銀河戦記/脈動編 第五章・それぞれの新天地 V
2022.01.29

第五章・それぞれの新天地 





 時計回りと反時計回りに、惑星探査及び開発を進める銀河人とミュー族に対して、植人種は中央に向かって進めていた。
 両国家に挟まれる格好になることによって、さまざまな干渉を受けることとなった。
 しかし植人種の惑星が直接占領されることはなかった。
 冬虫夏草を引き起こす胞子が大気中に充満しているため、宇宙空間からの攻撃は受けても、降下作戦までは行われなかった。
 かつて降下作戦を行った部隊が、冬虫夏草状態になってほぼ全滅した経緯を持って、手出ししないようになったのである

「銀河人の星が、生物兵器『冬虫夏草』によって滅亡したようです」
「滅亡した?」
「その件に関して、銀河人から抗議されております」
「なぜだ? 我々とどんな関係がある。我々の星に降り立たない限り、冬虫夏草になることはないだろうが」
「以前我が星を占領にきたミュー族の艦隊がありましたよね。結局彼らのほとんどが冬虫夏草に侵されてしまったらしいですが……。もしかしたら、その時に胞子を採集していったのではないでしょうか。そして生物兵器を作り上げたのかも」
「ふむ。ありうるな」
「とりあえずその旨を伝えておきましょう」
「我々は平和的な民族なのだがな。他国の居住惑星を襲ったことは一度もない。我々が生物兵器を使うはずがなかろう」
「しかし彼らにとっては、冬虫夏草=植人種という概念で固まっていますからね」
「抗議に対する抗議を返しておくか」
「理解してくれればいいですけどね」
「考えても仕方あるまい。栄養ドリンクでも飲んで寝るか……」


 植人種の星は、空気中に光合成用の窒素と二酸化炭素が十分にあり、呼吸用の少しの酸素がある事、そして海水か土壌中に三大肥料である窒素・リンやカリウムなどが豊富に存在することが条件である。
 生活するために農場も畜産場も必要はなく、ただ肥料を含んだ水を口から飲んで日光浴するだけである。本来、口で咀嚼した食べ物を胃腸で消化吸収していたのだが……。数千年の年月を経て、歯は退化してなくなっており、胃腸内はシダの根が張り巡らされて消化酵素はもはや分泌されないし、蠕動(ぜんどう)運動も行われない。栄養分はシダの根から吸収されて体内を巡る。
 言ってみれば水耕栽培を胃腸の中で行っている感じだ。

 辺りを見回せば、最初に到着した時に耕作した作物が、荒れて野生化していた。
 そして、植人種としての百年そこらの寿命が尽きて、シダ植物として大地に根を生やした同胞達の姿があった。
 最初は人の姿を維持しているが、やがて樹皮が覆いかぶさるように飲み込んでゆく。数年もすると植人種だった形跡も失せて、一本のシダ植物となってゆくのだ。
 見回せば、そんな元植人種だったシダ植物の森が広がっている。



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