銀河戦記/脈動編 第八章・ミュータント族との接触 V
2022.05.14

第八章・ミュータント族との接触





 ミュータント族前進基地クラスノダール。
 輸送船が盛んに発着を繰り返している。
 管制塔から指揮を執っている基地司令官イヴァン・ソルヤノフ。
 傍らに立つ副官フリストフォル・イグルノフが首を傾げている。
「まさか後方司令部が撤退許可を出してくれるなんて意外でした。一旦引いて後方の基地で迎撃するらしいです」
「敵との戦闘記録を見て例のエネルギー兵器に興味を持ったようだ。敵船を鹵獲して技術を盗む気だ」
「鹵獲? 可能ですかね」
「本星より秘蔵のESP部隊を呼び寄せるらしい」
「ESP部隊! それは頼もしい増援ですね」
 ミュータント族の中には、一定の割合で超感覚的知覚などの特殊能力を持った者が生まれることがある。
 主に精神感応によって、相手に幻視や幻聴などを引き起こす才能である。敵兵を惑わして戦闘不能に陥らせることができ、その間に総攻撃して撃沈するなり艦を鹵獲するなりできるわけだ。
 但しESP要員は、能力持ちの出生確率が極端に低いので人員に限りがあり、ここぞという時にしか出撃することはない。

「無償で基地を明け渡すつもりはない。奴らが降り立ったら、目を丸くする罠を仕掛けておく」
 基地のあちらこちらに、自爆装置が取り付けられていった。
 いわゆるブービートラップである。
 敵が近づいたり、設備に触ったりしたら自動的に爆発する。


 軍属などの一般住民が輸送船に乗り込み後背の基地へと出発する。
 技術者が基地内の仕掛けを終えて、最後の船が基地の住民を乗せて惑星を離れたのは、撤退命令が出てから十八時間後だった。
「総員、撤退準備完了しました」
「よし、速やかに撤退する」
 全艦、ゆっくりとクラスノダールを離れ始める。
 スクリーンに映る基地が遠くなっていくのをを眺めながら、イグルノフ副官が感慨深げに呟いた。
「無骨な惑星基地でしたけど、撤退するにつけて改めて見つめなおすと、郷愁が呼び覚まされますね」
「そうだな。岩盤をくり抜いて汗水垂らして作り上げた血と汗の結晶だからな」
「我らと同様にこの惑星に目を付けていた銀河人を近づけさせないために突貫工事でやりましたからね」
 やがて、後方のノルトライン=ヴェストファーレン星区前線基地クレーフェルトへと撤退していった。


 ミュータント族の首都星、惑星都市サンクト・ピーテルブールフ。
 宇宙港から一隻の艦が宇宙へ舞い上がってゆく。
 やがて周囲から戦艦が集まって来て、その艦を護衛するかのように周りを囲い込んだ。
 艦の名前は軽巡洋艦スヴェトラーナ、ESP要員が搭乗している。
 艦橋内には、正面スクリーンに対して扇状に座席が設けられ、ヘルメットを被った人々が座っている。
 彼らはESP要員で、ヘルメットから延びたケーブルは精神増幅装置に繋がれている。中には生命維持装置に繋がれている者もいるが、筋萎縮性側索硬化症の患者であり、身体は動かせないがそのハンデを補うように超能力に目覚めたようだ。
 乗員達の意思疎通も、言葉ではなくケーブルを通して念波で行われている。
『微速前進!』
 扇の要にいる人物が指示を、声を出さずに下令する。
 彼の名はドミトリー・シェコチヒン。
 その名は、伝統的にミュータント族の族長が名乗ることになっていた。
 機関担当が念ずると、機関室のエンジンが回りだす。
 機関室には人は誰もおらず、念動力で動いている。
『機関全速、前進基地クラスノダールへ全速前進!』
『面舵三十度』
『機関全速!』
 ゆっくりと進み始めるスヴェトラーナ。
 それに付き従うように、他の艦艇も動き出す。
『全艦、予定進路に入りました』
『よし、ジャンプしろ!』
 艦影が揺らいだ次の瞬間、すべての艦艇が消え去った。



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銀河戦記/脈動編 第八章・ミュータント族との接触 Ⅳ
2022.05.07

第八章・ミュータント族との接触




 司令官  =ウォーレス・トゥイガー少佐
 副官   =ジェレミー・ジョンソン准尉
 言語学者 =クリスティン・ラザフォード
 医者   =ゼバスティアン・ハニッシュ
 生物学者 =コレット・ゴベール

 トゥイガー少佐がサラマンダーの医務室にやってきた時、言語学者のクリスティン・ラザフォードが診察室から丁度出てきた。
「どうだ、彼女に話せるか?」
 クリスティンに尋ねる少佐。
「不思議です。彼女が話す言葉は、地球圏東スラブ語族の言語に源流を持つようです」
「どういうことだ?」
「人類が言葉を発し始めた時は、一つの言語しかなかったものが、何千年と経つうちに色んな言語の派生が生まれてきました。それに伴って多種多様な民族に分かれました。インド・ヨーロッパ語族、シナ・チベット語族、アフロ・アジア語族、コンゴ・コルドファン語族などにです」
「我々の共通言語は、印欧語族に属するゲルマン語から発展した英語ですが、同じ英語でも銀河帝国、バーナード星系連邦、そしてトリスタニア共和国同盟、それぞれに微妙に変化してきています」
「まあ、同じ国内でも地方に行けば訛りがあったり、ご老人の話す言葉と若者の言葉も違っていてお互いまったく理解できないこともあるからな」
「一万年も経てば、意思疎通すらできない新たなる言語に進化します」
「一万年か……。ドクターも遺伝子変異がどうのこうのと言っていたな」
「彼女はかなり怯えています。もうしばらく一人にしておいて下さい。折を見て私が彼女のことや仲間のことを聞き出してみましょう」
「そうか……。分かった、彼女のことは君に一存する。随時報告してくれ」

「ドクター、一緒に来てくれないか」
 どやら医学的見地から、彼女の身体的特徴などを聞いてみようということのようだ。
 ミュータント族の彼女を残して、ドクターを連れて司令室に戻るトゥイガー少佐。
 そこには先客の生物学者コレット・ゴベールが来ていた。
「まあ、腰かけてくれ。茶を出してあげよう」
 応接椅子に腰かけるように言って、カウンターでお茶を入れ始める。
 椅子に座り、お茶を啜る三人。
「早速報告をしてくれ」
「先に結論を言いますと、彼女もイオリスの先住民も、我々と同じ地球人の血を受け継ぐ民族です」
 コレットは、イオリスで亡くなっていた遺体を持ち帰って、遺伝子情報などを精密に調べていた。そして新たにミュータント族の遺伝子情報を得て、結論を導いたようだ。
 持論を発表するコレット。
「彼らと我々の祖先は同じだと思います。遺伝子進化の系統を詳しく調査しますと、彼らは我々よりおよそ一万年の経年変化を辿っているようです」
「一万年か……以前も言っていたが、どういうことだ? 納得できる説明をしてくれ」

「ランドール提督の乗られていた移民開拓船が行方不明になったまま」
「ああ、悲しい現実だな」
「こうは考えられませんか?」
「?」
「これは仮説ですが、ランドール提督らは、何らかの要因で一万年まえに飛ばされたと考えてみましょう」
「一万年前に飛ばされただと?」
「次元の狭間に飲み込まれたとかありえます。そうでないと忽然と消えた理由が分かりません。それに双方の遺伝子が似通っているのも納得できます」
 原始の海の中で、最も単純な単細胞生物に必要な酵素がすべて作られる確率は「がらくた置き場の上を竜巻が通過し、その中の物質からボーイング747が組み立てられる」のと同じで、十の四万累乗分の一の確率だと言われる(フレッド・ホイルのパンスペルミア仮説)
「つまり同じ血筋に連なる者同士が戦っているということか……」
「人間の性というが、アダムとイブ以来の原罪というか。親子でも殺し合いをするのが人類ですからね」
「そうか、何とかならないものかな……」
 押し黙る三人だった。



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銀河戦記/脈動編 第八章・ミュータント族との接触 Ⅲ
2022.04.30

第八章・ミュータント族との接触




 基地司令官=イヴァン・ソルヤノフ
 副官   =フリストフォル・イグルノフ


 ミュータント族前進基地クラスノダール。
 ペトロパブロフスク艦隊から、未知の艦隊との遭遇戦となったという報告を最後に連絡が途絶えたの受けて、基地司令官のイヴァン・ソルヤノフは選択を迫られていた。
 基地に駐留する艦艇の三分の二の三十二隻が殲滅させられたのは確かだろうから、残る三分の一で防衛するのは不可能に近い。
「増援を要請して到着するまで死守するか、潔く後方基地へ撤退するかの二者選択だな」
「後方司令部の言う事は分かりますよ。『基地は死守しろ!』です」
「まあ、そうだろうな」
「ともかく基地の防衛システムを厳戒態勢に引き上げます」
「駐留艦隊全艦にも、戦闘配備で待機させろ!」
 基地内に警報音が鳴り響き、それぞれの担当部署へと駆け回る隊員達。
 地上に駐留していた艦船も、宇宙へと舞い上がって、接近しつつある未知の艦隊に対処すべく戦闘配備に着いた。
「私も宙(そら)に上がる!」
 ソルヤノフ司令官の旗艦である戦列艦アレクサンドル・ネフスキー号に搭乗する。
 宇宙に上がった司令官は、会議室に早速参謀達を緊急招集した。
「我々が対するべき未知の艦隊は、三十二隻の味方を全滅させた相手だ。どうあがいても勝てる相手ではないだろう」
 率直に戦力分析を伝えるソルヤノフ。
 その一言で、緊張の度合いを上げる参謀達。
「勝てないにしても、相手の戦力を削ぐことは重要でしょう。いずれ奴らは、後方の基地にまで進軍するに決まっている」

 そこへ従者が入ってくる。
「先ほど、迎撃艦隊からの通信カプセルが届きました」
「通信カプセル?」
「戦闘記録が入っているかもしれん。データを再生してくれないか」
「かしこまりました」
 従者は、カプセルからデータディスクを取り出して、会議場の隅にある端末に差し込んで再生してみせた。
 スクリーンに、迎撃艦隊が遭遇した未知の艦隊との戦闘が再生された。
 映像は、艦内音声映像と外部モニターの二画面構成となっており、戦況が手に取るように分かるようになっている。
 近づく未知の艦隊に対して、T字戦法を取る迎撃艦隊。
「敵の艦を拡大投影してみてくれないか」
「はい。ただいま……」
 従者が言われた通りに、敵艦をクローズアップしてみせる。
 今まで見たことのない艦影が映し出されていた。
「あの艦隊は見たことがないですね。銀河人のものではなさそうです」
「ということはやはり、噂に聞く天の川人か?」
「可能性が出てきました」
 全員、未知の艦隊の動きに釘付けだった。
「敵の動きをよく見ておくんだぞ。味方を殲滅させた攻撃がどんなものか」
「あれは!」
 一同が凝視する。
 敵の一隻の艦首が輝き始めたと同時に、艦内が真っ白になったのだ。
「今のはなんだ?」
 艦内モニターには、衝撃で倒れている乗員、驚愕の表情を見せる乗員達が映っている。
 声高の音声が続く。

『艦尾第一エンジン噴射口被弾! 戦闘速度七割低下します』
『ノルド=アードレル轟沈!』
『トヴョールドィイ航行不能です』
『イオアン=クレスチーテリ大破』

『敵艦は、ほとんど無傷です』
『味方艦は?』
『このペトロパブロフスク一隻だけです』

 そして一方的な攻撃を受けて全滅したようだった。

 場内の参謀達は、しばらく無言が続いていた。
「あの光の攻撃はなんだったんだろうか?」
「どうやら何らかのエネルギー兵器かと思いますが……」
「エネルギー兵器か、それも一撃で撃沈させることのできるな」
「このまま戦っても無駄死にするだけです」
「後方に、この映像とともに撤退の意見具申するとするか」



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