銀河戦記/拍動編 第三章 Ⅰ 脱獄
2023.01.14

第三章


Ⅰ 脱獄


 トラピスト連合王国、トリタニア宮殿女王の間。
 椅子に腰かけ、お茶を啜りながら窓の外の夜景を何とはなしに見つめている女王。
 戸口の外で、何やら騒動が起きているようだった。

 女王の間の戸口前。
「ここは女王の間だ。女王様の許可なく入室は許されない」
「そんな事言わずに、ぜひ女王様にお知らせいなければならない事があるのです」
 一人の男が、衛兵に謁見を申し出ていた。
「それならば、明朝にしろ! 女王様はもうすぐお休みのお時間だ。明日の朝早くに侍従長にその旨を告げて許可を貰ってからお会いしろ」
 騒動を聞きつけて侍女が扉を開けて出てくる。
「何を騒いでいるのです。女王様のお部屋の前ですよ!」
「女王様に重要な要件をお伝えに参りました」
 必死に取次ぎを願う男。
「明日以降にしなさい」
 侍女も断ろうとするが、
「何の騒ぎですか?」
 女王の耳元に届いたようである。
 側に歩み寄って報告する侍女。
「はい。ある男が、女王様に謁見を願い出ております」
「こんな時分に?」
「左様に。まったく無礼な男です」
「今は、誰にも会いたくありません」
「かしこまりました。そのように伝えてまいります」
 扉の方へと歩いていく侍女。
 ふと思い浮かんだような表情の女王。
「ところで、その男は何者ですか?」
「はい。情報局の者かと存じます。全く情報局長のベロナールには厳重注意させておきましょう」
「情報局員とな? ちょっと待ちなさい。その男を通して下さい」
「え?」
「その男の話を聞いてみましょう」
「は、はい。分かりました」


 女王の間に招き入れられて、自身が手に入れた情報を報告する男。
 聞いて驚く女王だった。
「それは本当ですか?」
「真実です。ですから、このような時分とは重々の上で、女王様に一刻も早くお知らせに参ったのでございます」
「よく知らせに来てくれました。感謝致します」
「ですが女王様。そのアレックスという青年が、アレクサンダー様であるという確定はございませんが」
「諜報員X17号の報告によりますと、アレクサンダー様であるという確証はまだ取れてはおりませんが、彼の生まれ育った背景に加えて、容貌がフレデリック様によく似てらっしゃるといこと。何よりも肩口に王家の紋章の痣があったそうです」
「王家の紋章の痣ですって!」
「はい。これはもう間違いないでしょう」
「その諜報員と連絡は取れないのですか?」
「それは不可能です。彼らは敵中に潜み、監視の目を盗んで連絡を取っているのです。こちらから呼び出すことは出来ませんし、通信を送っている時が一番危険なのですから」
「そうですか……。そのアレックスという青年を呼んでもらって、直に話し合えば本人かどうかが、はっきりすると思ったのですけれども……」
「申し訳ございません」
「いえ。それだけ分かっただけでも大したものです。それでその諜報員は、これからどうするとか言ってましたか?」
「はっ。その青年以下の囚人たちと共に、インゲル星脱出計画に加わると報告してきました」
「こちらから救援を送ることはできないのですか?」
「それは不可能です。敵の絶対防衛圏内ですので……。すなわち彼らですら、果たして脱出できるかも難しいのです」
「そう……。ただ神に祈るだけなのね」
「まさに、その通りです。しかし我々もただ黙って見ているわけではありません。敵の目をインゲル星から遠ざけるために、当局及びトラピストのすべてをかけて陽動作戦に出ております。彼らが少しでも脱出しやすいようにです」
「心強い限りです。感謝致します」
「いえ。すべて女王様のために……」


 宇宙船アムレス号の船橋。
 計器を操作するロビーとエダ。
「インゲル星到着は、後何時間ですか?」
「9時間で到着シマス」
「そう。間もなくね」
 自動扉が開いて、イレーヌが入ってくる。
「あら、イレーヌ眠らないのですか?」
「あの……眠れなくて」
「明日は忙しくなりますよ。敵の絶対防衛圏内をアレックス様をお助けに行くのですから。イレーヌ様にもご協力願うかも知れません」
「でも、本当にアレックスを助け出せるのでしょうか」
「そう……。それにしても、どうして地球を出発してすぐにインゲル星へ向かわなかったのですか? セルジオ閣下は、あれからすぐにインゲル星に向かったというじゃないですか。アレックスの脱出がより困難になってしまったわ」
「いえ。直行した方がかえって敵の防備を固くしてしまうだけです。我々の目的地が悟られ、手を打たれてしまうからです。時期を待つのです」
「時期を待つ……?」
「そうです。待っているのです」
 エダ、言い切ってスクリーンを凝視する。
 イレーヌ、エダの表所を訝し気に見つめている。


 インゲル星空港。
 セルジオ艦が、今まさに着陸しようとしている。
 その様子を空港ロビーから見つめる、苦虫を潰した表情の司令と副官がいる。
 そのすぐ背後には、銃を隠し持つビューロン少尉が控えている。
「いいか、平静を装っているのだぞ。少しでもおかしなそぶりを見せてみろ。腕輪の毒針が命取りになるぞ」
「あまりいい気になるな!」
「お前は黙っていろ! もはや上官でもなんでもない。逆に俺たちの捕虜なのだからな」
「何を!」
 ヘイグ中尉がい切りまくる。
「中尉。ここは逆らわない方がいいぞ」
「司令。何をおっしゃるのです。こんな奴らの言いなりになれと?」
「いいから、言われた通りにしろ。今は服従してはいても、いずれ再び立場が逆転することは目に見えている。セルジオ様の船を奪われたとしても、制宙権はこちらにあるのだからな。下手に逆らって命を落としてもつまらんだろう」
「分かりました。指令がそうおっしゃるのなら」
 二人の腕には、猛毒薬が仕込まれた時限式腕輪が装着されている。
 一定時間が経過すれば自動的に腕輪は外れるが、無理に外そうとしたり指示に従わなければ遠隔で毒針が出て死に至るという代物である。
 また周囲の音声を無線で知らせるという機能も備えている。
 仲間の一人が持つ無線に連絡が入る。
「総員配置に着きました」
「分かった」
 司令に向き直り、
「それでは上手いことやってくれよな」
 というと、仲間に合図を送って、その場から立ち去る。
 居残った司令、まじまじと腕輪を見つめていたが、
「考えても仕方あるまい。閣下をお出迎えにいくとしよう」
 部屋を出て、空港へと歩き出す司令だった。


 貴賓室。
 椅子に深く腰掛けて、司令より報告を受けているセルジオ。
「ところで、つい二週間ほど前に、ここへ送られてきたアレックスとかいう小僧はどうしておる」
「はい。送られてきた当初は度々反抗的な態度を取っておりましたが、今は大人しくしております」
「そうか……。では平穏無事なんだな」
「はい……」
 腕輪を気にしながら答える司令だった。
「アレックスという青年に随分興味をお持ちのようですが、一体何者ですか? 閣下のご来訪も彼にお会いに?」
「まあ、そんなところだ。儂は疲れておる少し休ませてくれないか」
「かしこまりました」
 司令は中尉に、寝室へ案内するように指示した。


 空港周辺。
 警戒厳重な中、武装した囚人・軍人達が物陰に隠れながら、徐々にセルジオ艦へと向かっていく。
 巡回する警護する兵士がいる。
 リーダー格が、ブロックサインを送って、反対側にいる仲間に指示を出す。確認の合図を返す仲間。
 そこで、わざと音を立てて注意をこちら側に向かせるリーダー。
 音に気付いて、銃を構えて近づいてくる兵士。
 反対側の仲間が、察知されないように兵士の背後に近づき、声を出させないように、首根っこを捻って倒した。
 兵士をその場に残して、さらにセルジオ艦に近づいてゆく。


 セルジオの寝室。
 窓から空港の方角を見つめているセルジオ。
 そこへ一人の将校が入ってくる。
 セルジオ付きのガードナー少佐である。
「閣下。我々の艦が囚人達によって乗っ取られました」
「そうか……」
「しかし、本当にこれで良かったのでしょうか」
「何がだね」
「報告によれば、あのアレックスはトラピスト王家の一族とか。我々の手中からわざわざ逃がしてやるとは……。私には理解できません」
「君は、アレックスを人質にしてトラピストとの戦争を有利に進めようと思っているのかね」
「その通りです」
「甘いな」
「甘い……?」
「そうだ。君はトラピストの内情をあまり知らないようだな」
「はい。ある程度といったところでしょう」
 知らない将校に色々と教え始めるセルジオ。
「いいかね。トラピストは、部族大公制を取る連合王国なのだ。つまり大公を称するいくつかの小国家が寄り集まってできているのだ。
 そして大公の中で最も実力や名声のある者が選ばれて、王や女王となる。
 王の息子が自動的に王位を継ぐという世襲制ではなくて、実力本位なのだ。
 だからこそ、トラピストは今なお強大であり、我々が手をこまねいているのもそのためなのだ。
 いいかね。ここからが肝心なのだが……アレックスがクリスティーナ女王の息子ないし近い親類であったとしても、トラピスト王国の人々それも大公達の支持がない限り王位を継ぐことはできないし、王族一員としても迎え入れてくれないのだ……。すなわち、今のアレックスは、トラピスト人ではあっても王侯貴族ではない。
 トラピストに対して、人質的価値は無に等しいということだ。現況においてわな」
 セルジオの長い説明が終わった。
「それはわかりました。ではなぜ、アレックスを追ってここへ来た理由が他にあると仰るのですか?」
「君は、我々の絶対防衛圏内に出現した謎の宇宙船のことを考えてみたかね。誰が何のために建造して運航させているのか」
「宇宙船といえば、トランターの戦いに参加したアムレス号に類似しているという事は知っております」
「そのアムレス号といえば、クリスティーナ女王の第三王子のフレデリックが乗り込み、我々を悩まし続けたのは君も知っているな」
「はい。しかし、その後消息を絶ったまま、我々はおろか女王も行方を知らないとか」
「その通りだよ。噂では、フレデリックは死んだらしいと聞いておるが、アムレス号は未だに発見されていない。そして、そのアムレス号によく似た宇宙船が出現した。しかもアレックスをインゲル星へ護送した直後にだ。加えてアレックスと恋仲と噂されているイレーヌ王女を連れてだ」
「では閣下は、アレックスの背後にあの宇宙船を動かす人物なり組織が控えているとおっしゃるのですね」
「そうとしか思えないだろ。トランターの戦いに参加した儂は、当時一将校だったが……。ゴーランド艦隊が散々に破れて、命からがら逃げだした一人だ。あのアムレス号には恨みがあるのだ。あの憎きフレデリックの息子らしい人物がいることを情報局から知った儂は、自ら太陽系連合王国を訪れたのだ。そして地下組織に入っていたアレックスを捕えてこの目にした時、儂は確証を得た。儂は考えた。アレックスをここで殺すより彼を利用して、背後にあるものを見つけ出してやろうとな」
「なるほど……案の定、敵は動き出したというわけですね」
「その通りだ。しかし、敵の存在は確認できたが、まだ尻尾を掴んではいない。そこで、私はさらにアレックスを自由に泳がせておこうと思う。組織の正体がはっきりするまで」
「そういうわけでしたか。するとこの反乱も、閣下はご存じでしたのですね。そしてわざと艦を乗っ取らせると」
「この私も、この後どう進展するか皆目見当がつかん。だが反乱軍に潜ませていた諜報員からいずれ連絡があるだろう」
「そして一番都合のよい時に一網打尽という寸法」
「さあ、理解したところで、儂はもう寝るぞ。本当に疲れた」
「これは失礼しました」
 引き下がろうとする少佐だったが、
「代わりの艦を大至急寄こさせてくれ。地球政府軍の艦は乗り心地が悪いでな」
「かしこまりました」
「ああ、それから……。ボイジャー大佐にご苦労だったと伝えておいてくれ」
「分かりました」



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銀河戦記/拍動編 第二章 Ⅳ 反乱
2023.01.07

第二章


Ⅳ 反乱


 宇宙空間を、セルジオ艦が進んで行く。
 後方には地球が浮かんでいる。
 セルジオ艦艦橋。
 スクリーン上に映る、離れ行く地球を見つめるセルジオ。
「地球重力圏離脱。これより惑星間航行に移ります」
「うむ……」
 副官が近寄ってくる。
「それにしても、どうしてまた辺鄙な流刑星などへ向かうのですか?」
 そこへクロード王が入ってきて同調する。
「その通りです、セルジオ閣下」
 一同振り返ってクロード王を見る。
 いやな奴が来たといった様な表情をするセルジオ。
「私の娘が、あの宇宙船に人質として連れ去られてしまったのですぞ。あの船を拿捕して、娘を救出したかったのです。それなのに……」
「分かっておるわ。いいかクロード。イレーヌが連れ去られるまでのことを思い出してみるがよい。まず日頃イレーヌと仲良くしていたのは誰か? そいつがインゲル星に行ってまもなく、あの船が出現してイレーヌを連れていったこと。そして行方不明になっている、イレーヌ付きの侍女のことだ」
「それでは侍女がイレーヌを誘い出して、宇宙船に乗せてアレックスを救いに行ったと?」
「それ以外にないだろうさ。奴らは、必ずインゲル星に現れる」
「ならば奴らは、直接インゲル星に向かわないのですか」
「それは、我々の目を他に向けさせて、真の目的を悟られないようにするためかもしれぬ。それとも時を稼ぐためなのか」
「それでは……」
「うむ。我々はインゲル星に先回りする」
「信じていいのでしょうか」
「儂の目に間違いはない」
「はい、分かりました」


 夜の流刑星収容所。
 管制塔からは、サーチライトが収容所内外を順次照らしている。
 収容所外回りの番所に銃を構えて立っている軍人がいる。
 そこへもう一人の軍人が歩いてくる。
「今夜はやけに冷えるな」
 と言いながら、一本の煙草を差し出す。
「おう。やっと交代の時間か」
 受け取って煙草を咥えると、火をつけて燻(くゆ)らす。
「俺達いつまでこの収容所に配属されているんだろうか。軍人である以上、前線に出て敵と戦ってみたいよ」
「それもそうだな。ここにいる限り、いつまで経ってもただの一兵卒でしかないし、武勲を上げて昇進するらもできないのだからな」
「それに相手になる女もいないしな」
「本音が出たな」
 そこへ将校がやってくる。
「おまえら何をしている。任務につかんか!」
 恐縮して敬礼して、立ち去っていく番兵。
 交代要員の方も番所に立った。
 彼らに一瞥して立ち去る将校。
「まったく最近の連中はなっとらん! 軍紀も乱れてきたようだな。やはり敵と戦うわけでもなく、脱獄不可能と言われる収容所を見張るだけという任務上、緊張していろという方が無理なのか。あの煩(うるさ)型の弁務コミッショナーも近々やってくるというのに……」
 管制塔を見上げる将校。

 背後で微かな音がした。
 腰の銃を抜いて叫ぶ。
「誰だ!」
 答えはないが、人の気配が先の方の暗がりからする。
 将校、注意深く暗がりの方へ向かってゆく。
「そこにいるのは分かっている。姿を現せ!」
 その直後、上の方から人が飛び降りてきて、将校の銃を叩き落とす。
 慌てて銃を拾おうとする将校だが、暗がりから現れた人物に押さえられてしまう。
「声を出すな! 一言でも口にしてみろ。命はないぜ。へへ、こいつのようにな」
 その足元には絶命したと思われる兵士が倒れている。
 将校に猿轡(さるぐつわ)を噛ませて、引き連れてゆく。
「よし、ひとまず引き揚げだ」
「他の連中はうまくやっているかな」
「おい、無駄口はたたくなよ」


 牢獄内。
 兵士達が壁に向かって立たされ、囚人たちに銃を突きつけられている。
 そこへ将校を連れた連中がやってくる。
 将校を見た兵士が話す。
「中尉殿!」
「一体、これはどうしたというのだ」
「はあ……それが、気が付いてみたらこうなっていたのです」
「気が付いたらだと? 何を寝言を言っておる」
 後ろから足音がした。
「私が、彼らの食事に眠り薬を入れたのよ」
 話しかけたのは、アレックスに差し入れをしたルシアという女性だった。
「おまえは給仕係の……。薬をどうやって手に入れた?」
「それはどうでもいいことだ。とにかく貴様は、我々の捕虜となった」
「我々を捕虜にして何を企んでいる? 仮に脱獄だったとしても、それは不可能なことだ。ここには脱出する船は一つもないのだからな」
 だが、ほくそ笑む囚人たちだった。
「それはどうかな」
「なに?」


 司令官室。
 ここにも椅子に縛り付けられた司令官ボイジャー大佐がいた。
 集まっている囚人達。
 ルシアとアレックスも、その中にいた。
 そこへ中尉も連れてこられる。
「ヘイグ中尉。囚人に対して厳しかった君も、こうなっては全く逆の立場になってしまったな。こうも簡単に捕虜になるとは、常に用心深い君らしくない。考え事でもしていたか」
「司令、申し訳ありません」
「うむ……」
 司令、アレックスの方を向く。
「君が反乱の首謀者か? まだ若いな……。その若さで、囚人たちの心を一つにまとめ上げるとは、只者ではないな」
「当り前よ。この方は、トラピスト王家のお一人なんだから」
 ルシアが疑問に答える。
「トラピスト王家だと?」
「そうよ。あなた達よりもずっと身分の高いお方なんだから」
「ルシア。口が軽すぎるぞ」
 囚人が窘(たしな)める。
「だってえ……」
「いいから黙っていなさい」
「はあい」
「それで……我々にどうしろというのだ?」
「まずはすべての囚人の即時解放。兵士たちの武器解除」
「言っておくが、君たちの天下もそう長くは続かないぞ。ここはバーナード星系連邦の絶対防衛圏内だ。ここを脱出しない限りは、君たちの運命は決まっている。がしかし、脱出は不可能だ」
「それはどうかな」
 その言葉を合図のように、一人の将校が入室してくる。
「おまえは、ビューロン少尉! どうしておまえが?」
「彼は、我々の同志だ」
「同志だと?」
「その通りです。私は司令の進める政策には同意できなかった。ここにいる囚人達は、確かに罪を犯した者で、罰として連れてこられたには違いありません。しかし人権を無視した扱いをされ、奴隷のように過酷な労働を負わされています。このように考えているのは、私だけではありません。このクーデターが囚人達だけで行われたと思いますか?」
「無理だろうな」
 ボソリと答える司令。
「そう……囚人達に手を貸した者は、私だけではないのです。収容所にいる軍人の約四分の一が手を貸し、こうしてクーデターを成し遂げたのです。お分かりですか、司令殿」
「お前らを軍法会議にかけて死刑にしてやる」
「我々は、ここを脱出します。軍法会議に掛けたければ好きなようにして下さい」
「してやるとも。脱出すると言ったが、お前たちを収容する船など一隻もないのだからな」
「それがあるんですよ」
「どこにある? 何を戯言(たわげたこと)を」
「今ここにはありませんが、じきに現れますよ」
 司令、頭を傾げていたが、気が付いたように。
「まさか! お前たち」
「気が付かれましたか。その通り、近々弁務コミッショナーがここへ来るらしいです。そのコミッショナーの船を乗っ取ります」
「馬鹿な! コミッショナーは用心深いお方だ。船は警戒厳重、とても乗っ取りなどできるはずがない」
「やってみなければ分かりませんよ。もっともあなた方にも多少お手伝い願うかも知れませんがね」
「誰が、脱走の手助けなどするものか!」
 ヘイグ中尉が大声で拒絶する。
「その通りだ。今からでも遅くない。武器を捨てて、クーデターなどという馬鹿なことはやめろ。君達士官の待遇を良くしようじゃないか。どうだ」
 司令と将校の説得が続いている。
「君はアレックスとか言ったな。君からも皆を説得してくれまいか」
 一同、アレックスを見る。
「賽は投げられたのです。もはやどうにもならない。運命に従ってください」



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銀河戦記/拍動編 第二章 Ⅲ 王族の証
2022.12.31

第二章


Ⅲ 王族の証


 大広間の隅でアレックスが、疲れ切って眠り込んでいる。
 大勢の囚人たちが集まり、ヒソヒソと話し合っている。
 その中から、老人がアレックスの下に歩み寄ってきて、小声で話しかけてきた。
「アレックスさま……。アレックス様」
 その声に、目を覚ますアレックス。
 老人は真剣な表情をしていた。
「こんな夜中に、一体何の用ですか?」
「実は、あなたを高貴な方と見込んで、お話ししたいことがあります」
 首を傾げながら訪ねるアレックス。
「高貴? 僕は、ただの囚人ですよ」
「いえ、そんなはずはございません。我々は皆トラピスト国の者です。何も隠す必要はありません」
「あなた方は、トラピスト人かも知れませんが、隠していると言われても何の事だか分かりません。僕は、ごく平凡な地球人ですよ」
 老人、ふいにアレックスの左腕の袖を捲る。
 肩口に紋章の形をした痣(あざ)が現れる。
 一同、それを見てため息をつく。
 反射的に痣を隠すアレックス。
「失礼ですが、その痣はどうしてあるのですか? 火傷かなにかでそうなったのですか? それとも……生まれつき?」
「これは……。生まれつきかどうかは知りませんが、物心ついた頃にはすでにありました。しかし、この痣が一体どうしたと言うのですか?」
「そう、それが問題です。私の知る限りにおいて、そのような模様の痣を持つ人々が多数いらっしゃるが、皆さんトラピスト王家の方々なのです」
「トラピスト王家の一族……」
「そうです。あなた様は、トラピスト王家の方でいらっしゃいますね」
「そんな事おっしゃられても、僕は、地球で生まれて地球で育った、れっきとした地球人ですよ」
「本当に、そうと言い切れますか? あなた様がそう思い込んでいられるだけでは?」
 アレックス、返答に窮していた。
 記憶をたどれば、あの大木の根元に捨てられていたということが思い浮かぶのだが……。
「私は、あなた様にそっくりなお方に、お目にかかった事がございます。フレデリック様とおっしゃって、トラピスト星系連合王国女王クリスティーナ様の第三王子でいらっしゃいます。とても勇敢で、王子自らがケンタウリ帝国に戦いを挑むという立派なお方でした。太陽系連合王国の貴族の方とご結婚されていましたが、ご夫婦共々行方不明になられたとか……」
 信じられない事実が語られるのをアレックスは驚愕の思いで聞いている。
 老人の話は続く。
「いつだったか、あなた様は孤児だと仰られました。だとすればフレデリック様のご子息であっても不思議ではないでしょう。その痣が何よりの証拠です」
「しかし、偶然の一致ということも……。それにもし、僕がその人の子であるならば、何故地球に捨て子として置き去りにされなければならなかったのでしょうか? どうしてトラピストで育てようとはしなかったのか? 僕には、それが理解できません。あなたの取り越し苦労ではありませんか?」
「いや! 私の目に間違いはありません。あなた様は、確かにフレデリック様のご子息に相違ありません。地球に一人残されたのは、何か訳があってのことだと思います。そう私は信じます」
 老人の話に同調した囚人が語りだす。
「そうですとも。肩の痣とフレデリック様の奥方様が地球人であることも考えて、間違いないと思います」
「そうですとも」
 別の囚人も首を縦に振っている。
 しばらく考え込んでいたアレックス。
「もし仮に、かの話の王族の子息だったとしても、僕には何の力もありません。あなた達を救うことのみばかりか、自分自身さえどうしようもできません」
「いいえ。あなた様には、信頼と尊厳というものがございます。トラピスト王位継承権をお持ちになられており、万が一の時には国王となれるお方です。今はお力はなくとも、いずれにおいては強大なお力を。我々にとっては生きる支えになるのです。我々は指導者を求めています。そんな折にあなた様が現れた。我々は、心からあなた様を指導者としてお迎えいたします。どうか我々をお導きください」
 そういうと老人は跪き、その他の囚人たちも見習った。
 アレックス、呆気にとられて言葉も出ない。
「アレックス様。すべてはあなた様次第なのです」
「しかし……。一体僕は何をしたらいいのか……」
「あなた様は、ここへいらしたばかり。すべては準備完了しております。いずれあなた様のお力を借りることになりますが、それまでは見ているだけでよろしいのです」
 ここで老人は、囚人一同に向かって宣言した。
「今ここに、アレックス様は我々の指導者となられた」
「おお! アレックス様。我らが指導者!」



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銀河戦記/拍動編 第二章 Ⅱ インゲル星
2022.12.24

第二章


Ⅱ インゲル星


 流刑地惑星インゲル。
 刑場。
 銃を突きつけられ監視されて、囚人たちが重労働をさせられている。
 アレックスもその中にいる。
 老人が息をついて倒れている。
 兵士がやってきて、老人に鞭を振るう。
「貴様あ! 何をしている。休み暇があったら働け!」
 さらに鞭が舞う。
 近くにいたアレックスが見かねて老人を庇う。
「何をするんです。こんな老人に、鞭を振るうなんて」
「貴様、新人だな。ならば今後のために教えておく。いいか貴様らは奴隷だ。死ぬまでここで働いてもらうぞ。働けなくなった者は、容赦なく殺す。働けない奴に無駄飯を食わす必要はないからな。分かったか! 死にたくなかったら働け。早くしろ!」
 言いながら、アレックスを鞭打った。
 痛みを耐えながらもにらみ返すアレックス。
「何だ、その目は?」
 アレックス、兵士に食って掛かろうとするが、老人に止められる。
 その時、アレックスの肩口の痣(あざ)がチラリと見えた。
「お若いの、止めなされ。反抗したところで無駄な事じゃよ」
「しかし、おじいさん」
「いいから」
 アレックスを説得する老人。やがてツルハシを持って仕事を始めた。
「じじいの言う通りだ。さあ、貴様も黙って仕事を始めろ! さもないと……」
 言いながら鞭を撓(しな)らせる。

 アレックス、一旦は仕事に掛かるが、堪え切れずに兵士の隙をついて飛び掛かる。格闘となるが、集まった兵士達によって取り押さえられ、滅多打ちにされる。
 下士官がやってくる。
「油断するな!」
「申し訳ありません。以降気を付けます」
「ようし! 今日の仕事はこれまでだ。囚人どもを収容しろ!」
 兵士たちに銃を突きつけられて、次々と宿舎に連れられる囚人達。
 アレックスに向かって忠告する下士官。
「貴様は罰として今晩と明朝の食事抜きだ! しかも倍の量を働かせてやる。空腹の身体で思い知るがいい。さすれば賢くなるだろう」
 兵士に向き直って命令する。
「明朝まで独房に入れておけ!」
「はっ! かしこまりました」
 連行され、独房に入れられるアレックス。


 独房。
 兵士に手錠を掛けられて連れてこられるアレックス。
「ここで頭を冷やすんだな」
 笑いながら、牢に鍵を掛けて去ってゆく。
 独房内を見渡すアレックス。
 冷たいコンクリートの壁や床。
 それなりのベッドもなく、床にごろ寝するしかない。
 おそらく脱獄対策なのであろう。
 窓には頑丈な鉄格子が嵌められており、窓ガラスもないので雨風が吹き込んでくるのが想像できる。真冬ならば凍死しそうな部屋だ。
 壁に背をもたれるようにして床に腰を降ろし、物憂げな表情のアレックス。

 独房のある通路。
 兵士の立ち去った方向から、後ろを何度も確認しながら、一人の女性がやってくる。
 独房の前に立ち止まって中に向かって、小さな声で話しかける。
「そこにいますか?」
「君は?」
「しっ。あまり声を立てないで。私はルシア。あなたの名前は?」
「僕はアレックス。君も囚人かい?」
「そうよ。さ、これを食べて」
 ドアの下にある小さな戸口から食物を差し入れる。
「どうしてこんな事をしてくれるの? 見つかったら、君もただでは済まないだろう」
「これは、私の叔父様を庇ってくれたお礼よ」
「じゃあ、君はあの老人の?」
「ええ……。私、兵士たちの食事係をしているわ。調理室の窓から見ていたのよ。さあ、兵士に見つからないうちに早く食べて。私も、これ以上いられないから」
「ありがとう」
「頑張ってね」
 微笑みを返しながら立ち去るルシアだった。


 刑場で黙々と作業を続けるアレックス。
 そばを女性が通りかかり、アレックスに軽く意味ありげな会釈をする。
 それだけでなく、囚人のほとんどがアレックスに対して、何らかの表情をして見つめているようだった。
「新入りも、やっと落ち着いたようだな」
 監視兵長が呟くように言った。
「反抗しても無駄だと分かったのでしょう。威勢のいいのは最初だけですよ。どいつもこいつもね」
「うむ……。それはそうと、弁務コミッショナーが、急遽この星へお見えになるそうだ」
「コミッショナーが? なんでまたこんな辺鄙な流刑地などへ……」
「詳しい事情は分からん。とにかく、こちらへ到着するまであのアレックスという男を厳重に監視しろという命令が届いておる」
「あの若造。よっぽどの重要人物なのでしょうか? 私にはただの小僧にしか見えませんが」
「いや。人間、表面だけで判断してはいかんぞ。とにかく命令だ。奴を四六時中見張っているのだ。行け!」
「はい。分かりました」



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銀河戦記/拍動編 第二章 Ⅰ 脱出
2022.12.17

第二章


Ⅰ 脱出


 洞窟内秘密基地。
 多種多様の兵器などの装備が壁際に立ち並び、中央にあるプールに一隻の船が浮かんでいる。
 天井から昇降機が降りてきて、船の上部昇降口にピタリと収まった。
 乗員が降りたのか、再び天井へと戻ってゆく昇降機。


 計器がずらりと並んだ部屋。
 機器が発生する稼働音が微かに響いている。
 ロボットのロビーが計器類を操作している。
 そんな部屋に、エダとドレスに着替えたイレーヌが入ってくる。
「発進準備完了シマシタ!」
 ロビーが報告する。
「よろしい。補助エンジン点火!」
「了解シマシタ」
 ロビーが操作すると、稼働音がさらに大きくなってゆく。
 連れてこられたこの部屋が何なのか、何をする場所なのか説明もされず疑心暗鬼になっているイレーヌ。
 エダ、イレーヌの肩に手を掛けて、
「いいですか、イレーヌ。これから起こることに驚かないで、気を確かに持っていてください」
 頷くイレーヌ。
「補助エンジン、正常ニ運転中デス」
「ロビー、発進して。そっと静かにやって頂戴ね」
「了解、ソット静静カニ発進シマス。ヨウスルニ、微速前進。船台ロック解除!」
 僅かに揺れる部屋。
 外壁から聞こえる地響きの音。
「何? この振動音は?」
 心配そうに尋ねるイレーヌに、
「大丈夫ですよ」
 優しく安心させるエダだった。
「微速前進! 潜航シマス」


 秘密基地内、プールに浮かんでいた船が静かに潜航を始めた。
 水中をしばらく進んだ向かう先には頑丈な壁が迫っている。
「ゲート・オープン!」
 ロビーが操作すると、外海に通ずる隔壁がゆっくりと開いていった。
「海中ニ進入シマス!」

 外の世界。
 滝のある岸壁の海中にあった隠し扉が開いて、一隻の船が出てくる。
 イレーヌの連れてこられた部屋は、船の船橋だったようだ。
「海中ヲ潜航移動中デス。異常ナシ」
 基地を悟られないためか、しばらく海中を進んでゆく。
「そろそろいいでしょう。浮上してください」
「了解。浮上シマス。現在深度200メートル。上昇角30度。補助エンジン最大ヘ。海面マデ、十二分、両舷推力正常」
 状況の把握しきれないイレーヌは、言葉を発することも忘れていた。
「深度三十メートル。海上ヲ探査シマス」
 船の甲板からドローンが海上へと投入され、付近の探査が開始される。追手が索敵に出ている可能性があるからである。
「海上ニ敵ノ姿ハ見当タリマセン。浮上シマス」
 海中から海上へと浮上にかかる船。

「海上ニ 出マス」
 海中から海上に浮上する船。
「浮上シマシタ。メインエンジン始動シマス」
「イレーヌ様、揺れますから着席してください」
 椅子を指して誘う。
「いいですか、イレーヌ様。これから起こることに、驚かないでください。何も怖がらずに、気を確かに持っていてください」
 船は海上を滑るように走り始める。
「飛行翼展開シマス」
 胴体から飛行翼が迫り出してくる。
 しばらく海上を走って速度を上げてゆく。
「上昇角10度。メインエンジン最大出力へ」
 水飛沫を上げながら、海上からふわりと浮き上がる船。


 総督府地下軍司令部。
 暗く広い大部屋に各種の機器類、明滅するランプ類、慌ただしく動き回る兵士達。
「Cブロック第七ポイントに未確認飛行体出現!」
「監視カメラからの映像をスクリーンに映してみろ!」
「了解、スクリーンに映像を流します」
 スクリーンに艦船が飛び立つ姿が映し出されていた。
 それはまさしく宇宙戦艦だった。
「どこの戦艦だ?」
「戦艦の所属は不明。こちらからの呼び出しにも応答なし」
「海底のどこかに潜んでいたものと思われます」
「それは分かっておる。一体どうやって、我々の防衛網を搔い潜って潜入したというのだ? あの巨体だ。他の惑星から来たならば見落とす訳がない」
「では、この星で建造されたとか?」
「この星には、あれほどの巨艦を建造できるほどの大工場は見当たりません」
「現実として目の前にあるのだ。どこかの地下ないし海底で密かに建造されたに違いない。だが、一体何者が、何の目的で……」
「迎撃態勢完了しました」
「よし! 攻撃開始せよ」
「しかし、あの艦にはイレーヌ王女が捕えられているかもしれません」
「かまわん! 我々の敵に間違いない者を見逃すわけにはいかない。撃ち落せ」


 宮殿王室。
 イライラしながら、右往左往するクロード王。
 恐縮している重臣達。
「ええい! まだイレーヌは見つからんのか?」
「はあ……。手を尽くして探してはいるのですが、未だに……」
「一体捜査隊は何をしているのだ?」
「あなた。セルジオ様にお願いしてみたらいかがでしょう」
 イサドラ王妃が提案する。
「そ、そうだな。お願いしてみるとしよう」
「それはそうと、エルドラはどこへ行ったか知らないかい?」
 王妃が従者に尋ねる。
「はあ……知りませんが……」
 首を横に振る従者。
「そう……どこに行ったのかしら」
 心配そうに娘の安否を気にしている。


 イレーヌの乗船する船の船橋。
 エダが、疑心暗鬼な王女の気を静めようといろいろと、気をもんでいるようだった。
「お気づきでしょうが、この船は宇宙船であり戦闘艦です」
「宇宙戦艦……ですか?」
「はい。艦名をアムレス号といいます」
「アムレス号……」
 せいぜい馬しか乗ったことがなく、戦艦などという無粋なものとは縁遠いイレーヌだった。
「後方カラ、ミサイル!」
「早速来たわね。後部発射管からデコイ発射!」
「デコイ、発射シマス」
 ミサイルとデコイが入り乱れて爆発炎上する。
「重力圏離脱します」
 大気圏を脱出して、深淵漆黒の宇宙空間へと突入するアムレス号。

「後方、七時ノ方向ニ、敵艦接近中! スクリーンニ投影シマス」
 地球から発進したと思われる艦隊が後を付けてきていた。
「セルジオの護衛艦隊ね」
「敵艦から艦載機が発進しました」
「パルスレーザー砲で撃ち落してください」
 迫る来る艦載機を次々と撃ち落してゆく。
 やがて遠くから大型の戦艦が近づいてくる。
「セルジオ艦隊だわ」
 次第に間を詰めてくるセルジオ艦隊。
「ロビー、主砲発射用意。目標、セルジオ艦隊」
 アムレス号の艦体より、格納式旋回砲台が現れ、セルジオ艦に標準を合わせるように砲口が動く。
「主砲、発射準備完了シマシタ。有効射程内デス」
「主砲発射!」
 アムレス号より発した強力なビームがセルジオ艦隊に命中して爆発炎上する。
 さらに第二派・第三派と攻撃を続けるアムレス号。
 やがてセルジオ艦隊は全滅する。
「後続艦隊ハ、アリマセン」
「よろしい。最大船速で逃げます」
「了解。最大船速へ加速シマス」
 セルジオ艦隊を振り切り、彼方へと消え去ってゆくアムレス号。


 司令部。
「味方艦隊全滅!」
 憤慨するセルジオ弁務コミッショナーがいる。
「何ということだ。たかが一隻に艦隊が全滅させられるとは!」
「火力が桁違いでした。これほどの科学技術を反乱軍が持っているとは思えません。一体どこの組織なのでしょうか?」
 副官が首を傾げている。
「これからいかが致しますか?」
「無論。あの船がどこへ行くか、その目的をはっきりさせるのだ」
「はっ! 奴が消えた方角へ探索艇を差し向けます。

 セルジオ私室。
 窓辺に立ち、夜空を仰ぐセルジオ。
 従者が入ってくる。
「コミッショナー。クロード王が謁見を申し出ております。イレーヌ王女のことかと存じますが」
「あまり会いたくないが……」

 セルジオと謁見が叶ったクロード王。
「閣下。お願いでございます。私の娘が行方不明になった事は、閣下もご存じかと思います。我々が手を尽くして探したものの、一向に手がかりすらも掴めておりません。そこで、閣下の配下の特殊部隊の出動を要請したく思い、参った次第であります」
「特殊部隊の出動だと?」
「はい。閣下の配下の特殊部隊は、我々すら気が付かなかった、反逆者を察知し捕えたほどの腕前。イレーヌを探し出すのも容易いかと……」
 テーブルの上に置いてあったグラスに、酒を注いで飲むセルジオ。
「それはできぬ」
「何故でございますか? イレーヌは閣下の嫁となる身の上。万が一な事があれば……」
「特殊部隊を出動させる暇などない。それにイレーヌは、この星にはもうおらぬわ」
「え? この星にいないですって?」
「そうだ。反逆者の一味によって、宇宙の彼方へと連れていかれてしまったよ」
 セルジオ、後ろ向きになって酒をあおる。


 アムレス号のプライベートルーム。
 イレーヌが、ベッドの縁に腰かけて瞳をうるませている。
「お父さま、お母さま……」
 扉が開いて、エダが入ってくる。
 慌てて涙を拭うイレーヌ。
「まだ、眠らないのですか?」
「エダ、これからどこへ行くの?」
「地球から12光年の所にあるルイテン星系にある惑星インゲルです」
「インゲル星?」
「アレックス様が流刑されている惑星です。これからアレックス様を救出に向かいます」
 エダを凝視するイレーヌ。
「アレックスを? 一体あなたとアレックスの関係は何なの?」
 エダ、イレーヌの隣に腰かける。
「いずれお話しますわ。身分のあるお方に仕えているということだけ……。さ、もうお休みならならいと……」

 エダが退室した部屋で天井を見つめて何事か考えている様子のイレーヌ。



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