銀河戦記/脈動編 第七章・会戦 Ⅳ
2022.04.02

第七章・会戦





 時間を少し遡って、会戦前に戻る。
 P-300VXから敵艦隊の発見が伝えられた。
「敵艦隊は、こちらには気づいていないようです」
「戦闘配備だ」
 テキパキと指令が伝達されて、すべての兵器要員が配置に着いた。
「戦闘配備完了しました」
「VXより敵艦の座標位置が送られてきました」
「戦術コンピューターに入力!」
「敵艦隊が移動を始めました」
「やっと気づいたか。しかし、VXは気づかれていないようだな。電波が通じるかは分からんが、念のために全周波で友好信号を打電してみろ」
 通信士のモニカ・ルディーン少尉に命じる。
「了解しました」
 電離した水素イオンなどによる通信障害があるが、有視界にまで接近すれば通じるかもしれない。
「駄目です。受信している兆候はありますが、応答なしです」
「敵艦の全砲塔がこちらに転回しています」
「問答無用ということか……仕方あるまい、原子レーザー砲で機先を制する」
 下令以下、原子レーザー砲の発射手順が始められた。
「しかし彼らは、どうして交信を拒絶するのだろうか。言語が分からなくても、分からないなりに手立てはあると思うのだが」
「そうですね。戦闘になれば、死傷者も出るだろうし、避けられるものなら交信を受けるのが筋でしょうけど……」
 相手が交信を拒絶している以上、戦闘は不可避だった。
「原子レーザー砲、発射準備完了しました」
 砲手が報告によって、戦端が開かれることとなった。
「撃て!」
 眩い光の軌跡が敵艦へと一直線に向かう。
 そして一隻を撃沈させた。
 その衝撃と残骸が近接する友邦艦にも被害を与えている。
「さて、敵はどう反応するかな?」
「射程はこちらの方が長いようです。断然有利ですね」
「ワープ準備だ」
 トゥイガー少佐はランドール戦法をやるつもりのようだ。
「こんな所で小ワープするのですか?」
「驚かせてやろうじゃないか」
「分かりました。小ワープ準備!」
 ワープ準備に入った途端に、敵艦隊の砲弾が襲い掛かった。
 近接信管が始動して炸裂するその寸前。
「ワープ!」
 空間から消え去る艦隊。

 次の瞬間、艦隊は敵の只中に出現していた。
「舷側にある砲台を叩きまくれ!」
 敵は舷側に砲台を並べた戦列艦であるから、まずは破壊してしまうのはセオリーだろう。
 相手が右往左往している間に、素早く打ち砕いてゆく。
 砲台をほぼ沈黙させたところで、次の指令が下される。
「艦を並走させろ。これだけ近ければ撃てないはずだ」
「こちらからも撃てませんが?」
「もう一度、交信してみろ。これだけ近ければ通じないはずはない」
 機器を操作して、全周波で交信を試みるモニカ通信士。
「だめです。応答なし」
「やはり聞く耳は持たぬか……」
 しばらく並走を続けていたが、
「仕方がない、攻撃を再開する。離艦して攻撃可能位置まで下がる」
 速度を落として、敵艦隊の後方に退いていく。
「敵艦隊、回頭を始めました」
「そのまま速度を上げて逃走するかなと思ったのだが……」
「最期の一隻が撃沈するまでやる気ですよ」
「しかし、一体どうして交渉する気が一切ないのかな。折角交渉できる場を設けたのにな」
「もうどうでもいいですよ。敵が撃ってきますよ」
「そうだな。攻撃開始だ!」
 気が乗らないが、相手がやる気ならこちらも応じるしかない。

 数時間後、戦闘は終わっていた。
「旗艦らしき艦が、何とか生き残っています」
 砲台と動力部を破壊されて、攻撃手段と移動能力を失って漂流する旗艦。
「乗り込んで指揮官を捕虜にできないかな」
「無理ですよ。これまでの情勢から、奴ら自爆するのは目に見えてます」
「やはり、そう思うか?」
 果せるかな、数分後に旗艦は自爆した。
「悲しいな……」



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銀河戦記/脈動編 第七章・会戦 Ⅲ
2022.03.26

第七章・会戦





 戦列艦ペトロパブロフスク艦橋。
「まもなく索敵艦が消息を絶った宙域に入ります」
「カチェーシャ、頼む」
 遠隔透視能力のあるエカテリーナ・メニシコヴァに指示を出す。

「敵艦がいます……こちらに近づいてきます」
「近づいて?」
「はい、まっすぐに」
「向こうの方が先にこちらに気づいたというのか?」
「まさか、この宙域は電離した水素イオンのせいで電波探信儀は使えないはずです」
 レーダー手が疑問を投げかけた。
「敵にも遠隔透視能力を持った者がいるのでしょうか?」
「分からんが……とにかく戦闘配備だ!」
 カチューシャの遠隔透視能力が、P-300VXを認識できなかったのは何故か?
 VXの搭乗員に対する精神感応ではなく、直接の物体感知なのだろうか。

 やがて有視界に敵艦が入ってきたのを確認した。
「敵は単縦陣で迫ってきます」
「よし、左右に展開しつつ、左翼と右翼を前に出して応戦する」
 いわゆる鶴翼の陣で迎え撃とうという算段のようだ。
 突撃してきた敵軍に対して集中攻撃を加え自軍の被害を抑えることができる陣だ。
「敵艦、隊列を左先梯形(ていけい)陣に移動しています」
「このまま行く! 有視界戦闘である、各砲台は目視で手動で撃て!」
 電磁波レーダーが使用不可であるから、それに連動した兵器も自動攻撃はできないので手動に切り替えが必要だ。
 双方の艦隊が距離を縮めてゆく。
「射程距離まで三十五秒」
 目前に敵艦隊が迫っている。
「砲撃用意!」
 砲台が一斉に敵艦を捕えようと回り始める。

 その時だった。

 眩いばかりの光が艦体を包み込んだ。
 砲台が蒸発するように消えてゆく。
「な、なんだ今の光は?」
「こ、攻撃です! 敵が攻撃してきました」
「馬鹿な! まだこちらの射程外だぞ。敵の射程は我々より長いのか?」
「優に五割は超えるようです」
「このままではやられる一方だ。相手の懐に飛び込むぞ! 機関一杯、全速前進だ!」
 速度を上げて敵艦隊に突撃する。
 鶴翼陣で包囲殲滅しようとしていた隊形が崩れてゆくが、致し方のない所だろう。
「射程内に入りました!」
「よし、撃て! 撃ちまくれ!」
 勇躍として総攻撃を開始する艦隊。
 無数の砲弾が敵艦隊に向かって襲い掛かる。
「着弾します」
 砲弾が炸裂して、辺り一面が硝煙で埋め尽くされ、艦隊の姿もかき消された。
「砲撃中止、様子を見る」
 双眼鏡を覗きながら、敵艦隊のいる場所を注視している。
 やがて硝煙が治まった時、艦隊の姿は消えていた。
「敵がいないぞ!」
「まさか、あれだけの攻撃で消滅するはずがありません」
「しかし、残骸すら消えてなくなったぞ」
 首を傾げていると、艦に大きな衝撃が走った。
「な、なんだ?」
「艦尾に被弾!」
「敵か? 別動隊でもいたのか?」
 艦の周囲を映し出すスクリーンに、次々と被弾していく友軍艦隊の姿があった。そして取り付いて攻撃を加えている敵艦。
「いつの間に、こんなすぐ傍にまで接近されたのか?」
「フラーブルイ撃沈!」
「サラートフ航行不能になりました」
 次々と損害報告が挙げられてゆく。
「砲台がすべて破壊されました!」
「ここまでか……」
「スクリーンを見てください!」
 ミロネンコ司令官が乗員が指さすスクリーンを見ると、並走して進行する敵艦がいた。
「敵艦からと思われる無線が入電していますが……言語が分かりません」
「無線だと? どうせ『直ちに降伏せよ』だろ。聞く耳もたぬわ」
「しかし、このままでは……」
「また、奴隷にされたいのか? 俺達の祖先がされた屈辱は忘れてはならないのだ。砲台が使えないのなら体当たりだ。一対一で当たれば、勝つことはできなくても負けはしない」
 奇形や遺伝子異常、精神薄弱によって虐げられたという記憶が、潜在意識の奥深くまで浸透しているミュータント族。
 人類との和解など眼中になかったのだ。



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銀河戦記/脈動編 第七章・会戦 Ⅱ
2022.03.19

第七章・会戦





 再びαω星団(七色星雲)へと戻ってきたトゥイガー少佐の艦隊。
「前回の会敵では、相手の方が先にこちらに気づいて近づいてきました。我々より優秀な重力加速度計でも装備しているのでしょうか?」
 副官のジョンソン准尉が首を傾げている。
「どうかな……。少なくとも電磁気によるレーダーや通信が使えないのは同じ状況だけどな」
「通信が出来ないので索敵も出せませんからね」
「特務哨戒艇P-300VXは使えないかな? 光学パルスレーザー通信なら交信も可能だし、敵に悟られることもないと思うのだが……」
「そのためには、常に軸線を合わせておく必要があります。超指向性がありますからね」
「サラマンダーの操舵手の腕前なら、手動でもピタリと合わせられるだろう」
 と操舵手グラントリー・ブリンドル中尉を見る。
 頷いて、OKというように親指を立てる仕草をするブリンドル。
「VXを出して先行させろ!」
「了解、VXを出撃させます」
 サラマンダーの艦載機発進口からP-300VXが出撃する。
 その後部からパルスレーザー通信用の超指向性アンテナが突き出している。
「VXからの通信波受信は良好です」
「通信回線と操舵システムをリンクさせろ!」
「かしこまりました」
 通信士が端末を操作を始めて数分後。
 操舵手の目前にある小型スクリーン上に、戦闘機の照準器のような十字円が映し出され、その中にマーカーが点滅している。
「点滅するマーカーが十字円の中心から外れないように操舵して下さい」
 システムの手直しを終えた通信士が忠告する。
「了解した! マーカーから外れないように操舵します」
 十字円の中心にマーカーがくるように操舵を始めるブリンドル。
「steady(ようそろ)、通信波に乗りました」
「よろしい! VXを先行させろ!」
「VX、進撃せよ」
 ゆっくりと速度を上げて前に進む哨戒艇。
 その後を追うように、サラマンダーを先頭にして艦隊は単縦陣で進行してゆく。無線封鎖状態では当然の隊列である。


 先行するP-300VX。
 戦艦百二十隻分に相当する予算が掛けられた電子戦専用の特務哨戒艇。
 あらゆる電磁波を素通りさせてしまうという時空歪曲場透過シールドに守られて、間近に近づいても敵に悟られることがないという究極の哨戒艇である。
 川の中に顔を出した岩によって、水の流れが回り込む様子を考えればよく分かるだろう。
 操作室の壁面にずらりと並んだ電子装備の表示スクリーン。
「後続のサラマンダーとの通信状態は正常です」
 通信担当が確認した。
「うむ。今回は重力加速度計がメインだ。他の電磁波レーダー手は光学望遠鏡による檣楼員(しょうろういん)をやってくれ」
「了解」
 電磁波を素通りさせるとは言ってもごく僅かに内部には届く、それを増幅して観測できる。
「まもなく前回会戦の戦場跡に着きます」
 操舵手の発言以降、本格的な探査が始まった。
「相手も壊滅した艦隊の消息を探るために近くまで来ているはずだ。重力値の変動を見逃すなよ」
「了解」


 後方から追従するサラマンダー。
「敵と遭遇した場合、相手は前回よりもさらに戦力を増強して臨んでくるだろう。こちらも気を引き締めて掛からねばならぬ」
「VXより敵発見の入電! 敵位置の現在座標と移動ベクトル情報が届きました」
「やはり来ていたか。データを戦術コンピュータに入力。戦闘態勢に入れ!」

 再三の敵艦隊の戦いが始まった。



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