銀河戦記/鳴動編 第一部 第十二章・テルモピューレ会戦 Ⅳ
2021.02.17

第十二章 テルモピューレ会戦




 一方、タルシエン要塞からもバルゼー率いる艦隊が、カラカス攻略のために出撃を開始していた。
 出撃の見送りをする要塞副司令官のスティール・メイスン准将。
「ランドールは油断のならぬ相手です。くれぐれも用心なさるように」
「ふん! おまえも言えるようになったものだ。いつの間にか要塞副司令官とはな。敵のことよりまず味方からかも知れぬわい。足元を掬われないように気をつけなきゃならん」
「ご冗談をおっしゃらないで下さい」
「どうだかな。銀河帝国からの流れ者でありながら、統合参謀本部長に拾われてとんとん拍子に出世。今じゃ、緑眼の貴公子などという二つ名までもらっていい気になっている。若手精鋭を集めて軍の転覆を目論んでいるとはもっぱらの噂じゃないか」
「提督が世間の噂話を信じるとは思いませんでした」
「当たらずとも遠からずじゃないのか?」

 軍事国家には大きなトラウマとも言うべきものがあった。
 軍人たるもの立身出世を願うのは人の常である。ゆえに何らかの昇進の機会が与えられなければ不満が募るようになる。それが戦闘だったり技術開発だったりするのだが、そのはけ口ともいうべき共和国同盟との戦争は膠着状態で、軍上層部は今の地位に甘んじて守勢の態度を示していた。
 しかしそれは、階級の低い若手精鋭にとって、昇進の機会の少なさを意味し、憤懣やるかたなしの心境であった。
 そんな中にあって、共和国同盟への大々的な侵攻作戦を説くスティール・メイスンの元には、多くの若手精鋭が集まるきっかけを与えていたのである。
 共和国同盟に彗星のごとくに現れたアレックス・ランドールという人物に注目し、彼が出世街道を驀進し軍の最上部に駆け上がる前に、同盟に侵攻して占領しなければ、いずれは彼が指導する大軍団によって逆侵攻されるだろう。そう説いて回って、若手精鋭達の支持を集めていたのは自然の流れといえた。集まった精鋭たちの中には、活気に逸り軍の転覆さえ考えているものいた。
 酒場などで酔って騒ぐたびに、軍のお偉方の綱紀粛正などをわめくものだから、その首謀者としてスティール・メイスンが矢面に立たされることもあったのである。

「何にしてもだ。貴様の気持ちも判るが、今は時期尚早だろう。若手の気持ちをしっかり抑えておくことだな」
 バルゼーはそう言い残し、艦内へと乗艦していった。
「今の提督の話、どう思いますか?」
 スティールの傍に副官のマイケル・ジョンソン少佐が歩み寄ってきて尋ねた。
「軍の転覆か?」
「そうです」
「実際にそう考えている連中も仲間の中にいることは確かじゃないか」
「それを知っていて、提督は動きませんね。密告とか」
「提督は、そんな人間じゃないよ」
「それはそうですけどね」
「バルゼーは数いる提督の中でも、私と同意見の考えを持つお方だ。カラカス基地の奪取作戦の命令を受けたときも、三個艦隊を持ってカラカスを一気に攻略し、その余勢を駆ってシャイニングへの転進を説いておられた」
「しかし上層部がそれを許さなかったですね。一個艦隊だけを与えてカラカス基地のみの攻略を命じてしまいました」
「軍上層部は、ランドールの恐ろしさを知らな過ぎる。数百隻の艦艇でカラカスを攻略したのを、運が良かっただけだと評価し、未だ士官学校出たての若輩としか見ていない」
「ミッドウェイやキャブリック星雲のことも過小評価されてますね。たまたま偶然といった感じですよね」
「いわば急進派の先鋒ともいうべきバルゼー提督も、頭の固い保身派で固められた軍上層部から敬遠されている。今回の作戦も、あんな若輩な相手に三個艦隊も派遣する必要などない一個艦隊で十分だと、作戦内容やコース設定まで、参謀の考えたプランを押し付けられてしまったのだ」
「バルゼー提督も、我々と同じ被害者の一人というわけですね。軍上層部に対する……」
「そういうことだ……」
 呟くように言いながら出撃していくバルゼー艦隊を見送るスティールだった。

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2021.02.17 07:39 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十二章・テルモピューレ会戦 Ⅲ
2021.02.16

第十二章 テルモピューレ会戦




 それから数時間後。
 全艦隊に作戦の概要が伝えられ、出撃が開始された。
 今回の作戦は敵の勢力圏内にまで進軍し、かなりの移動距離があるために、時間的に余裕がなかったからである。敵艦隊の出撃を待ってからではテルモピューレに間に合わない。レイチェルの情報を信じて、テルモピューレに先着して出口で待ち受けなければならない。
 別働隊のウィンディーネ艦隊はさらに長距離を隠密裏に進撃しなければならないために、今すぐにでも出撃する必要があった。

「途中で敵の哨戒機に発見されないことを祈っておいてくれ」
 本隊に先行するウィンディーネ艦隊のゴードンが、パトリシアにこぼした言葉だった。
「ご無事を祈ります」
 誰しもが成功を祈っていた。
 ニールセン中将から迫害されるように、トランター本星からの援軍もなく、少数精鋭でカラカス基地を防衛しなければならない境遇にあって、誰しもがただ作戦の成功を祈るだけしかなかった。そしてアレックスの指揮の下、テルモピューレへと向かうのであった。

 カラカスを後にして、全軍が出撃したという報は、トライトン准将の元へと届けられていた。
 第十七艦隊の居留地であるシャイニング基地の司令官オフィスで、フランク・ガードナー大佐から報告を受けているトライトン。
「そうか……敵艦隊を迎撃するために出撃したか……」
「アレックスは軌道衛星砲に頼る防衛戦を選ばなかったようです」
「その方が賢明だよ。いくら火力が大きくても動かない砲台など、所詮取るに足りないものさ。アレックスが基地を攻略したようにな」
「彼の本領は、錯乱と奇襲攻撃です。数に勝る敵を叩くにはそれしかありません。さて今回はどんな奇抜な作戦を見せてくれるでしょうかね」
「そうだな……私の力が及ばないだけに、彼にはいつも苦労をかけさせるしかない。成功を信じるしかないだろう」
 窓辺に寄り添って、空の彼方を見つめるトライトンであった。
 その横顔を見つめながら、
「アレックス、無事に戻ってこれたら、酒を酌み交わす約束を果たそうぜ」
 とトライトンのそばで、ガードナーも同じことを考えていた。
 その時、机の上の電話が鳴り響いた。
 ガードナーが送受機を取り上げ、トライトンに伝えた。
「統合本部からです」
「わかった」
 送受機を受け取って替わるトライトン。
「トライトンだ……そうか、決まったか。判った、ありがとう」
 そっと送受機を置いてガードナーの方に向き直ると、
「フランク、君の第八艦隊司令の就任が正式に決まったぞ」
 と、手を差し伸べてきた。
「そうですか……」
 トライトンの握手に応じるガードナー。
 その表情は、やっときたかという安堵の色が見えた。
 ガードナーの第八艦隊就任の話は三ヶ月前のことであった。
 第八艦隊の司令が定年で引退となり、後任としてガードナーが内定していたのであるが、第十七艦隊からの移籍ということで、決定が先延ばしになっていたのである。第八艦隊には准将への昇進点に達している大佐がいなかったので、他艦隊よりの選抜となりガードナーに白羽の矢が立ったのである。
 それを渋ったのが、例によってニールセン中将であった。しかし圧倒的な功績点を集めていたガードナーを拒絶するには無理があった。結局順当に選ばれたということである。
「まあ、ニールセンとて軍の規定には逆らえないからな。クリーグ基地に駐留する第八艦隊の司令官を、いつまでも空位のままにはできないだろう。シャイニング基地同様に敵艦隊の重要攻略地点の一つだからな」
「しかし提督の少将への昇進も先述べになっています。素直には喜べません。それが順当に進んでいれば、私はこの第十七艦隊をそのまま引き継ぐことができたのです」
「私のことはどうでもいいさ。第八艦隊は、私と同様にニールセンに疎まれて最前線送りされているところだ。同じ境遇にあるものとして、暖かく君を迎えてくれるだろう」
「だといいんですけどね」
「後は君の采配しだいさ。その点はまったく心配していないがね」
「わかりました……。それで他には何か伝達事項はなかったですか?」
「ああ、そうだったな。司令官の交代式があるので、クリーグ基地へ三日後の九時に、出頭するようにとのことだ」
「了解しました」
 
 テルモピューレに進撃しているランドール艦隊。
 サラマンダー艦橋。
 正面パネルスクリーンにゴードンが映っている。
「それではここでお別れだ。武運を祈る」
「期待に添えるように努力するよ」
 と言いながら敬礼するゴードン。

 やがて本隊から離れてゆくウィンディーネ艦隊。
 その雄姿を見つめるアレックスにパトリシアが寄り添ってくる。
「うまくいくといくといいですね」
「そうでなくては困るがな……」

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2021.02.16 16:53 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十二章・テルモピューレ会戦 Ⅱ
2021.02.15

第十二章 テルモピューレ会戦




 最後に質問に立ったのは、ゴードンの副官のシェリー・バウマン少尉だった。
「しかし、テルモピューレは敵の勢力圏内にあって、カラカスからはるかに遠く、これと対峙するにはカラカス基地を空にすることになります。もし別働隊が迂回して基地の攻略に向かえば、容易く基地を奪われ逆に背後から襲われる挟み撃ちになります」
 次々と副官三人娘が質問を浴びせた。
 ランドール艦隊の懐刀ともいうべき部隊司令官の副官として自ら志願し、議論にも旺盛な活発さを見せている。艦隊に対する誇りと、上官への忠誠心厚き精神から、少しでも役に立とうする積極性からくるものである。もちろんそんな彼女達を副官に据えるアレックスの期待に応えているわけである。
「それはないだろう。情報によれば攻略に向かってくるのは一個艦隊のみだ。しかもまさか基地を空にして、自分の勢力圏内に進軍して迎撃してくるとは、敵もまさかと思って考えもしないだろう。それを逆手に取るのだ」
「バルゼー提督はそういう人間と言うんじゃないでしょうね」
「そういう人間だよ。回り道はしない。正面から堂々と向かってくる気質から考えれば、至極当然のことだろう」
「やはりですか……」
 一同は、敵将の性格を熟知した上での、アレックスのいつもながらの作戦の立て方に感心していた。士官学校の模擬戦闘での、敵司令官のミリオン・アーティスの詳細を調べ上げて、あの劇的な勝利をもたらしたことは記憶に鮮明に残っている。
「では、全軍をテルモピューレ出口付近に展開させるのですね」
「いや、今回の作戦には伏兵としてゴードンに別働隊として動いてもらう」
「別働隊ですか?」
「そうだ。テルモピューレを形作っている三日月宙域の外縁を迂回して、敵の背後からの急襲の任を与える」
「三日月宙域を迂回ですか? かなりの遠回りになります。そもそも敵艦隊がテルモピューレを通過するルートを通るのもそのためなんですよ」
「その通りだ。ウィンディーネ艦隊の高速性を活かすことのできる作戦だとは思うがな」
 アレックスの問いかけに、ゴードンの副官のシェリー・バウマン少尉が答えた。
「確かにそうですが……、我が艦隊の中では最高速を誇るウィンディーネ艦隊です。しかし、その作戦を遂行するには、敵のテルモピューレ進入時刻を的確に把握する必要があります。到着時刻が早すぎれば進入前の敵艦隊の総攻撃を受けますし、遅すぎれば本隊の援護に間に合わず、数の少ない分だけ本隊が危険に晒されることになりますよ」
 さすがに士官学校では、特務科情報処理を選考しているだけに、頭の切れは鋭い。
「シェリーの言うことはもっともだよ。それがこの作戦の重要な岐路となるだろう。敵艦隊のテルモピューレ侵入時刻を事前に正確に知ることが問題だ」
 皆の視線が、情報参謀のレイチェルに向けられた。それをできるのは彼女以外にはいなかったからである。
「テルモピューレの正確な進入時刻は、敵艦隊が出港するまでは確実なことは言えませんが、出港の予定時刻は把握しておりますので、艦隊の進行速度からおおよその時刻を推定はできます。その推定時刻を元に行動し、敵艦隊出撃の情報を得て修正できるコースを設定します」
「その出港推定時刻は信頼に足るものなんですか?」
「敵艦隊のタルシエン入港時刻は情報通りでしたし、これまでの経緯からしても信頼性は高いものと確信しています」
「確信ですか……」
 レイチェルは毅然として発言していた。「たぶん」とか「おそらく」といった曖昧な表現は決して使わない。情報には自信を持っているからに他ならない。
「情報の信憑性を議論しても仕方がないだろう。ここはレイチェルの情報通りに作戦を立てて行動することにする」
 アレックスが決断した。
 そうとなれば、事は急展開で進行する。
 敵艦隊の出撃予定時刻を元に、ランドール艦隊の出撃時間やコース設定。別働隊として動くゴードンの行動開始時間が決定されていく。

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2021.02.15 15:17 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十二章・テルモピューレ会戦 Ⅰ
2021.02.14

第十二章 テルモピューレ会戦


I

 惑星カラカス衛星軌道上に旗艦艦隊が展開している。
 ウィンディーネ艦隊は補給と休息待機で惑星に降下しており、ドリアード艦隊は哨戒作戦で惑星周辺に散開していた。
 サラマンダー艦内司令用の個室。
 ベッドの上でまどろんでいるアレックス。
 照明の落とされた部屋の扉が開いて、レイチェルが入ってくる。
 アレックスは、この部屋の解錠コードを、部隊創設の副官時代のレイチェルに与えており、パトリシアに副官が交代してもそのまま与え続けていた。情報参謀として最重要な人物だからである。
 ベッドの側に立ってアレックスを起こすレイチェル。
「ランドール司令」
「ん? レイチェル……。何かあったか?」
 眠たそうな目を擦りながら起き上がり、ベッドの縁に腰掛けるアレックス。自分を名前ではなく称号で呼んだことと、この部屋を直接訪れたことから、極秘重要報告を持ってきたのだと察知していた。
「タルシエン要塞に、カラカス基地を奪還するべく新たな艦隊が入港するという情報が入りました」
「そうか……とうとうやってきたか……」
「敵は一個艦隊、司令官はバルゼー提督です」
「バルゼーか……詳細を聞く前に、シャワーを浴びて頭をすっきりさせんといかんな。ちょっと待っててくれ。その間、パトリシアに連絡して、参謀達を第一作戦室に呼び寄せてもらってくれ」
「わかりました」
 アレックスがシャワー室に入るのを見届けて、艦橋にいるパトリシアに連絡を入れるレイチェル。

 サラマンダー艦橋。
 指揮官席に座るスザンナのところのヴィジホーンが鳴る。
「艦橋、ベンソン中尉です」
 機器を操作して答えるスザンナ。
 パネルにレイチェルが映し出される。
「作戦会議の招集です。参謀全員を呼び寄せるようにパトリシアに伝えてください」
 自分の名前が呼ばれたのを聞いて、脇から顔を出して質問するパトリシア。
「ウィング大尉、何があったのですか?」
 参謀を呼ぶのはいいが、大概その集合目的を聞かれるので念のためだ。
「敵艦隊の動静をキャッチしました。このカラカス基地奪還の動きがあります」
「わかりました。参謀全員を集合させます」
「よろしく」
 映像と音声が途切れた。
 早速ゴードンとカインズに連絡をとるパトリシア。
 まずはゴードンだ。
「……というわけで、ご休憩中のところ申し訳ございません。サラマンダーまでご足労お願いします」
「やっとおいでなすったか、なあに遠慮はいらんよ。腕が鳴ってしようがなかったんだ。今からそっちへ行く。艀をこっちへ回してくれ」
「只今、向かっています。十分後には到着するはずです」
「わかった」
 親しげにパトリシアに心境まで伝えて答える。
 そしてカインズはというと、
「了解した。今すぐ行く」
 と簡潔明瞭に答えて無駄話はしない。
 二人の性格の違いが良くわかる。

 司令室。
 バスローブを羽織って頭をタオルで拭きながら、バスルームから出てくるアレックス。
 カウンターではレイチェルがコーヒーを煎れている。
 タオルを首に掛けて、端末の前に座って操作をはじめるアレックス。
「どうぞ」
 そばのサイドテーブルにコーヒーカップを置くレイチェル。
「ああ、すまないね」
「どういたしまして」
 カップを受け取り、コーヒーを一口すすってから尋ねる。
「それで、進撃ルートは?」
「まだはっきりした情報ではないのですが、おそらく最短距離でテルモピューレを通ってきます」
「テルモピューレか……わざわざ、銀河の難所を通ってくるわけだ」
「しかし一応連邦側の勢力圏にありますからね。時間の節約を考えれば自然な選択かと思います」
「うーん……」
 と呟いたまま、パネルに映し出されたテルモピューレ周辺図を見つめていた。

 第一作戦室。
 パトリシア、ゴードン以下の参謀達が揃っている。
 そこへアレックスがレイチェルと共に入ってくる。
 一斉に席を立って敬礼する参謀達。
「全員、揃っています」
「うん……」
 明いた中央の席に腰を降ろしてから、厳かに言い放つアレックス。
「最新情報だ。連邦軍がこのカラカス基地奪還のために艦隊を派遣、現在タルシエン要塞に入港して乗員の休息と燃料補給中だ」
 その言葉に会場がざわめいた。
 アレックスがレイチェルに目配せして合図すると、
「派遣された艦隊は、第二十九艦隊。一個艦隊をバルゼー提督が指揮しています。推定進撃コースはテルモピューレを通過する最短コースの可能性大。なおも情報の信頼性を確認中です」
 淡々と説明をはじめレイチェルだった。
 ほうっ。というため息がそこここから聞こえる。
 またもやレイチェルのお手柄か……という表情をしている。
「それで今回の対応はいかになされるおつもりですか?」
 レイチェルの情報を得て、アレックスがすでに作戦の概要をまとめているだろうことは、全員が推測しており、事実その通りだった。
「敵艦隊が最短距離のテルモピューレを通過してくることは間違いないだろう。そこで、このテルモピューレという宙域の特殊性を利用させてもらう」
「特殊性?」
 ここで再びレイチェルが解説する。
「タルシエン要塞より出撃した艦隊がカラカスへ最短距離で向かうとすると、このテルモピューレ宙域を強行突破しようとするでしょう。周囲は銀河乱流の分流にさまたげられて航行可能域は非常に狭く、艦隊は密集隊形で進軍するよりありません」
 テルモピューレは、判りやすく例えるならば、蛇行する川が氾濫して流路を変えた跡に残された三日月湖のような空間に挟まれた宙域だ。
「なるほど……」
 カインズが納得して頷いたのを見て、その副官のパティ・クレイダー少尉が言葉を継いだ。
「判りました。宙域の出口に包囲陣を敷いて、先頭集団を各個撃破していけば、たとえ相手が数十倍の艦隊とて対等に渡り合えます。そういうことですね?」
 さらにロイド少佐の副官のバネッサ・コールドマン少尉が確認する。
「確かにテルモピューレは狭いから、縦列で細長く進軍するしかない。結局どんなに艦隊の数が多くても直接戦闘に参加できるのは前面の部隊だけ」

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2021.02.14 12:22 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十一章・スハルト星系遭遇会戦 Ⅺ
2021.02.12

第十一章・スハルト星系遭遇会戦




 それから数日後。
 アレックスの前にレイチェルが意見具申に訪れていた。
「ところで司令」
「なんだ」
「部隊の女性士官の制服なのですが、やぼったいという意見が非常に多く、デザイン変更の要望書が数多く提出されております」
「ま、またかよ……ここの部隊は女性上位もいいところだな。それで……今度は何だよ」
「はい。独立遊撃部隊を名乗っている以上、それにふさわしい制服が欲しいという声が上がっています」
「早い話しが新しい制服をくれということだな」
「はい。軍規などをつぶさに調べてみましたが、士官の制服のデザインについて、明確に規定された銘文はございません。現在着用されております制服においては、国防省内務通達規定によって約五十年前に採用されたものです」
「ま、指揮統制をはたし、機能性のあるものなら、何だっていいわけだよな」
「その通りです」
「ま、いいか。どうせ、我が部隊は同盟軍のはぐれ者だ。自由の証である五色の旗印の下、好き勝手やらせてもらっても構わんだろう。軍規に抵触しない限りね」
「その通りです。司令」
「で、手回しの良い君のことだ。制服のデザインとかは、すでにいくつか候補を持っているのだろう」
「はい。先程、司令もおっしゃられておりましたが、『自由の証である五色の旗印』であります旗艦・準旗艦のシンボル、火・水・木・風・土の各精霊達。赤・青・緑・白・茶などの彩色を取り入れる意見が候補にあがっております」
「とにかく、そういうことは。当事者である女性士官達の選択に任せよう。君が責任を持って対処したまえ」
「はい。では、そのように致します」
「一言いわせて頂けるならば……」
「何でしょうか」
「司令官としてではなく、一人の男性の希望として……できれば、ミニのタイトスカートにして欲しいな」
「考慮しましょう」
「うむ。よろしく頼む」

 それから程なくして、制服制定委員会が発足した。
 レイチェルが委員長となり、パトリシアとジェシカが副委員長として補佐する。
 他のメンバーには、ウィンディーネからシェリー・バウマン少尉、ドリアードからパティー・クレイダー少尉、シルフィーネからバネッサ・コールドマン少尉、ノームからサラ・ジオベッティ少尉。そして衣糧課の人々。
 もちろんデザイナーであるアイシャ・ウィットマン少尉も参加している。
「というわけで、司令の希望であるミニのタイトスカートという案は、第一優先です」
「本当に司令がおっしゃられたのですか?」
 パトリシアが怪訝そうな表情でたずねた。
「そうですよ」
「ううん……」
「まあ、そう怪訝な顔はよしなさいな。我が艦隊にあって、自由な風潮が守られているのも、司令の意向によるところがあるのだから。少しは希望を適えてあげないとね」
「そうは言っても……」

 サラマンダー  赤
 ウィンディーネ 青
 ドリアード   緑
 シルフィーネ  白
 ノーム     茶

「……と以上のごとく旗艦の旗印を象徴する五色を基調としたデザインにすることに、皆の意見が一致しました」
「色を区別して制服を制定するのはいいですが、その着用区分をどうなされるのでしょう。階級別ですか?」
「部隊の所属別はどうかしら。旗艦部隊は赤で、第一分艦隊は青という具合に」
「いいえ。制服は全員を統一したほうがいいわ。階級別とか部隊別に色を分けるのは賛成できない。赤が嫌いな人、茶色が嫌いな人、それぞれいますし、服が違えば対抗意識が芽生える素地となってしまいます。全員が納得できるように、一つの制服としてこの五色をバランス良く配置させるようにするのよ」
「五色も使うとなると、ちょっとカラフル過ぎるのではないでしょうか?」
「それを上手にデザインするのがあたし達の役目よ」
「わかりました。大尉のおっしゃるとおりにします」
「そうですね」

 第十一章 了

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2021.02.12 06:40 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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