あっと!ヴィーナス!!第二部 第二章 part-10
2020.02.04

あっと! ヴィーナス!!第二部(32)


第二章 part-10

「油断したな……。まさか暴力を振るうとは思わなかったよ。可愛い顔している割には豪
傑のようだ。まるで巴御前だな」
「もう一度投げ飛ばしてあげようか?」
 袖まくりして息荒い弘美。
「遠慮しておくよ」
 と言いながら立ち上がり、椅子にかけ直す。
「まあ、落ち着きたまえ。腰を落ち着けて話し合おうじゃないか」
 突然の出来事で面食らったようだが、気を取り直していつものアポロの表情に戻る。
「愛ちゃんを返してくれるんだろうな」
「仕方あるまい。返してあげよう……。ただし」
 というと、愛に向かって何やら仕草をした。
 すると、愛の身体が石になっていき、やがて石像となってしまった。
「石像の愛だがな。あっはっはあ!」
 高笑いするアポロ。
 一度手に入れたものを、簡単に返してしまっては、神様としての沽券に関わる。
 そして、反骨精神旺盛な弘美も、手なずけるのは困難であろう、
「おまえも石像になるがよい!」
 と石化の神通力を掛けた。
 身構える弘美。
 しかし、何の変化も見せなかった。
「なぜだ?なぜ、石像にならない!?」
 身振り手振りを繰り返し神通力を発動させながらも、石像化しない弘美に唖然とするア
ポロン。
 と、その時だった。
「それは、彼女がファイル-Zの娘だからだよ」
 神殿の奥から、荘厳な響きを持った声が届く。
 振り返る一同。
 そこには全知全能の神、オリンポスの最高神ゼウスの姿があった。
「ゼウス様!!」
 ヴィーナスとディアナが同時に叫ぶ。
「ゼ、ゼウス……さま……?」
 アポロも意外な神の登場にうろたえる。
「アポロよ。速まったな」
「こ、これには、訳が……」
「ヘラに命じられたか?」
「そ、その通りです」
「そこの愛もか?」
「これはただの石像ですが……」
「そうか」
 とゼウスが指をパチンと鳴らすと、愛の石化は無論麻痺化も解けて元に戻った。
「弘美ちゃん!」
 目を見開き弘美に駆け寄り抱きつく。
「よかった、よかった」
 その身体を受け止めて、強く抱きしめる弘美。
「さて、申し開きを聞こうか、アポロよ」
 と詰め寄ると、アポロの身体が石化した。
「ちっ!ヘラの仕業だな。口封じしたか……」
 舌打ちするゼウス。
「仕方あるまい。その姿のまま、地上界で頭を冷やして来い」
 ポンと肩に触れると、一瞬にして消えた。
 そして、その姿はギリシャ時代のエーゲ海の海底へと深く沈んでいた。
 やがて考古学者によって発見され引き上げられて、ローマ国立博物館に所蔵されること
となった。
「弘美そして愛。済まなかったな、神として謝罪する」
 腕まくりする弘美。
「一発殴ってもいいか?」
「それは勘弁してくれないか」
 慌てて手を前にかざして横に振るゼウス。
「で、ファイルーZとやらはどうするんだ?」
「それはそれ、これはこれ。ま、クレオパトラとかジャンヌダルクとかと同列に扱われる
んだ。栄誉と思って感謝して欲しいな。いずれ君は歴史を変えるような働きをすることに
なるのだから」
「いまいちピンと来ないんだが」
「念のためにはっきり言っておこう。ファイルーZは何もわたしの愛人にするとかいった
リストではないとだけ。ヘラは何か勘違いしているようだがな」
「本当だろうな?」
「インディアン、嘘つかない!」
「おまえも神夜映画劇場見てんのかよ!」

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あっと!ヴィーナス!!第二部 第二章 part-9
2020.02.03

あっと! ヴィーナス!!第二部


第二章 part-9

「ふわっはっは!これは参ったな」
 と大笑いするアポロ。
 キョトンとする弘美。
「そいつが、愛をさらった誘拐犯のアポロよ」
「それは本当か?」
「インディアン、嘘つかない……」
「ローン・レンジャーかよ」
「いやね、神夜映画劇場で地上放送の再放送やっているのよ」
 ヴィーナスが解説する。
「なんだよ、その神夜映画劇場ってのは」
「知らないのかよ。天上界で人気の映画シリーズだぞ。天上界でも地上界の放送番組と契
約して再放送しているんだよ。今大人気なのが【神劇の巨人】というアニメだな」
 今度は、ディアナが説明する。
「知るわけねえだろ!天上界のことなんか」
「だよな」
「そんなことどうでもいいだろ?こいつが、アポロなんだな?」
「それは間違いない!!」
 ヴィーナスとディアナがほぼ同時に答えた。
「やい!アポロとやら、愛を返せ!!」
 単刀直入に詰問する弘美。
「ほう……。なかなかシャイな娘だね」
 反対の異義語で答えるアポロ。
「君って面白いね。たまには風変わりなのもいいかもな」
「返すか返さないのか、どっちなんだ!?」
「そうだね……。君が僕の妻になってくれるというなら、考えてもよい」
「つ、妻だとお!?」
 顔を真っ赤にして激怒する弘美。
 アポロの思惑はこうだろう。
 ゼウスのお気に入りである、ファイル-Zの娘を自分の妻にすることで、ゼウスに一泡
吹かせてやろうということだ。
 人間には寿命があるので、いくらでも代わりの相手はいる。
「ふざけるなあ!」
 というとアポロの胸倉をむんずと掴み、勢いよく背負い投げをぶちかました。
 それは見事に決まり、
「一本!それまで!!」
 ヴィーナスが宣言する。
 床にもんどりうって転がるアポロは、一体何があったのかという表情をしている。
「ふん!」
 どうだ、参ったか!
 というように勝ち誇る弘美。

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銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第六章 新造戦艦サーフェイス II
2020.02.02

 機動戦艦ミネルバ/第六章 新造戦艦サーフェイス


II


 海底基地司令部。
 正面の各方面ごとに配置されたスクリーンを見つめながら、
「ラグーン地域が手隙になっていますね」
 レイチェルが呟くと、
「あそこは砂漠地帯のようですね。地上からは何も見えないですが、地下には防空ミサイ
ル・サイトが隠れています」
 すかさず副官が答える。
「今のうちに叩いておいた方が良いでしょう」
「ミネルバを向かわせましょうか?」
「そうしてください」

 指令を受けて、ラグーン地域へと転戦してきたミネルバ。
 フランソワが指令を艦橋要員に伝える。
「この砂漠の地下を掘り抜いて、防空ミサイル・サイトが建設されています。今回の任務
はそれを破壊します」
「また流砂爆雷の絨毯爆撃でもしますか?」
「それではサイロの破壊程度が確認できません。どこかに物資搬入口があるはずです。そ
こからモビルスーツ隊を突入させて、中から破壊します」
「それではこの際、例の二人を投入しますか?能力は高いですから何とかやってくれると
思います」
「そうですね。いつまでも訓練生のままでもいられないでしょう」
「それはさておき、地下にあるものをどうやって探り出しますか?」
「磁気探知機と重力探知機を使いましょう」
「赤外線探知も追加しますか?」
「ええ、よろしく」
 ミネルバの探知機能のすべてを総動員して、流砂砂漠の地下施設を探り始める。
「地下施設の位置情報を、ウィング大佐の方でも把握できなかったのでしょうか?」
 そもそも旧共和国同盟軍の施設であるならば、第十七艦隊所属のミネルバ情報部でも知
っていてよさそうであるが。
「国家における最終防衛施設ですからね。これが発動する時は、宇宙艦隊が全滅もしくは
反乱を起こした時なので、宇宙艦隊司令部から独立した惑星警備軍の配下にあります」
「なるほど、納得しました」
 管理組織が違うからということにしたようだ。
 バーナード星系連邦軍のタルシエン要塞の機密情報を奪ったくらいの手腕からして、警
備軍の地下施設の情報くらいは簡単に取得できただろう。それを伝えないのは、何らかの
目的があるはずだ。
 ミネルバには未熟兵が多数乗艦している。反攻作戦本番の前にして、練熟度を上げるた
めに、周辺基地潰しを命じている風がある。
「地下施設、発見しました!」
 正面パネルスクリーンに地上付近の地図が映し出され、地下施設が赤く点滅している。
「さらに入り口らしきポイントはここです」
 示した部分は青く点灯していた。
「総員起こし、戦闘配備!」
「サブリナ中尉とナイジェル中尉をここへ」
 招聘されて艦橋にやってきた二人の中尉に、
「例の二人を連れて地下施設を攻略してください」
「自分達に、あの二人をですか?」
 サブリナが確認する。
「お願いできますか?」
「判りました。二人を連れて攻略の任に着きます」
 カッと踵を合わせて敬礼するサブリナ。
「よろしくお願いします」
 退室するサブリナ中尉を見届けて、副官が尋ねる。
「どうして二人をサブリナ達に任せるのですか?」
「だからですよ。二人はカサンドラ訓練所の件で、多少なりともサブリナに恨みを抱いて
いるようですからね、いざという時に問題が生じるかも知れません。Xdayの全面反攻作戦が始まる前に、軋轢を解消させておかなければなりません。今回の作戦で、それが可能かどうかを判断するためです」
「なるほど」
 納得する副官。

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銀河戦記/鳴動編 第二部 第五章 アル・サフリエニ II
2020.02.01

第五章 アル・サフリエニ




「そんなことよりもさあ。帝国艦隊全軍を掌握したんなら、あたし達に援軍を差し向けら
れるようになったことでしょう?」
「そうだよ。援軍どころか帝国艦隊全軍でもって連邦を追い出して共和国を取り戻せるじ
ゃないか」
「しかしよ。共和国を取り戻せても、帝国の属国とか統治領とかにされるんじゃないの
か? 何せ帝国皇帝になるってお方だからな」
「馬鹿なこと言わないでよ。属国にしようと考えるような提督なら解放戦線なんか組織し
ないわよ。アル・サフリエニのシャイニング基地を首都とする独立国家を起こしていたと
思うのよ。周辺を侵略して国の領土を広げていたんじゃないかしら」
「アル・サフリエニ共和国かよ」
 会話は尽きなかった。
 アル・サフリエニ共和国。
 乗員達が冗談めいて話したこのことが、やがて実現することになるとは、誰も予想しな
かったであろう。
 フランク・ガードナー提督にとって、アレックスは実の弟のように可愛がってきたし、
信頼できる唯一無二の親友でもある。解放戦線を組織してタルシエン要塞のすべてを委任
して、自らは援助・協定を結ぶために帝国へと渡った。そして偶然にして、行方不明だっ
た王子だと判明したのである。
 権力を手に入れたとき、人は変わるという。虫も殺せなかった善人が、保身のために他
人をないがしろにし、果ては殺戮までをもいとわない極悪非道に走ることもよくあること
である。
「変わってほしくないものだな」
 椅子に深々と腰を沈め、物思いにふけるフランク。
 その時、通信士が救援要請の入電を報じた。
「カルバニア共和国から救援要請です」
 またか……という表情を見せるフランク。
 アレックスが帝国皇太子だったという報が入ってからというもの、周辺国家からの救援
要請の数が一段と増えてしまった。解放戦線には銀河帝国というバックボーンが控えてい
るという早合点がそうさせていた。しかし、アレックスが帝国艦隊を掌握しようとも、総
督軍が守りを固めている共和国を通り越して、アル・サフリエニに艦隊を進めることは不
可能なのだ。
 帝国艦隊が総督軍を打ち破るまでは、現有勢力だけで戦わなければならない。たとえ周
辺諸国を救援したとしても、防衛陣は広範囲となり、補給路の確保すらできない状況に陥
ってしまう。
「悪いが、これ以上の救援要請は受け入れられない。救援要請は今後すべて丁重に断りた
まえ」
「ですが、すでにオニール提督がウィンディーネ艦隊を率いて現地へと出動されました」
「なんだと! 勝手な……」
 頭を抱えるフランクだった。
 当初の予定の作戦では、タルシエン要塞を拠点として、カラカス、クリーグ、シャイニ
ング基地の三地点を防衛陣として、篭城戦を主体として戦うはずだった。
 その間に、アレックスが帝国との救援要請と協定を結んで、反攻作戦を開始する。それ
まではじっと耐え忍ぶはずだった。

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