銀河戦記/脈動編 第八章・ミュータント族との接触 Ⅱ
2022.04.23

第八章・ミュータント族との接触




 司令官  =ウォーレス・トゥイガー少佐
 副官   =ジェレミー・ジョンソン准尉
 言語学者 =クリスティン・ラザフォード(英♀)
 医者   =ゼバスティアン・ハニッシュ(独♂)


 サラマンダー艦橋。
 指揮席に座って、お茶を啜っているトゥイガー少佐。
「目標地、探索予定惑星に設定完了しました」
「よろしい」
 設定コースは、襲い掛かってきた敵艦隊が出現した方角であり、恒星の重力の影響などを考慮して巡行速度を取れば、ほぼ彼らが進撃してきたコースと重なるようだった。
 目的地は、敵の勢力下にあることは明白だった。
 これまでの経緯から、我々が接近すれば、全力を上げて排除しようと挑んでくるだろう。
 さりとて、こちらも引き下がるわけにはいかない。
 本国は、すでに飽和状態であり、さらなる植民星を探さなければならないのだ。
 目的地がすでに人が住んでいる惑星ならば、移民交渉をして居住許可を申請すればよい。
 まだ開拓途中であれば、共同で開拓して土地の割譲を受けることもできるだろう。
 ともかく相手と交渉することだ。
 それでもだめなら……本国が決めることだ。

「例の彼女が目を覚ましました」
 医務室に様子を見に行っていた副官のジョンソン准尉が戻ってきた。
「私も見に行ってみよう。後を頼む」
 ジョンソンに代わって医務室へとやってきたトゥイガー。
 診察室では、言語学者のクリスティン・ラザフォードが、治療が終わった彼女から話を聞くために対応をしている。
 ガラス窓から診察室の見える控室で、隣に並んだ医師に質問する。
「容体はどうですか?」
 言葉を選びかねたのか、少し考えてから応えるハニッシュ医師。
「見た目は健康のようですが……」
「どういうことですか?」
 トゥイガーが聞き返す。
「彼女は盲目です」
「目が見えないのか? 電子義眼とかで、治せるかな?」
「無理ですね。生まれつきの盲目ですので、映像を認識する脳の後頭葉にある視覚野が未発達ですから」
「つまり目には見えていても、脳が認識しないということだな」
「その通りです」
 フィルム式カメラに例えて簡単に説明すると、レンズを通した映像はフィルムを感光させるが、現像・定着などの処理を施して印画紙に転写しなければ、写真を見ることはできない。
 現像以下の能力が発達していないから、見るという認識ができないのである。
 これに対して眼の異常による中途失明者などの場合は、視神経や視覚野は十分発達しているので、CMOSセンサー内臓の電子義眼から視神経などに電流を流すことで、映像を認識することができるようになる。

 ドクターの話は続く。
「それだけでなく、彼女は人類の変異体のようなのです」
「変異体?」
「そうです。DNAを調べますと、地球人類にかなり近いですが、各所に欠損や転移が起こっています」
「どういうことだ?」
「結論を言いますと、彼女は我々と同じ地球人類の末裔です。何らかの事情で遺伝子の変異が起きたのでしょう」
「地球人類なのか?」
「ゲノム解析から、おそらく一万年もの間、遺伝子の変異を繰り返してきたと思われます」
「一万年前の地球人? 新石器時代に宇宙航海が出来たというのか?」
「逆に、彼女の星の人々が、地球人類の祖先ということもありますよ」
「どういうことだ?」
 と再び尋ねる少佐。
「元々、彼らのDNAが最初で、一万年を掛けて生存に不適格な遺伝子を排除していった結果が、我々地球人類ということです。考えられないことではありません」
「彼らが宇宙に出て、長い航海の果てに地球に到達して、人類の祖先となった? どちらにしろ、彼らと我々の祖先がどこかで繋がっている?」
「可能性はゼロではありませんね」
 憶測でしかないが、あらゆる可能性を考えてみる医者だった。
 好戦国に関する手がかりは、彼女だけなのである。

「彼らは、捕虜になることは恥だと思って徹底抗戦しているのかも知れないが、彼女だけが脱出したのは何故だろうな? 女性だからという理由ではなさそうだが」
「単に女性だということじゃなくて、何か重要な任務を与えられていると思われます」
「任務か……ともかく尋問を始めようか」
 中へ入ろうとする少佐を医者が制止する。
「お待ちください。彼女はかなり怯えていて、今尋問を始めるのは苦痛を与えるだけで、まともな話をしてくれる状態ではありません。ここはクリスティンに任せましょう」
「そうか……。同じ女性で言語が通じる彼女が適任というわけか。いいだろう、任せよう」



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11
銀河戦記/脈動編 第八章・ミュータント族との接触 Ⅰ
2022.04.16

第八章・ミュータント族との接触




 司令官 =ヴィルマー・ケルヒェンシュタイナー大佐
 副官  =ゲーアノート・ノメンゼン中尉
 通信士 =アンネリーゼ・ホフシュナイダー少尉
 言語学者=アンリエット・アゼマ


 銀河人の前線基地クレーフェルト。
「ミュー族の基地が騒がしくなっています。盛んに通信が交わされています」
 副官のゲーアノート・ノメンゼン中尉が報告する。
「何かあったのかな?」
 基地司令官ヴィルマー・ケルヒェンシュタイナー大佐が尋ねる。
「今、暗号通信を解読中です」
 しばらくして解読文が上がってくる。
 未知の艦隊との遭遇戦があって、ミュー族艦隊が全滅したという内容だった。
「未知の艦隊か……」
「噂に聞く『天の川人』という奴ですかね」
「そうかも知れないな」
「全滅したということは、戦力がそれだけ減少したということですよね。今がチャンスなのでは?」
「簡単に言うが、未知の艦隊もいるかも知れないじゃないか。今度はこっちが全滅の憂き目にあうかも知れないぞ」
「交信を試みて、未知の艦隊と和平関係を結べれば……」
「ミュー族みたいに一切交信拒絶して、戦闘を仕掛けてくる可能性もあるぞ」
「一応、参謀達を招集して、会議に掛けてはいかがですか?」
「そうだな。招集してくれ」
「かしこまりました」

 数時間後、会議室に参謀達が集められた。
 集まった面々に対して、シュタイナーが発言する。
「ミュー族の通信暗号文から敵前進基地にいる艦隊が、何者かによって全滅させられたようだ」
「だとしたら、敵基地を奪取する好機ではないでしょうか?」
「それ以前に、謎の艦隊の方を心配する方が先でしょう。味方になるか敵になるか?」
「ともかく詳細を知る必要があるな」
「念のために索敵というか交渉団を派遣してみますか?」
「そうだな。但し、ミュー族艦隊を滅ぼした謎の艦隊がいるかも知れないからな。行動は慎重さを要求される」
「未知の艦隊と交信できれば何とかなるのでは?」
「そのためには言語とか、通信システムとかが分からないと……」
「相手に交渉する気があるならば、全周波で呼びかければ応えてくれるのではないでしょうか?」
「当たって砕けろだな」
「誰を向かわせますか?」
「俺が行く! 文官を連れて行くとしようか」
 新たなる艦隊が、味方となるか敵となるか、確認する必要がある。
「言語学者のアンリエットも連れて行こう」

 敵となる場合を考えれば、我らの前線基地クレーフェルトに近づけない方が得策である。
 ミュー族の基地付近で交戦となったとしても、こちらに転進してくる前に対処する作戦を考えられる。

 戦列艦ヴァッペン・フォン・ハンブルクを旗艦とする七隻からなる交渉団が出発することとなった。
「もし我々との通信が途絶したら、相手との交渉に失敗して交戦状態になったと判断してくれ。本国に増援要請するなり、この基地を放棄して撤退するなり、君の判断に委ねる」
 基地副司令官ジークハルト・ホルツマン中佐に、後の事を託すケルヒェンシュタイナーだった。

 数時間後、前線基地クレーフェルトを出立し、ミュー族の前線基地クラスノダールに向かう艦隊。
「たった七隻で大丈夫でしょうか?」
 副官のノメンゼン中尉が心配する。
「ミュー族の艦隊が全滅したとしたら、基地に残る艦艇はほぼ同数だろうし、未知の艦隊への対応で右往左往しているはずだ。ミュー族だけなら大丈夫だろう」
「ミュー族の基地が、既に未知の艦隊に落とされていたら?」
「手強いミュー族を全滅させた相手だ。戦うのは無理筋だな」
「交渉次第ということですか……」
「まあな」



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11
銀河戦記/脈動編 第七章・会戦 V
2022.04.09

第七章・会戦





 艦隊に並走していた敵艦隊が急速後退を始めていた。
「敵艦、後方に下がります」
「敵は総攻撃を開始するつもりだ。反転して応戦する!」
 敵が後方に退いたのを見て回頭するミュータント艦隊。
 やはりというか、好機とばかりに速度を上げて逃走に入ることはなかった。
 回頭するため側面を見せた所を、敵の攻撃が襲い掛かる。
 激しく震動する艦内、立っていた乗員の多くが跳ね飛ばされて床に倒れてゆく。
「艦尾第一エンジン噴射口被弾! 戦闘速度七割低下します」
 艦長が報告する声は震えていた。
「ノルド=アードレル轟沈!」
「トヴョールドィイ航行不能です」
「イオアン=クレスチーテリ大破」
 次々と撃破されてゆくミュー族艦隊。
 やがて旗艦ペトロパブロフスク一隻だけとなった。
 敵艦隊は、ほとんど無傷のようであった。
 次第に包囲陣を敷いて退却路も塞がれてしまっていた。
「やはり火力に差があり過ぎるのか……。これまでの戦闘記録を連絡用通信カプセルで前進基地に送り届ける」
 強力な戦闘力を持つ未確認艦隊の性能諸元なりを、味方に伝えておくことは後に続く者に作戦プランを考案する糧となりうるからだ。
 発射口からカプセルミサイルが、前進基地へ向けて発射された。
「よし、これでいい。後は一隻でも多く敵艦に損害を与えるだけだ。敵艦に向かって全速前進! 体当たりだ!」
 ミュー族には、降伏という二文字はない。
 勝てないなら、相手を道連れにして自沈するというのが彼らのやり方なのだろう。
 戦列艦ペトロパブロフスクが、敵旗艦と思しき艦に急襲特攻を仕掛けた。
 しかし難なくスルリと交わされて、集中砲火を浴びるだけだった。
 エンジンブロックに被弾して、完全に航行不能となった。
「敵艦より交信電波が入電しています」
「敵が接舷して乗り込んでくる気配はないか?」
「ありません。まったく動きなし」
「自爆を警戒しているな……自爆するのを待っているのか? 悔しいが、お望み通りにしてやろう……が、その前に」
 と、カチューシャの方を見る。
 ミュー族にとって、遠隔透視能力を持つ人材は貴重である。
 艦に搭載されたレーダーの3倍から5倍の索敵レンジを持っているのだから。
「俺たちは最後まで戦うが、カチューシャには生き残ってもらう。脱出ポットで逃がす」
 ただ一人の脱出案に反対する乗員はいなかった。
 指令に従って素直に脱出ポットに乗り込むカチューシャ。
 数時間後、通信カプセルの後を追うように、脱出カプセルが発射された。
「さてと……。最後の仕事をやるとしよう」
 副官に目配せするミロネンコ司令官。
 自爆装置のスイッチに歩み寄るミロネンコと、もう一つのスイッチに手を掛けるモルグン副官。
 双方目配せしてからカウントダウンを始める。
「トゥリー、ドゥヴァー、アヂーン、ノーリ」
 二人同時にスイッチキーを回す。
 辺り一面が眩い光に包まれてゆく。

 戦列艦ペトロパブロフスクを含むミュータント族迎撃艦隊の全滅であった。



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