番ゲート。了解した」

 要塞駐留司令官ガデラ・カインズ中将が出迎えた。
「早速、詳細を聞かせてくれないか」
「分かりました。会議室へどうぞ」
 アレックス及びパトリシア以下の二人の皇女と参謀たちが従った。
 提督や参謀が全員揃ったところで、会議ははじまった。
「それでは、事の発端となった皇太子礼のTV放送を流します。まず最初は、要塞で受信した映像からです」
 映像の中から核心と思われる部分が流された。
『帝国皇太子及び共和国同盟最高指導者たる身分をもって、共和国同盟を銀河帝国に併合し、帝国貴族にその所領を与えるものとする。貴族の末端にまで公正に分配する』
 息を飲む参謀たち。
「どうです。間違いありませんか?」
「うむ。見た通りだった」
 他の要塞参謀が頷く。
「それでは、アルデラーンでの本放送の録画です」
『共和国同盟は元の政体に戻すこととする。相当の準備期間を設けて、評議会議員選挙を執り行う。概ね2年程になると思われるが、その間は軍が暫定政権を敷くこととする』
「以上がアルデラーン本放送です」
 比較して全く違う内容になっているのに、憤りを覚えずにはいられない参謀だった。
「まるで反対ではないか!」
「アルデラーン本放送から要塞での放送に至るまで、一時間ほど時間差があります。その間に映像を改造して偽放送データを送り、ハッキングされた要塞側が偽放送を流したと思われます」
「つまり要塞では、本来の放送は遮断されていたのだな?」
「その通りです」
「そして、その偽放送を信じたアルサフリエ側が叛旗を掲げたということか……」

「しかし偽情報だけで、裏切るなどありうるのでしょうか?普通なら、情報の信憑性を確認しますよね」
「そうでもないだろ。孤児として拾われて以来立身出世で共和国同盟軍の最高の地位にまで上り詰めたのは賞賛者で伝記の主人公となっても不思議じゃない。がしかし、実情は皇太子でした。ってことになれば、賞賛から嫉妬に一変するものだ」
「そうですね。特に『皆殺しのウィンディーネ』と言われていた時は、連邦に対する激しい憎悪は並大抵のものではありませんでした」
「信じていた親友の心変わりに対して、裏切ったのはランドール提督の方だという感情が沸くのも当然かもしれません」
 次々と持論を述べる参謀たちだった。
 果たしていずれが正解なのかは、本人に直接会って確認するよりないだろう。

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2021.01.02 08:19 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)

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